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第1章 第4話 宣戦布告

「……おまたせ」



 外食のために着替えたコトが恥ずかしそうに部屋から出てくる。……うん、とりあえず。



「似合ってるな」

「褒めてない! こんな服ほんとは嫌なんだからぁ!」



 ピンクのブラウスに大きな胸元のリボン。フリルのミニスカートにニーソックスを履いたその……いわゆる地雷系ファッションのコトが顔を真っ赤にして地団駄を踏む。低い身長に甘い顔立ち、全身から醸しだされるじめっとしたオーラはまさに地雷系って感じなんだけどな……。



「ママがこういう服しか買ってくれないの! もっと普通のがいいって言っても全部こんな感じになっちゃうの!」

「まぁフォーマルっぽいっちゃぽいからな……。嫌なら自分で買えば?」


「……どういう服が普通なのかもわからない。買いに行ったら店員さん話しかけてくるしネットだとサイズわからないし……身長伸びるかもしれないし……変かもしれないし……」

「じゃあ今度一緒に行くか」


「……うん、行く」

「よし。とりあえず夕飯だ。コトは何食べたい?」


「店員さんと話さなくていいやつ」

「そんな選び方あるか……?」



 そんな会話をしながらマンションを出る。オートロックの外側にある宅配ボックスまではよく行くらしいが、完全にマンションの外に出るのは約一ヶ月ぶり。



「……ぁぅ」



 さっきまでは普通に話せていたはずなのに、夜風を浴びた瞬間小さく呻いて俺の後ろに縮こまってしまうコト。励ましてやりたいが、あまり気を遣い過ぎるのもよくないだろう。俺はあくまで普通に接してやるだけ。そして。



「……嫌ならすぐに言えよ。別に外食なんてしなくてもいいんだからな」

「うん……大丈夫……」



 無理をしなくてもいいとだけ伝え、とりあえず駅の方まで歩いていく。この辺りは始めて来る場所なので勝手がわからないが、今日のところはファミレスでいいだろう。まだ給料入ってきてないから金もないし、奢るならせめて安い方がいい。そんなことを考えている時だった。



「……あれ、織田じゃん」



 すれ違った三人の女子高生がコトの存在に気づき戻ってくる。振り返ると俺の動きに連動してコトも背後に回ってくる。



「だめじゃん学校サボって遊び歩いてちゃ」



 この子たちが何者かなんて訊く必要もない。心の底から馬鹿にするような表情と声。コトをいじめていた奴らだということは間違いないだろう。



「彼氏とデート中? それともパパ活?」

「気を付けた方がいいですよぉ、お兄さん。その子とんでもないビッチだから」

「黙ってないで何とか言いなよねぇ。クラスメイトがせっかく話しかけてやってんだよ?」



 後ろに隠れたコトが声を出さずにぎゅっと俺の腕に抱き着いてくる。逃げようにも逃がしてはくれなさそうだな……仕方ない。こんなところで使うつもりはなかったが。



「信音さんのクラスメイトの方々でしょうか。はじめまして、私はこういう者です」



 学校と話すこともあるだろうと用意していた名刺を一枚ずつ彼女たちに渡していく。



「なにこれ……家庭教師?」

「信音さんの家庭教師の北条正義と申します。近頃学校に通えていないとのことで信音さんのご両親から依頼されまして。何かご存知ないですか? 信音さんをいじめた方について」

「……さぁ。田中とかがいじめてたような気がしますけど……ねぇ?」



 明確に大人が出てきたと知り、彼女たちは表情を強張らせて誰かに責任をなすりつけようとしている。まぁ誰が犯人かなんてどうでもいい。



「ではその田中さんにお伝えください。我々は信音さんが学校に通うという当たり前の権利を行使できるよう現在学校に依頼して調査を進めている最中です。事実関係が判明次第、全力で戦うつもりですので。どうぞよろしくお願いいたします」



 そう伝えると、女子高生たちはぎこちない表情でそそくさと立ち去っていった。まぁハッタリもいいとこだが、見させてあげられただけでもよかった。



「とりあえず学校に行ってもこれ以上ひどいいじめは受けないと思う。だから行きたくなったら行けばいい。別に無理に行く必要もないけどな」



 それだけ伝えて駅への歩みを再開する。だがコトはついてこようとはしなかった。



「……おにぃは強いね。わたしはあんなこと、言えない。怖い。怒られたらどうしようって、思っちゃう」

「戦わないといけないんだったら戦うしかないだろ。逃げてもいいなんて無責任な言葉は俺は言えない。どんな手段でも、どれだけゆっくりでも。戦うしか元の道には戻れないんだ」

「……そうだね。うん、そうだ。おにぃが守ってくれるのなら……戦えるかも、しれない」



 コトが小さく笑い、思い切り息を吸い込む。そして。



「ばーーーーーーーーか!」



 彼女の心の底からの叫びが街に吐き出される。騒々しい雑踏にも車が走る音にも負けない、大きな声が街に溶けていく。



「ばか! ばーか! わたしの方がかわいい! ブス! わたしを馬鹿にしたこと絶対後悔させてやる! わたしの方がビッグになって幸せになってやる! ばか! しねぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」



 語彙力のない、だからこそ本心のこもった絶叫。これがあの子たちに届いたかはわからないし、どうでもいい。いじめられて殻にこもってしまったコトがそう言えたことが何よりの勝利だ。



「はぁ……はぁ……っ。おなか……すいた……っ」

「……そうだな」



 思いっきり叫んで疲れたコトと一緒に夕食を食べて帰宅する。そして翌日。



「なに……これ……!?」



 誰かに撮られていたコトの絶叫のシーンが、酔っぱらった地雷系女の悪態としてネットにアップされてめちゃくちゃバズっていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公やる時はやるなあ [一言] 普段から今回いじめっ子相手にしたようにやれてればダラダラ浪人しなくて済むだろうに
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