ep1
チャイムが校舎内に鳴り響く。
「はい。じゃあ今日はもうここで終わり。さよなら〜」
先生の掛け声と共に教室から生徒が続々と飛び出していく。そんな中僕は教室の隅でじっと待っていた。
案の定教室の出入り口のところで渋滞が起こり始めた。これで何回目だろうか。先生も何か対策などはしないんだろうか。
先日よりかはこの渋滞を想定して待っている生徒が増え始めた。だがそれもほとんどがどちらかというとクラスのカーストで下の方の生徒たちだった。まあ僕も人のこと言えないんだけど。
「祐二。一緒に帰ろうぜ」
僕の唯一の友達、とまでは言わないが親友の田村 翔が話しかけにきてくれた。翔とは小学生時代からの友達で中学生になった今でも仲良くしてくれている。中学生になってから人数が増えて翔だけ仲良い人が増えていっててちょっとイラついているけれどもまあずっと僕と仲良くしてくれてるだけでよかったと思ってる。しかもたまに友達紹介してくれるから僕も友達とまでは行かなくとも顔見知りくらいの人がだいぶ増えてきてくれている。それも全部翔のおかげだからずっと感謝はしている。
「いいよ。僕寄り道したいところがあるんだけどもいいかな?」
「わかってるよ。どうせ図書館だろ。いつものことじゃん。なんで毎回聞くの」
翔は笑いながら言った。翔は僕のことをほとんどわかってくれている。
そうして僕たちは図書室に向かった。正直言って図書室は僕らの家の方向と全然違うから二倍くらい遠回りになる。でもいつも翔は僕に付き会ってくれたりする。正直翔本人はそこまで本とかが好きじゃないっていうのはわかってるんだけども……。でも僕がおすすめした本は全部読んでくれたりする。これほど優しい人は人生で見たことがなかった。
「そういえばシャーロックホームズのやつ、あれおもしろかったよ。予想上回ってくるからすごいよね」
翔は話してる限り嘘をついてないってことがわかるからすごい。ネットとかであらすじ調べてる可能性とかもあるけど。
しかもいつも僕に勉強を教えてくれてたりする。
「そう言えば祐二クラブ活動どこ入ろうと思ってるの? もうすぐ決める時期だよ」
「あ、そっか……。僕何にも考えてなかった」
中学一年生の春、クラブ活動などを決める重大な時期だ。幸いこの学校は都会と郊外の間くらいの住宅街にある学校のため、全校生徒数が千五百人ほどいる、いわゆる『マンモス校』という学校だ。クラス数も一学年十二クラスほどあるため、部活動の数も膨大にある。
部活動の種類は二十三種類、普通の学校によくある陸上部、野球部などから剣道部、空手部などマイナーな部活動も大量にある。ただ一つ問題点がある。それは文化部が三種類しかないことだ。美術部、茶道部、パソコン部だった。これは田舎の学校レベルの数字であり、そのおかげか体育会系の中学校として注目されている。僕などの体育会系じゃない人は不満に思っている。僕も思ってる。
昔はパソコン部さえもなかったようで、P T Aなどにクレームが殺到したと聞いたことがある。でも現状茶道部が部員数五人で潰れそうな状態だ。なんでそんな人が少なそうな茶道部を開設したんだろう。
「祐二?」
僕が考え事してると翔が心配そうに声をかけてくれた。
「あ、ごめんごめん。文化部なんでこんな少ないんだろうって」
「確かにねぇ。僕も文化部入りたかったんだけども。結局昔からやってる弓道親にやりなさいって言われて」
そうしているうちに図書館が見えてきた。
僕たちは図書館に入ると一目散にミステリーが置いてあるエリアに行った。
「お前本当にミステリー好きだな」
翔は空気を読んでかさっきより声を小さくして話し出した。普通か。
「うん。そこまで 犯人誰だ? とかはしなくて、犯人がわかったら あ〜、そういうことか って感心したりする。あ、借りてた本返してくる」
と言って僕は返却用の窓口に向かった。
「ごめんごめん」
と言って僕が戻ってくると翔は僕が前おすすめした本を読んでいた。
「これ、面白いね。今日僕も図書カード持って来たから借りてみる」
と言って読み続けた。この感じ、マジではまってるのかも。
そう言えば前、翔が話しかけてきて……
「そう言えばあなたの番ですって見てる?」
「ごめん僕見てないなぁ」
「あれ面白いから見てみて」
って言ってたなぁ。あれ推理系のやつだったよね。本当に推理系はまったのかなぁ。
