表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/13

第1章 第8話 もう一人の幼馴染

「みんなわたしを見てる……みんな馬鹿にしてる……やだ……ぁぁ……帰りたい……」



 人気配信者とのコラボのために一ヶ月ぶりに外出したコト。配信者として活動し、友人もできた彼女は、それでも外の空気に耐えることはできないでいた。



「コト、大丈夫か?」

「大丈夫なわけない……! だってここ、わたしが盗撮された場所だよ……!? 服も似たような感じだよ……!? 絶対バレる……今も盗撮されてるかもしれない……! いや……もう帰りたい……!」



 大袈裟……とも言えないか。彩ちゃんの下校を待ってから向かっているから今は平日の四時。まだ日は高いし駅前で人通りも多い。知らない人に顔を知られているというのは恐怖だ。いじめられて引きこもっている人間不信のコトにとっては尚更。



「……やっぱ帰るか。彩ちゃん、一人で行ける?」

「あやはそれでもいいけど……悔しいけど先方はあやじゃなくてコトちゃんが目当てだと思うから。いい顔はされないと思う。まぁコトちゃんが無理って言うなら無理強いしないけどさ……」



 口ではコトを気遣う彩ちゃんだが、顔は不満の色を隠せていない。せっかくの人気配信者とのコラボ。そりゃ自分たちがより広く認知されるきっかけは何としてでも掴み取りたいわな……。



「仕方ない、レンタカー借りるか」

「おにぃ運転できるの……!?」


「まぁ一応免許は持ってる。ペーパーだけどな」

「……なんかずっと一緒にいるから最近は同級生だと思ってたわ。そうよね、普通なら大学二年生だものね……」



 そう。本来なら俺は大学生真っ盛り。車でバーベキューに繰り出してるのが普通の年齢だ。それがずっとコトの家にいるんだから認識もおかしくなるか。



「……学科の勉強してる時間あったら……」

「彩ちゃんそれは言っちゃだめ! 浪人生なのに免許取る余裕はあるんだなんて言ったらおにぃ傷ついちゃうから!」

「今さらもういいよ。大学進学は諦めたから。今はコトや彩ちゃんを応援してたい」



 大学に入ってやりたいことなんて何もないし、勉強する気だって消え失せた。だったらやりたいことをやっていたい。もう浪人煽りはノーダメージだ。



「ところで。コラボ先の人はどういう人なの?」



 小さなレンタカーを借り、運転しながら後部座席に座る彩ちゃんに訊ねる。



「ほむらさん。現役大学生で人気モデル。配信者としての活動は週に一、二回程度だけど、それでも投稿されたらすぐに再生数は万を超える。簡単な言葉を使うとカリスマインフルエンサーってとこかな。あやのあこがれの人!」

「ふーん、俺の上位互換みたいな人だな」

「自分で言うんだ……」



 助手席のコトが小さくツッコんできたが、無視して車を走らせる。俺の実家がある方に進むこと約ニ十分。コトが住んでいるマンションにも負けないくらいの立派なマンションが見えてきた。



「最近の若い子は羽振りがいいなぁ」

「それほむらさんの前で言わないでね。おっさんくさいから」

「おっさん……もうおっさんか……」



 浪人煽りは気にならなくなってきたが、さすがに年齢煽りされると少し傷つく。現役女子高生から見たら二十歳はおっさんかもしれないけどさぁ……!



「彩ちゃん。おにぃのこと悪く言うのこそやめて。わたしの大切な人だよ」

「ちょっとした軽口じゃない。これからしばらく演技しないといけないんだからさ。それよりコトちゃんもちゃんとしてね。コミュ障なのは向こうもわかってるだろうからいいけど、挨拶だけはしっかりね」



 そんな会話をしながら近くのコインパーキングに車を止めてマンションに向かう。



「ちょっと待っててね。下に来てもらうから」



 俺とコトをフロントのソファに座らせると、彩ちゃんがほむらさんとやらに電話をかけるために少し離れた。



「……ここ、わたしたちが元々住んでた場所に近いね」

「一応俺もまだ実家住みだけどな。母校もこの辺だよ。あの頃は楽しかったなぁ……。別に友だちがいっぱいいたわけじゃないけど、自分が何かに所属できているって安心感は半端ない」


「おにぃ、友だちいたんだ。女の子の友だちも?」

「まぁ……いたにはいた。いや、あれは友だちとは呼べないか。ただちょっと、話す機会が多かっただけで……」


「……彼女?」

「だから違うって。本当にただの知り合いだよ」



 なぜか不機嫌そうなコトに釈明をしていると、オートロックの扉が開いて中から女性が一人歩いてきた。すらりと伸びた細い脚、個性的ながら下品ではない露出度の高い服装、手入れの行き届いた金色の髪、不自然に見えるくらいに整った顔。訊ねるまでもない、彼女がほむらさんなのだろう。そう、訊ねるまでもなかった。



「徳川……焔……!?」

「会いたかったよ、まーくん」



 彼女は俺の高校の同級生。そして友だちとは呼べない、知り合い……。



「おにぃ……知り合い……?」

「知り合いっていうか。元カノ、だよね?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