第14話:戦略的実利に愛と笑顔は含まれるか
前触れもなく、それは訪れた。自分が侍従本部に入った日に各侍従達から山ほどの書類を渡され、何事かと思った。はっきり言って自分の裁ける量ではなく、ハレルオン副侍従長に聞くとどうやら本日中にも国家総動員法の会議が開催され、大御前会議が始まるというものだった。
大御前会議は通常よりも幅広く大臣を集め、議題を討論するというものだ。
自分もすぐに支度を済ませると大御前会議が開かれる帝国城地下に陛下がお一人で座っていた。それもまるで瞑想するかのように。
「遅れてすみません」
「遅刻はしてないから問題ない」
「陛下……あの……必要とあらばいつでも自分をお頼りください」
陛下はしばらく黙ると苦しみを誤魔化すように答える。
「お前の助けは必要ない。私はただ民のために……」
陛下の瞳は鋭く目の前の世界地図を睨み殺すように見ていた。
「レイヴァス、いつか貴殿の手で終わらせてくれ」
陛下は何を仰っている!?
「陛下!あなたはこのアルスヴァーン帝国の君主です!そしてそれはあなたが辞めるまで変わりません!そんな事言わないでください!」
「だから嫌なのだ!!お父様もお母様も優しくて、国民を誰よりも愛していた……なのに殺されたのだぞ……私なんか生きる価値なんて……」
自分は思わず陛下の頬をビンタする。
「それが君主の在り方か!?陛下のお父様もお母様も同じ気持ちで戦ってきたはずだ!本当に民を思うなら使える人材は全て使え!!このろくでなし変態ワンチャン侍従長でもいいから使って平和を実現しようではありませんか!?」
陛下は唖然としていたが、すぐに数滴涙の後の覚悟を放つ。
「レイヴァス……ありがとう……少し落ち着いてきたわ……あなたの言葉まるで本当にお爺様みたい」
自分は頷いて陛下の頭を撫でる。いつもなら怒るが今は、えへへとちょっとした笑顔を見せてい。
そのまま閣僚と陸海元帥がが集まり、会議が始まった。
「では国家総動員法の発動の疑義について、各閣僚の意見を聞きたい。反対の者は?」
誰も答えなかった。当然だろう、ここまで絶望的な国家間問題で通常戦力のみでは勝利の道筋は見えない。
「反対の者はおらぬのだな。では、発動は絶対とする。陸軍元帥ドルヴォーフから徴兵戦力について詳細を」
ドルヴォーフ陸軍元帥は非常にキレのある香りで有名な葉巻を吸いながら答える。
「インフラ基盤、国民生活基盤を確実に補強しつつ、なおかつ1年半以内に戦力化できる人員は500万人と考えています。つまり約500個師団でこの前代未聞、有史以来最悪の国難を乗り切るつもりです」
陛下は頷くだけで、ヴァルツとだけ言った。
ヴァルツ海軍元帥もドルヴォーフと同じ葉巻を吸い、堂々たる態度で希望戦力の説明を行う。
「えぇ、侍従長閣下が先日提案していただいた補給拠点と工業地帯を艦砲射撃する案も含めて、なおかつ人類海軍との艦隊決戦を想定した場合60cm級砲超大型戦艦仮称白桜を10隻まで建造し、36cm砲の戦艦雪波級を13隻、駆逐艦を30隻。これで艦隊決戦は対応可能と思われますがロケット弾と呼ばれる飛行する爆薬する新型兵器を搭載した重巡洋艦を6隻試験導入させて頂きたい。この時点で海軍軍事予算の12年分に相当しますが各参加者の皆様のお声を頂きたい」
すると挙手したのは財務大臣だった。
「さすがにこの規模の軍拡となると……予算が絶対に持ちません。少なくとも国家予算を5倍にして国内総生産を3割増にした上で国内総生産の5割を回すのが必要かと」
すると先程まで孤独の戦いを強いられていた陛下自らが挙手する。
「戦時国債と王家の公庫、国民からの資金提供。これで国家予算を3倍にまで出来るはずだ。残りは……」
周りの閣僚達からの鋭い視線が彼女を襲う。ここは自分の出番か。
「軍資金の提供割合に応じた講和条約の際の要求件決定権の付与はいかがでしょう?当帝国は富裕層及び超富裕層が他国より多くいます。更なる利権を求める者も少なくないでしょう」