僕は読んでいた小説のシリーズを手に取った。今日は三冊くらいにしとくか。
すると翔は分厚い本を五冊くらい手に取っていた。
「え? 翔そんなに読めるの?」
僕は驚いて聞いた。すると翔は、
「最近寝る前に読むのにハマってるんだ。よく寝れるしなんか目覚め良くなる」
それから二人とも本を借りて帰り始めた。
「で、クラブどうする?」
翔は笑いながら聞いてきた。
「えー、どうしよう。推理小説同好会とかないかなぁ」
「あったら僕絶対入るよ」
「僕も」
二人は顔を合わせて笑い合った。
「本当になんか現実でも探偵とかしてみたいんだけどなぁ。探偵部とか作らない?」
翔は本気そうに話しかけてきた。
「そんなの無理だよー」
「いけるかもしれないじゃん」
「え、翔、本気で言ってるの?」
「もちろん。まあ無理ってことはわかってるけど」
翔の目を見たらわかる。本気だ。
「まあなんか学校で事件でもあったら……」
僕はフォローしようと思ってよくわかんないことを言ってしまった。
「ないでしょ」
二人は顔を合わせて笑い合った。まあこんな感じがずっと続いてくれたらいいな。
次の日、学校に着くと何やらクラスがざわざわしていた。どうやら部活動の話をしているようだった。
僕ははいつも通り時間割を見ると、六限目に『部活動決め』と書いてあった。あ、今日だったんだ。
席に着くと翔が話しかけてきた。
「部活動最終的にどうするの? もう今日中に決めないと。学年全体で体育館に行って決めるらしいよ」
「え……。どうしよう。翔と一緒の弓道部行こうかな」
「今日中に決めないと入らないことになるよ」
翔は真剣な顔で話してきた。
「入らなかったらどうなるの?」
と僕が聞くと、翔は僕の机にもたれかかってきて、
「無所属のまま、入りたくなったら色々ややこしいらしい」
と言った。
「翔は弓道部よね」
「いや、やめた。実は通ってる教室潰れちゃってさ」
「あ、そうなんだ。じゃあどこ入るの?」
僕は机に寄りかかってきていた翔に近づいた。
「入らないでおこうと思ってる」
「そうなんだ……。僕も実は入りたくなくてさ……」
僕は本当のことを言ったつもりだった。だけど翔は、
「嘘でしょ。顔見たらすぐわかる」
と僕の顔を指差してきた。
「嘘じゃないよ」
「でも本心は違うってわかる。結構付き合い長いからすぐわかるよ」
「え……。じゃあ……」
「流石に僕も君がどこに入りたいのなんかはわかんないよ」
「どうしよう。入らないのってありなのかな」
僕は首を傾げた。
「探偵部、入りたいんじゃない? 僕の勝手な考えかもしれないけど」
その瞬間僕は思い出した。昨日の夜探偵部に入りたいな、と思っていたことを。
「そうなのかなぁ……」
「どっちにしろ今は無理だから先生には後で入るっとでも言っといてまた今度考えよう」
僕はそうして今日の部活動決める時はどこにも入らないことにした。正直驚いた。僕が思ってたことを超えて本心まで見抜いてくれるとかなんか超能力でも持ってるんじゃないかな。長い付き合いって言ってもお母さん僕の好きな食べ物と嫌いな食べ物全く覚えてくれてないよ。やっぱり翔すごいなぁ。
そうして僕はいつも通りサボらずに授業を受けていた。だが事件が起きたのは二時間目の理科の授業中だった。
と言ってもそこまで大きな事件ではない。クラスメイトの中村 綾子の筆箱がなくなったのだ。普通これくらいのことでは大騒ぎなどは起こらない。ただ周りには中学生女子がいる。
「誰かが盗んだ!」
だとか
「事件だ!」
だとかどんどん騒ぎを大きくしていった。ついには先生が統制を取れなくなり、軽い学級崩壊が起き始めていたが先生が大声で「おい!」と言ったため治った。だがそれは一瞬だけのことだった。
休み時間になると女子たちがクラス中の人に
「お前がやっただろ」
と確実に古い刑事ドラマみたいに聞いていっていた。しかもカースト下位の人はずっと疑われっぱなしだった。もちろんん僕も例外ではない。たった十分の休み時間だったがそのほぼ全ての時間を奪われてしまった。
その疑いはだんだんと絞られていった。まず筆箱がなくなったのは綾子が筆箱を教室に忘れた時、、ということはその時理科室にいなかった人が疑われることになる。
はい僕トイレ行ってた〜。ただただお腹すごい痛くなってきて仕方なくトイレ行ってたのに……。そのほかに教室にいなかった人はいなかったらしい。
