第6話:対外遠征能力を持つ事は刃物を持つこと
御前会議の資料作成を朝までになんとか終わらせた。今の自分の気持ちを率直に表すならあの吸血姫様は小悪魔どころが大悪魔もいい所だと正直思っている。だけど忘れられない……自分が悪夢を見てうなされてる時に、心配して起こしてくれた時のあの表情……まるで大切な人を失った時の目だった……自分にとって大切な人……もう顔も思い出せないがあの人は優しかったなぁ。
そんな過去に耽りながら、御前会議の資料を陛下の部屋に届ける。
「えーと、とりあえず出来ました。少し疲れましたが……」
「へぇ〜、頑張ったのね。良いワンちゃんだわ。さて、じゃあ御前会議にご同行ね」
ですよねー!
「はい、ワンちゃんとして大人しくしてます」
「たまには吠えてちょうだいね」
御前会議の会議室は城の中央塔の最上階にある。陸軍元帥、海軍元帥、帝国国家保安局長官、財務省財務大臣、帝国中央情報調査局局長が基本メンバーだと記憶しているがあまりにも錚々たるメンバーで本音的には部屋で寝ていたかった。だが侍従長もメンバーの為参加せざるを得ない。
会議室に着くと既に全員揃っており、会議が始まった。
日光が入らないようにカーテンは締め切られ、ガスランプだけの灯りの部屋は不思議と怪談物語でも始めるような部屋の明るさだったが、参加人物の立場だけでも人間の自分としては胃がキリキリと痛み始める。これが語らない怪談か。
「では、会議を始める。保安局長官からパラディンズに関する情報を」
背の高い金髪の吸血鬼は黒い軍服を完璧に着こなしており、淡々と文章を読み上げる。
「現在推定されるパラディンズの総戦力は約12万名と推定されており、その中の100名が枢機卿団と呼ばれ、その上に大聖教、聖教騎士、聖教騎士長が並ぶとのこと」
陛下は瞼1つ動かさずに問う。
「情報源は?」
「国内で拘束した信者に対して記憶干渉魔術で引き抜きました」
陛下はなら、問題ない。次に来年度の軍事及び諜報予算について。と予定外の案件を出す。
自分は陛下に耳打ちで「その質問はリストに載ってなかったのですが……」と言うと「気にするな」で返される。
不安で胃痛がぶり返しながら、各機関の予算案を陛下はマジマジと見つめる。
「陸軍元帥に問う。現在我が国の主力師団14個を20個にするのは些か過剰過ぎないか?」
陛下の静かな怒りを込めた声が陸軍元帥を突き刺すが元帥まで登り詰めた吸血鬼だからこそ冷静に返す。
「陛下のご心配をおかけした事にまずは謝罪を。この追加の6個師団は遠征部隊としての想定です。海軍元帥との度重なる協議の結果、輸送艦で送れる最大人数がこれだと」
陛下は瞼をピクピクと動かし、顎に手を添える。そして静かながらも強気な声で質問を返す。
「遠征部隊だと?我が国は大陸国家でありながら、湾岸も有する。戦線の拡大や対外遠征など戦略基盤を崩壊させる可能性がある」
流石軍事戦略しか政務がこなせないミスレイア陛下だ。
「海軍元帥としての意見も聞かせてもらおう」
美味しそうにコーヒーを嗜んでいた海軍元帥はカップを音もなく置き、コホンと咳き込んでから少し優しめのご老人風の低い声で具申する。
「我々海軍としては陛下と同じく遠征には反対です。この6個師団という数値も理論値であり、遠征先での逐次投入を余儀なくされれば6個師団は溶けると思われます。仮に陸続きのヴァンルデット連邦と開戦した場合でも相手は大多数の吸血鬼兵を有しており、不可侵と友好条約を結んでいるのにも関わらず急な軍備増強は諍いを招くかと」
海軍元帥閣下も軍幹部大学を首席で卒業したと聞いてるが凄い……
「なるほどな。では、増強は2個師団に留め、帝都防衛戦力部隊としての運用を前提とするのが私の考えだ。陸軍元帥、どう思う?」
陸軍元帥が少しイライラしてるのか、机の下に隠していたと思われる鉛筆を折る音が聞こえる。
「やはり対外遠征可能な強力な部隊が少しあった方が戦略的にも安定するかと。少なくとも現時点で帝国内で対外遠征をしようと思えば歩兵打撃師団と砲兵師団が1個ずつであり、どう考えても他国と戦争になれば先手を打っても撃退されるかと」
うわぁ……お互いめちゃくちゃ睨み合ってる。確か陸軍元帥は軍務省の作戦局の出身だったか。突く所突いてるなぁ……
「確かに遠征能力の無さは我が帝国にとって致命的問題だろう。だがそれを持てば同時に世界中に刃物を向けると同義だ。我々の遠征能力の無さは遠征部隊の必要の無さを担保していると私は考えている。同時に陸軍元帥の言い分も分かる。陸軍には今後対外遠征を見据えた訓練内容と費用案を出して欲しい」
「私の案に支持をして頂いた事誠に感謝いたします。速やかに計画をまとめます」
とそんな感じで難しい議論が終わり、一息吐いたところでミスレイア陛下に腕を掴まれて、荒々しく引っ張っられながら庭園の茶会のドームに入り、椅子に座らされる。
「へ、陛下?」
「一言も吠えれなかったわね。ワンちゃん」
「ハハハ……雰囲気が重すぎて……」
するとメイド達がアフタヌーンティーセットを用意してくれて、軽い昼食となる。
血のような真っ赤な紅茶を陛下は飲みながら自分に質問する。
「これからも出来そう?」
一瞬、何を?と聞こうと思ったがそれでは陛下をガッカリさせてしまうと思い、なんでもやる覚悟で答える。
「問題ありません。死ぬまで働きます」
「悪いワンちゃんね」
え……?
「あなたは人間である以上吸血鬼より寿命も短く、本来活動出来る時間も短い。なのにあなたは相当な無理をしている。もし、ご主人様の言うことが聞けるならしばらく休んでいいわ。私の名義を使っても構わない」
「で、ですが2日後には海軍幹部とのドクトリン協議が……」
「あら、本当に悪いワンちゃんになっちゃうの?」
その魔性を帯びた声に人間としてなのか、それとも恋心?心の奥が屈服しろと叫び散らす。
「承知致しました。少しの間部屋でのんびりさせていただきます」
「うん、良いワンちゃんで良かったわ。あなたの後任探しほどめんどくさいものは無いからね」
その言葉にドキッとしながら、一礼し、城内へ戻る。
ようやく自分の侍従長執務室兼寝室へ実質初入室となる。
綺麗に整えられた部屋にプレジデントデスク、観葉植物も目の保養になり、コーヒーを作る上で必須な物も揃っている。隣の寝室に足を運び扉を開けるとキングサイズのベッド!!素晴らしい!!
……緊急無線魔導具があるので突然深夜に呼び出されたりするんだろうなぁと思いながらフカフカのベッドで睡眠をとる。
多少長くなると思ってましたが想定より少なかったですね。まだ新人なこともあり、どうしても文章量管理が苦手です…今後克服していきたいですね。そして国語力も磨いていきたいです!この世界観とストーリーを最大限発揮できるような国語力が欲しい!そう願いながら勉強用の小説を読みます。




