男二人に女一人な幼馴染
男二人の女一人な幼馴染
古鳥陽菜は美少女だ。幼馴染の俺が彼女を好きになるのなんてあまりにも必然的すぎる事象と言えるぐらい可愛かった。そして、俺のもう一人の幼馴染である橋本輝樹も彼女のことが好きである。
橋本輝樹はイケメンだ。高二になって三ヶ月の間で告白された回数は軽く二桁を超える。成績は俺の方が優秀だが、それ以外全て輝樹に負けている。もちろん陽菜も輝樹とよく一緒にいるし、正直俺が三人一緒に登校できているのは幼馴染だから仕方なくということだろう。
神崎蓮という俺の容姿には似つかわしくないかっこいい名前を少し恨んだことはあるが、輝樹を恨んだり陽菜に俺のことを好きになれと強要することはなかった。この二人といる時間は俺にとって宝だったし、どう転ぼうと祝福して一緒にいられる気がしていた。
「なぁ蓮」
「どうした」
「俺陽菜と付き合うことになった」
「ほう、それは喜ばしいことだな。おめでたい」
「ありがとな」
ぎこちなく笑っている輝樹は俺が陽菜のことを好きなのを知っているからだろう。少し後ろめたい気持ちを持っているのかもしれない。まぁ二人が幸せなら俺はそれでいいんだがな。
「それでだ、明日からの登下校申し訳ないんだが二人っきりでさせてくれないか?」
「いいだろう。俺にできることなら言ってくれ」
「そうか…ありがとな」
ニコニコ笑顔の輝樹を見ていると俺も嬉しくなってしまう。やっとあの二人がくっついたのかーと思い吹けられたのは本当に一時間だけ。この会話は放課後にあったのだが、夕方6時になった時電話がかかってきた。
…陽菜からの電話だ。
「もしもし」
「蓮〜?今どこいる?」
「今は家だが…」
「ふーん。私がどこにいるかわかる?」
「知るよしもない」
「だよねぇ。今さ、輝樹とホテルいるんだ」
「はぁ…?」
なんでわざわざ俺にそんなことを報告するんだ?幼馴染は特別と言えどもここまでのことをするだろうか?普通はしないだろうな。
「嘘だよ、今あんたの家の前にいんの」
「なんでだよ」
「話をしにきたのよ」
「話とはなんだ?」
「先に入れてよ、家にいんでしょ」
「…わかったよ」
輝樹という彼氏がいるのにそれをほっぽりだして俺のところに来るかね…?
「あんたの部屋変わんないわねぇ」
「変わったぞ、主に教科書が」
「本棚の一部分じゃない」
雑談を挟んではいるが陽菜の顔がどこか暗く感じる。付き合ってそんな経っていないだろうにもう破局の危機か?
「それで?本題はなんだ」
「…そうね、強いて言うなら私と輝樹のことについてよ」
「どうした?恋愛関係のことについて俺は詳しくないぞ」
「違うわよ…そもそも私も貴方も恋愛経験ゼロでしょ?」
「自分で答えを言ったじゃないか、俺に相談するより友達にした方が得策だろう」
「あんたってほんとめんどくさい言い回しするわよね、話が進まないわ」
「こう言う性格だ。本題が進まないのも詳しく説明しない陽菜が悪いとしか言えないな」
「だから、私と輝樹のことについてどう思ってるの?」
「だからとは…?」
そんな気になることだろうか?俺が陽菜を好きなことを本人にもバレているからこうも詰めに来ているのだろうか?
なんとなくだが、気持ちに気付いているのなら無視をしてほしいところだな。
「ねぇ」
「ふむ、どうと聞かれてもおめでたいとしか言えないな」
「なんか心がモヤモヤするとかないわけ?私たちの関係が変わるんだよ?」
「少しはモヤモヤするさ、これでとうとうぼっちになるのかなぁってさっきまで考えていたぞ」
「違う!なんか違うの!」
「何を求めてるんだ?」
「だから…」
さっきまでの威勢はどこ吹く風か、急に黙りこくってしまった。うぅむ、祝いの言葉が欲しいわけではないのならなんなのだ?まさか俺と浮気するための誘導尋問でもしようとしてるんじゃないだろうな?
