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「婚約拒否されたはずなのに王子が帰ってくれません!」
の主人公、レイチェルの姉アリエルのお話です。
拙い文章ですが、よろしくお願いします。
ここは、ルミエール国の王城から少しだけ離れた離宮、クリスタル宮。
ここに、10人の妃候補が集められた。
「妃候補の皆様、長旅お疲れさまでした。お嬢様方には、これからの三年間 妃教育を受けて頂き、第三王子レナルド殿下との交流を深めて頂きます。なお、三年後の殿下誕生の祝いの舞踏会で妃が決定いたします。また、何か問題を起こした方は、即刻 妃候補から除外され帰って頂きますのでよろしくお願い致します。では、各自、お部屋にご案内させて頂きます」
そう挨拶をした、侍女長が深々と頭を下げた。
私は、ルミエール国より南、隣国オルフェス王国の辺境の地に住むクローズ伯爵家長女アリエル。
なぜ私が妃候補に選ばれたかと言うと、クローズ領がルミエールとの貿易の玄関口となっているからだろう。繋がりを持ちたいのだ。
私は、できるなら妃になりたくない。側妃なんてもっとイヤ。だからと言って、問題を起こして家名を汚してまで帰ろうとは思わない。ひっそりと誰かが妃に選ばれるまで過ごせたらいいの。
案内された部屋は、1階の角部屋で白を基調とした部屋だった。外へと繋がるガラス扉を開けると広いテラスがあって、その植え込みの向こうは庭園へと続いている。
「素敵だわ。私にぴったりの部屋ね」
「良かったですね。庭園の側ですね」
と、ニッコリと笑うのは、私の侍女ベル。小さい頃から私に仕えてくれている。
次の日からの妃教育は、厳しいものだった。国が違えば習慣も違う、国の歴史だって覚えないといけない。やる事はいっぱいだった。妃候補には、それぞれ一人ずつ教育係が付き基本的に自分の部屋で学ぶ事になっている。ほぼ午前中だけで終わるのだが教育係の気分次第で長い時は、夕方まで続くときもあった。他の妃候補とは、部屋の外に出ない限り会う事もなかった。
一週間後、はじめてのレナルド殿下とのお茶会の日、
私の出で立ちは、ピンクブロンドの髪を赤茶色に変色させ三つ編みを編んで、青紫の瞳を長い前髪で隠し、顔色の悪そうな化粧を施し、ふくよかな胸は布をきつく巻いてぺったんこにして地味な色のシンプルなドレスを着る。と言う、以下にも地味で病弱だと言わんばかりの格好をしていた。
妃に選ばれない為に、これからの三年間は、この格好で生活する事を決めたのだ。両親には、了承してもらっている。
時間通りに現れたレナルド殿下は、艶のある金髪を一つに結び、深緑の瞳をした美青年だった。妃候補達は、みんなその姿にうっとりとしている。しかし、私は、そんなレナルド殿下を見ても何とも思わなかった。なぜかと言うと、もっと美青年の双子の兄ルーカスを見慣れているからだ。
(レナルド殿下も大したことないわね。ルーカスの方がもっと綺麗だし男らしいわ)
殿下と妃候補が集まった時点で、自己紹介をする事になったが、私は、ぼそぼそと小さな声でやり過ごした。
今は、テーブルの端の方でひとりお茶を飲んで終るのを待っている。
「楽しんでくれてるかな?」
いきなり声をかけて来たのは、レナルド殿下だった。
「はい。それなりに」
私は、小さな声で答えた。その時だった、
ガシャン!
「「…っ?!」」
隣の席で、飲みかけのティーカップが倒れ、私のドレスを汚した。
「あら、ごめんなさいね。手が滑ってしまって…でも、こんな地味なドレスじゃ分からないわね」
「………」
(たしか、アデラ・ギルモア公爵令嬢だったかしら?我儘そうな人ね。あまり関わりたくないタイプだわ。早く帰りたかったし、ちょうど良かった)
殿下が何か言おうと口をひらく前に、私は立ち上がると一礼して、
「このドレスでは、皆様のお目汚しになりますので。私は、これにて失礼いたします」
と言い、離宮へと戻った。
それからは、妃教育と妃候補達の汚い嫌がらせに対応する日々…。
私は、枯れた花が送られてきたり、部屋の入り口が泥だらけだったりと地味な嫌がらせが続いた。
特に殿下とのお茶会の次の日が地獄だった。前日の反省会と言わんばかりに開かれるアデラ嬢主催のお茶会は、前日のレナルド殿下と仲良くしていた令嬢がおもにターゲットとなって、砂糖の代わりに塩を入れられたり、栄養剤だからと下剤入りのお茶を飲まされる事があった。口の暴力も酷くて気の弱い令嬢達は、顔を真っ青にしてガタガタ震え今にも倒れそうだった。
(みんな嫌がらせの天才ね…)
ある日、気晴らしに散歩しようと離宮の外へ出て庭園へと向かっている途中、何度か話をした事のある仲良くなれそうなご令嬢、ララ・ルーニー伯爵令嬢を見かけて声を掛けようとした時だった。
バシャー!
