ランク※.
この物語は、YouTubeに投稿されているゆっくり茶番劇の動画シリーズ「ランク※.」の小説ver.です。
動画ではしないような言葉遣いや情景描写をお楽しみください。
(まだYouTubeの方を見てない方は見てみてね!)
地獄を煮詰めたようとは、よく言ったものだ。
俺の境遇は、誇大表現せずとも腐り堕ちきっていると言える。他者を信頼するなんて不可能でしかなく、総て《すべて》の生物は敵でしかない。
殺しも盗みも厭わない。生きるためなら、他者を蹴落としても許される。
此の世界は特殊な身分制度が採用されている。老若男女問わず総ての人間の左手首には、数本のキズがある。本数や長さは人によるが、それは均一に切り傷を模した外観をしている。
そして、面白いことにそのキズの本数は、そのままその人の基礎能力の高さを表していた。
どこかで読んだ本によると、とあるランクの違う少年2人に同時に授業を行い、その成果をテストを行って検証する実験があった。
この実験は何度も行われてきたが、その結果はいつもキズの多い方が優秀であった。つまり、傷の多い人間の方が強力であると証明された。
傷の量を安易に表せる形式。通称"ランク制度"が広まってからは、ランクの低い人間は弱者であり、高い者の下にいるという認識が当たり前となった。
簡単に言えば、ランクが高いやつは強くて偉い。という訳だ。
だが、実情はもっとグロテスクだ。ランクが中心な制度の中では、血の滲む努力や実際の能力は、最早お荷物でしかない。
どんな経歴も意味が無い。生まれながらにしてランクが決まる。
その値のみが、そいつの価値となった今、どんな精神論も戯言でしかない。
これが此の世界の仕組みだ。生まれた瞬間に人生は決まり、ランクの低い人間は親に捨てられも、虐げられても、自殺しようと、周囲が見れば道化でしかない。
いや、道化ならどれだけ良かっただろう。生きている事を認識されるのだから。
運が悪ければ誰にも認識されないこともある
だってそうだ。ランクが低ければ低いほどそいつに価値は無い。最低のEランクなんて、最低限の衣食住を手に入れるだけで一苦労だ。
さてさて、ここまで語ったが、かく言う俺は、そもそもそのランクというものを持っていない。
此の世界で唯一と言ってもいい程に、稀な存在だ。
傷がない存在が確認された例など、これまで1度もない。格好よく言えば、突然変異と称して違和はないだろう。
前例が無いのなら、それはそれは丁重に、丁寧に扱ってくれるのではないのか?
ランクが無いとはいえ、大切な実験材料になる。そんな存在をみすみす手放すことなどしないだろう?
……そんな訳が無いのだ。人の価値を表すランク。
それに当てはまらない俺は、そもそも"人ですらない"。
幾ら虐げられ、粉々にされ、死に追いやられても、俺を憐れむ人間は、1人も居ない。
俺の親も、血縁者も、俺の死を哀しむことなどないのだ。
だってそうだろう?人の形をしただけの蛋白質の塊にどうして情が芽生える?
