第10話:恋愛会議から戦略会議へ
「2人に問う。恋とはなんだと思う?」
え?哲学的な意見を求めてるの?それとも普通の恋愛した時の気持ち?
自分が視線をラインルート准将に向けるとラインルート准将もこちらを見ていた。
そして陛下はご機嫌な様子だ。サディスト女王陛下め。
「陛下、恐れながら概意が広すぎるかと。もう少し絞って頂けませんか?」
さっすがラインルート准将!的確な支援、これはシガレットを1箱買ってやらねば。
「なら、問い直そう。人は如何様な時に恋をする?」
自分の期待は一瞬にして打ち砕かれた。もっととんでもなく難しい質問になってるよ……
「では、僭越ながら自分が……」
「おっ!いい心掛けだ!ワンちゃん侍従長!」
ラインルート准将がクスッと笑う。はい、シガレット1箱の件は消えました。
「自分が初めて恋をしたなと思った時は非常に心が苦しく、寂しい時でした。ですが相手を見て、ドキドキしながらもこの人と歩んでいきたい。日を重ねる毎に強くそう思うようになりました」
陛下は興味深そうに聞いてから再び問われる。
「相手は誰?」
「え……陛下、恐れ多きながらこのような場で相手を聞くのは非常にマナー違反かつ禁忌とされています」
自分の祖国での学友であったルイスと話した時の会話がここで役立つとは……流石だな現金泥棒。
「へぇ〜そういうものなのね。知らなかったわ。ラインルート准将は?」
「わ、私は……その……えーと……勉学と射撃練習ばかりで……女性の恋人など……おりません……」
陛下はその時いたずらを仕掛ける時の小悪魔笑顔を見せる。自分達2人はすぐに気がついた。
「あら、おかしいわね。最近図書館の秘書カーミラちゃんだったかしら。あの子がラインルート准将の事を恋人と……」
ラインルート准将の顔が真っ赤になる。これがサディストの気持ちか。
「それは見なかった事にして貰えませんか……?彼女は良くいえば一途過ぎるんです……他の人に知れ渡らないように情報統制を敷いてました……お願いします!カーミラとの関係は……!」
陛下は軽いため息を出して、紅茶を飲むと、優しい顔で答える。
「もとよりこの話をこの場以外に持ち込むつもりはないわ。レイヴァスも分かってるわね?」
「はっ、そのつもりです」
しばらくの沈黙の時間の後に陛下は少し不機嫌そうに質問をなげかける。
「私を恋人にしたい人はいるのかしら?」
「「え?」」
「え?じゃないわよ!ここまで可愛くて、美しくて、愛嬌たっぷりの少女吸血姫よ!恋人がいてもおかしくないじゃない!」
ラインルート准将と顔を見合わす。お前がいけよ!とお前なら行けるだろ!と目線での死戦の末に自分が折れる。
「陛下、自分は素直な気持ちを暴露するなら陛下のことはお好きです」
「じゃあ私のいい所を言いなさい」
とんでもない無茶振りがまた来たよ。と言っても小波くらいの可愛いレベルの無茶振りだけどね。
「顔もとてもよく整っていますし、髪も綺麗でしっかり手入れされておられますし、服装も完璧、血液も大変美味です」
どうだ!これだけ言えば満足だろう。
「……違う。内面の情報がない!どういうこと!?これじゃあまるでハリボテの軍隊人形に騙された富国強兵の典型的な国家元首じゃない!!」
内面かつ真実で褒められる点なんて……
「これは誤解しないで頂きたいのですが……陛下が剣を与えてくださったあの日の馬車でうなされてる自分を心配そうな瞳で起こしてくれたのはとても嬉しかったです」
「そう?なら、いいわ。ラインルートも何かちょうだい!」
「えーと……」
その時通信魔導具のアラームが鳴る。
「失礼します。閣下」
「はい、私です……それが本当ならかなりマズイですね。分かりました統合参謀本部に直ぐに向かいます。ただ今都合上陛下にお伝えしなければなりません。お許しを……それでは」
陛下は嫌な予感を感じたせいか、イライラしてるようだ。ふと気がついたのだが吸血鬼の女性にもホルモンバランスのようなものはあるのだろうか。
「陛下、ヴァンルデット連邦が軍事演習を開始した模様。諜報要員によると侵攻作戦を想定したものとなっているようです」
陛下は気にせずに再び紅茶を飲みきる。
「︎民を守るのが私の務めだ。誰が来ようと、何が来ようと私は国と民を守り通す!レイヴァスすまない!恋話もう少し聞きたいが私も皆を……あなたも含めてよ!守るために会議に出るわ。そして侍従本部で待機していて」
ミスレイア陛下の瞳には本気の覚悟の魂の火が見えた。
「はっ!何かあればすぐにご用命を!」
侍従本部内でも既に情報が駆け巡っており、戦争の火種が少しづつだが確実に広がって大火へと変わるのを感じた。
アルスヴァーン帝国統合参謀本部 午前零時 統合参謀会議が主催
私はもはや、あの若き潮風とも言えるレイヴァス侍従長閣下のドクトリンが現実味を帯びてきたことに恐怖と共にまた多くの命が失われる事への悲しみを感じずにはいられないでいた。
