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お妃候補は土いじりが好き  作者: 結輝満月
6/11

6

何事もなく一週間が過ぎ…

また、土いじりがしたくて我慢できなくなった私は、庭師のお爺さんの手伝いをはじめた。やっぱり、土いじりをしている時が一番楽しい。


レナルド殿下は、最近 公務で忙しいのか午後の交流もお茶会もなく、会う事もない。私は、穏やかな日を過ごしていた。


「お嬢様、今他の妃候補の侍女からの言伝をもらいました」

「え?言伝?」

「はい、三日後の演奏会なのですが、ルビー宮の広間に変更だそうです」

「そうなの、分かったわ」


最近、隣国から楽団が来たらしく音楽好きの国王陛下は、是非聞きたいと楽団を王城へ呼ぶらしい。

妃候補もその演奏会に呼ばれている。



三日後

私は、いつもの様に地味なドレスを着てルビー宮のある王城の東側までやって来た。ちなみに、クリスタル宮は王城の西側にある。


「あれ?誰もいない…」

入り口の護衛もいなかった。ルビー宮の中は静まり返り…私の足音だけが響いた。

ルビー宮もクリスタル宮と同じ作りをしている為、広間の場所へと足を運んだが…。やっぱり、誰もいなかった…。


「あ…、やられたわ」

他の妃候補の侍女からの言伝は、嘘だったらしい。


今さら王城へ行くのも馬鹿らしくなって広間のソファーに座って肘置きに頭を乗せた。しばらくすると、隣の王城のバルコニーから美しい演奏が聴こえて来た。

「ああ、はじまったのね。すごく綺麗な音…」

私は、目を瞑ってその演奏を聴きながら、なぜかレナルド殿下の事が頭に浮かんだ。

(そう言えば…最近、全然顔も見てないな…。まぁ、避けてたの私だけど…)


演奏を聴きながらウトウトしている時だった…。


「アリエル嬢…大丈夫か?おい、アリエル嬢!」


「へ?…」

私は身体を揺さぶられ、目を開けた先には、険しい顔をしたレナルド殿下が膝をついて私の肩を掴んでいた。

「アリエル嬢?…」

「レナルド…殿下?どうして?」

「はぁー…、アリエル嬢の姿が見えないから探しに来たんだ」

「あ、でも、まだ演奏会の途中じゃ?」

「…君は…まったく人の気も知らないで…」


私は、ソファーに姿勢を正して座り直すとレナルド殿下も隣に腰かけた。そして、なぜこんな所にいるのか経緯を話した。


「そうだったのか…巡回中の者からアリエル嬢がルビー宮へ入って行ったとの報告が来て、演奏会を途中で抜けて来たんだ」

「そうだったんですね。ご心配をお掛けして申し訳ありませんでした」

「ああ、何もなくて良かった…」

「あの、もう大丈夫なので、どうぞ、演奏会へ戻ってください」

気まずく感じた私は、レナルド殿下に王城へ戻るよう話をしたのだが…。


「………」


レナルド殿下は、無言で機嫌の悪そうな顔をして…戻ろうとしなかった。


「あの…殿下?」

「……アリエル嬢、美しい音楽も流れている事だし…僕とダンスを一曲踊りませんか?」

「え?」

強引に私の手を取って立ち上がったレナルド殿下は、スッと腰に手を回すと聞こえる音楽にのせてステップを踏んだ。私も足を踏んではいけないと慌ててダンスを踊った。

今まで何度か社交の場にも出て他の男性とも何度もダンスを踊った事があるが、レナルド殿下とのダンスが今までで一番踊りやすかった。


美しい演奏が終わり…レナルド殿下が何かを言おうと口を開いた時、従者が息を切らして、広間の扉の前で声を掛けた。


「殿下、こんな所に…探しましたよ。はやく演奏会へお戻りください」

レナルド殿下は、従者から顔を反らすと私を見つめた。

{………」

「あの、私はこのままクリスタル宮へ戻りますので…」

そう私が話すと観念したのかため息をついて「今行く」と言って王城へ戻って行った。


その後、離宮に戻った私は、ベルにあの言伝が嘘だった事を話すと顔を青くしてまた卒倒しそうになった。




最近、どうした事か妃候補者が3人になった。


そして、今日は、なぜかアデラ嬢の部屋で3人だけのお茶会が開かれている。


「妃候補も3人になってしまいましたわね…寂しいわ」

アデラ嬢は、心にもない事を言いながら相変わらず、ビラビラの派手なドレスを着て、金髪を立てロールにセットして、ギラギラした青い瞳で扇をバサバサ仰いでいる。

(ああ、ダメだわ…。早く帰りたい…)


「妃が選ばれる舞踏会まであと数か月ですものね」

隣の席で優雅にお茶を飲むクリスティアナ・ファーバー侯爵令嬢は、にっこりと微笑んだ。

相変わらず、とても美しい…きっと、この人が妃に選ばれるのだろう。


「そうですわね。私達ももうすぐお別れね。この長かった妃教育からも解放されるわ。あ、そうだったわ。このお菓子、有名な職人が作った物なの良かったら食べてみて」

側に控えていた侍女が持って来たケーキは、とても変わった紫色をしていた。

(また…下剤とか…入ってそうな色してるわ)

「とっても、美味しいのよ。クリスティアナ様、アリエル様どうぞ召し上がって?」


「私、昨日食べたお食事が合わなくて胃もたれしておりますの…この美味しいお茶だけ頂きますわ」

クリスティアナ嬢は、そう言って優雅にまたお茶を飲んだ。それを聞いたアデラ嬢は、不機嫌な顔をしてしまった。

(ああ、これ、私断れない流れじゃない?…仕方ない、下剤入りかもしれないけど…)