周りがおぉ……と感嘆の声をあげる。
財務大臣もついに決めたようだ。シガレットを吸いかけなのに、潰して答える。
「陛下の覚悟と侍従長閣下のご提案見事です。後は我々が命に替えて戦争作戦計画を完遂できるようにします」
すると申し訳なさそうに経済産業大臣が挙手する。
「予算についてはこちらでもなんとかします。ですが工業区画と生産能力が足りません……」
クソっ!またもや大きな壁が……
今度は外務大臣が紅茶を飲み一言。
「我が国1つで生産する必要は無い。資金がショートしない範囲で輸入と共同生産を行えば十分に対応可能だ。そして時間に関しても我々が死力を尽くして時間を稼ぐ」
各閣僚方の協力に陛下は一礼し、周りを驚かせる。
「済まなかった……私が孤独だから……ワガママだったから皆にを迷惑をかけた……」
すると顧問で呼ばれた騎士団長が発言する。
「君主なんですからワガママで丁度いいですよ」
と言うと周りも「陛下のワガママには慣れてますから」や「国家元首こそ、欲張りであるべき!」など応援の言葉が飛び交い、そして最後に自分が。
「陛下、使える人材は全て使って、民を守るべきですよ」
そう言って、あとは軽く各省庁の状況述べ合いながら、大御前会議に幕を下ろす。
国家総動員法の可決により各企業のお偉方には内密に通告され、動きと覚悟が活発化していた。特に医薬品と火薬の重鎮メルヒェス製薬と中工業と呼ばれる車両や大型の砲を得意とするソリアス中工、そして帝国最大の財閥にして財界の頂点の軽工業・重工業・造船業を絶対的なカリスマと経営力で支配したアゼルロード財閥が動き始め、今晩はアゼルロード総帥と陛下がお食事をする日でもあった。国家総動員法が可決されなければ自分を連れてこっそり、深夜の街を歩こうとしていたらしい。もちろん自分は彼氏でも侍従でもなく、お財布として。かなり楽しみにしていたらしく本当は容認したくなかった国家総動員法が可決され、自分はプンスカと怒る陛下をなだめていた。
「陛下、また今度夜に出掛けましょう」
「今度っていつよ。場所は?時間は?太陽が何回回った時?」
ワガママな子供のような質問に悪戦苦闘し、同時にパラディンズの聖騎士が見れば暗殺に発展するかもしれないため、すぐには確約できない。
「全てNでお答えします」
「バッカじゃないの!?これでI(虚数)とか言ってたらこの車の燃料機関にぶち込んでいたわ!Nなのは当たり前であってもう少しマトモな数値を出しなさいよ!」
「アハハ……」と苦笑いしてると車が止まる。着いたようだ。
帝国最高級ホテルアルスヴァルの最上階の展望レストランまで最新のエレベーターが整っており、自分は初めて乗ったが感動した。だって地面が上下に動くんだよ!?凄くない!?そんな反応をしてると陛下が一言。
「お子様っぽいからやめて」
「はい……」
ポーーンという音ともに扉が開かれると月夜の下に贅肉だらけの眼鏡をかけた明らかに財閥の長に見える人物と若くして身なりを整え、ホテルマンにも丁寧に接するイケメンがいた。
「おぉ、陛下!遅かったので先に少しつまみ食いをしておりました。お許しを」
「勝手にしろ。そこにいるのはレアランドか」
レアランドと呼ばれた吸血鬼はすぐに立ち水色と銀色を混ぜたような綺麗な長い髪を整えながら「お久しゅうございます陛下。ご機嫌いかがでしょうか?」
と聞く。すごい紳士で優しい声と語り方、自分とは大違いだ。陛下はきっとこういう方と……
「めちゃくちゃ不機嫌だ」
本音を隠すのもお仕事ですよ。と耳打ちする自分のネクタイを掴み、無理やり席に座らされる。
「陛下、この方が人間の侍従長閣下の……」
「そうよ、私のペットのレイヴァスよ。いつか結婚するかもね」
はぁぁぁぁ!!??突然の言葉で頭が真っ白になるがここは政略の場、牽制かもしれない。ここは落ち着いて……
