第15話:国家規模の戦略において割引の価値とは
自分の発言を見直しながら、陛下と共にこの25建てのホテルのエレベーターをゆっくり降りる。
「ねぇ、レイヴァス」
突然現実に引き戻される。少し不安げに聞こえたので丁寧に答えるのを意識する。
「どうされましたか?」
「私を…私を本気の笑顔にさせてくれる……?」
その事か……あの場を乗り切るために使ったとはいえ、心は決まっていた。
「自分が笑顔にできるのは陛下くらいですから」
「……ありがとう」
ギリギリ聞こえるか聞こえないかくらいの声のお礼と同時に服の袖が掴まれ、体を寄せてくる。
「自分の不幸顔は治りましたか?」
「まだ不幸……でも私も協力して世界一幸せな侍従長にしてあげるわ」
その言葉に心の岩が動くのを感じた。
「ありがとうございます陛下。自分も世界一幸せな国家元首……いえ、世界一幸せな吸血姫にしてみせます」
「フフっ、期待してるわよ」
そんな甘いやり取りをを車の中でもしてから翌朝を迎える。
帝国帝都城下町新聞屋前ににて
『アルスヴァーン帝国政府が国家総動員法を発令!第二次覇権戦争か!?』
そんな見出しの新聞が国中を駆け巡り、一部では役所への問い合わせが殺到したほどだ。
奥様同士の会話では……
「また野菜とお肉が値上がるらしいわよ」
「らしいわね。しかも備蓄品は戦時公庫に入れられて、より高くなるらしいわ」
「無期限条約を連邦と結んだのに何故かしら?」
「ほんとほんと」
奥様方の不満はかなり溜まっていた。
一方で人間で言う成人を迎えた吸血鬼のご家庭では……
「兄さん、戦争に行くの?」
「まぁな……召集令状が届いたから。父さんも行くらしいけどちゃんと給料は出るから安心しろ」
弟は不満気な顔で怒る。
「兄さんも父さんもいなくなったら力仕事全部僕がやるしかないじゃん!」
「少しの辛抱だ。勲章掲げて、帰ってくるからさ」
家庭内でも不安が蔓延っていた。
一方で工業会社に勤める家庭は平穏だった。
「パパ戦争に行かなくていいの!?」
まだ幼い娘の喜ばしい声に父親は嬉しく答える。
「そうだよ〜、お父さんは戦艦を作るのを任されてるからな。それでもお国のために働けるのは幸いだよ」
「でも……パパが作った機械で人を……殺しちゃうんだよね……?」
父親は重い眼差しでまだ幼い娘にしっかりと伝える。
「まだ難しいかもしれないけど、戦争って外交の最終手段なんだ。お国の方々はしっかりと交渉した上でこの判断になったんだよ。それにお前を守る機械でもあるからね」
「うん……頑張ってねパパ!」
「あぁ!さぁ、朝ごはんの時間だ」
こんな様々な様子を呈する帝国国内は帝国国家保安局が情報を集め、政府機関に提出していた。
経済産業大臣官邸では……
昨日からご不満なアゼルロード総帥と経済産業大臣が激論を繰り広げていた。
「1割値上げってどういう事ですか!?当初の契約に値上げは無しという契約文をお忘れに!?」
アゼルロードはワインを飲みながら一言。
「我々は慈善団体ではない。我が社が潰れれば戦争計画遂行不能となるだろう」
「ですが……1割は大き過ぎます!それにそもそもの契約として……」
「なら受注生産契約を……」
その時扉が開かれる。青と銀の髪色の美しきイケメンのレアランドだ。
「お父様、僭越ながら私は陛下とご結婚したくございません。と同時に戦地に赴いて現場状況を知る役目を頂きたいのです!」
経済産業大臣が内容を掴めずにいるとアゼルロードはブチ切れる。
「貴様正気か!?我々の悲願だと約束したではないか!!」
「私も先程までそうでした。しかし途中で車が壊れてしまい、私には設計はできてもメンテナンスはできません。ですが通りすがりの女性が素早く直してくれて、お礼を言うと戦地に行く前に良いことしておかないとね。と素敵な笑顔と愛国心を見ました。我々財閥が支援するのはそういった方々の為ではないでしょうか?」
アゼルロード総帥は机をひっくり返して、怒鳴り散らす。
「ふざけるな!お前みたいな優秀な吸血鬼が民間の油臭い娘などと結婚やましてやお付き合いなど……」
その時だった、経済産業大臣が拍手をし、答える。
「レアランド副帥!その心お見事!まさに我々権力者が支えるべき存在は支えが必要な者たちです!アゼルロード総帥、あなたにはガッカリされました。近いうちに財閥企業関連法案の総帥交代を司法部と協議します。あなたとの発言も録音されており、交代は間違いないかと」
アゼルロード総帥はレアランド副帥が見た事ないくらい慌てていた。
「悪かった!1割増は無しにする!それでどうだ?」
産業大臣は一言。
「無しに出来るものを増やしていた。国家に対する裏切りですね。あなたにはもう社内権限しか残ってないでしょう。ではレアランド『総帥』、これからよろしくお願いします」
