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第16話:裏切り者ルイスと信頼者ミスレイア

メモ帳で確認した後にラミーナ侍従兼護衛隊長が足早に駆けつける。

「新兵訓練がやや難航してると陸軍本部から通達が……」

「何が起きてる?」

ラミーナ侍従は耳打ちで答える。

「生き物を殺すのに抵抗があると……」

そうか……覇権戦争が終わって50年……平和の間にトラウマや戦争を知らない者が……だけどこれはまだ相手の痛みを感じられる事であり、徴兵された民がまだ兵器ではなく、生き物として生きてる証だ。

「徴兵要員については生き物を殺すと考えるのではなく、祖国と家族を守るためと徹底させてあげてくれ。その方が戦いやすいだろう」

「思考の柔軟さ、恐れ入ります。速やかに各徴兵部門に通達を行います」

「頼んだよ」

自分はそのまま、帝都の売店で値段が1.3倍になったサンドイッチを食べながら帝国国家保安局の本部へと向かった。

帝国城とは対象的な黒いレンガで入る者に恐怖を与える。そんな印象だった。

「やぁやぁ、レイヴァス閣下。こちらへ」

なんと長官自ら、お出迎えだ。そのまま中に入るが叫び声をあげる人、泣いて許しを乞う人がおり、国家保安局の動きに疑問を感じた。

だが長官室は比較的すぐにつき、中の構造も非常に単調だった。

「長官、侍従長として問います。何故彼らは捕まったのでしょうか?」

長官はゆっくりとチェストの上の写真立てを見る。

「私の妻と娘は国家保安局に捕まって、拷問の末に死んだ。罪名は爆破未遂、有り得ないもいい所だった。当時の私は国内保安部にいて、長官と直談判して聞いた。『お前の妻と娘が可愛いから欲しかった』と……殴ることすら出来なかった。妻と娘は最後の最期まで私の家族でいたいと拒んだそうだ。私は弱く、惨めで……それ以来絶対に長官になってもう冤罪も犯罪も無くしたいと思った。だからまずは長官を……冤罪殺人で殺した。その後はしっかり根拠を用意して、司法省と共に裁くようにしてる。彼らには全員何かしらの真の罪状がある。だからご安心を閣下。私が長官の間はもし、本当に冤罪で誰か死んだら自分の命も差し出すつもりだ」

長官はいつの間にか涙を流していた。本来国家保安局は国民を監視し、反体制運動などを取り締まる。だが長官は冤罪でしかも上司の私欲で家族を失っている。その重りは自分では計り知れなかった。

「長話になったね。では、女王陛下護衛計画について話そうか」

長官の顔にはもう涙は無かったが瞳から通じる辛さだけはヒシヒシと自分の心を締め付けていた。


自分は同局の重大事案部にも話した上での話から始め、城内地図で警備の駒をあれやこれやと動かす。

だが帝国国家保安局には致命的な弱点がある。法的権力は強いが実力行使能力の低さだ。なので自分は帝国の騎士団からも何名か借りていたがどうしても足りない。

「パラディンか……恐らく癒しの魔術すら無効にするだろう。だからと言って集中させすぎるのも聖遺物を使われたらお終いだ。どう行こうか?」

自分は自分という駒を探す。あれ?

「すみません、自分も護衛に参加するつもりですが……」

長官は血相を変える。

「閣下に何かあっては困ります!」

「ですが自分も戦う覚悟と陛下をお守りする覚悟はあります!」

長官は尖らしたような口調で語る。

「閣下、覚悟と実力は似て非なるものでありながら密接な関係にあるものです。ご理解を」

「長官としてはどれくらいの技量をお望みですか?」

自分の問いに長官は一言伝える。

「騎士団員1名に勝てるくらいの実力があればいいでしょう。格下の私が言うのも難ですがまだ流水の激龍の奥義は覚えてないのでしょう?人間が聖騎士と化した人間を倒すにはこれくらいは必要です」