「アゼルロード総帥、お初にお目にかかります。レイヴァスと申します。レアランド卿も初めまして」
レアランドは笑顔で「こちらこそ」とウィンクまでしてくる。なるほと生来の完璧とはこういう事を指すのだろう。
すると伝説の食材と名高い精霊牛のチーズをふんだんに使ったフォンデュやピザ、パスタが出されて、あまりの美味しさに食べることに夢中になる。
「陛下、閣下は食欲旺盛なようで」
「人間だからな。健康な証だぞ」
「ですが……少々場の空気が読めないといいますか……私の息子の方が遥かに綺麗に食べてかつ会話も挟められて、先程のお話だと息子の方が婿として……」
「断る。レアランドは優れた人物なのは認める。白桜級60センチ砲搭載戦艦の設計図を1週間で最新技術を詰め込んだ上で完成させた。頭脳面でも悪くない。そしてレイヴァスにも優しく接する面で性格も悪くない」
「でしたら……」
アゼルロード総帥はどうやら政略会議の上に息子と陛下を結ばせるつもりなのか。
「レアランドは完璧すぎる。逆に信頼できん。レイヴァスは素直だ、優しく、私を敬愛し、その証として鼻血まで出してくれた。何より私をビンタして、正気に戻す魂胆も持っている。しかも人間で。そんな存在いないだろ?」
陛下は言い終わるとクスッと笑い、食事にありつく。
アゼルロード総帥が喋ろうとしたら、副帥が止める。
「陛下、素敵な方を見つけられて何よりです。信頼できないというお言葉重く受け止めます。ただ1度でもいいので出掛けてみませんか?僕と二人っきりで……」
自分は気にしなかったが陛下はイライラを隠せず、鉄のナイフとフォーク陶器の皿にわざと音なるように置く。
ガチャンという音に思わず自分もビクッとしてしまう。
「あなた方とは恋愛面では協力する気がないのは分かっているのだろう?政略の話がなければ私は帰……」
「半額」
アゼルロード総帥が発したその言葉に陛下は耳を傾ける。
「ただ今受注頂いてる全ての品を半額にできます。もちろんレアランドを婿として迎えればの話ですが……」
レアランドは頭を下げる。
陛下は唇を噛み締め、出血する。
「もう少し付き合ってやる。レイヴァス、この場で申せ。レアランドと私が付き合うのは賛成か反対か?」
「陛下、僭越ながら……」
「賛成か反対かと聞いている!!」
自分は……自分は……言わなきゃ……陛下と最初に謁見した時に見定めてもらったこと、時に子供らしく、時に孤高の国家元首らしく、そして本気の笑顔を見せず、優しい微笑みを見せてくれたこと。
「自分は……反対です」
静かに時が流れた。月が照らす最中で陛下は一筋の涙と共に答える。
「レイヴァス……ありがとう……ついでだからあの、金持ち共にも理由を言ってあげなさい」
自分は深呼吸してから答える。
「陛下は人間である私を侍従長として迎え入れ、私を受け入れてくれた。最初は嫌だった……だけど誰よりも陛下を本気の笑顔にさせれるのは私だと断言する!!」
アゼルロード側はポカンとしながら食器を置き、ため息を吐く。
「陛下、実利の面では我々との交友は有益だと思いますが?」
「愛と笑顔は実利に含まれているか?」
アゼルロード総帥は何も言えなかった。
「行くぞ、レイヴァス。これ以上は時間の無駄だ」
「はっ!」
自分達は足速にその場を去る。
残された2人は話し合う。
「レアランド」
「はい、お父様」
「なんとしても陛下の家系に我々アゼルロードの血を入れて、王族になるぞ」
「悲願です、お父様」
そのまま2人はしばらく食事を続けていた。
いつもより、早い投稿ですが見てくださってる方々には感謝します!今日は少し無茶をして第2巻を進めてしまい、体調を崩してしまい連続投稿する体力も厳しいので今夜はこの話で読者様の心に残ってくれたら幸いです。もし、面白いと思って頂けたらブックマークと評価をして頂けると大変励みになります。皆様もご健康にお過ごしください




