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第28話:服従の魔眼が生み出す2000個師団

目が覚めると懐かしくすら感じる、ラニーア共和国、つまり人間の国にいた頃の自分の家の天井だ。

今までのは全部……夢……?ミスレイア陛下も皆……皆……涙がポツリ、ポツリと垂れてくる中で母親が声をかける。

「レイヴァス!早く農業手伝いなさい!1番忙しい時にあんたが倒れるから大変なのよ!」

すると兄弟たちも「遊ぼー」や「勉強教えてー」と言ってくる。

嫌だ、もう人間の世界に居たくない。こいつらは自分を利用するだけ利用してポイッとしてきた。もう耐えられない。

すると窓からルイスの声が聞こえる。

「おーいレイヴァス〜金貸して〜」

虚しさと怒りのあまり怒声をあげて叫ぶ。

「お前らとはもう縁を切ったんだよ!!」

その瞬間だった。全員が「要らない」を口にする。要らない、要らないと。それでいい、人間など所詮そんなもんだ。だけど一つだけとても優しくも、頼りにしてくれた声が聞こえる。

レイヴァス……起きて……お願い……

「陛下っ……!!」

目を開けて、飛び起きる背中に激痛を感じ、思わず悶絶する。

「レイヴァス……大丈夫?」

「だ……大丈夫……どれくらい寝てた……?」

「陛下に向かってその質問の仕方かぁ……ちょっと調教が必要な侍従長ワンチャンかもねぇ。まぁ、3日弱かしら」

感覚が目覚め始めると隣に温もりを感じる。覗いてみるとミラエスだった。抱きついており、絶対に離さないという強い意志を感じるくらいギューと抱きついていた。

「ねぇ、レイヴァス。あなたは何故あの時一人で戦い、危うく死にそうになった?」

「誰にも迷惑をかけたくなくて……」

ミスレイア陛下は重たいため息を吐き出す。

「あのねぇ、世の中には誰にも迷惑をかけずに生きるなんて不可能なの!実際問題として私もヘルシアもそしてミラエスちゃんも皆あなたを心配していたのよ!これって迷惑になるわよね?」

頷くしかなかった。

「分かったならいいわ。そうだ、護衛任務完了祝いをあげないとね」

え?何くれるんだろう。そう思った時だった。ほっぺに軽くキスしてくれるミスレイア陛下……まだ寝てるのかな?

「あの……陛下?」

「不満だったかしら?」

「これって現実ですか?」

ミスレイア陛下は明らかに不満げに「もう一度寝てみる?」と拳を見せてくる。

「陛下のご厚意感謝致します」

「分かればよろしい」

するとドタドタと走る音が鳴ると扉が開き、ヘルシア閣下が入ってくる。しかもベッドダイビングで。

「レイヴァスさん、心配したんですよ!お姉ちゃんもすごくして心配して、輸血を……」

「ヘルシアにも調教が必要かしら?」

普段なら妹大好き陛下だが、この時ばかりは黙っておけと顔と言葉で示していた。

「ご、ごめんなさい……レイヴァスさんが無事ならまた勉強教えてね。私もいっぱい学ぶから!」

そうだ、この違いだ。自分の兄弟は教えたらそれで終わり、宿題をやりながら教えてもそれで終わり。やはり吸血鬼の方々はプライド高く、そして人任せにしない。最高の種族だ。ここに来て良かったと改めて実感した。

