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ダンジョン配信しようと思ったらカレーパンでした?(笑)

掲載日:2023/09/10

「珍しいぞ!コンビニの地下に謎の空洞が!」

そう話題になっていたのは近所のサイコーマートだった。

カレーパン片手に見物していた私は、いつものようなカレー臭を漂わせし者への視線を感じなかった。

「カレーパンだ!」

中から出てきた先遣隊が叫ぶ。黄色い特殊スーツ。

その全身は、あつあつの揚げパンのくずやカレーまみれだった。


私、加厘(かりん)留羽(るう)はカレー好きだった。あとハンバーガーと紅茶。

私は真っ赤なスキーウェアを着込んで駆け出した。雪がつもった北国は真っ白だ。

そこへ目に飛び込む茶色い輝き。カレーだ。カレーと、あと揚げパンまみれ。

かつ、前人未到の洞窟でもある。

そのダンジョンに挑戦する者はいなかった。まず、カレーまみれには誰もなりたくないのだろう。先遣隊が多少の好奇心は満たしてくれたし、大体の人は変なニュースとして遠巻きに見ているだけだった。

「カレーパン最高!」

私は気にせずスキーウェアでカレー洞窟に足を踏み入れた。

とけた雪がコンビニの駐車場から流れ込む。揚げパン部分が内側にもヒダ状に入り込んでいて、まさに洞窟のカレーパンバージョンだった。

また、ニュースでは、まだカレーパンのような部分の成分は謎であり、食べたりしないよう求められていた。

わたしは構わず口にした。

「おいしい!」

カレーパンだった。給食を思い出す味だ。ぜんぶ熱々であり、スキーウェアからも熱がじわじわ伝わってくる。

「中にはなにが?」

わくわくしながらわたしは足を踏み入れていった。興味深そうなテレビ局の人たちががあとからついてきた。

「いいんですか!?」

「撮るなら勝手にしていいよ!」

「そういうんじゃなくて!許可とってないでしょう!」

といいながら、スタッフたちはライトを当ててきた。撮影する気じゃん。

私はカレーパンと同化していった。にんじんじゃがいも、油まみれ。

カレーパン洞窟は街中の地下を侵食していた。熱々のカレーパンに置き換わった街は、おいしそうに壊れていた。


そして、数日後。

「こっちは枝豆だ!枝豆カレー!」

「おお!」

テレビスタッフがカメラを回しながら喜ぶ。カレーは場所により味が変わっていた。食べ物には困らない冒険だ。

「あっちが枝豆カレーで、あのへんは魚カレーだったから、あっちは枝豆魚カレーかもしれませんね」

「いいですね。楽しみです」

スタッフは言った。いつしかわたしまでレギュラー出演者のようだった。わたしはただ、カレーパンが好きなだけなのに。

「あ、カメラの電池が切れそうだ、そろそろ離脱します。またお会いできたら、またよろしくお願いするかもしれません」

「はいはーい」

わたしはカレーパンをむさぼりながら言った。

「むむ?」

卵の味がする。ゆで卵入りの領域が始まっているようだ。

「あっちは卵か。行ってみようかな」

わたしは腹の虫を鳴らしながら進んだ。大食いチャンピオンになったことは3回ある。


「留羽、もう帰ってきなさい。土日終わるわよ」

「え」

気づくと、私はかなり深部に来ていた。空の光はたまにカレーパン洞窟の高くに拝めたが、いまは当分見てない気がする。

「でも、カレーパンおいしいから、大丈夫だよ」

「意味がわからないから」

「ごめん、またね。充電もったいないから」

わたしはスマホを切った。洞窟のカレーパンは徐々に食べ勧めていくに連れ、味が変わる。その面白さにハマって飽きずにここまで来たわたしだが、違和感にも気づき始めていた。

それは、カレーの味が、全く知らない肉の味になってきていたことだ。

あと、聞き慣れない音。

暗いカレーパン洞窟の先に何があるのか、食欲だけでは収まらない疑惑が私に満ちてきていた。

「こわい……?カレーパンばっかりの洞窟だよ?へんなの」

わたしは足を進めた。なんだろうこの味。酸味と苦味と甘い香りが組み合わさった見知らぬスパイスの風味は、それでいてなぜかシンプルだった。

もっと色々複雑な感じでもない、知らない、こんな味は。

具の肉の味らしきものも妙だ。かじるたび温泉のような香りがする。燻製肉かな。なんの?

