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お妃候補は土いじりが好き  作者: 結輝満月
4/11

4

今日は、あいにくの雨…そして、なぜか妃教育がお休みになってしまったのだ。


「せっかくお休みになったのに…庭のお手伝いもできないなんて…」

暇な私は、雨の降るテラスを眺めていた…すると、植え込みの向こうにレナルド殿下が傘もささず通り過ぎて行くのを見てしまった。

(え?どうして、ずぶ濡れで歩いているの?…)


ほっておけなくなった私は、アリエルで話しかけた事がない為、エルルに変装し、雨よけのロープを羽織り傘を持ってレナルド殿下の後を追う事にした。


いつも私が本を読んでいる裏庭の辺りにレナルド殿下は、俯いて立っていた。


「殿下?大丈夫ですか?」

「………エルル?」


私の声に気付いたのか振り向いた殿下は、とても、悲しい顔をしていた。


「………」

「このままじゃ、風邪を引いてしまいますよ?」


さした傘を殿下の方へ向けた途端、


「ひゃっ!」

殿下が私を強く抱きしめてきた。傘は地面に落ち…雨は、容赦なく私達に降り注ぐ…。


「あ、あの…殿下?」


「エルル…。父上が…倒れたんだ…」


「え?」

(父上って…国王陛下よね?どういう事?)


「二日前までは、とても、元気だった…。昨日の夜、いきなり苦しみだして…今も…、このままでは、近いうちに…。くっ…うう…う…」


「殿下…」

(そんな…国王陛下の命が危ないの…?)


殿下は、私の肩に顔を埋め声を殺して泣いている。


どうも、倒れた原因は不明らしい。今も苦しみ続けているのだそうだ…。見るに堪えられなくなったレナルド殿下は、王城から出てきてしまったのだと言う。


「僕は…苦しむ父上に何もしてやれなくて…悔しい…」

「………」

私は、レナルド殿下の為に何かしてあげたくて、出来る事がないか考えた。

(私にできる事…どうしたらいい?……あ、…あるじゃない)


「殿下…、このままでは、殿下まで倒れてしまいますよ?王城へ戻りましょう」

私は、途中までレナルド殿下を見送ると、その足で幻の庭園まで行く事にした。




「アリエル様!どうしたのですか?ずぶ濡れです」

「ええ、ちょっと、急いでいたから…」

出迎えてくれたミプルは、ふぅーっと息を吐き、私の髪と服を乾かしてくれた。


「今日は、どうされたのですか?」

「あのね。精霊樹の葉を…わけて欲しいの」

「精霊樹の葉を?」

「そう…、実は今、国王陛下が、原因は不明なんだけど…倒れて。とても、苦しんでいるの…このままでは、命が危ないのよ」


私は、精霊樹の葉が、どんな病も治す万能薬だと言う事を思い出した。そして、国王陛下を助けられるんじゃないかと考えた。


「そうですか…。いいでしょう。持って行ってください」


ミプルは、ピョンっと跳ねると精霊樹の葉を一枚ちぎって、私に手渡してくれた。


「王様に、この葉を煎じて飲ませてあげて下さい」

「ありがとう!じゃあ、急いで渡してくるわ!」


私は、精霊樹の葉をハンカチに包むとポケットにしまい。離宮へ戻った。

それから、王城へ行きたいからとベルにお願いして侍女服を借りると変装して、王城のレナルド殿下の部屋を探した。


王城では、使用人達が険しい顔をして話してる姿が目に付いた。やはり、国王陛下の容態が思わしくないのだろう。私は、近くにいた侍女に「急ぎレナルド殿下を探している」と伝えれば、あっさり部屋を教えてくれた。


コンコン

私は、レナルド殿下の部屋の扉をノックし、「エルルです」と言うと扉はすぐに開いた。

お風呂に入って着替えたのか…濡れた髪を拭きながら驚いた顔をしているレナルド殿下の姿があった。


「エルル…?どうして、ここへ?」

「あの…これを煎じて国王陛下に飲ませてあげて下さい」

私は、ハンカチに包んだ精霊樹の葉を手渡した。


「これは?…」

「とにかく、時間がないんです。はやく、陛下に!」

「ああ、わかった。すぐに行って来るよ!ありがとう」

レナルド殿下は、そのまま、ハンカチの包みを持って国王陛下の寝室へと走り去った。

私は、やり遂げた事にホッとして離宮へと戻った。



後日、

庭で草むしりをしていると、

「エルル」

レナルド殿下が声を掛けて来た。

「君のおかげで、父上はすっかり元気になったよ。ありがとう」


国王陛下は、煎じて飲ませた精霊樹の葉が効いて今では、いつも通り公務の為忙しくしているのだと言う。

結局、体調不良の原因は、毒によるものだったらしい。寝室の水差しから毒の反応が出たのだそうだ。そして、従者が一人行方をくらませているらしく今その者の行方を捜しているのだと言う。


「良かったですね。ふふふっ」

「ああ、…しかし、あの葉は…なんだったんだ?」

「えーっと、万能薬になる葉ですよ。出所は秘密です。あの、私に貰ったなんて言わないでくださいね?」

「ああ、分かってる」


レナルド殿下は、嬉しそうに笑って私の頭を優しく撫でた。



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