「レイヴァスさん、どこか痛いの?」

「え……?」

「涙出てますよ……涙って血液が元だから美味しそう……」

「へ、ヘルシア閣下!?これは……嬉し涙なので」

ペロッ

遅かったかぁ……これはミスレイア陛下に……

ペロッ

「うむ、不幸顔の血だと初めてここで会った時に言ったが涙なら不幸も無いな。優しく気高い味だ」

「レイヴァスお兄ちゃんの涙美味しい……」

最近思った。ヘルシア閣下はややヤンデレ気味なところがあると。

「あの陛下、助けてくれませんか?」

「お前がどう解決するか見てやる。これは侍従長……いや、執事に近いか。夜勤込みでどこまでいけるかしらねぇ?」

するとミラエスが目を覚ます。

「レイヴァス閣下、お目覚めですか?……ヘルシア閣下が何故馬乗りになってるかお聞きしても?」

「涙が美味しいそうです」

自分の口調は完全に崩壊していた。

「そうですか、では今度いっぱいレモン汁をかけて涙レモンサイダーを作ります」

冗談にしては地獄すぎて、思わず笑ってしまう。

「頼むから勘弁してくれ」

あの夢が現実じゃなくて良かったと思いながら、数日後に退院して、侍従長執務へと戻る。だがその数日後には思いもしなかった状況が幕を開けた。

『ヴァルンデッド連邦、アルスヴァーン帝国に宣戦布告!軍事衝突は避けられない見込みか』

そんな記事の新聞を手に取るなど思ってもみなかった。


外交省が慌ただしい、そんな知らせがハレルオンから伝えられた。最初は外交省なんてそんなもんだろうと思っていた。かと思えば軍務省も忙しいと来た。

「胃薬は避けられそうにないな……」

そう思いながら、退院して8日後、通信魔導具が自分の安眠を阻害する。陛下の着信音にしてある砲弾飛来警報音ではなく、オーケストラの音楽……退院してから設定を調整して元帥の方はこの着信音にした。

「はい、レイヴァスです」

「ドレイクだ。早速だが緊急事態だ。ヴァルンデッド連邦が我が国に宣戦布告した。現在忍ばせてる諜報員によると既に国民総動員令が発令され、兵士となる予定の国民が集められている……だが、奇妙なのだ」

もうこの時点で奇妙もクソもあるかと思いながらも、何がでしょうと聞く。

「全員が恐ろしいくらい従順なのだ。紅の城前に来た国民たちは一部は泣き叫んでいたのに書記長が目を光らせた瞬間突然泣き止んで敬礼する……魔眼だろうな」

魔眼か……ヘルシア閣下も持っていると聞いたが自分は詳しくは知らない。

「あの、魔眼ってどういうものなんですか?大体のイメージは着くんですけど……」

「神は二つは与えない。生まれついた子供の才能は1つのみという話は有名ですがそれは過去の話です。ヘルシア閣下は生まれつき頭脳明晰でそれに付随する魔眼は束縛の魔眼です。才能ある者のみ魔眼が与えられ、国を率いる。神は残酷なものだ。書記長に関しては不明ですが推定従属の魔眼かと」

これまた……面倒な……さて、気になる戦力を聞いてみるか……

「陸上戦力はどれくらいいますか?」

「約1000師団が確認済みで更に膨れ上がる見込みです」

んんん???何をドレイクさんは寝惚けてるんだ?

「1000師団もいるなら2000師団くらい出してくるでしょうハハハ」

「その通りです、侍従長閣下。全兵役可能人員を動員し、女性と子供は兵器生産させる予定らしいです」

やっぱりドレイク元帥お疲れなのかな?

