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お妃候補は土いじりが好き  作者: 結輝満月
8/11

8

舞踏会当日、


質素な紺色のドレスを着た私の髪を整えながら、ベルはしょんぼりしている。

「お嬢様…全力で美しくしてあげる事ができなくて…辛いです」

「そう?私はこの変装、意外と気に入ってるけど?」

「だって、お嬢様は、とっても美しいのに…」

そう言って項垂れながらも私の身支度を手伝ってくれるベルを鏡越しに見ながら、感謝の気持ちを口にした。

「ベル…、この3年間、私を支えてくれてありがとう。そして、これからもよろしくね?」

「ええ!もちろんです!私は、ずーっとお嬢様の侍女ですからっ!」


しばらくして、扉をノックする音とともに入って来たのは、私の父だった。

今日の為に時間を作って数日前から王城に泊まっている父は、少し疲れているようだった。

「お父様…大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だ。それにしても…アリエル、最後までそんな恰好で舞踏会に出るのか?」

「ええ、だって最初に約束したでしょ?3年間変装するって」

「しかし…勿体ないな…隠し通すのも…」

父は、少し寂しそうに見つめるが…私は気にしない。


鏡台の椅子から立ち上がった私は、ベルに「じゃあ、行って来るわね」と、満面の笑顔で言うと父と腕を組んでさっそく王城へと向かった。




王城の広間には、大勢の貴族達が集まって騒がしかった。私は、王族の舞踏会に参加するのは初めての事でこの豪華さに気後れして少し眩暈がした。

「アリエル、大丈夫か?」

心配した父が、私の顔を覗き込むが緊張のあまり黙って頷く事しかできなかった。


しばらくして、奥の高座に現れた国王陛下と王妃様に続き、王太子殿下、第二王子、第三王子と高座に姿を現した。あれだけ騒がしかった大広間が静かになり、一歩前に出た国王陛下が口を開いた。


「レナルドの20歳の誕生を祝う舞踏会に出席してくれた事、嬉しく思う。舞踏会の最後には、レナルドから挨拶と大事な報告を聞ける事だろう。喜ばしい今日と言う日を皆で祝って欲しい」


大広間に盛大な拍手が起こり、しばらくして、楽団の素晴らしい演奏が始まった。私は、父に手を引かれ一曲だけダンスを踊ったが、注目される事には慣れている私だがこんなにも大勢の人の前で踊ることなどなかった為何度か父の足を踏んでしまって、そのたびに父は苦笑いを浮かべていた。


私達が踊り終わって、隅にはけた後…2曲目の演奏がはじまってすぐの事だった。


「きゃああああああ!」


「「!!!!!」」

ダンスをしている中央の辺りから女性の悲鳴が聞こえ、何人もの人が大広間から逃げ出していった。中央を見ると人の波の隙間から炎の様なものが一瞬見えた。


「え?お父様!あれは…」

「ああ、何かあったな…行ってみよう」


逃げる人の間をぬって目にした光景は、真っ赤なドレスを燃やされたのか左半身が火傷でただれ…煤だらけでずぶ濡れの泣き叫ぶアデラ嬢と護衛騎士に取り押さえられた恐ろしい目つきをしたどこかの貴族らしい男だった。

(なんてこと…なんで、こんなひどい事に…?!)

「お前のせいだ!お前のせいで!妹は死んだんだ!」

そう叫んで護衛達の腕から逃れようと暴れている。


「お前も!俺の妹と同じ様に苦しめばいいんだ!地獄に落ちろ!うわあああああああ!」


床に座り込んだで放心状態になったアデラ嬢は、恐怖のあまりそのまま床に倒れてしまった。

高座では、王族達が護衛に守られ、レナルド殿下の隣には、黄色の美しいドレスを着たクリスティアナ様の姿があった。


それからすぐに、舞踏会は中止になり私は、離宮の部屋から出る事を禁止された。

その後、帰って来た父の話によると…。

妃候補だった令嬢が、辞退して家に帰って来たものの、心を病んでしまいそのまま衰弱して亡くなったのだと言う。その令嬢の兄は、あまりにも酷い妹の最後の姿にショックを受け復讐する為、舞踏会で凶行に及んだそうだ。


「そうだったんですね…。確かに…ひどかったですよ。嫌がらせや罵倒されて、みんな青い顔をしてましたから…」

「アリエル!…お前もそんな目に合っていたのか?!…なんで、言ってくれなったんだ?お前も辞退させて連れて帰ればよかった…」

「私は、大丈夫です。変装してましたし…ほら、私強いから?」

「ハァー…まったく、お前は…」

呆れた父は、額に手を当ててため息を何度も付いた。


私は、この三年間…ベルには、買い出しに行ったついでに父に手紙で嫌がらせを受けた事を除いて、妃教育は順調で元気にしていると報告をさせていた。もちろん、怪我を負わされたり、精神的に無理と思ったら即刻迎えに来てもらうつもりでいたのだけれど。


「それで、話の続きだが…。結局、妃を決めるのは延期になった。俺達は、明日領地に帰る事が決まった」

「え?そう、ですか…」

(明日…?そんなに早く帰るの?)

「嬉しくないのか?あれだけ、嫌だと言っていただろう?」

「そ、そうですよ!嬉しいです!…帰りましょう。お父様」


最後にレナルド殿下に会う機会もなく、私は2日掛けて領地へと戻った。


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