第21話:軍事無線解読で繋がる関係
翌朝アルスヴァーン帝国帝都 にて
『ヘルシア特使が帰国!超巨大戦艦でトリアーナ協商連合国を脅したか』
という見出しの似たり寄ったりの新聞が出回り、国民は2つの意見に割れた。1つはヘルシア閣下はとても優しい事が国中に知れ渡るきっかけの王家の恵み案件があった事を踏まえて歓迎する側、もう1つは一応の同盟国を最新兵器で脅して、国家間の緊張感を高めたことに関する派閥。双方の意見の対立は帝都で随所随所で殴り合いが起きるほどだった。
帝国城 侍従本部にて
自分の出番がなくて良かった……だが……
ヘルシア閣下の危険な状況を知っていたからこそ、自分はこの新聞を読んだ時に忌避感を覚えた。
「なぁ、ハレルオン副侍従長」
「何でしょう?」
「王家の恵み案件ってなんですか?」
「あーそれはですね……」
かつて帝国では千日鉄火と呼ばれる太陽が沈まず、常に国中を照らし続ける大災害が数百年に一度起こっていた。その際にまだ吸血鬼として幼稚園児レベルのヘルシア閣下は「皆を助けなきゃ!」と衛兵の合間を縫い、自らの皮膚が焼けてでも水を運び、包帯を巻くなどその姿は当時新しかった公共ラジオで報じられ、内部統制で忙しかったミスレイア陛下と両親の代わりに直接国民を手当てする姿は王族支持率向上になった。
「そんな事が……ヘルシア閣下の今後は聞いてますか?」
「私も直接は聞いてはいませんが……騎士団長によると仮想敵国の暗号解読した後の平文翻訳の職務を考えてるらしいです」
「我が国の暗号解読技術はどれくらいですか?」
ハレルオンがしばらく考え、一言。
「先進国下位です……」
その瞬間だった、嫌な予感が的中した。
侍従本部のドアが勢いよく、そして景気よく開けられた。もう、陛下しかそんな存在はいない。
「レイヴァス侍従長!暗号解読について学んでこい!学力と知性に富んだ貴殿なら問題ないはずだ」
陛下の久しぶりの無茶苦茶でとりあえず一言聞いてみる。
「断ったら……?」
「ん?お前にマッサージした時に弱いと言っていたツボを死ぬギリギリまで快楽地獄を味わせてやるぞ」
陛下は満面の笑みだ。
「はい……なんとか数週間で覚えます……」
「2週間な」
ハハッ……陛下って好きな人ほどいじめたくなるタイプなのか勘違いしてしまう。
その後自分は軍大学に向かい、暗号解読学部の教授に手ほどきしてもらった。
「まずは文字を数字に置き換えて、それをさらに0または1で分けて、多次元化構造に……コラっ!寝るな閣下!」
教授はちょっと口が悪いが世界的に見れば驚異的な暗号解読技術力の保持者だがついていける者が少なすぎて、人材育成が進まず、研究費も降りず、帝国の暗号解読技術力は後れを取っていた。
「すみません!精進!」
そのまま2週間の数学と暗号学、統計学に言語学これらの教授から三途の川ならぬ冥界の番人が見えるほどの勉強という言葉では生ぬるい学習の末に覚えきれない部分は防衛機密ノートに写して、2週間ぶりの城に帰り、とりあえず私室へと入る。
「おかえりなさいませ閣下。てっきり陛下のことが嫌になってそこらの女性と楽しんでいたかと」
「んなわけない」
と自分はミラエスメイド次長の頭をポンと叩き、「少し寝かせてくれ」と頼む。
「あ、今は……」
その言葉は間に合わず、お着替え中のヘルシア閣下が居られた。
「閣下、美しいですね」
「侍従長閣下の変態!!」
強烈な吸血鬼パンチをくらい、しばらく気を失い、目が覚めるとヘルシア閣下は顔を赤らめ、少々怒り気味の顔で答える。
「侍従長閣下の部屋にいたのは暗号解読に関する報告を聞くためです!私の下着姿を見せるためではありません!」
「じゃあなんで着替えてたの?」
「恥ずかしながら、猫舌なのを忘れて、コーヒー飲んだら零してしまって、閣下の寝室なら使っていいとミラエス次長が……」
あの駄メイド……
駄メイドの方を睨むと笑顔で「侍従長閣下なら、最悪殴れるくらいで済むと思ったので」
