2話「転生?」
「おかえり、りゅーちゃん。」
母の声はキッチンから聞こえてきた。
夕飯を作っているようだ。
俺の母は小柄で優しい顔をしている。
「父さんは?」
俺が問う。
「まだ仕事みたい。少し遅くなるそうよ?」
「そっか。」
俺は適当な返事をし、自分の部屋へと戻りベッドの上で寝転がった状態でスマホをいじり始めた。
「輝からのメッセージ?」
内容はこうだった。
『夏休み、みんなでどこか遊びに行かね!?
舞たち呼んでるぜ(^o^)』
古い顔文字を使っている。
俺は特に断る理由もないので承諾しておく。
『いいぜ!楽しみにしとく』
「送信っと。そう言えばそろそろ夏休みか。」
そんな事を思いながら数分程度、Toktikを見て、今日の疲れを癒すため、自室を出て風呂場へ向かった。
「お風呂入るの?」
キッチンの母が風呂場に行こうとする俺にそう問いかけた。
「おう、今日は疲れたからな。」
「もうすぐご飯できるわよ?」
「風呂入ってからでいいよ。」
「そう。」
他愛のない会話をする。
母の声は優しくて、癒される。だから好きだ。
そう思いながら、風呂場へ向かった
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風呂を済ませ、ご飯を食べた。
「さぁ!あとは寝るだけ!」
俺が大きな声でそう言う
「寝るのもいいけど、勉強もしなさいよ?」
「分かってるよ〜。」
母の言うことには逆らえない。こんなにいい母なのだ。自分もいい子にしておきたいのだ。
自室へ戻り数分程度の復習予習を終わらせ、俺は再度ベッドに寝転がる。
「輝からメッセージだ。」
内容は
『やった!どこで遊びに行くかなんだけどさ、ネズミーランド!行かね!?』
いやいや、無理だろ。遠いし高い。
『さすがに無理がある笑
どっか映画とかはダメなの?』
そう書いて送信する。
「ネズミーランドか……。1度でいいから行ってみたい。」
「ネズミーランドと言えば、豊かな音楽に…楽しさ満点のアトラクション…美味しい食べ物…可愛いグッズやキャラクター…」
そんなことを言っているうちに寝落ちしてしまった。
─────※※※※※─────
なんだ?やけに眩しい……。
俺は目をゆっくり開ける。
「えっ?」
1人の少年が、薄暗い路地で思わず声を出した。それもそのはず、俺は今夢を見ているはずなのに、全ての感覚がリアルだ。
というのも、自分の頬を抓ると痛いし、匂いもするし、ものにも触れるし触った感覚も、暖かいと感じる感覚も、なんだか小うるさいと感じる耳の感覚も、、、全ての感覚がある。
さらに、目の前には見たこともないような建物が左右どちらも奥まで続いており、人で賑わっている。
この奇妙な光景に少し硬直したあと、俺はこう思う。
「異世界転生ってやつか……?」
前にアニメで見た事がある。
主人公が死に、目を覚ますとそこは見たことの無い「異世界」。
でもそこで問題なのは「俺はいつ死んだのか」だ。「普通の高校生が普通の生活を送り普通に寝た」。死ぬ要素なんてどこにもない、はずだ。
「そもそも死んだのか」、「ここは夢なのか」。分からないことしかない。
「どうしようどうするんだ……?」
そう自分に問う。
「とにかく、誰かに聞いてみよう…。」
持ち前のコミュ力で何とかしようと思った俺は、とりあえず適当に話しかけやすそうな人を見つける。
「あの、すいません。」
俺は取り敢えず、タキシードのような服に、片眼鏡をかけたいかにも紳士っぽい人に声をかけた。
周りが布100%で出来たような服なのに対してこの人はタキシードなので、さすがに浮いてる気もする。
「はい?」
よかった。言葉は通じるようだ。
「突然すみません、お尋ねしたいことがあるんですけど…。」
「何でも聞いてもらって構わないよ。」
容姿の整ったお兄さんが笑顔でそう言った。
よく見てみると、背も高く、話し方も丁寧でいかにもな紳士だ。
「良かった…。実は自分迷子でして、ここがどこなのか知りたくて…。」
「は、はぁ…。」
お兄さんが少し困った顔をした。
「ここはムーラナ村の商店街だよ。
良かったら、少し案内しようか?」
「本当ですか!ありがとうございます!」
親切な人で本当に良かった…。
でも今、お兄さんの口がニヤけた……?
