第1話 魅了のスキル
息抜きです。
テンプレな話ですが、宜しくお願いします。
魔王軍の幹部アンリューに勇者パーティーが渾身の攻撃を放つ。
防ぎ切れなかったアンリューは吹き飛ばされ、床に転がった。
「今だタカシ!」
戦士のネラスが勇者のタカシに叫ぶ。
「任せろ!」
それまで後方で戦いを傍観していたタカシがここぞとばかりに聖剣を掲げアンリューに突進する。
なんとまあ...隙だらけの構えだ。
しかし昏倒していたアンリューには避ける事が出来なかったみたいだ。
聖剣はアンリューの胸を貫き、一瞬で奴の身体は灰と化した。
「やったな!!」
「さすがですわタカシ様!」
聖女と戦士が快哉を叫ぶが、そんなに褒める程の事か?
「...当たり前の結果だ」
タカシ、分かってるな。
全く当然の結果だぞ、お前がやったのは倒れて動かない敵に剣を突き刺しただけなんだから。
「ありがとうユリア、ネラス、ライザ」
イヤらしい笑みを浮かべやがって、何を言ってる?
「おめでとう、タカシ」
「これで一旦帰れますわ」
戦士のネラスと聖女のユリアは嬉しそうにタカシへと駆け寄るが、あんなヘッポコに気づかないのか?
いや仕方ない、彼女達はタカシが持つ魅了のスキルに殺られているのだからな。
「役立たずは早くドロップアイテムを集めなさい」
「そうだぞ、それくらいしか出来ないんだし」
ユリアとネラスは汚い物を見る様な目で俺に命じる。
確かに魔物が落としたドロップアイテムは高位であればある程危険だ。
普通の魔力耐性では忽ち全てを吸い取られてしまう。
体力だけでは無い、魔力も全て、呪いの様な物。
だが俺には効かない。
俺の持つスキル、[吸収]はそんなドロップアイテムの呪いを全て吸い取り、高純度の魔石だけを回収出来るのだ。
「分かったよ」
いくら戦闘能力が低いとはいえ、扱いが酷い。
これでも勇者パーティーでは大切な役割なんだぞ。
「...私も手伝う」
賢者のライザが俺の傍に駆け寄る。
彼女は俺程では無いが魔力耐性が有り、ドロップアイテムの呪いを無効化出来る能力も持っている。
「ありがとうライザ、でも1人で大丈夫だから」
気持ちは嬉しいが、そんな事すると...
「おいライザ」
タカシがライザを呼ぶ。
コイツはハーレムメンバーのライザが俺に近づくのが余程気にくわないみたいだ。
「...なんだ?」
「そんな奴に構ってないで、早く来ておくれ」
「...分かった、リュートまた後で」
やはり魅了の力には逆らえないのか。
タカシの魅了をなんとか外そうとしたが、異世界から召喚者された奴のスキルはどうしても解除出来なかった。
それは世界中全ての人がそうなのだ。
国王も、教会でさえも。
唯一俺だけはタカシの魅了が効かない。
その事はタカシも気づいているが、奴は俺をパーティーメンバーから外そうとしない。
まあ俺が回収するドロップアイテムが高価な金に化けるのもあるが、それ以上に腐った目的があるのだ。
聖女のユリアは俺の恋人だった。
そして戦士のネラスは俺の義姉、賢者のライザは幼馴染み。
この三人を俺から奪い、絶望する姿を見て楽しんでいやがる。
「うん?」
アンリューの灰と化した中にあった魔石が怪しく光る。
これは一体?
「え?」
灰が魔石に纏わり付き再びアンリューの姿と化した。
「おいタカシ!お前ちゃんと止めを刺して無かっただろ!!」
聖剣を抜くのが早すぎたり、弱点を外すとこうなるのだ。
こんなのは素人の冒険者でも分かる事なのに。
「...そんなまさか」
「呆然としてねえで早くしろ!」
逃げながらタカシに叫ぶ。
こんな奴俺が倒せる訳無い。
「キャ!」
アンリューの攻撃にユリアが吹き飛ばされる。いや、タカシを庇ったのか?
「畜生よくもユリアを!」
ネラスが慌ててアンリューに向かうが、もう体力は限界の筈だ。
「止めろネラス!!」
「ぐわっ!!」
「ネラス!」
アンリューの攻撃を防ぎ切れずネラスは壁に叩きつけられる。
口から血を吐きながらネラスは倒れた。
「タカシ何をやっている!」
呆然としたままのタカシに再び叫ぶが、
「...そんなまさか確かに止めを刺した筈だ、もう俺には奴を倒すだけの魔力が...」
聖剣を見ながらブツブツと呟くばかりだ。
「おい早くしろタカシ!」
「...そうだよ、そうすれば全部解決だ」
突然タカシが俺に聖剣を向けた。
「え?」
「こうすりゃ、良いんだよ」
「ウゲェ」
タカシの聖剣が俺を貫く、後ろにいたアンリュー共々。
「これで全部思い通りだぜ」
血走った目でタカシが呟いた。
「ギィィ...」
俺の胸に刺さった聖剣を抉るタカシ...糞、力が急速に...
「喜べよ、お前の[吸収]でアンリューの魔力がどんどん吸い取られて行くぜ」
「...貴様」
そんな事を考えてやがったのか...
「リュート!!」
ユリアとネラスにヒールを掛けていたライザが駆け寄って来た。
「しっかりしてリュート」
慌ててヒールを掛けるが無駄だ。
聖剣の怪我はヒールでは治らない。
「止めろライザ」
「タカシ貴様!!」
「ライザ止めろと言ったんだ!」
「...グゥゥ」
やはり魅了の力に逆らえないのか、ライザは気を失い、膝から崩れ落ちた。
「ライザにはお仕置きが必要だな、今晩は覚悟しろ」
「...なんだと?」
一体どういう意味だ?
「ユリアとネラスにはタップリ魅了を味わわせてやったからな。
これをやり過ぎると聖女と戦士のスキルが落ちるからライザには控えていたんだが...」
「...そうだったのか」
畜生、こんな屑野郎に。
「アバヨ、リュート君」
タカシが聖剣を引き抜こうとする。
このまま死ねるか!
「[吸収]!!」
「ガア!」
最後の力を振り絞る。
こんな事をしても意味は無いだろうが、せめて一矢を報いたかった。
「...ち、畜生俺の魅了が」
絶望するタカシの声を聞きながら気が遠退いて行った。