轗軻不遇
眩しい....
日が顔にかかる。
...俺は死んだんじゃなかったのか...
あぁ夢、か。現時刻を確認しようといつも枕元に置いてある時計を腕だけを動かし探す。
「あれ?ない?」
手元にあるのは芝生を触っているような感触
....
違う感触に惑い、身を起こし辺りを見渡すと
そこは森、の様なところだった。しかし生えてる植物は見た事のないものばかりでまるで意志を持っているかのような動きをしている。
「ここは、どこ...だ...」
口に出さないと頭では整理が追いつかない。
「よし、まずは状況整理しよう。俺、ランニング帰りに鉄骨が降ってきて死ぬ。...夢を見た。で、目が覚めるとよく分からん森の中。....どゆこと!?!?」
わざわざ口に出して整理したが整理の意味が無いような意味がわからないことが起きている。一応身体も異常がないか確認する。
...健康的な俺には変わり無かったが、いつの間にか腕輪が付けられていた。
なんだこれ...怖いから外すか.
「ぐぬぬぬ、なんだこれ...取ろうとしても一向に取れないっ!!!」
ピコン
「?なんの音だ」
「うわぁぁぁ!!!!」
目の前にいきなり電子板のような物が表示された。なんだこれ...触っても通り抜けるだけで消えそうにない。なんか、書いてある。
名前 佐藤
身長172cm
体重63kg
スキル 鉄降
加護 死は救済に非ず
何故か俺の個人情報と、スキル、加護と言ったゲーム用語みたいなものが書かれていた。
「鉄降?てっこう..かな?、なんだこれ...
加護?死は救済に非ず?怖すぎるだろ!!!」
加護と言えば神さま仏さまの力で守ってくれる的なやつじゃないの!!ニートになったばかりで何をしたらいいか分からずとりあえず人気アニメとかを見ていたときに異世界転生と言ったジャンルが一世を風靡していたな.....なんか俺の状況によく似ている。
大体がチートやらなんやら主人公が会得して楽しい異世界生活を送ると言ったものだったが、チートのようなスキルや加護は見当たらない。
「俺、色々どうなってんのよ....」
等々ストレスで頭がおかしくなり、幻覚を見始めてるのかもしれない。
こんなところに突っ立って考えても何も状況は変わらない。
「とりあえず前に進むか」
どっちが前か後ろかなんて分からないが前だと思う方に変な植物を掻き分け進んでみる。こんな森の中に人が住んでるとは思わないが、こんな未知の所で1人は絶対嫌だ。
一縷の希望を持って前に進む。
進む
しかし景色は一向に変わらず、日が沈んでいくだけだった。
「どうしよう.....」
辺りもすっかり暗く、顔にも影がかかって来ている。見知らぬ土地。変わらない景色。自分が死ぬ夢。
限界だった。
ガサッ!
声が聞こえた方を振り返っても何もいない。
アー、アー
先程物音が聞こえた方から人の声のようなものが聞こえた。
「誰かいるのか!!!!」
こちらが尋ねても返事は返ってこない。
アー、アー
変わらない景色で唯一聞こえた声。
声が聞こえる場所に向かう。
しかし真っ暗で何も見えない。
声はすぐ側のはずだ。
「だ、だれかい...」
バクン!
....
.........。
暗い。なんだこれ、身動き取れないし、
何か全体がヌメヌメする。
「だれか!!いますか!!!」
いくら叫んでも返って来るのは静寂だった。
「なんだよ、これ....穴にでもハマったのか?」
ツイてない。だが、身動ぎしても少しも動けない。
「痛ッッツツツツツ!!!!」
なにか、何故か痛い。身体に纏う粘液も多くなっている気がする。
やばい、これはやばいんじゃないか...
漠然と死を悟る。
なにかここから出る方法!!激痛が思考の邪魔をする。痛い!!!身動き取れないし、
何か、何かあるか!!!
...!!!スキル?そういえばスキルがあったはずだ。....どうやって使うんだ..
痛い.!!
「スキル!スキル、!!!鉄降!!!」
幾ら叫んでも何も起こらない。
やばいやばいやばいやばいやばい
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!
「スキル使用鉄降!!」
意識が溶けていく。仄かに聞こえるのは上から何かが落ちていくような音だった。
十字の形を模した大きな鉄骨が風を切り、降る。
ドゴォオオオオオオン!!!
と大きな音と砂埃を立て、食人花とドロドロの何かを潰した。