「きゃあああああー!」
その令嬢の頭上へ大量の水が降って来て、上を見上げるとそこには、アデラ嬢が扇をひろげてこちらを見ていた。
「あら、そんな所にいらしたのね。見えなかったわ。ごめんなさいね」
アデラ嬢の隣にいた侍女が花瓶を持ってニヤリと笑っている。
「ララ様、大丈夫ですか?」
私は、助けようと駆け寄ったけれど、泣きながら走り去ってしまい。その嫌がらせがとどめとなって、心を病んでしまったその令嬢は、妃候補を辞退してしまったらしい。
(もう、これは、戦争ね…)
◇
1年目で5人が辞退や体調不良により、離宮を去って行った。
私は、地味な見た目と病弱と言う設定であまり被害に合わずにすんでいた。
最初ここに来た時の侍女長の言葉、
「何か問題を起こした方は、即刻 妃候補から除外され帰って頂きます」
あれは、嘘だ。害に証拠は十分あると言うのに、相手が公爵令嬢で敵に回したくない侍女長達や護衛達は見て見ぬふりをきめている。それとも、こう言ういじめに耐えられる妃を選びたいのか…。
私はもう我慢の限界だった。
「ベル」
「お嬢様、どうされましたか?」
「もう、限界よ」
「ああ、でしょうね」
「土いじりがしたいわ!目の前に、こんな美しい庭園があるのに触れないなんて拷問よ」
私は、小さい頃から土いじりが大好きでいつも庭で遊んでいる子供だった。それに、地属性の魔術スキルを持っている。
「で、どうされますか?」
「そうね…。庭師のお爺さんに見習いにしてもらえないか頼むわ!」
「え?大丈夫ですか?あの庭師偏屈で有名らしいですよ?」
「大丈夫よ。土いじりが好きな人に悪い人はいないわ!」
私は暇があれば庭師のお爺さんに頼み込みに行った。最後は、お爺さんも根負けしてしまい、変装して時々なら手伝いをしてもいいと言ってくれた。
それから、時間がある時は、庭師小屋で変装して見習いとして楽しい土いじりができる日々。
そんな日々の中で、いつの間にかレナルド殿下が声を掛けてくるようになったのは、誤算だった。
「いつも庭園を綺麗にしてくれてありがとう」
そう言ってにっこり笑った殿下は、私の名前を知りたいと言うので「エルル」と名乗った。
今の私は、妃候補ではなくただの庭師の見習いだ。土いじりの邪魔をされるわけでもないし?最近では、気安く話しをする様になってしまった…。でも、私は、土いじりができればそれでいい。
(土いじり楽しい!幸せ)
今日も今日とて庭園の草むしり中、
「うう…ぅぅ……」
「え…っ?!」
遠くで呻き声が聞こえた。
(え?気のせいかな…でも、誰かが苦しんでたら…)
私は立ち上がると声のする方へと向かった、そこには、小さな老婆がうずくまって苦しんでいた。
「おばあちゃん!大丈夫ですか?」
「うう……水、水…」
「水?…水が飲みたいのね?待ってて!」
急いで庭師小屋に行き、自分の水筒を持って来て倒れた老婆に飲ませた。しばらくすると老婆は、顔色が良くなり元気になった。
「ありがとう。お嬢さん」
「元気になって良かった」
私は、ホッとして老婆の手を握ってにっこり笑った。
「お礼にお嬢さんに良い事を教えてあげよう」
「良い事?」
老婆は、立ち上がると持っていた杖を天にかざし、話しだした。
『 赤い黄昏時 黒薔薇目覚め 幻の庭園への道しるべが現れるだろう 』
かざした杖が眩しく光り、私は、思わず目を瞑った。しばらくして目を開けた時には、老婆の姿はそこになかった。
「あれ?おばあちゃん?」
足元には、水筒と小さな種が3つ落ちていた。
(不思議なおばあちゃんだった。元気になって良かったけど…)
その種は、持って帰って植木鉢に植える事にした。