「ねぇ」
「なんだ、俺は浮気はいけないことだと思うぞ」
「浮気なんかしないわよ…」
「じゃあなんだ、輝樹のことはいいのか?」
「輝樹は今頃女の子と夜ご飯食べてるんじゃないかしら」
「なっ!輝樹が浮気をしたのか!」
「だから違うって言ってるじゃん!この分からず屋!」
「な、何が違うんだ!輝樹と陽菜は付き合っているんだろう?それが浮気じゃなければなんだ、何が浮気と定義されるんだ!」
「そもそも私たちは付き合ってないの!あんたの重い腰を動かせるための嘘だったの!!」
「は…?嘘…?」
「そうよ」
理解が追いつかないとはこう言うことを言うのだろう。なんで俺にそんな嘘をついてきたんだ…?いや、陽菜の言いぶりから輝樹と陽菜は協力しているのだろう。ふむ…。
「なんで嘘なんか…」
「だって…」
「だって?」
「私…あんたのこと好きなんだもん…」
「は…?」
「だから!好きなの!あんたのこと!名前も呼ぶのが恥ずかしいぐらい好きなの!」
「な、え?なんで…俺なんかのこと…」
「なんかじゃないもん…私にとっては大きい存在だもん…」
急にしおらしくなった陽菜は顔を真っ赤に染めながら語り始めた。まだ俺たちが小学生だった時の話だ。
「私ってさ、バカだったじゃん」
「そうだな」
「ふふっ、否定ぐらいしなさいよ」
「間違ってはない、今は別にバカじゃないからな」
「そうね、あんたが小学生の時から勉強教えてくれたんだものね」
「教えて欲しいと頼んだのはそっちだ」
「そうね…、あの時って…あー、覚えてるだろうけど私すごい追い詰められてたんだ」
「教師か?」
「そう、先生が頭の悪い子は素行が悪いからって言う持論持っててさ…。私テストの点数いっつも悪くて、先生にいっつも怒られてたの」
「それで俺のことを好きになるか?」
「違うよ、勉強を教えてもらったから好きになったとかじゃないの。その時私になんて言ったか覚えてる?」
「その時とは…?落ち込んでる陽菜を励ましたことだけは覚えてるぞ」
「そうね、ただ思ったこと言っただけだろうからさ。あの時、私が先生に怒られるの恥ずかしくてお母さんにも言えないって言ったらさ、あんたは『じゃあ俺は陽菜の中で家族よりも上なんだな』って言ったのよ?」
「そんなことを言ったのか、随分と大きく出たもんだ」
「そうね、今言われたら笑っちゃってたかも…。でもね、私は確かになって思ったの。家族に言えないことをあんたに言えた、あんたに言えたんだから家族にだって言えるって思ったら気が楽になったの。家に帰ってそのままお母さんに話した。そしたらびっくりずーっと悩んでたことが一瞬で解決したの。先生が怒ることは無くなったし、テストの点で注意されることはあったけどアドバイスの一言って形に変わったの。そこからだった、あんたを意識したのは」
「ふむ、俺と関係はなさそうに思えるが…」
「もちろん最初は幼馴染だもん、家族よりも上に位置したっておかしくないって思ってた。でも、こんなあっさり私のいる世界を変える方法を教えてくれたあんたは確かに家族より上にいたの。その事実に気づいた時胸が苦しくなって、あぁこれが好きってことなんだなってなんかすんなりと分かったの」
「…」
「だから私と輝樹が付き合ったって聞いた時どう思ったのか知りたかったの」
「なるほど…」
まさか小学生の頃の一件でここまで俺に恋をできるものだろうか。いや、実際にしているのだから俺もこの気持ちに応えなければいけない。
「そうだな、もちろん最初は嫌だと思ったさ。でも輝樹と陽菜、二人とも美男美女でお似合いだ。ずっと、幼稚園の時から一緒にいたんだ。俺は二人の良さを誰よりも知っている。だから輝樹に勝てるなんて思ってなかった」
「ふぅん、そういうこと…」
「そういうこととは?」
「輝樹好きな人いるよ」
「だからそれが…」
「私じゃないよ」
「は?」
「三人一緒にいても気づかないことって多いんだよ?あんたも気づかなかったでしょ?私があんたのこと好きだなんて」
「そ、そりゃ気づくわけがないだろ…だって…」
