3話「変わらない日々?」
「うわぁぁぁああ!!」
俺の今朝の目覚めは壮大だった。大声を上げ、勢いよく体を起こした。
「ハァ……ハァ……ハァ……。」
動悸と息切れ、そして頬に泣いたあとがある。
1度死を体感したものの反応だ。それもかなり恐怖を感じながら。
でも間違いない、あれは夢だった。そう分かった瞬間、俺は安堵し、全身の力が抜けた。
───ドタドタドタ!
何者かが俺の部屋の前の階段を、勢いよく登っているようだ。
そしてそれは、勢いよく俺の部屋のドアを開けた。
「りゅーちゃん、大丈夫!?」
それの正体は母だった。とても心配そうな顔をして、僕の顔を見る。
髪の毛がボサボサだ、俺の声を聞きつけて急いで駆けつけたのだろう。
「うん……。少し怖い夢を見ただけ。」
「良かったァ…。」
母は俺の事を心配してくれた。それが何より嬉しかった。
「朝っぱらからうるさいなァ、りゅーは。」
母の後ろから、父が顔を見せた。
母とは違い、あまり心配してない様子である。
「ごめん、」
取り敢えず謝っておく。
「でも、りゅーちゃんに何も無くて良かったわ。
あ、そうだ!折角みんな早起きしたんだし、体操でもする?」
「いや、なんでそうなるの!」
父と声を合わせて突っ込む。
ん?早起き…?
俺は慌てて時計を確認する。
「え、5:30!?」
家を出るのは7:40程度なためかなりの早起きである。
「そうよ〜。でもりゅーちゃんの大きな声がしたから、お母さん急いで駆けつけちゃった☆」
「『駆けつけちゃった☆』じゃないよ!心配で駆けつけてくれたのは嬉しいけど、もう少し寝てたら?」
「え〜、でも折角早起きしたのよ?」
「リビングでゆっくり準備できるしいいじゃないか。」
父も介入してきた。
「そうだね、じゃあ今朝は家族一同早起きということで。」
「じゃあ、体操でm…」
「却下で。」
「えぇ〜。」
どうしても体操をしたがる母である。
─────※※※※※─────
みんなでゆっくりリビングで朝食を食べる。ニュースは今日も、『殺人事件』や『強盗事件』など、物騒なものばかりだ。
「最近の世の中は怖いね〜…。」
母が悲しそうにそう言った。
「りゅーちゃんも、なにか事件に遭遇したらすぐに逃げてね?お母さん、りゅーちゃんの居ない生活は嫌だから。」
「僕は…?」
次は父が悲しそうにそう言った。
「父さんも同様よ〜。」
母が慰めるかのようにそう言うと、父は安堵したような顔をした。
「そう言えばりゅー、怖い夢を見たと言ったがどんな夢だったんだ?」
「んー、忘れた!」
「おいおい…、」
父が呆れた顔をした。実は本当に俺は夢のことを覚えていない。『まあ、人間の脳はそんなもんだよな』なんて思い、気にしないことにした。
─────※※※※※─────
父の言った通り、今朝はゆっくり学校の準備をし、今は通学途中だ。いつもと変わらない風景に少し飽きてきたかもしれない。
途中の分かれ道で
『輝』
『莉杏』
『舞』
『永月』と合流。俺らはいつも一緒に登校し、下校する。
さっき風景に飽きたと言ったが、このメンツは一生飽きない。
電車でみんなが話してる中、俺は切り出す。
「今日俺、スゲー怖い夢見たんだよ………。」
「へー、どんな?」
最初に話に興味を持ったのは輝だ。
「それが、記憶にないんだ……。」
「なんだ、それ?」
永月も興味を示す。
「まあ、人間ってすぐ夢を忘れちゃうらしいですし。」
「そう、俺もそう思って諦めた。」
俺がそう言うと、莉杏が急に興味を持ち始めた。
「ね、てかさ、怖い夢見たんでしょ?」
「うん…。」
「飛び起きた?」
「まあ…。」
「泣いた?」
「その質問攻めさ…いる?」
輝が質問攻めを遮った。
俺としても少し面倒だったので良かった。
「ごめん…。」
莉杏が謝ると、少し沈黙が流れた。そしてこの話は、なかった事のように流されたのだった。
─────※※※※※─────
時間は飛び、昼休みのこと。
俺と輝は屋上で空を見ながら弁当を食べていた。
「なぁ、竜磨。」
「なに?」
輝が急に俺に話しかけてきた。
「異世界って、あると思うか?」
「·········」
俺は少し考える。
異世界……なぜだか身近に感じる…。今までそんなこと無かったのに。
夏風が強く吹き、俺らの髪を揺らす。
「いや、無いな。」
「え?」
「異世界なんてないって言ったんだよ。そんな変なこと言ってないで、しっかりと勉強するんだな〜。」
俺が嫌味っぽく言った。
「なっ、テメェこの野郎……。」
「飯食ってる時も喧嘩しないと気が済まないの〜?」
屋上の入口に莉杏が立っていた。
「なんだ、莉杏か。」
輝が切り出す。
「来ちゃ悪かった?」
「また竜磨を質問攻めしに来たのか?」
輝が嘲笑いながら言う。俺も、質問攻めされるのはあまり好きではない。今朝の電車での行動は、それを分かってのことなのだろう。
「別にそんなんじゃないし〜」
莉杏はギャルである。それに美人だ。恐らく、この5人メンバーの中で1番容姿が整っている。そして興味があることはとことん追求する娘だ。だから少しみんなから面倒がられる時はあるが、嫌われることなんてない。
「何しに来たの?」
俺が問う。
「別に、一緒にご飯食べたかっただけ、」
「ふ〜ん。」
なんだか少し様子が変だ。どうしたのだろうか。
「じゃ、俺は取り敢えず戻るわ。」
輝が言った。
「お、おう。」
「お二人の邪魔をしたくはないしな☆」
何か勘違いをしている。
「バカ!そんなんじゃねーよ!」
莉杏が赤くなった顔で言う。
「へ〜?にしては仲良すぎな気がするぜ。」
そう言い残し輝は屋上を後にした。
莉杏はと言うと、「ハァァァ、あのバカは〜」などとグチグチ言っている。
「それで、なんか用があるんじゃないの?」
キリがないので俺から話しかけた。
「あ、そうそう、今朝の電車のことなんだけど…。」
「質問攻めの謝罪?なら購買でりんごジュース買ってきてよ、それで許す。」
「いや、それもそうなんだけど…。そうじゃなくて。」
「何か心当たりでも?」
「いや、無い。」
本当に何しに来たんだこいつは…。
「あぁ〜!やっぱ私、他の友達と食べてくるわ!」
顔を真っ赤にして莉杏はそう言い捨てて屋上を後にした。
俺は雲ひとつない綺麗な空を見る。
「異世界か………。」