チャット8『断罪回避TA』
悪女:ミシェルと王子の出会いや馴れ初めなどは不要かと存じますので、省略させていただきますね。そもそも王子の正式な婚約者はわたくしですので、現代でしたらさくっと裁判。慰謝料たんまり請求で、ご祝儀に地獄のランデブーをプレゼントして差し上げるところですわ
知恵:え? 正式な婚約者がシャーリーちゃんなの? 王子倫理観バグってるだろ
勇者:王族の婚約なんざ政治も絡んでくんのにヤベェって。恋愛どころの話じゃねぇよ
悪女:恋愛(笑)ゲームという認識で構いませんわ
知恵:恋愛(笑)ゲーム
勇者:恋愛(笑)ゲーム
悪女:ただ、ヒロインのミシェルにも同情すべき点はございます。なにせ最初に出てくる選択肢で「逃げる」を選択しなければ強制王子ルート突入ですもの
勇者:うっわ、絶対逃がさねぇっつー執念を感じるな……
知恵:ち、ちなみにどんな場面でどんな選択肢が出てくるの?
悪女:王子と初対面のシーンで、選択肢は確か……「挨拶してお話しする」と「気付かなかった事にして逃げる」でしたわね。常識ある人間なら挨拶いたします。おかげで初見プレイが王子になった人たちの阿鼻叫喚が凄まじかったですわ!
王子の吸引力ヤバイな。某掃除機レベルじゃん。吸引力の変わらない唯一つのルートってか。笑えるか。
選択肢からして王子からの偏愛は凄いし、政敵には狙われるし、挙句の果てにスプラッタホラーなプロポーズなんでしょう?
ヒロインやるのも大変だな。
しかし、王子に出会った時の選択肢に「逃げる」があるのおかしいだろ。製作者側の【この王子捕まったらヤバイですよ察して】感が透けて見えるよ。
悪女:では、お話を戻しまして。悪役令嬢シャーロットはあんなク……いえ、お排泄物王子でも愛しておりましたの
知恵:丁寧に言ってもアウトだと思うよシャーリーちゃん!?
悪女:愛する王子が日に日にミシェルへの執着を見せるようになり、堪らなくなったシャーロットはミシェルへ進言いたします。あの方はわたくしの婚約者です。あまり親しくなされて醜聞が広がっては迷惑です、と
勇者:うん。まったくの正論だな。王子に言えれば一番だったんだが
悪女:え、ええ。まったくそうですわね! ええ!
知恵:あー……シャーリーちゃん、ちなみにどんな風に言ったか覚えてる?
悪女:うっ!
知恵:……シャーリーちゃん
悪女:聖なる乙女に選ばれたようですが、あなたのような芋臭い女をお傍に置いているのは温情に過ぎません。まさか少し優しくされただけで勘違いされたわけではありませんわよね? ああお恥ずかしい! このような醜聞、娯楽のネタとしても三流。迷惑千万ですわ。あの方の婚約者はこのわたくし、シャーロット・フォン・クレンドン! よく、覚えておくように!
勇者:なるほど悪役
知恵:いっそ清々しいね
悪女:ち、違うのです! わたくしではなくて! いえ、わたくしもシャーロットなのですが、その……うぅ……知恵神様、あの……幻滅、なさいました?
知恵:まさか。今のシャーリーちゃんとは違うって、ちゃんと分かってるから
悪女:知恵神様ぁ
勇者:はいまた俺蚊帳の外!
知恵:なに拗ねてんだよ
勇者:拗ねてねぇし?
知恵:ったく。もしゆう君に困ったことが起きたら力になるってば。ちゃんと連絡くれよ? マブなんだろ?
勇者:――ッ、た、しかに、マブって言ったけど……!
悪女:知恵神様
勇者:……お前、ホントそういうとこさぁ
悪女:ですわよね!
知恵:なんだよ、二人して
俺なんか変なこと言ったか?
ログを見返してみても、おかしなところは見当たらない。
本当、なんなんだよ。
悪女:ちなみに先程の現場を王子に押さえられまして
知恵:さらっと爆弾発言!?
悪女:そこからシャーロットと王子の仲は更に険悪になります。そして、そして……ちょうどその三日後です。わたくしの前世の記憶がよみがえりました
知恵:なんというタイミング
悪女:もう! ここまできたなら記憶など戻らずそっとしておいてほしかったですわ! あのク……お排泄物王子の婚約者であるだけでも鳥肌ものですのに! 断罪秒読みって! タイムアタックですの? 断罪回避タイムアタックですの?? むーりーでーすーわー!!
現代の記憶が戻って最初に突き付けられたのが断罪秒読みって。叫びたくもなるよな。
俺とゆう君は空気を読み、シャーリーちゃんの息が整うまでお互い黙っていることにした。暗黙の了解というやつだ。