第2話 スキルが解けて~勇者パーティーと王国の混乱
一向に帰還しない勇者パーティー。
王国は捜索隊を結成し行方を探していた。
そして2日後、遂に捜索隊は倒れていた勇者パーティーを発見した。
いや、倒れていたのは聖剣に胸を貫かれていたリュートだけ。
その傍では必死でリュートにヒールをかけ続ける賢者ライザと、血まみれで昏倒していた戦士ネラス、踞り泣きじゃくる聖女ユリアの3人が居た。
聖剣に貫かれていたリュートだが、彼は不思議な事に生きていた。
勇者タカシの姿が見えない。
捜索隊が事情を聞こうにもライザとユリアは激しく混乱しており、全く話が出来ない。
捜索隊の隊長はひとまず4人を王都に連れ戻し、国王に報告する事と決めた。
[勇者が聖剣を捨て失踪した]
その悲報は王国のみならず、全世界を駆け巡った。
これで人類は魔王によって蹂躙されてしまうだろう。
絶望が人々を包んだ。
しかし王国はもう1つの重要な局面に苦慮していた。
正確には王国と教会が...
「まさか勇者が魅了を...」
玉座に座る国王が項垂れた。
勇者タカシの魅了がリュートによって奪われ、その効果が消えた。
同時に魅了を受けていた人々の脳裏にタカシに操られていた記憶が浮かぶ。
国王は聖剣だけで無く、宝物をタカシに差し出した。
いや宝物だけでは無い、自らの娘や側妾、果ては正妃までも...
皆タカシに抱かれる事を望んだ。
それが自らの意思、神の祝福を受ける為だと言わんばかりに。
「...申し訳ございません」
国王に平伏する1人の男。
彼は教皇、タカシを真の勇者と定め、神の御使い、救世主と全世界に認定したのだ。
彼もまたタカシの魅了によって操られていた。
数多くのシスターを差し出し、タカシの寵愛を受ける様に促した、それは国民にまでも。
「...国民から怨嗟の声が止みませぬ」
国王に報告する宰相の顔色もまた冴えない。
彼もまた国王と同じ、妻や娘達をタカシに差し出していた。
正気に戻った人々が発狂したのは言うまでもない。
ある者は死を選び、またある者は全てを捨て姿を消した。混乱が国を揺るがしていた。
「リュートの意識は戻らぬか?」
「...はい」
ただ1人、タカシの魅了を国王に糾弾していたリュート。
一男爵にすぎないリュートの言葉に国王は不遜であると処断しようとしたが、勇者タカシに止められた。
『勇者を信じられないのならば、俺の側で仕えれば良い』
タカシの言葉に慈悲を感じた国王はリュートに勇者パーティーへの参加を命じたのだ。
「勇者の行方は?」
「は...残念ながら未だ]
勇者の行方はようとして掴めない。
魅了を失った勇者、脳裏に浮かぶのは肥満した身体、吹き出物だらけで不健康な陰鬱たる容貌をした好色な男の姿だった。
そんな男を真の勇者と認識してしまう程の魅了。
ただ1人それに掛からなかったリュートの絶望は筆舌に尽くし難かっただろう。
「...魔族をどうにかせねば」
絞り出す様に宰相が呟いた。
幹部のアンリューを失った魔王軍は仇討ちを宣言し、自ら大軍を率い進軍を開始したと報告を受けていた。
「そんな事は分かっておる!
だが、どうするのだ?
勇者は聖剣を捨てて行方不明、聖女は部屋に引きこもったまま、戦士もあれでは使い物にならぬぞ!!」
国王の悲痛な叫びが王宮に虚しく響いた。
聖女は部屋に結界を張り、食事を始め外部から一切の干渉を絶った。
『リュート...赦して...』
部屋から時折聞こえる聖女の声。
リュートへの謝罪と、発狂したかの様な叫び声だった。
戦士ネラスは更に酷い。
王宮に戻り、意識を取り戻したネラスは泣き叫びながら壁に頭を打ち付けた。
自らの髪を引きちぎり、骨が見えても止めようとしなかった。
兵士達が力尽くでネラスをベッドに拘束し、あらゆる鎮静剤をネラスに投与した。
現在は混乱こそ治まっているが、目は虚空を見つめ、何を言っても反応を示さない。
ただ、リュートの名を言うと激しく混乱した。
『リュート!!アアアア!!』
全身を捩り、糞尿を撒き散らす様は完全に狂人の様であった。
「賢者は何と言っておる?
リュートは助からぬのか、せめて聖剣だけでも」
王宮に戻ったライザは片時もリュートの傍を離れようとしない。
聖剣が刺さったままのリュート。
しかし彼は生きている。
国王はライザを押さえつけ、兵士に聖剣をリュートから抜くようにと命じたが、無駄であった。
聖剣を扱えるのは勇者のみ。
その勇者が聖剣を捨てて逃げた。
つまり、タカシは既に勇者の力までも失った事を意味していた。
『絶対にリュートを助けます。
また聖剣を無理矢理抜くのをお考えであれば、私は命掛けで歯向かう事をお忘れ無くなく』
ライザは国王にそう告げた。
「待つしか無いのか...」
聖剣が何らかの力をリュートに授けている。
その力が何かは分からない。
最早、すがりつける物がそれしか無いと覚悟する国王達だった。