いやいや、ないな。
「私についてきて」
「はい!」
余計なことは考えずについて行くことにした。
「ここは八百屋の『ダサーラ』。店主が優しいし、採れたてで新鮮な美味しい野菜が沢山あるよ。」
「こっちは肉屋の『フビー』。ここのお肉はとにかくジューシーでねぇ!」
「次にここ、武器屋の『ストーン』。武器の質がいいのに安いんだよ!」
商店街に武器屋まであんのか…。
そしてその後も、色々な店をまわった。
「そう言えば、君の名前を聞いてなかったね。」
「あっ!そう言えば……。
俺は『風月 竜磨』って言います!」
「フヅキ……リューマ?珍しい名前だね。」
お兄さんが首を傾げながら言う。そうだった、異世界ではこっちの名前が通用しない可能性が高い。
「よしリューマ、最後に究極のお店を教えよう。」
「ほんとっすか!?」
「ああ。でもここにいる人はほとんど知らないし、僕も周りにはあまり広まって欲しくないから、口外しちゃいけないよ?」
「うっす!」
「ついてきて。」
ワクワクしながらついて行く。
薄暗い路地を通る。奥へ、奥へ。
そしてついにほとんど光も通さない狭い場所へと来た。
「あの、ほんとにここにあるんですか…?」
俺が問う。
「たった今ついたよ。」
「ん〜っと、何も無いように見えますけど…」
「あるよ、ここに。」
「···············えっ?」
男が出したのは1つの小さな「バタフライナイフ」に似たナイフだった。
「俺は殺し屋もやっていてな、グループを組んでいる。」
「·····えっ?」
今までの様子と一変し、お兄さんは邪悪な顔を浮かべながら淡々と話す。
「ガビン!イー!」
「おう」
お兄さんが大声で叫ぶと、声が2つ後ろから聞こえた。それと同時に影が見える。1人は太っていてもう1人は少し痩せている。暗くてよく分からなかったが、どうやら待ち伏せしていたらしい。
そして、『ガビン』と『イー』というのは、グループのメンバーの名前であるということが分かった。
「···········えっ?えっ?」
「ま、ビビって声も出ないよな。」
「なんか殺しがい無さそうなの連れてきたな、アニキ。」
太ったのが喋る。
「アンちゃんが連れてきたんだ、文句言うな。」
痩せてるのが喋る。
「イーの言う通りだ。俺の連れてきた獲物は嫌か?」
「い、いえ!そんなことないっす。」
そうやって話す中、俺はと言うと、頭の中は真っ白で何が起きているのかサッパリ理解出来ていない。
当然だ。さっきまで仲良くしてたお兄さんが急に自分にナイフを突きつけているのだ。
「··········あ、あぁ、あの…。」
震えて少ししか声が出ない。
「あ?なんだよ。」
お兄さんがもっと邪悪な顔をして言う。
「お兄さんは……優しい…人なんじゃ……。」
そう俺が問うと、前にいる3人は数秒間唖然とした。
そして、
「ブハハハハハハ!」
「最高だ!こりゃ!」
「アニキの連れてきた獲物は面白いっすね!」
ギャハハという声で笑う3人に、俺はもっと頭を悩ませた。
彼らは数秒間、涙が流れるほど笑ったあと。
「よし、始末すんぞ。」
さっきまでの笑いを吹っ飛ばし再び俺にナイフを突きつける。
逃げることも出来たが、怖くて足が動かない。
「やっちゃってください!アニキ!」
太ってるのがそう言い終わったあと、お兄さんは俺の顔目掛けてナイフを振りかざした。