先祖供養し続けたら助けられました。
2023.1.10 おまけ修正しました
※西洋ファンタジーなのに日本の習慣が入ってます。
「おとーたま!おかーたま!何をしてるのですか?」
幼きシルヴィアは居間の扉を開けると、両親が屋敷の窓辺にある小さな棚の上にある小さな木箱を前に両手を合わせていた。
「シルヴィア、ちょうど良かったわ。」
彼女の母はシルヴィアを木箱の前に呼び、木箱を見せた。そこには、2人の老夫婦の小さな自画像と小さな花瓶、小さなお香と蝋燭があった。
「シルヴィア、この2人はお前のご先祖さまよ。」
「ごせんぞさま?」
「このフローラ家を立てた偉い人達で大、大、大爺様と大、大、大〜婆様だ。」
シルヴィアの父は娘にわかりやすいように説明してくれた。
「この家が安泰なのはご先祖さまが守ってくださってるのよ。あっ、そうだわ!シルヴィア、あなたも今日からご先祖さまの供養やってみましょうか。」
「くよう?」
母はわかりやすく説明してくれた。
毎朝欠かさずにこの木箱の前で手を合わせて、挨拶すること。朝に出来なかった時は時間のある時にこの前で手を合わせて、挨拶や1日何があったかお話をする。
花瓶のお花が枯れてたら花を取り替えてあげること、お香を焚くのは父か母が一緒の時に行う。
「わかりました!」
幼いシルヴィアは今日から、このフローラ家の独特な習慣を毎日行うのだった。
新しくきた使用人や他の家から奇妙な目で見られることもあったが、シルヴィアはそれらを気にすることなく親子で先祖供養を毎日続けた。
それから数十年が経ち経過し、シルヴィアが16歳になり幼さが残るも外見は淑女へとなっていた。
「シルヴィア、出かける前にご先祖さまに挨拶したかい?」
「あっ!!いけない!!」
今日は王国の第一王子の18歳の生誕パーティーが開かれる日だった。朝から準備に追われており、習慣が抜けていた。父からの声掛けで気付き、身支度を終え直ぐに仏壇の前で挨拶をした。
「ご先祖様、今日は第一王子様の18歳の生誕パーティーがあります。行ってきます。」
挨拶を終え、急いで馬車に乗り王都へと向かった。
(ん…?ご先祖さまの絵画一瞬険しい顔して…気のせいか…。)
侯爵も先祖に挨拶しようと手を合わせた。チラッと絵画の表情が2人とも険しい顔をしてるいるように見えた。
夜になり、王宮では第一王子の盛大な誕生パーティーが行われていた。王都や地方の貴族も集まり、まさにお伽話に出てきそうな華やかなパーティーだった。
(あっ…あれが王都で流行のスイーツ…!)
シルヴィアもパーティーを楽しんでいた。多くの令嬢とも雑談を交え、社交ダンスも楽しんだ。何より本人は地方の侯爵家のため中々王都の流行のスイーツに出会うことが滅多にない。頭の中はスイーツで一杯だった。
(これがシフォンケーキ…!ん…!これは…このクリームと一緒に食べると甘い…!いやでも…このケーキ単体だけでも控えめな甘さだけど…癖になる!!控えめだから食べすぎちゃいそう…!)
「シルヴィア」
シフォンケーキに夢中になってるところ、声をかけられる。振り向くと険しい顔をした婚約者のセクト・バグラと見かけない令嬢がいた。
「セクト、いらしてたのですね。人が多くて中々あなたの事見つけられなくて…」
「お前との婚約を破棄させてもらう!!」
「…えっ?」
彼の大きな声に周囲の視線が3人に集中する。
「理由をお聞かせしても…?」
「理由?しらばっくれるのか!彼女にダリア・モス令嬢に嫌がらせをしてたってな!!」
シルヴィアはあまりにも意味不明な理由に呆然とする。被害者とされる令嬢と面識は彼女の記憶の中では一切ない。
「失礼ですが…そちらの令嬢とは面識はございませんが…。」
「嘘つかないでくださる!半年前のお茶会で私の悪口や身も蓋もない噂をバラしてましたわよ!!」
(半年前…?確かにお茶会はあったけど…そういえばあの時欠席してた令嬢がいたわ。もしかして…)
確かに半年前に公爵令嬢の主催の大規模なお茶会があった。王都に住む公爵家で面識のある令嬢だったので挨拶を兼ねて、王都での様々な近況を聞きたくて参加したのを覚えている。
その時に体調不良で休んだ令嬢がいたという話を聞いたのを覚えている。
「そのせいで恥ずかしくて私は家から一歩出れなくなったのよ…!」
令嬢は顔を両手で覆い、涙を流した。彼はそんな令嬢を肩を摩り、よしよしと宥めた。
(わぁ…嘘泣き…)
「とにかくお前は1人の令嬢を精神的に追い込んだ!!そんな人の心のない女を妻として迎える気はない!」
(反論したいけど…テコでも動かない2人…どうしましょう。彼の性格的に反論は火に油を注ぐようなもの…ここは…)
「ひとまず、婚約破棄をご希望でしたら…家同士が絡むものになります。後日に場を設けるように両親に話…」
「逃げるつもりか!!今ここで詫びろ!!彼女に謝れ!!」
逆効果だった。さらに周囲の視線が集中し、ざわざわとした声が聞こえる。
(してもないことなのに…やっぱり詫びるしか)
彼女は身も蓋もない嫌がらせに対して、仕方なく謝罪のお辞儀をしようとした時…
「お取り込み中失礼します。」
人混みの中から2人の20歳手前の男女が3人の前に現れた。
「半年前のお茶会と聞こえましたのでそれに関してですが、そちらのご令嬢は参加していません。私、参加してましたから覚えてますわ。貴女の話題なんて欠席した以外で出ていませんし、出た話題は王都の近況と流行に関してですわ。」
