第17話:国家総動員法発令、そして要塞線の先へ
国家総動員法 施行日 当日
各地では男性を送る姿が見られた。陛下の采配でどんなに適性がある男性が多い家庭でも2名までしか徴用しないという心遣いにより、一定程度の好感も得られ、なおかつ戦力化可能な人口の半数以下しか徴用しないという事もまた国民の間では「きっと陛下は苦渋の決断を迫られた」と印象づけられたのだろう。
陸軍軍令本部 午前9時
珍しくヴァルツ海軍元帥からドルヴォーフ陸軍元帥に会いに来て、ドルヴォーフを驚かせた。
「貴様がここに来るとはな。悪いが葉巻もコーヒーも在庫が……」
「知っている。ここに来たのは別の案件だ」
ドルヴォーフは眉をひそめ、何?と声をかける。
「これを見れば分かるだろう」
ヴァルツ海軍元帥の妻から貰った初めてのプレゼントのビジネスバッグから極秘と記された書類を渡す。
内容は……
「100個師団(約100万人であり、1次徴兵戦力の1/5。太平洋戦争時の大日本帝国陸軍に相当する)を連邦に上陸だと!?貴様!以前の御前会議では6個師団が限界と言っていたではないか!」
ヴァルツはコーヒーを飲みながら、大声をあげるドルヴォーフをなだめるように答える。
「それはあくまでも人間の国に遠征した場合の話と国家総動員法を考慮しない場合の話しだ。今は輸送艦を10隻作っている。直に完成するだろう」
「それでも兵站と輸送能力が足りないではないか?」
ヴァルツはニヤリと笑い、その質問を待っていたと答える。
「次のページを見たまえ、高速揚陸艇を多数生産中だ。乗り心地は最悪だが上陸地点の選びやすさとコスト面、製造期間面から見れば揚陸艦はもはや眼中の外だ」
ドルヴォーフも驚きを隠せなかった。まさかこんな兵器を海軍が計画していたとは……
「なるほど。連邦を側面から殴り倒し、戦力分散か。考えたな。いっそ陸軍作戦局に来ないか?」
「生憎、土と泥で軍服を汚すと妻が怒るから遠慮する。さて、同期。100個師団動員するんだ。そちらからなにか望むものはあるか?」
ドルヴォーフが今度はニヤリと笑い、答える。
「仮の話として連邦または人類連合軍との戦いで戦線を下げる際に内線戦略(インフラなどが整った自国に敵を引き入れ、有利な状況で敵を殲滅する戦略)に海軍の支援を頂きたい」
ヴァルツは即座に答える。
「具体的には?」
「艦砲射撃と例のロケット弾を搭載した巡洋艦とやらで上陸して、安堵している敵を叩き起して欲しい」
ヴァルツはドルヴォーフのメイドから2杯目のコーヒーを飲むと静かにカップを置き、冷静さを示す。
「それぐらいなら構わん。だが私としては一つだけ懸念事項がある」
「なんだ?」
ヴァルツはメイドさんへのチップを渡してからため息混じりに呟く。
「国民が来年の夏休みには帰れるつもりでいるらしい。はっきり不可能と言いたいがそうすれば陛下の国民支持率の低下を防ぎきれない」
「同感だ。現時点では覇権戦争級の戦争は回避される見込みだが2年は戦う必要は絶対にあるだろう」
ヴァルツはここで素直な自分の気持ちを表す。
「理想の灯を灯すか、絶望の現実を見せるか……軍隊とは常に思考を迫られるものだな」
「あぁ。私としてももう脳みそを投げ出したいくらいだ」
「その時は遠慮なくマグナム弾をぶち込んでやるから安心しろ同期」
静かな沈黙の後に二人でガハハと笑い、戦略会議を始めた。
海軍参謀本部 ラインルート准将 執務室