統合参謀会議の主催者は参謀元帥と呼ばれる軍の作戦から造船計画までを管理し、軍務省のトップ連中と折り合いをつける。現参謀元帥のドレイク閣下は冷徹な狙撃銃というあだ名で呼ばれており、私が海軍元帥になる前の元帥は無能だと判断し、罷免した。そして人類吸血鬼覇権戦争においても吸血鬼の兵を駒として見ず、失われたら作戦変更を検討と言ったリアリストとも呼べるが恐ろしく冷徹かつ柔軟な部分もある。
参謀元帥がワインを飲み終わり、時計が午前零時を知らせるゴーーンという音が鳴ると元帥は語り始める。
「諸君、知っての通りヴァンルデット連邦が侵攻を想定した軍事演習を実施した。と同時に数日前から人間領域内での合同軍事演習も活発化している。早めの対策かあえての無視か。あるいは外交で解決できるか、元帥のみでの発言を許可する。ヴァルツ閣下から」
私はさすがにこの場では葉巻を吸う気も起きず、ラインルート君が作ってくれた資料を元に話す。
「我々海軍と致しましては可能な限り外交で時間を稼ぎつつ、従来の想定を超える艦隊編成が必要となるかと。もはや国家総動員法の発令の必要性すらあると考えております」
参謀元帥はふむ。とだけ言いドルヴォーフ閣下にも意見を求める。
「我々陸軍としては即座に国家総動員法を発令し、最低でも500万人の吸血鬼を徴兵し、教育し、理想は半年、可能なら1年の錬成の後に配備をするべきかと」
ドレイク元帥は落ち着きながらも、もう禁煙したと言っていたシガレットに手を出す。
私でもこうなるだろう。国家の存亡の危機において、二正面作戦という軍事作戦、片面は連合軍、もう片面は撃退しか現実面のない巨大国家、亡命すら考えてしまう。
「せめて片方なら……」
「ドレイク元帥、発言の許可を」
ドレイク元帥は煙を吐き出し、構わん。と答える。
「レイヴァス侍従長閣下の提案で人間側にいる反吸血鬼組織パラディンズを撃破する名目で連邦と一時的な合同軍事安全保障条約を結ぶという希望は薄いですが頼りの綱があります」
会議の場にいた軍幹部がザワつく。たった12万名の人間のために連邦が共闘するなど、むしろ連邦に弱いと見せつけるだけでは?等と雑言が聞こえるが参謀元帥は気にしない。
「外交諜報部長に聞きたい。可能性はあるか?」
ヴァルツ海軍元帥、ドルヴォーフ陸軍元帥、ドレイク参謀元帥以外軽く失笑を見せたほどだったが彼の意見で場が凍りついた。
「可能性はかなりあります。特に聖騎士のような勢力は我々の近代的な兵器は使いませんが、魔術使用能力は我々を上回ります。『聖遺物』と呼ばれる禁断の兵器の使用も加味すれば、連邦は確実に勝利するために一時的ではありますが人間勢力との共闘に応じるかと」
参謀元帥は結論が決まったようだ。
「帝都周辺100kmを絶対防衛ラインと設定し、国家総動員法も前提とする。そして外交省及び外交諜報部はあらゆる手段で連邦との共闘を誓わせてもらう。これが失敗すれば我々に未来は無い。そう思え。では、解散!」
全員が参謀元帥に敬礼し、出ていくと思いきやヴァルツ海軍元帥に近寄る。
「レイヴァス侍従長と空いてる時間に話がしたいと伝えてくれ」
「承知致しました」
足早に去る参謀元帥の背中には帝国の未来がのしかかっていた。
陛下も会議議事録を読んではいたが、まだ吸血鬼の少女という年齢にはあまりにも重すぎた。
泣いちゃダメだ、泣いちゃダメだ。私は自分にそう言い聞かせながら駒を見る。ぼんやりとたがお父様とお母様が見えた。お父様は慈愛の君主と呼ばれ、覇権戦争においても参謀元帥を殴るくらい兵士の命と国民の命の為に尽力した。そんなお父様ならこの戦局をどう見るか。少女は再び泣きそうな表情で判断を決めようとする。
「レイヴァス……助けてよ……」
心にも無く、鼻血を出したり、お子様向けコーヒー豆を買ってくるあの変態侍従長を思い出す。彼の大人しい笑顔は素敵だと思えた。そして恋愛会議の時を思い出す。
「私の血で来てくれるかな……」
不安と孤独に押し潰されそうになりながら、自らを守るためという前提で通信魔導具を手に取り、大切な存在に少しずつだがなり始めた侍従長へ、部屋に来て欲しいと伝える。
彼の返事はもちろんイエスだった。同時に彼の寿命が少しずつ削られてしまうと思うと彼以上の後任は居ないことも分かっていた。
ついに10話です!Wordのファイルにはまだ何万文字も残されているので連日投稿出来そうです!
恋愛会議…参加してみたいものですが自分には縁が無さそうですね…
さて、突然始まった連邦の侵攻を想定した軍事演習。何が目的か…現実の世界情勢も不安定の中でこの作品を書いているとニュースを見ると意外にもアイデアが落ちてるものです。専門学校時代の癖で朝7時または夜7時のニュースはほぼ毎日見てます。今日はもう何話か投稿するのでお楽しみにしてください!