「ドレイク元帥、少し休んだらどうかな?」

「そんな場合じゃないんですよ!2000個師団が我が国に向かう準備をしてるんですよ!!」

嘘だろ……こっちは数週間前に500個師団を徴兵して訓練させてる最中だぞ……仮に従属の魔眼が死を恐れないなら勝てる見込みなんてないぞ……

「ちなみに正規軍は?」

「350個師団ほど……既に要塞線に配置済みとのこと」

こうなったらやむを得ない。というかやらないと本当にこの国は終わる。

「外交省に連絡!時間稼ぎの余地を見い出せるようにしろ!!」

「承知しました!侍従長閣下!」

通話が切れた後にヤケクソで素数を数えながら朝を迎えた。

「……10487……」

チリリーンとアラームが鳴り、起き上がる。自分には数学の才能があるのか分からないが1万桁までの素数を数えていた。

着替え終わり、隣の執務室に向かうとミラエスが既にエスプレッソと新聞をプレジデントデスクに並べてくれた。

「おはようございます侍従長閣下。今日から戦争ですね。砲弾時々機関砲弾でしょうか」

「ハハッ……ナイスジョーク……でもまだ宣戦布告の段階で向こうも準備中だから外交省がなんとか数ヶ月くらい伸ばしてくれると信じてるよ」

ミラエスはため息をつき答える。

「仮に数ヶ月待ったらあの地獄の要塞線に天文学的数値の敵部隊が集まりますよ」

「そうだよなぁ……不可侵条約を無期限で締結してるはずだがそれは機能してるか?」

「幸いにも本土には侵攻してないので機能はしていますが効力としては如何なものかと」

ミラエスは実は軍人に向いてるんじゃないかと思いながらエスプレッソを飲みながら、新聞を読む。

複数の機関新聞を読むがどれも誇張表現の嵐だった。開戦まで数日かとか連邦軍は1万師団を動員など根も葉もない情報を撒き散らしていた。

「マスコミの運動も規制しないとなぁ……」

「それについては帝国国家保安局が現在会議中です」

まぁ心配してもしょうがない。すぐに作戦を考えればまだ、なんとかなるはず……

すると内線しか出来ない電話が鳴る。有線のため盗聴はされない。

「はい、レイヴァスです」

「こちら、ハレルオン副侍従長です!外交省がやってくれましたよ!良いニュースと悪いニュース、地獄のニュースがありますがどれからお聞きになさいますか?」

良いニュースと悪いニュースがあるのは分かるが地獄のニュースってなんだ?

「とりあえず良いニュースから頼む」

「連邦は3ヶ月後に不可侵条約を破棄するとのことです。その間軍事力を強化できます」

なるほど。それはありがたい、半年は欲しかったがやむを得ないな。

「悪いニュースは?」

「要塞線に戦力が集中するのは避けられない見通しで、我が国の白桜級以外は効果的な対地砲撃は望めないかと……」

まぁ。それも分かる。実際に白桜級の主砲60センチ砲は連邦の工業能力の60%以上占めている拠点を制圧砲撃可能。なので海軍が動いてくれたら問題は無いが、タイミングが難しい。

「で、地獄のニュースとは?」

「……確認されてるだけで100個戦車師団、150個自動車師団、80個騎兵師団、500突撃歩兵師団、80個砲兵師団です……」

うむ、我が国の戦闘能力では全く兵力が足りない。

「あーうん……地獄ってこの世界なんだね。もう一度寝てもいい?」

「駄目ですよ閣下!とにかく安全保障会議があるので午前11時に総会議室に来てくださいね!陛下からも頼まれてるので来なかったら、2人揃って城から紐なしバンジージャンプをさせられますよ!!」

「はい……」

ガチャんと切ると頭を抱える。

「ミラエス……」

「はい!」

「なんで元気そうなの?……あと胃薬お願い……」

「かしこまりました。元気についてはヴァルツ閣下と女王陛下から侍従長は落ち込むから明るく元気よく振る舞えと」

どうやらこのメイドは言ってはいけないことの区別がつかないらしい。胃薬を飲み、ハレルオンが部屋にやって来てから総会議室に向かう。地獄の会議の始まりはもうすぐだ。

こんばんは!黒井冥斗です!皆様1日お疲れ様です!

前までの作品を見た方なら分かると思いますがこんな地獄のような要塞線の攻略の必要性が出てきました…

もし、スターリンが服従の魔眼を持っていたら2000個師団とかしたんですかね…

これは余談ですが正規兵1名が教育できる民間人の限界が10名程度だそうです。事実だとしたらどこの国でも2000個師団は無理そうですね…

今夜はこの1話で終わりにしようと思います。(ストックが減ってきたなんて言えない…)

それでは皆様お疲れ様でした!よろしければブックマークやレビューお待ちしております!

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