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第1話:どこに行っても苦労する青年レイヴァス

戦争も、覇権も私にとってはどうでもよかった。

私はただお父様とお母様、そして妹と一緒に、王族として民と共に平和を歩むことが願いだった。しかし人類と吸血鬼の一部の閣僚は容認しなかった。覇権戦争でお父様とお母様を失い、翌日の暗雲が立ち込める霧雨の中での弔い、泣きじゃくる妹を抱きしめながら、私は心に誓った。平和こそが泣く人々が少なくなると。

2種族による全面戦争が続いた。人間と吸血鬼、どちらが世界の覇権を握るかの戦いに私の両親は巻き込まれた。

それは忘れもしない、紅い満月に照らされ、最前線の兵士と後方の兵士が交代し、慰労する夜だった。私もお父様とお母様と共に帝国城のラウンジに出て、手を振り、誰もが熱狂した熱い夜だった。だけど……

ズドンっ!という大きな発砲音から刹那の間にお母様の胸から血が吹きでるのが見えた。そしてすぐに2発目のズドンっ!という音ともにお父様の胸から血が吹き出た。私も殺される。分かりきった事だったが、私が生まれるより前から城に仕えていた騎士団長が私の盾になり、すぐに室内に撤退した。

私は何度も叫んだ。お父様!お母様!と……しかし医師によると即死だったそうだ。

今夜も眠れそうにない。

ラニーア共和国 農村

人類吸血鬼覇権大戦、それは100年間に及び人類と吸血鬼が総力を挙げて、亡ぼしあった絶滅戦争だ。終わりの見えない戦いに多くの民が怒り、結局は双方何も求めない事で終戦したが未だに反対勢力は見え隠れしている。そんな悲惨な戦争から50年が経ち、自分レイヴァスは農家の長男として人間の国で一生懸命勉強と農作業の手伝いをしていた。

「おーい、レイヴァス〜頼みがあるんだ。真面目なアンタにしか頼めない」

「なんの問題だ?ルイス」

ルイスとは小学校時代からの仲だ。彼からはよく物事を頼まれる。

「50万ルビアくらい貸してくれないか?3ヶ月以内に返すから」

50万ルビアだと?農家が1ヶ月半生活できるレベルだぞ。

「どうしてそんな大金を?」

自分の問いに彼はアワアワとしながら答える。

「ポーカー……じゃなかった。母さんが病気になって医療費が必要なんだ」

「銀行で借りるという案はなかったのか?」

答えは分かりきっていた。

「銀行家共が俺らに金を貸すわけないだろ……なぁ、頼む!一生のお願い!」

こいつは一体、一生のお願いを何回使うつもりだ。覚えてるだけで10回は使ってるぞ。

「自分のほぼ全財産だ。必ず返せ」

「わーかってるよ!ありがとうな!」

彼の背中を見た時に後悔した。どうせ、帰ってこないと。分かってはいた。分かっていたが彼の母親が本当に病気の可能性を今の自分は疑いきれなかった。

そして彼とは音信不通になり、やはりかという絶望と予感が当たったという全く嬉しくない希望で心が病みそうだった。

その後も周りからは「真面目だから」という言葉を付け加えられた上で仕事から子供の世話までなんでもやらされ、心身疲弊の中で次第に人間に対する不信感が生まれてきた。

「母さん、1ヶ月半ほど休ませて欲しい。農業が忙しいのは……」

「何バカ言ってるの!今1番忙しい時なのよ!真面目なあなたならわかるでしょ!?」

あー……母親もその呪いの言葉を言うのか。

自分は残った2万ルビアを片手に家に置き手紙として「もうこの家には居られません。さようなら」と残して、吸血鬼の帝国アルスヴァーン・レストイア帝国に入国した。吸血鬼の方々はプライドが高く、物事を押し付けるのを基本的に嫌うと聞いている。きっと自分にとっても良い環境が……

船に揺られ、夜の帝国へと辿り着く。月は満月で真っ赤だった。そのせいか自分も吸血鬼になった気分で久しぶりに心がワクワクしていた。

そして汽笛が鳴り響き、下船をした時だった。銀髪赤眼の屈強な吸血鬼の方2名に囲まれる。

「お前、移民パスがあるな」

「え、えぇ……」

「家事はできるか?」

は?何だこの質問は。もしかしたら仕事の斡旋先なら願ってもない事だ。

「はい!大家族の長男だったので一通りはできます!」

「書類仕事はできるか?」

これまた不思議な質問だと思いながらも素直に答える。

「学生時代から一応上位の成績ではありました……」

二人の吸血鬼は顔を見合せて、こっちへ来い。と言われ、馬車に乗せられる。

え?これが噂の人身売買とかってやつ?

不安な気持ちで押し殺されそうな中で人混みの中をゆっくり通り過ぎる。人身売買なら山とかに行くはずだが……何故?もしかして家畜労働!?

それから、街の景色を眺めていると、明らかに違法などこの街ではありません!みたいな平和かつ穏やかな帝都と思わしき場所に連れていかれ、扉が開かれる。

「あの……自分は……これから……」

「安心しろ。食ったりはしない……多分……」

多分!?そこ担保しなきゃダメでしょ!!

そのまま階段を上ると豪華な絢爛な排水施設に白を基調とした世界中で有名な帝国城が目の前にある。

「あ、あの……国際条約に違反するようなものとかは……持ってないです……」

「だから安心しろ。多分食われたり、殺されたりはしない……はずだから!俺だって殺されるかもしれないんだよ!しっかりやってくれ!」

何をしっかりしろと。少なくとも今は言えないのだろう。だけどこの方々の腕章を見る限り帝国の中央貴族の騎士の方だ。そんな彼らすら怯える存在……

とりあえずポジティブに考えよう。これだけの上流階級の吸血鬼さん達でも怖がる存在に働かせてもらう……ポジティブに考えられる方は私に電報を寄越してください。

半分気絶しながら、城内の中を担がれ、床に下ろされ、意識がはっきりとしてくる。

目の前には赤い髪に紅い瞳、まだ10代前半風の見た目だが黒のドレス姿からして中央貴族だろうか?その割には足を組んで見下ろして……玉座……まさか……!!

「女王陛下、新しい侍従長をお連れしました」

「は……?」

小声で騎士の方が「演技でもなんでもいいから乗り切ってくれ!」と頼み込んでくるので仕方なくアドリブで演じる。

「えーと……新しい侍従長のレイヴァスです。よろしくお願いいたします。女王陛下」

女王様は品定めをするように自分を見て、一言。

「こんな不幸顔の男性の血を吸ったら不幸になりそうで嫌だわ」

その時自分の胸がときめく。初めて必要とされなかったこの喜び!今までの人生の価値観が変わった!!

「ご安心ください女王陛下。最高級の血液は用意しております」

女王陛下は「そう……やるじゃない。人間」と言い、他の閣僚クラスの吸血鬼達も驚く。驚くのはいいけど早く最高級血液持ってきて!!と願いながら、女王陛下はグラスを1杯飲んで一言。

「人間のくせに私を怖がらずにここまで出来るの者は少ないわ。研修期間として雇ってあげる」

こうして、自分、レイヴァスの侍従長生活が始まった!!


初めまして、黒井冥斗と申します!初のネット上の作品投稿かつ小説執筆を初めてまだ1年ちょっとですが、お手に取ってもらい、面白いと思えたなら個人的にはとても嬉しいです!1日1万文字以上書く日もあれば1文字も書かない日もある波のあるタイプですが既に15万文字分は書き終えているので少しずつ投稿していきます。皆様の温かいご支援お待ちしております!

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