「そうだよね。だって、私たち女だもんね」
「そ、そうだ…」
「ふふ」
俺が陽菜を好きになるのは当たり前と言えば当たり前だった。彼女はいつもきらめいていたし、俺の憧れで勉強を教えられることに誇りを感じていた。
そもそも、こんな男勝りな性格や口調をしている女な俺にも変わらず接してくれる彼女は天使と見間違えるほどには聖なる者だった。
「ねぇ、両者の了承があれば女性同士でも付き合えると思うんだけど…蓮はどう思う?」
「う…、嬉しいけど…。俺たちは女だぞ?付き合ったところで何があるんだよ」
「何があるって…。いっぱいあるよ!私ずっと我慢してたの!蓮と高校生になったらおしゃれ一緒にしたいな〜とか、渋谷とか行きたいなとか思ってた!でも蓮は私とちょっとずつ距離置くようになったでしょ?私が気づかないと思った?」
「だって、俺と陽菜は住む世界も性格も違いすぎる…。俺が陽菜の友達だと知られたら陽菜にも迷惑を…」
「私蓮の内気な性格も可愛くて好きだけど、私に迷惑がかかるって何?私一回でも言った?一緒にいたいのに離れてく蓮を私は追いかけられないんだよ…、嫌われたのかとさえ思ったもん…」
少し泣きそうな顔をする陽菜を見て俺は決断した。いや、再認識した。俺は陽菜が好きだ。同性同士の付き合いに未だ抵抗のある日本社会だが、そんなの関係ない。
「陽菜…、俺陽菜のこと好きだよ?すごい好き、その瞳に俺以外のやつが映るのなんて考えたくもないぐらい好き…。俺と付き合ってくれるか?」
「本当?言ったからね?嘘じゃないよね?」
「嘘なんかじゃない」
「嬉しい…。私も叶わない恋だってずっと思ってたから…」
「俺もだよ、好きなだけじゃただ苦しいだけだと思ってたけど…。よかった、十年の恋も報われた」
「ふふ、私もそれぐらいかな?」
「なぁ」
「わかってるよ」
「何をわかってるんだよ」
「キス…したいんでしょ?」
「…」
付き合えた喜びを忘れないものにしたいから、記憶にずっと残したいからここでキスしよ…って言おうと思ったが思考を読まれてしまっていたらしい。嬉しいような悔しいような…。
「ふふ…本当に蓮は可愛いなぁ…」
「そんなこと陽菜しか言ってくれないよ」
「私以外に言われなくてよくない?」
「…それもそうか」
「可愛い顔を私に見せて…」
陽菜とのキスは永遠にも須臾にも感じることができるほど、記憶の奥底に刻まれた。
初めてのキスをしてから私は変わった。相手を威嚇するような男口調に陽菜のような可愛らしい話し方が混じったものとなった。同性しか愛せない自分はおかしいと、自ら社会に溶け込みにくくする必要はすでになくなった。
私の隣にはいつだって陽菜がいる。陽菜が一緒にいるおかげで私は今日も生きている。
「案外長続きしてるな」
「このまま一生を共にするつもりだけどね」
「もう、蓮ったら」
「私は感謝してるんだよ…、あの時嘘ついてくれたこと」
「ははは、俺が付き合ってるとか嘘ついてんのに蓮全く反応しなかったから焦ったよぉ。ま、ちゃんと付き合えてるから結果オーライだな」
「えぇ、やっと日本も変わったしね」
「蓮とちゃんと話し合ったんだ」
「なにをだ?」
「私たち結婚することにしました〜」
「いぇ〜い」
「おぉぉ、それはめでたいな!」
変わったのは私だけではない。日本の同性愛への寛容さももちろん変わったのだった。ただただ、この瞬間を待ち侘びていたよ。陽菜、これからもよろしくね。
女二人に男一人な幼馴染達でしたね。題名に嘘あんじゃんって思った貴方!そうです、全部嘘だったんです!でも、物語ってそういうものでしょう?(かっこつけてみるも滑るタイプ)
インチキをインチキと見破った上で作り事として楽しむ(分かる人には分かるネタ)
閑話休題…楽しんでいただけたでしょうか?
男の子にも幸せになってほしいですよね、いつか書いてみたいなぁ。ま、嘘なんですけどね(おい、今日はエイプリルフールじゃなくてハロウィン)
ま、大まかに見れば女二人だったじゃんって言う悪戯だったって事で…。では、ご縁があればまたどこかで〜