自分は反論を返す。

「時間が無いです。自分は既にある程度のラインまでは到達してます。このまま戦力不十分で陛下を死なせるか自分が命と時間を引き換えるかは自分にも判断権があるはずです」

長官はもはや諦めた顔でとりあえずと付け足した上で質問する。

「陛下の為に死ねるんですね?」

「そのつもりです」

その時一瞬、長官の右手が動くのがやけにゆっくり見えながらも拳銃を引き抜くのが分かった。

自分は素早く抜剣し、グリップとスライドを上下に切り飛ばす。長官を傷つけず、なおかつ無力化も実現できる斬り方だ。

「はぁ……分かりました。これだけの実力があれば国家保安局は認めましょう。ですが陛下のために死ねるなら陛下の寝室に待機できる信頼を勝ち取ってください」

「ありがとうございます。陛下には暗殺予告は伏せておく方針は変わらず、自分が護衛に回ります」

長官は頼みましたよ。と部屋を後にする。

自分も侍従本部に戻り、報告書をタイプライターに打ち込む。

タイプライターはここに来て初めて使ったがとても便利で使いやすい。農村にも置くべきと思ったが……自分を利用してきた人間ばかりが浮かぶ。

「集中集中!」

その時通話魔導具が鳴る。

「こちら侍従本部、レイヴァスです」

「閣下ですか、なら話が早い。パラディンの1名を拘束、あなたを知ってるようなので来てもらえますか?」

すごく嫌な予感がしてならなかった。すぐに向かいます。と返し、いつものハレルオン副侍従長による侍従達の統制を任せて、再び帝国国家保安局に着き、今度は地下の牢獄の部屋だった。汚く、臭いその現場からさっさと去りたかったが尋問室に入ると見たくもない人がいた。

「レイヴァスか!?助けてくれ!!あんた侍従長なんだろ!?」

ルイスだ。50万ルビアを持ち逃げしたかつての旧友。まさかパラディンズに居たとは。

「尋問官、あなたの監視の下で彼とお話よろしいでしょうか?」

「構いません閣下」

自分は大きくクソまずい空気を吸って一言。

「金を返せ」

「そ……それは……いつか……今のままじゃ絶対に返せない……分かるだろ?あんたの権限で釈放してくれ。そうしたら数パーセントは望みがある!0か1ならあんたなら分かるだろ!?」

「質問を変える。陛下に反逆する意思はあるか?」

彼はパイプ椅子に固定されながら暴れ出す。

「まず、釈放するのが先だろ!?親友だと思っていたのにこのザマかよ!」

「もう一度聞く、陛下に反逆する意思はあるか?」

彼は怒鳴り口調で言い捨てる。

「女王を殺せば多額の報酬が手に入る!お前を殺せばスッキリする。両方殺して一石二鳥だ!」

「そうか……執行官、彼に最大限の痛みと絶望を」

ルイスは黙ったと思ったら、今度は泣きながら命乞いをする。

「頼むよ!殺さないでくれ!悪かった!金も返すし、女王の命も狙わない!だから生かしてくれ!」

仕方ない、コイツの願いを叶えてやろう。

「執行官、彼を殺すな」

「え?」とルイスと執行官共に口にする。

「だから死なない程度で絶望的な痛みと精神及び神経過敏剤で徹底的に痛みつけてやれ」

ルイスはまたもや怒号を発する。

「鬼かよお前!小学校の頃に鉛筆貸してあげただろ!!」

今更それがなんだと思い、一言だけ返す。

「私は陛下に誓いを立てた。敵対する者には通過もさせない」

自分は犯罪者ルイスに背を向けて、部屋から出ていく。

途中であいつのクソみたいな悲鳴が聞こえたがもはや何も感じなかった。


城に戻るとなんだか疲れてしまい、通信魔導具で陛下に報告書は明日提出しますとだけ伝えた。

そしてベッドに横になる。思い出すのは人間の国にいた頃の自分からありったけ搾取してきた奴らの顔だった。その中に自分の両親の顔もあった。お小遣い無しで働かされ、心の限界で休ませて欲しいという最後の願いすら叶えて貰えなかった。ならば自分の目指す道は1つ『人に対して鬼になる』だった。