と答える。確かにこれがハレルオンだったり、ラインルート准将なら陛下から左遷どころがこの世からさようならだろう。侍従長って1番不憫なんだな……そう思いながら、ヘルシア閣下へ暗号解読技術力に関する解説を行う。
ヘルシア閣下の学習能力は自分の予想を上回っていた。
自分が2週間漬けの半分死にかけながら勉強したのに対して、彼女は1週間ちょっとで内容を理解し、暗記していた。
「あのヘルシア閣下、何故他の学問は苦手だと仰っていたのですか?」
ヘルシア閣下は少し俯く。
「……大切な人に嫌われたから……」
これ以上聞くのは止めようと思っただけど聞けるなら聞きたい。そんな欲望に逆らえなかった。
「大切な人とは……?」
「少し長い話になるね……」
ヘルシア閣下は幼少期、王族学校入学時は首席とまでは行かなかったが上位ではあった。そしてとある中央貴族の若い息子の必死に勉強し、首席を維持し続けた子がいた。
私は凄いと思った。ここまでの努力は私にはできない。彼と勉強を楽しんでいた。しかし時限爆弾の時間が迫るように刻一刻とテストの点差は縮まっていた。そしてついに……
「私が首席になっちゃったんだ……私はあまり勉強してこなかっただから彼は私のことを勉強できないフリをして周りを引き付けたと言ってね……辛かったなぁ……その後はもう絶交みたいなもので、私はそれ以来大好きな言語学と国際文化以外は出来ないフリをしたの……無能と言われるのが嫌なのに自分から無能になるなんて変な話だよね……」
ヘルシア閣下の表情は髪で見えなかったがとても辛い。そう感じるには十分すぎた。
「閣下、今度陛下に勉強を教えてなさってはいかがですか?」
「え……?私がお姉ちゃんに?」
「陛下は残念な事に軍事戦略以外はなんとか中レベルくらいで……暗号解読技術力の勉強も裏で聞いた話だと教授と喧嘩するくらいできなかったらしくて……それで自分が……」
ヘルシア閣下は少し考える素振りを見せてから、紅茶を飲む。
「よしっ!お姉ちゃんに早速色々勉強教えに行きたい!レイヴァス閣下!着いてきて!あなたも先生の1人よ!」
自分はクスッと笑って「かしこまりました」と言い、陛下の部屋に訪れる。
「おねーちゃーん」
「失礼します、陛下」
陛下は珍しく退屈そうに連邦方面の窓を見ており、「2人ともどうした?」と問う。
「お姉ちゃん!あのね!一緒に勉強しよ!レイヴァス先生も一緒だから!ねっ?」
妹のキラキラの眼差しに陛下は断り切れず夜遅くまで数学や経済学を学び、教えていたヘルシア閣下の方が先に陛下のベッドで寝てしまった。
「レイヴァス、すまんな。付き合わせて」
「自分も楽しかったのでこれからも構いませんよ」
陛下は笑みを見せて労いの言葉を告げる。
「いつもありがとうな。レイヴァス、お前がこの国に来たのが運命のように思えるわ」
「そう言ってもらえて光栄です。ヘルシア閣下の過去も聞かせてもらいました。彼女は自らを縛るくらい周りを重視するタイプです。陛下がしっかりと見てあげてください」
陛下はそうだな。と言い、ベランダに出る。
「私は軽くだが占星術ができる。そなたの未来は……今はやめておこう。それよりも戦の星が帝国の星に近付いている。戦争は間もなく起こるぞ」
自分は陛下の意外な一面を知りながらひとつ聞いてみる。
「連邦の星は?」
「見えない……星界図には影響がないから魔術とかで隠されてるとは考えにくい、一般的に急に見えなくなった星、それも国家なら亡ぶか他の星に移るかの二択だ」
陛下は強く重みのある言葉でそう告げた。それは即ち帝国が連邦の傀儡になる可能性もあるということだ。侍従長として、陛下のサポートを全力でせねばと思った矢先、陛下は一言申す。
「せっかくだから泊まってけ。ベッドには不幸顔を入れたくないがソファベッドならいいぞ」
「感謝します陛下」
3人で寝ると不思議と落ち着く。互いの距離が離れていても僅かな寝息や小さな寝言がその場にいる。そんな安心感を人生で初めて感じた。
こんばんは!黒井冥斗です!まだ昨日上げた作品があまり読まれていないみたいなので今日は1話投稿にします!
気温の変化が激しいですが皆様もお身体に気をつけてください!