「なっ…!!」
「それに彼女の言う通り、面識ないですから貴方様の悪口なんて無理があると思いますよ。土地的にもモス家からフローラ家は地理的に馬車でも10日以上かかりますし、フローラ家の事業は主に先祖代々より陶芸品や芸術品に対してモス家の事業は葡萄酒です。それに事業的にも両家が関わった履歴はないですよ。」
(えっ…なんでこの男の人そんな詳しいの…)
淡々証言する男性が何故そこまで詳しいのか若干ひいていた。
「そんなの嘘よ!他の令嬢から私の悪口言ってるのを聞いたのよ!」
モス令嬢の顔は赤くなり、ムキになっていた。2人の証言をなんとしてもひっくり返したいのだろう。
「はぁ…あまり使いたくないのですが、私…記憶を映像化できる道具持ってますの…本来は護身用ですが…」
女性は身につけていた腕輪を弄ると、大きな映像が浮かびそこには半年前のお茶会の様子が映っていた。
鮮明な映像とはっきりした音声が会場中に響き渡る。お茶会の一部始終にモス令嬢の悪口らしきものは一切、無かった。
映像を終え、周囲の視線は2人に視線が集中する。その視線は刺々しいものだった。
「あっ…ああ……」
モス令嬢は顔を青ざめ、陸に上がった魚のように口をパクパクさせ、腰を抜かし、そこにへたりこんでいた。
「こ、これは捏造だ!!」
手遅れでありながらもバグラ令息は必死に彼女を庇う。
「戻ってきたら…これはなんの騒ぎかな…?」
聞き覚えのある声に皆が振り返ると、そこには第一王子がいた。
「ちょっと用事があって離席してたから、戻ってきたら婚約破棄とか捏造だとか…人のパーティーで…何してくれてるのかな?バグラ令息にモス令嬢?」
笑みを浮かべているが声とオーラから凄まじい怒りを放っており、周囲も「ひっ!!」と怯む勢いだった。
「殿下!せっかくのパーティーをこのような形にしてしまい申し訳ありませんでした!」
シルヴィアは直ぐに殿下に謝罪をした。もしかしたら、不敬罪にあたるかもしれないと刑も覚悟していた。
「シルヴィア令嬢、あなたは被害者ですから謝る必要はございません。それよりも…」
怒りのオーラを纏った殿下は2人の元に行き、圧のある笑みで言葉を放った。
「この件は…後日ゆっくり聞きますので、ひとまずお二人はお帰り願いましょうか?」
近くにいた兵を呼び、2人を追い出した。
「申し訳ない。皆、終わりまでパーティーを楽しんでほしい!」
殿下は指揮者に目配せし、音楽を流すように促した。指揮者は直ぐに指揮棒を振り、華やか音楽で緊張感のある静けさをかき消した。
パーティーは再び、楽しい雰囲気に包まれた。
(ん…?あの2人は…)
殿下は証言した2人の男女に目をやる。
(あの2人…人間ではないな?)
殿下には生まれた時から霊感があった。トラブルに夢中になっており気づかなかったが、あの2人から強い霊感を感じた。よく見ると2人は若いが、どこかシルヴィアと同じ波長があることに気づいた。
(まさか…)
2人の男女は殿下の気配に察したのか、自分の口元に人差し指を当てしぃーというジェスチャーをした。そして2人は周囲に気付かれないように会場を去った。
(はは…こんなはっきりとした霊を見るのは…初めてだな。それに御先祖に愛されているなシルヴィア令嬢は…)
後日、2人の裁判が行われていた。
セクト令息は婚約者がいながらもモス令嬢とは6年前から浮気していた。彼はシルヴィアとの親同士で決められた婚約に以前から不満があり、破棄をしたいがために令嬢の悪口を言ったという嘘をでっち上げる計画を立てていたことが発覚した。
判決で2人の婚約は認めるが、両家の爵位は剥奪され両家の家族丸ごと王都から遥か彼方の植民地に追放された。
ちなみに近くにも植民地はあったが殿下の誕生日パーティーをめちゃくちゃにしたことでさらに遠くに飛ばされたらしいという噂もある。
一方シルヴィア令嬢には暫くしてとある公爵家の次男から求婚を申し込まれた。その男は隠していたが菓子作りが趣味であり、あの夜会で美味しそうにスイーツを食べるシルヴィアの姿に胸が貫かれるような電撃が走り、彼女に美味しいお菓子を食べさせたい!という理由で申し込んだとのこと。
シルヴィアはしばらく結婚から距離を置きたいと思っていたが、見えない誰かに背中を押され求婚を受け入れた。
「ご先祖さま、今日は娘の結婚式です。天国から見舞っていてください。」
シルヴィアの結婚式の朝、侯爵がいつものように先祖の仏壇の前で手を合わせる。
(あれ…?一瞬ご先祖さまの自画像が微笑んだような…気のせいか。)
侯爵は挨拶を終え、その場を去った。
おまけ
天国にて
「元々あの若造は元々気に入らなかったんだ。嫌な予感がすると思ったから…」
「結果、あの子を守れてよかったですわね。神様にお願いして一時的に現世に降りれましたし…」
「あの子は小さい頃から私達に手を合わせてくれてたからな…。守らなければいけない存在だ。それに…若い時のお前が見れて…よかった…」
「まぁ…!私もあなたの若い時が見れて…素敵でしたよ…。」
「…っ!!」
裏話
主人公の両親は実は転生者だったが殆ど記憶がなく、覚えていたのは家の習慣で必ず仏壇の前で線香を炊いて供養していたということ。
それだけは欠かせないと、転生後も続けている。
(多分宗派違うと思う)