自分レイヴァスとレアランド総帥、そして当然ラインルート准将がいた。互いに最後の備蓄のコーヒーを飲みながら、海戦戦略について議論していた。本来なら自分は同席しないはずだったが陛下とヴァルツ閣下から例のドクトリン発案が認められたことにより参加を余儀なくされた。
「白桜級1隻、駆逐艦数隻で警戒網が現実案か……」
ラインルートの言葉に2人は頷くしかなかった。長距離精密砲撃に特化した白桜級とそれを護衛する駆逐艦、布陣としては悪くなかったが……
「高速魚雷艇が厄介ですね」
レアランド総帥が眼鏡をクイッとしながら現実的な話をする。覇権戦争時に人類側は吸血鬼の艦艇を高速魚雷艇で雷撃が走るように、次々と攻撃を仕掛ける戦略、ある種の群狼戦術に苦しめられた。そして今回も同じ手を使うだろう。
「レイヴァス殿何か良い案はないですか?」
レアランド総帥のキラキラした瞳には今の自分には荷が重すぎた。正直数日漬けで海軍戦略を学んだが、そんな人間にここまで厄介な対抗戦略なんて無理だよ……
「えぇ……高速魚雷艇より早くて、小さい船を作ればいいんじゃ……」
「「それだ!!」」
2人が同時に声をあげる。
「徹甲弾を搭載した機関砲を主装備とした駆逐艇開発の案が浮かぶぞ!」
「あぁ!それなら多数量産できる!揚陸艇の侵攻阻止も可能だ!恐れ入ります閣下」
自分は適当に言っただけなんだけどなぁ……まぁ、いいか。
そんな各軍部で様々な盛り上がりを見せた国家総動員法発令日は終わりを迎え、帝国城の侍従本部で報告書を陛下に提出する。
「ご苦労だった。レイヴァス。そなた、誕生日はいつだ?」
「え?唐突ですね、この前のお礼ですか?」
陛下はうむ。と答えるがこの質問は裏切りざるを得なかった。
「実は誕生日が分からないんです……祝われた事も、誕生日会に招かれた事もなくて……」
陛下はそっと近寄り、まだ150センチくらいの小さな体で自分の顔を見上げるように見つめる。
「ごめんなさい……辛い記憶を思い出させて……今は我々も倹約すべき時だ。だから時が来たら必ず、レイヴァス、お前の誕生日を制定する。だから今は無力な私を許してくれ」
陛下は静かに頭を下げたが自分はテンパってしまい、「お、お、お頭をお上げください!」と言い、「陛下の気持ちだけでもとても感無量です」と答えた。
「もし、待ちきれなくなったら私に何でも言う事を利かせられる券を1枚進呈するからな!安心しろ!」
子供っぽいという印象より、むしろ純粋な嬉しさの方が大きかった。
「何をお願いするか考えておきますね」
「ちなみに私はまだ異性とのあれが無いから安心しろ」
「さすがにそんな事をお願いできませんよ!そういうのはもっと信頼を深めてからです!」
自分はそう言って、陛下の部屋を出る。陛下の身体には興味が無いといえば嘘になるが知れ渡れば自分の肩書きがロリコン変態侍従長ワンチャンというもはや、この世の終わりみたいなあだ名が着くに違いない。
ヴァンルデッド連邦 紅の城にて
「帝国が国家総動員法を発令だと!?」
書記長の驚きと怒りに満ちた声が響き渡る。
「はい、現在第1次戦備体制を敷いており、既に500万人を徴兵したと」
書記長は太い葉巻を吸いながら、思わずむせ込む。
「我が国に対する意見は?」
「戦争は避けたいと……」
すると首相が挙手し、発言権を求める。
「恐らくですが無期限に気がついたかと。上手く騙せたと思ったのですが……」
「帝国にもそこそこ頭が回る連中がいるようだな」
まだ午前中なのに血酒を飲む書記長に閣僚達は正直うんざりしていた。
「仮に戦争になったとして、我が国が侵攻される可能性は?」
「冷静かつ慎重な帝国です。東西250km、南北50kmの武装要塞線を超えれるとは思いません。通信魔導具の傍受の技術も我が国では完璧です」