「で、では、いただきますね…」

「ええ、召し上がって!」

私は、その紫のクリームをすくって一口食べた。味は、普通のクリームだけど花の様な匂いがして今まで食べた事のないケーキだった。半分ほど食べて手を止めた。

「アデラ様、美味しかったです」

「そう?良かったわ」


しばらく、アデラ嬢の自慢話を聞いた後、なぜか護衛騎士に部屋まで送ってもらう事になった。

もう少しで部屋にたどり着く所で、私はなぜか急にドクドクと胸の動悸が激しくなって眩暈がした。

「…っ?!」

(あれ?…胸が…急に…)

後ろを歩いていた護衛騎士が、「大丈夫ですか?」と話しかけて来たが、大丈夫だと言ってそのまま自分の部屋へと入ったのだが、

なぜかいるはずのベルはいないし、胸の動悸は治まらない…。

(ベル…こんな時に…どこに行ったの?…)


ベッドへ倒れ込むように横になった私は、うずくまる様にしてはぁはぁと息を吐いた。身体中が熱くなってビリビリと痺れるのが分かった。

(なんなの?私…どうしたんだろう…まさか、下剤じゃなくて…毒を飲まされた?)


しばらくすると、扉をノックする音がしてまた、さっきの護衛騎士が部屋に入って来た。


「ちょっと、入って来ないでください」

「でも、…とても苦しそうです。大丈夫ですか?」

少しニヤッと笑った護衛騎士は、ベッドの方へ近づいて来る。

(この人…やばいかも…でも、身体がうまく動かない…)

「ちょっと、出て行って!」

(誰か…誰か…助けて…)


護衛騎士は、私の話も聞かず側まで来ると私に触れようと手を伸ばした時だった。

精霊樹の腕輪が眩しく光りを放ってそれに驚いた護衛騎士が後ずさりした時、

 バンッ!  と部屋の扉が開いた。


「貴様!ここで何をしている!?」


「…っ?!」


扉の方から大きな怒鳴り声が聞こえた。そこに立っていたのは、レナルド殿下だった。


「い、いえ、何もありません。失礼しました」


気まずそうに顔を引きつらせた護衛騎士は、足早に部屋から出て行ってしまった。

(ああ、助かった…)

私は、ホッとしたものの…身体は、熱くて動悸は一向に治まらない…。


「アリエル嬢、大丈夫か?なぜ、こんな…」


「はぁ…はぁ…、先ほど…お茶会から…、か、えって来たら…急に、動悸が」


「そうか…わかった。少しの間 一人にするが我慢してくれ。席を外す…」


「は、はい…。はぁ…くっ、ふぅ…」

私は、ベッドのシーツを握って、はぁはぁと息を吐きながら…何とも言えない身体のおかしな状態に耐えた。

(私…このまま、死ぬの?)


しばらくすると、レナルド殿下が部屋へ戻って来た。

「あ、あの…ベルは…」

「ああ、君の侍女は、今部屋の前で会ったがしばらく人払いをしてくれるように頼んだよ」

「…え?…ひ、人…払い?」

「そうだ、君は、さっきのお茶会で媚薬を盛られたようだ」

「…っ!?」

「これから、解毒剤を飲ませる。辛いと思うが…もうしばらく、辛抱して欲しい」

「は、はい…くっ、あ、ありがとう、ご、ざいます…」


私は、冷や汗をかきながらレナルド殿下にお礼を言うと、解毒剤を飲むために起き上がった。

(媚薬って…こんなに不快なものなのね…)

レナルド殿下はベッドの端に座って、懐から小さな小瓶を出すと自分の口に含んで、私の後ろ頭を支えてそのまま口移しで薬を飲ませてくれた。

「ん…んん…、に、にがい…」

「ああ、そうだな…水で口直ししようか…」

ベッド脇の水差しからコップに水を注いで、また同じように口移しで水を飲まされる。その行為は、キスではない医療行為だと分かっているものの気持ちが良くてもっとして欲しいと思ってしまうのは媚薬のせいだろうか。

「あの…もっと、ほしい…です」

気付けばそんな言葉を発していた私に、レナルド殿下も断る事なく何度も水を与えてくれた。


それからの事は、あまり覚えていない。たしか、殿下が「少し触れる我慢してくれ」と言っていたのは覚えているけれど…。



私が目を覚ましたのは、翌日の昼すぎだった。


目を覚ましてすぐにベルが泣きながら、

「お嬢様!心配しました」

と、エプロンで涙を拭いながら真っ赤な顔をして…泣き止まないので困ってしまった。


今回の騒動は、公にできないので内密に処理するとの事だった。流石に嫁入り前の令嬢が媚薬を盛られたとなれば、私にも家名にも傷がついてしまうし、父にも知られたくなかった。そして、相手は公爵令嬢だ、私の身分では叶わない事は目に見えている。


さっそく私は、昨日汗をかいた為、泣き止んだベルにお風呂に入りたいとお願いした所。

「お嬢様…これは…一体…」

「え?」

私の身体中に無数のキスマークがある事に二人で驚いた。

(…私は、昨日…何をされたの…)

お湯につかりながら…熱い顔を両手で覆って…ため息をついた。


あくる日侍女長からの知らせが来た。

これから、最後の舞踏会までの間 妃候補のお茶会を禁止するとの事だった。

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