「ご拝命感謝します大臣閣下。ですが我が父です。どうか情状酌量の余地を」
大臣は先程までの鬱憤を晴らすと同時に非常に強気で出る。
「2割引かつ、あなたは生産部部長へ辞令。これで社内に残しつつ、私の見立てで信頼できると思えば立場を戻す会議を開きましょう」
「レアランド……助けておくれ……」
「父さん、僕はガッカリしました。あなたは国にとってガンそのものです。本当に助けるべき人達から搾取し続けた。それが昨日の結果では?『副帥』殿」
「副帥に用はない。出ていくといい。総帥閣下、戦地偵察なら護衛はおつけしましょうか?」
「大丈夫です。国の為に戦う兵士の方々を減らす訳にはいきません。自分の身は自分で守ります。1つ頼み事としてもし、戦地で心を惹かれた女性がいたら相思相愛の下で一時的に戦地から離れさせてもらえませんか?」
大臣は先程とは打って変わってニコニコと答える。
「君ほどの器が選ぶ人だ。失われては困る。これからもよろしくお願いします」
大臣が頭を下げると総帥も頭を下げて、副帥となったアゼルロードはその後家で自ら毒薬を飲んだという。
海軍参謀本部では新聞を読みながら、妻が持たせてくれた最後の在庫の高級コーヒーを飲むヴァルツ海軍元帥がいた。
「言いたい放題書くねぇ……我々も苦悩の末の決断だと言うのに。なぁ、ドルヴォーフ」
ドルヴォーフ陸軍元帥もヴァルツの前で最後の在庫の高級葉巻を吸いながら、ため息を吐く。
「私はこれだから新聞は読まん」
「民とマスコミの声も役に立つぞ?」
ドルヴォーフは疑いながらも例えば?と聞く。
「安い葉巻の宣伝や高級血酒とかの情報だな」
ドルヴォーフはやはり同期は平常運転だと、思いながら再び問う。
「真面目に聞くが人類連合軍との海戦は貴様の采配で全てが決まるぞ。覚悟は出来ているのか?」
「私からも問おう。同期の采配次第で連邦軍との地上戦で国土と工業地帯の命運が決まることをご承知で?」
2人はしばらく黙り合い、少しの失笑の後に互いに「無論だ」と言い交す。
「ここからが開戦すれば激務となる以上、体力に余裕は残しておかねばな」
ドルヴォーフの言葉にも一理あると思ったヴァルツなりの感想を述べる。
「国家総動員法の可決により、賽は投げられた。もはや戦争は不可避だろう。外交省には可能な限り時間を稼いでもらうさ」
「新外務大臣、期待できるか?」
「期待も何もやってもらわないと全ての計画がご破算だ」
言い終わった後に二人でしばらく、世界地図の上で図上演習をし、意見を交わし合った。
その頃海軍秘匿造船所にて
ラインルート准将はヴァルツ海軍元帥から電報で送られた「白き桜が舞う」という暗号ですぐに向かっていた。もちろんお抱えの担当官も付けて。
「1年半が数ヶ月になるとはな」
「えぇ、小官も驚きの極まりです」
鉄骨落下による陛下事故死未遂時に陛下はむしろ作業員の効率を優先し、休暇を与え、一人で城を抜け出し、コーヒーと精霊牛のピザを作業員達に労い、そのお陰で事故が無くなっただけでなく作業速度が桁違いに上がった。数年前まで政府高官達をあちこちに左遷してたワガママ娘では無くなっていた。やはり侍従長閣下の影響か……
「白桜級……見事な大きさと堂々たる船体……造船業の世界的権威レアランド総帥には感謝せねば」
その時突然作業員の1人が震える声で語りかける。
「シガレット……貰えませんか?」
陛下を見習わねばな。自分に言い聞かすとラインルート准将は1本取り出す。
「状況はどうだ?」
作業員も落ち着きながらも冷静で知性的なラインルート准将からシガレットを貰ったことに少々の驚きを滲ませながらも答える。
「2週間以内には1番艦ができる予定です」
「よくやった。ここの指揮を任されてるのは私である以上、無理は程々に、無茶するな。全員にさりげなく浸透させてくれ」
作業員は敬礼し、承知しました!と返し、作業へ戻る。
「では、私も侍従長閣下に報告せねば」
「お供しましょうか?」
担当官の心の遣いに感謝し、無茶しないように見ておけ。と伝え、執務室へ戻る。
帝国城 侍従本部 午前10時
報告会議が終わったレイヴァスは各自にタスクを振り分け、先程届いたラインルート准将からの白桜級まもなく完成という報告に安堵していた。だが心残りが無くなったわけではなく、今日は午後から帝国国家保安局長官との会議を予定していた。
こんばんは!黒井冥斗です!昨晩は1話しか投稿できず申し訳ございませんでした!今夜は複数話投稿するので週末にのんびりとお読み頂けると嬉しいです!
近代国家だからこそできる契約にない割引は、時に自らを破滅に導く事もあると書きながら思ってました。やっぱり契約って大事ですね!