だんだん進むに連れ、未知の重低音も近づいてきた……。

「いや、引かないから。わたし、いま好奇心しかないし。」

わたしは進んだ。こんなときもカレーパンおいしい。好き。

カレーパンの皮のような壁がある。手袋でめくると、わたしは目を見張った。

「わ!?広い!」

そこは神殿のようだった。青く広がる鏡のような静かな床と天井。その間は見上げれば首が痛むほど高く、柱がいくつも立っていた。

「おまえは……?」

低い知らない声。人のものじゃない。低すぎる。

わたしは身構えた。暗がりにうごめくそれは、どうやら茶色いドラゴンのようだった。

「カレードラゴン?」

「いかにも。わたしがカレードラゴン」

「適当に言ったんですけど……」

カレードラゴンは大きく鼻息を鳴らした。黄色い気がする。辛い。目がやられる。

「わたしの生み出したカレーパン迷宮を食い荒らしていたのはおまえか」

「そうよ」

「……うまかったか」

「おいしかった!」

「そうか……」

まんざらでもなさそうなカレードラゴン。

「ここは?」

「わたしの力で生み出した異空間だ。カレーパンはわたしの主食なので、わたしが生み出した。」

「食べるの?あれを?」

「ああ。いつかこの世界を全てカレーパンにかえて食い尽くしてみせよう。今までいくつもの世界をそうしてきた」

「食い意地だけで世界を滅ぼしてきたの?やば」

「生きるためだ、文句は言わせない」

「ぐぬ」

わたしは一瞬ひるんだ。でも困る。

それにしても変なドラゴンだが、このままでは地球が危機だわ。

「じゃあ、カレーパンドラゴン!わたしと勝負だ!地球をカレーパンにするのは……私に勝ってからにしなさい!」

「のぞむところだ」

カレーパンドラゴンはうなずいた。でも、肝心の勝負はどうしよう、大食い?料理?味覚バトル?いや、かなう気がしない。

「ふふふ、地球を食い尽くす予定で、無数の味のカレーパンを生み出せて、さらに異界の味覚をも知るわたしに、なにで勝負する?カレーパンのことならなんでもいいぞ。わたしはもとは地球のインド出身で、スパイス倉庫に住み着いて、味のアドバイスをしたこともある。」

「え、うそ?」

「ある時カレーとともに英国に連れ去られ、しばらく前に日本にも来たことがある。そんな懐かしくも素晴らしい星を食いつくせるなら、至極の喜びだ」

インドにドラゴンいたんだ。なんかカレーも歴史上そんな感じに伝来していた気がする。間違ってたらごめん。

「じゃあ、メーカー対決は?パン屋さんとか、さまざまなカレーパンを味見して、メーカーを言い当てる。」

「いいだろう。わたしとあろうものならば、カレーパンについて、いまや何一つ知らないことなどないのだから」

ふふふ、と怪しげな重低音。

「……っ」

賭けだ、これは。

あのドラゴンはドラゴンだから、たぶんあの来歴も本当で、つまりは長生きだ。それから異界を行き来してカレーパンにして食べていたなら、その分かわりに最近の日本は知らないかもしれない。高度経済成長後の日本を知らないなら、チャンスだ。

「じゃ、テレビ局に電話するから。うまく行ったら勝負よ」

「うまく行ったら?」


「では、用意しました」

テーブルクロスの上に置かれたいくつかのカレーパン。横並びのわたしとドラゴンは目隠しをし、カメラとライトが囲む。

「ではまず1番のカレーパンから」

実食。

しっとりしたパン。牛肉のフレークが混ざったカレー。さっぱりした香りが鼻に抜けていく。これは……

「パンダスコ(メーカー名)!」

「この味は……ジョン・ベイカーのに似ている。ここは日本だ。では、メーカー(製作者)の名は、タナカと言ったところか。名はナバナだろう」

あ、勝った。

パンダスコの開発部には社会科見学で行ったことがある。わたしはラッキーだった。いや待てよ、そこの開発部長の名は……田中菜花さんだったっけ!?


負けた!


膝から崩れ落ちる私。

「あ、これ三番勝負ですからね」

司会のアナウンサーが言う。

しかし……勝負はつぎも惨敗だった。

カレーパンドラゴンは、あらゆる味から製作者の名前すら当ててみせた、

強い。尋常じゃない。


カリッとした揚げパンの中に熱々で芋がゴロゴロ入った辛めの大人カレーパン(ヤマキジパン)をかじったまま私は落涙した。

「そこは社会科見学行けてないよ……」

「ヤマモトハルヨシだ、間違いない。」

「……開発部長は山本晴美さんでした、またもある意味正解です!」

アナウンサーは言った。大きなドラゴンの鼻息や床を爪でひっかく等の一挙手一投足にびくついている。

私は怖くないけど。だって、カレーパンを語り愛する時点でいいやつじゃん。地球を食べ尽くそうとするとか、ちょっと価値観合わないけど。


ん?そうだ……!

「ねえ、カレーパンドラゴンさん、もうやめない?地球はあんたの、そしてカレーパンの故郷でしょ?食べ尽くすとかありえないって!」

「そうか?わたしに食べ尽くされるのは素晴らしいことだ。地球を思うからこそだ。」

あ、やっぱり価値観合わない!


