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第一部:プロローグ

 遠い昔、私たちは「桃の時代」と呼んだ安土桃山時代。

 その頃、吉備の山奥で語り継がれた一つの真実があった。

 それは、あなたたちが知る『桃太郎』の物語ではない。


 桃から生まれた英雄が鬼を退治したという、美しくも単純な伝説の裏には、飢饉と貧困が人々の心を蝕み、人間を「鬼」へと変えていった悲しい歴史が隠されている。

 英雄の影で孤独な戦いを続けた男と、彼を支えた仲間たちの物語。

 そして、血と灰の中から生まれた、もう一つの伝説が、やがて一つの光となる物語である。

 これは、歴史の表舞台から消え去った、もう一つの物語。


その真実を、今、あなたに語り継ごう。

 桃の産地として知られる岡山県に、かつてこんな物語があった。

 桃から生まれた英雄が鬼を退治したという、美しくも単純な伝説の裏には、飢饉と貧困が人々の心を蝕み、人間を「鬼」へと変えていった悲しい歴史が隠されている。


 その時代、人々はただ生きることに飢えていた。


 武家が支配する世となって久しいが、鎌倉の栄華は遠い昔の話となり、戦乱が絶え間なく続いていた。


 都では明から渡った美しい永楽通宝が満ちていたが、遠く離れた農村にその恩恵は届かない。


 人々は米や布を交換し、原始的な物々交換で命をつないでいた。


 この貧しさが、人々の心に深く暗い影を落とした。


 飢えが限界を超えると、村人たちは互いに食料を奪い合い、やがて武器を手に取るようになった。


 彼らは徒党を組み、夜陰に紛れては隣の村を襲い、残ったわずかな食料を略奪した。


 その姿は、かつて日本を襲った蒙古のおににも似ていたため人々は彼らを「鬼」と呼び、恐れるようになる。


 だが、鬼と恐れられたものの正体は飢饉に苦しみ力なき者を嘲笑う貴族によって、生きる道を奪われた哀れな人間たちだった。


 命はまるで川に流れる木の葉のように儚い。


 飢饉が続くと親は泣く泣く生まれたばかりの子を手放し神の慈悲を願い、その小さな命を川の流れに委ねた。


 川は生と死、そして希望と絶望をつなぐ境界だといわれていた。


 そして桃は魔除けの力を持つと信じられていた時代である。


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