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第19話:悲劇と苦悩の特使ヘルシア

トリアーナ協商連合国 アルスヴァーン帝国特使所 特使執務室にて

深夜に鳴り響く、心が落ち着かなくなるほど雷鳴が走り、窓を叩きつけるほどの大雨。私にはお母さんとお父さんの記憶が無い。

特使の仕事をお姉ちゃんに頼まれて、快く引き受けたがもう30年祖国に帰ってない。休みが欲しいが自分から言うのは怖い。無能、怠け者。それが私の呪いの言葉だ。この言葉をどこかで聞く度に腕に爪を立ててしまう。

お姉ちゃんと比べて外交に特化した政治的能力を持つ私は次女という事もあり、特使という役目は決まりきっていた。だけどそれ以外はあまり得意ではなく、昔聞いたとある閣僚の「あなたは無能な王族だ!」という言葉以来、呪いに縛り付けられた。

でもお姉ちゃんは違った、優しいあなたはお姉ちゃんが守ってあげると。そう言ってくれた。だから吸血鬼に温厚なこの国へ特使として送ってくれた。それなのに……腕に爪を刺す。僅かな痛みが心の不安を落ち着かせてくれる。

「お姉ちゃん……元気にしてるかな……戦争が始まりそうと言っていたけど……」

するとドアがノックされ、衛兵が来訪者の名を告げる。

「リレイド第1王子が参られました」

「あ、あの……入れてください!」

ドアが開くとお姉ちゃんと同じ赤い髪を、綺麗にまとめた熱血っぽい見た目にも見えるがスマートなかっこよさを引き立てるスーツの着こなしとバランスの良い体つき。

「ヘルシア特使、今夜も残業かい?」

「はい……あ、殿下雨に濡れてますよ……」

殿下は少し肩などを気にするが笑顔で返す。

「これくらいなら風邪は引かないよ。それよりも僕との婚約考えてくれた……?」

その声と共に雷鳴が近くで鳴り響く。

「私は吸血鬼ですし……殿下に似合うような……あっ……」

顎をクイッとされ、私は殿下から目を背けれなくなる。

「僕は君がいいんだ。お父様や執事の実利な言葉がなんと言おうとね」

甘くねっとりとした、気持ち悪さすら感じる喋り方と舐めるような視線に私の心は悲鳴をあげていた。

本当は結婚なんてしたくない。私にはこんな眩しい方は相応しくない。もっと気の許せるような優しく、純粋に愛してくれる方がいい。

「で……殿下……もう少しだけお時間を……」

「そうだね、まだ求婚して半年か。もう半年くらいなら待てるよ」

嫌だ……嫌だ……時間よ、止まって欲しい……

「殿下……本当に私が良いのですか……?」

「当たり前じゃないか。君みたいに可愛くて、大人しくて、仕事熱心な子そんなに居ないよ。ぜひ、『支配』したい」

そう、第1王子は大人しい女性で遊ぶのが好きと聞いて以来、いつか私にも案件が来ると思ってた矢先に来た。

「そういえば、君にはお姉さんがいたね?可愛いの?」

「お姉ちゃんに手を出さないで!!」

私はお姉ちゃんが大好きだ。こんな男に支配される存在ではないことは分かっている。でも、でも……!!

「へぇ〜ますます興味が湧くねぇ。そうだ、君が結婚してくれるならお姉さんには絶対に手を出さないと約束しよう。帝国への貿易も拡大しよう。悪くないだろ?」

私は所詮、利用されるだけ利用されて捨てられるんだ……もう特使なんて辞めたい。この人から離れたい……でもこれを受け入ればお姉ちゃんを楽にさせてあげれる。

「……後日正式な文書でお返事します……」

「それは楽しみだ!期待してるよ!じゃあね〜」

扉が閉まると同時に私は泣き出してしまう。こんな奴に私の生涯を……

もう、職務には耐えられないと思って、寝室に向かうと、まだ若く優しい執事が待っててくれた。

「特使殿……第1王子の件、心中お察しします……」

「私はね……無能だから……少しでも役に立たないと捨てられちゃうから……」

執事の不安そうな顔を見る気もなく、ベッドに倒れ込み再び泣いてしまう。

「お姉ちゃんっ!……会いたいよ!助けてよ!!」

翌朝、帝国城 侍従本部にて

珍しく外国からの着信に自分が応答する。

「はい、こちらアルスヴァーン帝国侍従本部です」

「あの……トリアーナ協商連合国の特使執事のレイモンドと言います。もしかして噂の侍従長閣下ですか?」

え?自分国外でも噂になってるの?