夕方に寝たせいか変な時間に目が覚めてしまい、城内を目的もなく散歩していた。相変わらずの広さに未だに知らないところもあるんだなぁと思い、途中で中庭のベンチで座っていた。

「閣下、ここいいですか?」

メイドさんだった。確かこの方は……

「いいですよ。確か人間で正規登用された……」

「はい!ミラエスメイド次長です!人間の方のメイド達の指揮を任されてます!」

彼女の素敵な笑顔が月明かりに照らされて、可愛らしく見える。とても素直な瞳だ。騙された事も裏切られたことも無いような瞳。

「人間なのにこんな時間に出歩いていいんですか?」

「ノーです!私にはミラエスという名前がありますよ!レイヴァス閣下!」

彼女はプンプンとしながら答える。

「悪かったミラエス……ちょっと辛いことがあって……」

「私でよければ何でも聞くだけ聞きますよ」

自分は人間の国での話と昨日の話をする。ミラエスは真剣に聞いてくれた上で一言。

「閣下は少なくとも間違ってないと私は思います……閣下は人のために、良心で動いたのが何よりの閣下の優しさじゃないですか!裏切れ続けたらそうなりますよ!」

「あぁ……自分はでも酷いのかなって考えてしまうんだ……かっこ悪い侍従長だよね……」

「レイヴァス閣下、メイド次長……いえ、一人の人間として言わせてください。無償の愛は無限にはありません。レイヴァス閣下は愛を超えてお人好しになり過ぎです!そもそもお金を返さなかった時点で詐欺罪ですよ!」

言われてみればそうだ。自分は悪くない、そんな言葉に縋ろうとしていた。

「閣下、これから戦争が始まるかもしれません。お人好し過ぎたら陛下を守りきれますか?」

自分はハッとする。そうだ、今守るべき相手は……!!

「ありがとうミラエス!目が覚めたよ!ちょっと剣術の練習をしてくる!」

「行ってらっしゃいませ〜閣下」

閣下が見えなくなるまで見送った後に通信魔導具を私は起動させる。

「ハレルオン副侍従長、これで……」

「うん。ありがとう、閣下には人間の言葉が必要だと思ったからね。ところでミラエスちゃん今度少し血を……」

「パワハラですか?」

「すみません……でも、お仕事頑張ってくれたから何かお礼はさせてもらうよ」

私は何をお願いしようか考えながら「ありがとうございます」と言い、通信を切る。

「侍従達って大変なんでしょうね……」

帝国城 剣術練習場にて

夜間練習中の騎士団員と自分で戦っていた。

「詰めが甘いですよ閣下!」

「そっちも右側が空いてますよ」

右を向いた瞬間に、自分は左手に剣を持ち替え、騎士団員の首に当てる。

「恐れ入ります閣下。強くなられましたね」

「団長のスパルタ教育の賜物ですよ。さぁ、もう一試合!」

「まだやるんですかぁ……?」

朝まで剣を振ったので流石に疲れて、この日は休みを頂いた。ただ明日から国家総動員法が施行される。そう思うとゆっくり眠れなかった。

同時刻 女王陛下 私室 ラウンジにて

灯りが疎らに光る街並みといつまでも輝きを失わない星々の下で私は苦悩していた。国家総動員法は正しかったのか。論理的には正しいのだろう。そして国家元首として正しい決断だった。だけど民は……兵士は……彼ら彼女らの命は宝石のように尊く、それを守り抜くが私達の務めのはず。いつから逆転したのだろうか。

「犠牲は私だけでいい……民の……兵士の……思いは覚悟の宝石なんだから……」

しばらく夜風を浴びて、街の灯りが徐々に消えていくのが目に映る。

「もう一人じゃない……レイヴァス……信じてるわ」

私はついに信頼できる人二人目を見つけれた。名はレイヴァス。互いに守り、守られながらこの国と宝石達を導く。


長官の暗い過去は書いている時も少し心が痛みました。もし、自分ならどうするか。思わず考えてしまいます。

そして最悪の登場のルイス、彼は今後登場する予定は無いですね。自分なら1ヶ月半のお給料借りパクされたら多分ブチ切れます笑

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