「続きまして、最後のカレーパンです。勝っても負けてもこれで最後となるのはこちら!」

目隠しをして、三番目のカレーパン、実食。おとなしく目隠しをしたまま、カレーパンドラゴンも食べているようだ。

暗闇にカレーパンの味が浮かぶ。

食べ慣れたホームベーカリーのパン。ちょっと水っぽくて甘い、りんごの入った味。手作り感あふれるようなこの味は……!

「うちのだ!」

「カリン……ココの作だ!」

加厘心(カリンココ)。うちの母だ。わたしは当てたが、ドラゴンも正解しているようだ。

「どちらも正解!」

「あああ〜!」

わたしは目隠しを取って叫んだ。ドラゴンはスタッフに目隠しを外され、私を見て笑った。

「私の勝ちだな、カリンルウ。お前の名前も、お前が食べてきたカレーパンの香りでわかるぞ」

「あわわわわ。みんなごめん。この世がカレーパンになっちゃう……」

わたしは焦ってカメラにつかみかかって叫んだ。

よろけた足取りで、転んだ拍子にカメラにぶつかるように。

「ふははははは」

ドラゴンは啼いた。神殿のあちこちがあつあつのカレーパンに変わり、侵食されていく。

「では、手始めにこのあたりから始めるぞ……ひぃっ!?」

ん?

ドラゴンは怯えていた。

地面や金属パイプを変質させて生まれたカレーパンを突き破り、カレーを薄めていくそれらは……。

「……下水だ」

北国の凍結防止用ヒーターで温まった下水が、容赦なく流れ込んではカレーを薄め、汚していく。もったいない。

「もー、めっ、カレーパンドラゴン!」

「くっ……これは……?カレーパン化の魔法が汚水などを避けるための魔力が足りん。カレーパンの味に集中しすぎたか。」

ドラゴンは口調のわりに激しく歯噛みしていた。地団駄が神殿を揺らす。アナウンサーが叫んだ。

「待ってください、ここは一部カレーと化している、揺れると崩れるのでは……!?」

「な!?まずい!」

カレーパンドラゴンは翼を広げた。

「ここへ逃げ込むのだ!」

私たちはみな、ドラゴンの足元に駆け寄るしかなかった。

ドラゴンは崩れた神殿から私達を助けてくれた。


地面を突き抜け、ドラゴンは飛翔した。

わたしたちはドラゴンの足にしがみつき、なんとか地上へ出られた。海の下まで地下を掘り進み、そして海底を突き破り、急上昇して空へ。

「水圧キツすぎ!すぐ助かったけど」

「ドラゴンさん、あなたはなぜ助けてくれたんですか?」

「わたしは世界をカレーパンに変えるが、そこの知的生命体は異空間に生存させている。わたしはあくまでカレーパンを食べたいだけだ。」

「やっぱりいいやつだ。価値観合わないけど。」

わたしはむくれた。人命さえ助かればそれでいい、というものでもないんだからさ。

「わたしはカレーパンを愛している。とくにその発祥の星の人々は大事にしてやろう」

「じゃあ、地球も食べないでください」

「それは……」

イヤそうに言いよどむドラゴン。

「お願いします!発祥の星なら、もっとおいしいものも生み出すかもしれないですから!」

アナウンサーも叫んだ。

するとドラゴンは羽ばたいたまま、ドラゴンの足元にしがみつく私達を覗き込んだ。

「……本当か?」

「きっと、いつかは」

「じゃあ、やめてやろうかな……やっぱり……」

ぼそりとつぶやくカレーパンドラゴン。わたしたちは歓声をあげた。


そして……

「ブラックホールをカレーパン化するのはいい案だな。密度が下がって爆発的に膨張するカレーパン・ビッグバンは見物だったぞ。またブラックホール化する前にいそいで食べ、魔力に変えたが。」

「へー。それ何カレーパン?」

「枝豆とアイススパイスのカレーパン。」

「アイススパイス?なにそれ知らない」

わたしは興味深くそれに食いついた。ドラゴンは首を横に振った。

「人間には毒だ」

「えー!?お土産に一口くらい持ってきてよ!」

わたしは不満をあらわにした。ドラゴンは笑った。政府によるドラゴン対策本部が準備した海沿いの空き地で。わたしは休日ごとに遊びに来ていた。

「また今度、安全なものを作ってやる。期待しておけ」

わたしはうなずいた。

「ところで、新しいカレーパンに勝るアイデアなんだけど、カレーパフェってどうかな?」

「却下だ。もう数千年待つから、よく考えろ。まあ、もう地球を食い尽くす気は無いがな」

カレーパンドラゴンはまた笑った。

お読みいただきありがとうございました。


作者別名義・嶺光による長編もぜひよろしくおねがいします。試し読みもございます。

✨マモノ勇者と光雪の巫女✨

泥中から這い進む魂たちが、祈るように照らしていく物語

https://www.amazon.co.jp/dp/B08SVRYFVB

一応完結済みです。有料です。あらかじめご了承ください。

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