名前どころか、性別を認識された時点で、頭頂部を地べたに擦り付け泣きながら感謝するのが妥当だ。
それが俺の身分。俺が突き進むべき道だ。
ランク無しの異分子は、人としていることさえ許されない。
と言っても、俺は案外その扱いに慣れてしまっている。
先述した通り俺に人権なんてものは無い。どう扱われても、そいつが裁かれることもなければ、俺はその行為に抵抗した時点で負けだ。
だが、目をつけられ無ければどうということは無い。俺を虐げるやつも、それに飽きれば虐げることもしなくなる。
当然俺は、最初の方は言葉にできない残虐な行為を繰り返し行われていた。
例を挙げるとするなら、羽交い締めにされて爪を剥がされた後にガスバーナーで小一時間程度焼かれたことがある。
まぁ、今は案外それも然程苦しかったとは思っていないが。
そんな感じで、俺の人生ってのは所謂超難易度なのだ。
だが、俺はそれを不幸自慢の一環にしたい訳では無い。
元々俺自身、今の環境に慣れたとはいえ、それに満足する気などない。
いつしか全てを消し去って、俺だけの新世界でも作り出したいと思っている。
……一応言っておくが、別に厨二病を拗らせた訳では無い。もっと言えば、冗談で言っている訳でもない。
俺は至って真面目だ。真の面目と書いて真面目だ。
そんな野望を胸に抱く俺に、1つの連絡が入った。
詳しくは俺ではなく、俺の身柄を捕らえている孤児院の職員へ、だが。
因みに余談も余談だが、俺は産み落とされて早々に実の親から捨てられてここに来た。
来た、と言うよりは預けられたのかもしれない。
この吐露した内容は、実はそこまで悲観するものでも無い。俺でなくとも、ランクの低い子供が産まれたら一目散に遺棄する親はかなり多い。
それでも育てようと奮闘する心の広い親も居るだろうが、結局その子供もろくな目に逢わずに自害か、精神崩壊がいいとこだろう。
それほどまでに、このランク制度は腐っている。
だが、この国の方針で子供の量が減るのは、些か不都合らしい。
その為、俺の匿われているような孤児院にランクの足らない子供を送り込むことで、外面だけは少子化が起きていないように見せかけることに成功しているのだ。
なんともまぁ素敵な方針のお陰で、俺も未だに生き続けられている。
そこに関しては心の籠っていない感謝を伝えよう。
話を戻すと、俺に届いた連絡の内容は、匿われる場所を移す的なものらしい。
何処へ行ったって俺の処遇は変わらない、なんて考えていたため、俺はそれを然程重大な事柄だと認識していなかった。
最早他人事のようにも考えていた。
いつも通りの薄暗い場所。孤児院とは到底思えない埃とすすの溜まったこの場所は、俺の過ごしている場所だ。
見渡す限りの灰色と黒。手入れなどされたところさえ想像できない内装は、ゴミ置き場だと紹介するのが妥当だろう。
だが、ここまで腐った部屋でさえ、俺は生きる為の住居として重宝している。
無論、衛生的な観点で言えば成人さえしていない人間の居場所とは言い難い。一般的な人間が過ごしているなら、そんな同情も湧いてくるのだろう。
まぁ、不幸自慢は程々にして、俺は眼前の存在に目を向ける。
「はぁ、まったく。お前はいつも辛気臭い顔してるな。人じゃねぇから当然だけど。」
目つきの鋭い男は、俺の顔に視線を移動させるなりそう言い放つ。当然中身のある発言ではない為、俺は心底興味のない表情で男を黙って見つめる。
「ま、そんなお前も今日で退院だ。いや、言い方を間違えた。」
躊躇うことなく靴底で俺の顔面を踏みつけながら、男は嘲笑して言う。
「新たな監獄がお出迎えに来てくれたぞ。泣いて喜べ、家畜以下の外道が。」
靴底からは異臭がする。もしかして……なんて思わずとも解る。また1人、死んだんだな。
孤児院として機能していない張りぼてなこの施設は、明らかな差別が行われている。
ランクによって処遇が違いすぎるのだ。同い年で生まれた子同士でも、1つランクが違えば扱いは月とすっぽんだ。
最低ランクであるEランクの子に関しては、基本ボロ雑巾のように無賃金で働かされては数多の暴力と侮蔑で叩かれる。
サンドバックと変わらない。1つ違う点をあげるなら、苦しみ泣くことが出来る。そんなオプションのついたサンドバックだ。
まぁ、そんな環境に耐えきれなくなったか弱き人間の子は、限界を迎えると自ら死を選ぶ事もある。
しかしながら、その判断は同じ低ランクの子を苦しめるだけなのだ。両親も保護者も居ない孤児院の子は、死体処理をしてくれる身寄りがないのだ。
そして世間体ばかりを気にするこの施設は、子供の死体など見つかってはならない。悪しき慣習は、尻尾1つ見つかるだけで命取りだ。