戦争省の大臣がそう答え、書記長はとりあえず落ち着く。
「当面は様子見か……」
書記長がそう言い、退室すると閣僚達の愚痴と同感の混声合唱レベルの声が大会議室に響き渡った。
帝国城 侍従長室 寝室にて
「温かい……柔らかい……」
「フフっ、閣下殿は寝ていても素直なんですね」
「そうだよ……自分は……!?」
自分は飛び起きると寝巻き姿のミラエスメイド次長がいた。
「なんで?」
「なんでが何を指すか分かりませんが陛下からレイヴァスは人間である以上お前が面倒を見ろと仰せつかっておりますので」
無駄に陛下の声真似が上手いと思いながら、制服を着替えさせてもらい、コーヒーまで用意してもらい、逆に落ち着かない。
「本日のご職務についてお聞かせ願えませんか?」
「えーと……ラミーナ侍従から新兵訓練状況の報告と国家安全保障会議だね」
「承知致しました。国家安全保障会議の前に陛下にレイヴァス閣下はお着替えも1人ではできないとお伝えしておきます」
この駄メイドは何を言っているんだ?自分からやったのに。マッチポンプにも程があるだろ……
「陛下には国家安全保障会議の顧問のエルメンド騎士団長は欠席と伝えてくれ、既に連邦との最前線を民間人のフリをして偵察中だから」
「かしこまりました」
そのまま朝食も食べさせてもらい、侍従本部でも新兵訓練状況の資料をわかりやすくまとめてくれた。
「こちらが主力陸軍師団編成状況になります。こっちは海兵になりまして、これは側面打撃軍の資料になります」
側面打撃軍?何の話だ?
「ミラエス、側面打撃軍について説明を」
「はっ、陸海元帥の協議の結果新型兵器による連邦の側面に対して大規模な強襲を仕掛ける100個師団になります」
「全員新兵の歩兵か?」
ミラエスは資料を手に取り、確認した上で報告する。
「新人歩兵は60師団ほど、新人自動車化師団20個ほど、新人装甲戦闘師団15個、残りは正規部隊歩兵になります」
恐らくこの、新人歩兵をカバーしつつ、確実な連邦の脅威にさせたのはドルヴォーフ閣下の采配に違いないな。そう思い、他にも資料に目を通す。と言ってもまだ素人の自分ではなんとも分からないが。
だけど一つだけ分かった。既に国境線ギリギリの位置に帝国軍の重砲部隊が配置されてると。
そして国家安全保障会議前になり、ミラエスが一言。
「お疲れではありませんか?」
「うん……少し疲れたよ」
「私、マッサージ師の資格があるのですよ。試してみますか?」
「お願いするよ」
自分は侍従本部のソファに横になるとなんとも柔らかく、温かい物が背中に触れながら、凝ってる部分を手でほぐしてくれる。
「あのぉ……ミラエスさん?胸を当てるのは如何なものかと……」
「嫌ですか?」
「お願いします……」
「素直ですね」
ハレルオン副侍従長の羨ましそうな視線とラミーナ侍従によるゴミを見るような目で見られ、自分は心の中で言い訳をする。会議のためなんだ、許してくれ!!
ここまで読んでくださった皆様、感謝します!少し長めの投稿が続いておりますがこのタイミングで書いていた時は熱量が凄く、区切って再評価するのも疼くくらい夢中になってました!
あと自分は一時期マッサージのお世話になっていましたがあくまでも個人の感想ですが自律神経失調症にはそこそこの効果はありますが優秀な鍼灸院さんに針を刺してもらうとめちゃくちゃ効果がありました。思ったよりは痛くなかったので自律神経失調症に悩んでる方は一度相談はアリかもしれませんね。




