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第3話 貴方と共に~私達に出来る事 後編

「...そんな事になっていたのね」


 混乱からようやく目覚めた私。

 目の前には聖剣で胸を貫かれたリュートが横たわっていた。

 ユリアとライザの説明を聞いて私達の今置かれている状況が分かった。


「だがらネラスの協力が必要なの」


「お願いネラス、私にはリュートを助ける事以外に生きる価値なんか見出だせないの」


 ユリアとライザは私に頭を下げた。

 いたたまれない。

 私がユリアとライザ、そしてリュートを護る盾にならなくてはいけなかったのに...


「大丈夫ネラス?」


「...ええ」


 心配そうなライザの言葉に俯いている場合では無いと覚悟する。

 クソ野郎に汚された絶望の記憶は消えないが、堪えられない程じゃない。

 これがリュートによる力、吸収のスキルによる物なのか。


「それじゃ早速始めましょう」


「分かった」


「はい」


 この場を仕切るのはライザ、私とユリアは彼女の指示に従う。

 ベッドの上に登りリュートに刺さっている聖剣の柄を握りしめた。

 ユリアはベッドの下に潜り、突き出た剣先に手をかざして、ライザはリュートの様子を確認している。

これで準備は全て整った。


「行きます」


 力を込め聖剣を引き上げるが、どうした事かピクリとも動かない。


「え?」


 いやな汗が滲む、これは一体?


「どうしたの?」


「...おかしい、力が入らないのよ」


「どういう事?」


「まさか?」


 ユリアとライザが私の言葉に驚いているが、これはもしかして...


「戦士のスキルまで少し吸収されたみたい...」


「そんな...」


「それじゃ...私のスキルも?」


 ユリアが慌ててヒールをリュートに掛ける。


「嘘...私のスキルも弱くなってる」


 愕然としたユリアの言葉、どうやらユリアのスキルまで吸収されてしまったの?


「しまった!!」


「「ライザ?」」


 ライザが踞り床に頭を叩き着けた。


「どうしたの?」


「リュートは聖剣を通じてクソ野郎のスキルを奪ったじゃないか!どうして私は気づかなかったの!!」


 激しく慟哭するライザ、でも彼女は責められない。

 こんな状況で、先を見越せる筈が無いのだ。


「ユリア、行ける?」


「吸収されたのは少しだけよ、まだスキルは十分に発動するわ」


 ユリアと頷き合う。

 今はまだスキルがある、しかし今から聖剣を握る事で、私のスキルは益々吸収されて行くだろう。

 スキルが減れば、魔力の消費がそれだけ激しくなる。


 魔力切れ...いや体力も、最悪命まで尽きるかもしれない。

 でもそれしかリュートを救えないのなら。


「...まさか二人共」


 私達の覚悟にライザは顔を上げて見つめた。


「絶対にリュートを助ける」


「それしか私達に出来る事が無いから」


 リュートに償える事はこれくらいしか出来ない。

 クソ野郎の魅了を跳ね返せ無かったばかりか、恥態までリュートに晒した私達に...


「分かった、お願い」


「もちろんよ」


「絶対に助けるから」


 再度聖剣を握りしめる。

 どうなろうと構わない、愛するリュートの命を救えるなら本望だ。

 彼が居なかったら私はあのまま狂い死にしていた、今度は私がリュートを助ける番よ。


「フッ!!」


 渾身の力を込める。

 ダメか。いや少しだけ動いた気がする。


「動いたわよ!先が少し中に入ったわ!!」


 ベッドの下からユリアの興奮した声がする。


「ヒールを!」


「分かってるネラス!」


 集中だ!


「アアア!!」


 全身が(きし)む、手から剣が外れそうだ!


「ライザ、私の両手を紐で縛って!」


「分かったわ」


 汗で手が滑る、離す訳にいかない。

 一度離したら、もう集中出来る自信が無い。


「これで良い?」


「ありがとう」


 幾重にも巻かれたロープ、これで大丈夫よ!


「ガアアア!!」


 余りの負荷に今度は両肩が外れそう。


「しっかり!」


 私の異変に素早くライザが両肩を固定する。

 私の上半身は両手から肩、胸までぐるぐる巻きになった。


「剣先が見えなくなったわ!」


 ユリアの嬉しそうな声に勇気づけられる。

 あと三分の一、これからよ。



「グゥッ...」


「ネラス」


「...大丈夫よライザ」


 あと少しという所まで来ているのに、全く剣が動かない。

 間違いない、私の魔力が尽きたのだ。


 ベッドの下に居るユリアも同様、もう声は返って来ない。

 ずっと全力でヒールを掛け続けるから当然か。


 しかし諦める気は毛頭無い。

 ライザはずっと一人、諦めなかったんだ。

 彼女は最後まで絶望しなかった!


『ライザは抱かれなかったから?』

 違う!!ライザの最後までリュートを愛する気持ちがクソの魅了に打ち勝ったからだ!!


「私だって!!」


 最後の力を振り絞る。

 もう先の事は考えない、覚悟だ!

 リュートも最後まで絶望しなかったじゃないか。

 どんな苦しい時だって...世界の為に自分の心を犠牲にしていた!


「愛してる!!リュート!!」


「私だって愛してるわリュート!!」


 ユリアと声を合わせると一気に聖剣がリュートの身体から引き抜かれた。


「...リュート」


 ベッドから投げ出された私は床に身体を打ち着けたが痛みは無い。

 霞む視線の先にベッドの下で、黒髪から真っ白な白髪に変わったユリアとリュートを確認するライザが見える。


 クシャクシャの笑顔をしたライザ。

 溢れるは嬉し涙か、どうやら上手く行った...

 ふと視線を落とすと、私の髪も栗色から白髪に変わっている。

 もう何も湧き上がって来ない、私のスキルは殆ど消滅したのだろう。


 後悔は全く無い、後はライザに託そう。

 まだ魔王を倒すという大仕事が残っているが、一人の兵士としてなら十分戦える。

 もうリュートの隣に立てないが、ライザが居れば安心だ。


「そっか...リュートにはライザが居るから安心なんだ」


 全てをやりきった気持ちを胸に瞳を閉じる。

 もう悪夢は怖く無くなっていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 魅了スキルに打ち勝つ方法があること。 他作者によっては魅了スキルに絶対にあらがえないことがある為、このお話では個人の意思によって抗えることが良かった。(多分、尋常じゃないほど凄まじい鋼の意…
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