「多分その噂の侍従長です」

「実は特使殿が……」

第1王子からのハラスメントの打ち明けと心身共に損耗の話を聞く。

「分かりました。陛下に伝えておきます。特使殿に気を使ってあげてください。あとお姉ちゃんが会いたがってるという事も」

「!?かしこまりました。こちらでも伝えておきます。では」

もはや恒例のハレルオン副侍従長による侍従の指揮を任せて、陛下にこの事を告げに城内を歩く。

もしこれでヘルシア閣下が自殺でもしようものなら陛下は間違いなく、戦線を拡大させてでもトリアーナを滅ぼすだろう。

「陛下、失礼します」

「なんだね?書類が山ほどあって困っているのだが……変態の匂いがしないな。重要案件か?」

「……はい」

陛下に一言一句、正しく伝える。

「私のせいだ……私があの子を特使に指名したから……すぐに引き返させる準備を手配しろ!最優先事項だ!」

「承知致しました!陛下!」

彼が部屋から出ていくと私には後悔の渦しか残らなかった。あの子は優しく、言語学や文化に興味があり、特使に向いてると判断し、任命した。

「リレイドのやつ……絶対に許さないぞ……」

私はすぐに今の貿易契約を維持しながら、ヘルシアを絶対に連れ帰る作戦を立てる。吸血鬼の女王を舐めるなよ。心の中で、唱え、最優先で計画に移る


帝国海軍参謀本部午前8時

普段ならこの時間帯は静かだが女王陛下より発せられた指令により、大慌てとなり、大会議室にはヴァルツ海軍元帥、ラインルート准将、軍務省作戦局の人間達が集まっていた。

全員がヘヴィスモーカーか準ヘヴィスモーカーというなんとも煙たい会議室では白桜級の処女航海に向けての動きが加速していた。

「それで、たとえハリボテでもいいから白桜級をトリアーナに送れと」

ヴァルツ海軍元帥は頭を抱える。トリアーナはああ見えてしっかりとした湾岸防衛ラインを構築している。仮にハリボテで向かえばひとたまりもないだろう。

「問題ありません閣下。白桜級は戦略的に運用可能です。唯一問題点を挙げるなら操船に慣れてないことくらいでしょう」

ラインルート准将がシガレットを吸いながら答える。

「作戦局としては反対です!貴重な決戦級戦艦をわざわざ人類に見せびらかすなど言語道断!避けるべき事案です。ヘルシア閣下の能力を踏まえても……」

ヴァルツ閣下は全く聞く耳も持たず、葉巻を吸い、一言。

「安い葉巻は不味いな」

「聞いてるのかヴァルツ!?」

作戦局長のブチ切れにヴァルツは本音を言う。

「君達の家族が同じ立場なら傍観に徹するか?それとも助けに向かうか?それにこの決戦級戦艦白桜を人間海域を航海することで人間に対する威圧を示すことも出来る。デメリットばかりではないと私は思うがね」

作戦局長は書類をぐちゃぐちゃにして、ヴァルツに投げつける。

「そんな形だけの威圧など意味が無いのだ!我々が言いたい事は白桜は秘匿として……」

「いずれは出撃せねばならない。いつまでも切り札を隠し持っていては、使う機会を見失う。実際連邦との条約に我々はパラディンズとの共闘案という切り札を見間違えた。次の失敗は致命的に繋がるだろう」

局長はついに強硬手段に出る。

「なら、我々作戦局が出航許可は出さない!」

「全く、そんな子供っぽいワガママはおやめください」

部屋に居ないはずのレアランド総帥の声が響く。

「レ……レアランド総帥……!?」

「ヴァルツ閣下、突然の来訪失礼します」

「うむ、良いタイミングだ。この戦略的子供達に白桜の出撃の優位性を説明してやれ」

「かしこまりました」

彼は白桜の防御能力と艦砲射撃精度といった軍事機密の書類を作戦局に渡す。彼らもここまで高性能でしかもリスクの低い練習に近い演習というトリアーナ協商連合国への遠征となればデメリットは打ち消される……そう判断せざるを得なかった。

「どうですか?作戦局長?もし、これでも出航を許可しなければあなた方は作戦局という立場は相応しくないかと」

作戦局長は怒りを抑えながら声を絞り出す。

「……出航を……許可する」

そのまますぐにヴァルツ閣下は部屋から退室し、白桜のある秘匿造船所に向かい、注水指令を出して、出撃へと向かった。一応護衛には駆逐艦5隻着くこともあるので彼には心配など微塵もなかった。それこそが彼の経験と知性による安定を意味していた。

いよいよ、次で第20話です!この次はちょっと閑話休題としてラインルート准将の朝活とヘルシア特使の交代を実行します!まだ1隻しかない決戦戦艦白桜はその力を見せれるのかご期待ください!

今回もご拝読感謝致します!

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