だから、上からの命令によって職員が死体処理を引き受ける必要がある。
まぁ、そんな雑務を喜んでする変わり者は少ないようで、処理が終わってからは普段以上に過激なストレス発散が行なわれる。
あまり口にしたくはないが、ある程度体の発育が進んでいる青年は、欲求不満の解消の為、慰みものにされることもある。
だが、それに抵抗を見せてはいけない。此の世界は、ランク主義なのだから。
と、長々と説明したが、どうやら今日は然程酷い仕打ちは喰らわなくて済むようだ。普段なら口も開かずに殴打してくるこの男が、足を乗せるだけで満足している。
理由など聞かなくても解る。と思ったが、俺が説明しなくとも、男は自ら口に出してくれた。
「俺は今、最高に気分がいい!知りたいか?知りたいよな?お前が俺の前から姿を消してくれる事が最っ高に嬉しいんだよ!!」
楽しそうな声色で、幾度が体重をかけながら俺の顔面を蹴り続ける。確かに、普段とは打って変わって優しい蹴り方だ。そもそも急所をぶたないだけで、テンションの高さが伺える。
ここまで機嫌が良くなるとは……余程俺の存在が目障りだったようだ。
「よし、今日の俺は気分がいい。最早絶好調だ。そんな訳で、この紙をプレゼントしてやろう。」
男から4つ折りにされた1枚の紙を床に捨てられる。俺は今まで通りその紙を拾ってズボンのポケットに
入れる。
「そこに目的地が記されている。喜べ、お前のために仕方なくコピーしてやったんだ。頭を下げて喜べ。」
コピーという技術の凄さはいまいち解らないが、取り敢えずは一旦床に正座して、手をついて頭を下げる。床を舐めるように、長い間じっくりと。
「頭を上げろ。」
言われた通りにすると、乱暴に頭頂部の髪を鷲掴みにされた。
「もう二度として俺の前に現れるな。さっさと移動してさっさと死ね。」
眼力から、それが嘘偽りのない本音である事は伺えた。
こっちも願い下げだ。誰が二度として面を見てやるものか。
そうして、男に連れられて俺は部屋から出た。
廊下には、有象無象と表すのが相応しい子供の群れに会った。全員顔も名前も知らない人間だらけだ。
だが、向こうは違うようだ。俺の顔を見るなり、嗚咽を引き出すものや泣き出すもの、眉間に皺を寄せ今にも殴りかかってきそうな奴ばかりだ。
あぁ、そうだろう。
俺は人の形をしているだけで、人じゃない。人としての権利を持ちえない、異形の存在だ。
誰もが嫌悪し、憎悪し、恐怖する。正体不明という概念に怯える性質を持つ人間にとって、俺はどこまでも気味が悪く、気色が悪い。
しかしながら、それをどうこう思う気は無い。
俺は俺の目的の為に生きている。こいつらからの評価など何にもなりはしない。
男と共に玄関の前まで連れられ、言われた通りに靴を履く。
脚に通す際、背面に石のような固形物を投げられた気がする。きっと他の子供だろう。まったく、つまらないことをするものだ。
……いや、それ以上の娯楽を知れないだけか。
「じゃあな、ランク無し。せいぜい地面を這いつくばって生きていけよ。」
痰を吐きかけられる気がしたので咄嗟に身体を仰け反ると、予想通りに男の吐瀉物が地面にへばりついた。
さてと、今日でこの地獄からおさらばか。
結局次の場所も大差ないのだろうが……今は気にしなくていい。最後の日ならば、言いたかったことを言ってやろう。どうせ二度と会うことはない。
「訂正しろ。俺の名前はランク無しじゃねぇ。」
俺の発言に度肝を抜かれたか、男は顔に驚愕の意を貼り付けた。その顔に、畳み掛けるように俺は言葉を放つ。
「俺の名前はラストだ。間違えるなよ。」
刹那、顔の正面が歪んだ。簡単なことだ、男の堪忍袋が思ったより小さかっただけである。
「痛っ。」
小さく零すと、既に玄関から外の世界には出ていて、目の前の扉は閉まっていた。
いの一番に俺を追い出したかったんだろう。健気なものだ。
「はぁ。頑張るか。」
面倒なことに、俺は住処を移す必要ができてしまった。あまりに面倒な事。
……しかし、俺は少し期待してしまっている。
もしも俺の目的に少しでも近づけるなら……どんな地獄でも、俺は受け入れよう。
一息吐いて立ち上がり、ポケットに入れっぱなしだった紙を取り出して開く。紙の上には地図が載っており、解り易く赤い印も付いている。目的地はきっとここだ。
善は急げだ、俺は直ぐに歩き出した。
新たな運命を確かめる為に……
……そして、1度立ち止まり、もう一度紙を確認する。
「…ここ、どこなんだろ。」
俺が目的地に着くのは、まだまだ先の事なのかもしれない。