休み時間先生は、
「犯人探しはダメだぞー」
と言っているが効果はゼロ、犯人探しは続いた。
そして昼休みになるとみんなの視線は僕に向いた。
僕はなにもやってないを突き通していた。だけども先生すら
「やったんだったら言えよ」
と言ってきて正直我慢の限界だった。
するとたまたま綾子のことをすごい庇っている山田 明日香の机に上に見覚えのある筆箱が見えた。
「あれ? あれ……」
僕はその筆箱を指差した。確か綾子の筆箱だった。
「え? あぁあれ私のよ。綾子のと同じの使ってるの」
明日香は元から綾子と仲良かったらしい。
「入れ替わってるだけじゃないの?」
「あれはちゃんと私の。名前書いてるんだから」
まあそれくらい誰でも思いつくか。明日香はキツく言い返してきた。
するとクラスの一人が声を上げた。
「あれ? 明日香の机の上に筆箱あったよ。理科室に忘れてたから持っていってあげたけど」
声を上げたのは綾子や明日香と仲のいい谷口 真弓だった。
「あ、そういうことか」
僕は思わず声を上げた。
「何?」
と教室にいる人たちは食いついてきた。
「え……あの……」
「わかってるんだろ」
僕が言ったのをいい事に女子たちは強気にきた。
「さっきよく見てはなかったけど明日香の机に綾子が遊びに行ってたじゃん。その時に筆箱を置いていって、その時くらいにみんな時計見て急いで行ったじゃん。その時に綾子は自分の持っていって、遅めに行った真弓が明日香のだと思って…持っていったんじゃないかな」
「そうか……。じゃあその後どうなってるの?」
明日香は納得したような様子で無理難題を聞いてきた。
「え、そこまでは……」
「わかったんでしょ」
「そこまではわかってないよ……」
僕は誇らしげ……ではなくものすごく弱気に言った。
「で、真弓筆箱返して」
「え?……」
真弓は困った様子で返した。まさか無くした?
「真弓、無くしてないよね」
明日香は僕への態度とは正反対に優しく聞いた。
「あの、里見に渡した……」
福田 里見は驚いたような声で、
「嘘。渡されたっけ」
と言った。
「え? 無くしちゃったの?」
明日香は里見に対してキツく接していた。これだけで女子のカーストがわかる。
「ごめん……。渡されたのは思い出したけどどっかにやっちゃった……」
「なんなのよもう」
明日香は怒った様子でこっちを見た。
「ん? なに?」
「さっき探偵ごっこしてたんだったら見つけてよ」
「何度も言うけど流石に無理だって」
僕はかたくなにそう返した。
だが周りの女子たちもそれに賛同して僕が探す事になった。
六時間目、僕らは先生に言ってクラブ活動を決めるのを後回しにする、と言う事でクラブ活動に入らない事に成功した。
放課後になり、僕は探す事になった。だが別に無くした物に情報があるはずもないから学校内を探し回った。
「お前何させられてんの」
笑いながら翔が話しかけてきた。
「いやぁ。やっぱりあれで嫌って言ったらやばいから」
「まぁそうだろうね。探偵ごっこはどうだった?」
「まあたまたま声出しちゃっただけだけどね。あんなの誰でもすぐわかるし」
僕は謙遜って感じではないが少し謙遜した。
「まぁそうだけど。やっぱり探偵部やらない?」
翔は冗談か本気かわからない感じで言った。
「やれたらやるよ」
すると生活主任の先生が後ろに立っていた。
「探偵部、ってなんだ?」
僕はすごく驚き、思わず
「えっ……びっくりした〜」
と言ってしまった。
「あぁごめんごめん。で、探偵部、なんかの漫画?」
生活主任の先生は構わず話を続けた。
「いや、なんかそう言う部活があったらいいなぁって話をしてて……筆箱探さないといけないんでまた」
僕は話を切ってすぐ進もうとしたが、生活主任の先生は、話を続けてきた。
「まぁ、出来なさそうだけど最近新しく文化部を作ろうと思ってるから候補に入れてみるよ。じゃあ気をつけて。あ、あと筆箱って中村さんの?」
「あ、はい」
「じゃあもう見つかったって」
「え?」
「じゃあさよなら」
と言って生活主任の先生は帰っていった。
「え……」
僕はポカーンとしていた。内心すごいイライラしてる。
「見つかったんだったら言いにこいよ」
翔はキレ気味に言った。
「なぁ」
その日は疲れたため図書館に行かずに帰った。