チャット7『王子ルートを進行中』
勇者:あっはっは! やべぇ、マジ防音魔法張っといて良かった。でなきゃ今頃、パーティーメンバーが俺の部屋に突入してくるところだ!
知恵:どんだけ笑い倒してんだよ!
勇者:そりゃもう、ベッドギシギシよ
知恵:ゆう君!!
足をバタバタさせていたでいいじゃないか。シャーリーちゃんもいるのに単語の選び方が下品だぞ。
駄目だ。これが普段一人称「僕」の王子様系イケメンとか信じられない。真実だとしたらどんだけ猫被っているんだって話だ。十枚か。二十枚か。蒸れるぞ。
知恵:ごめんね、シャーリーちゃん。真剣な話なのにこんな
悪女:いいえ。お通夜になる方が息苦しいですもの! こうやって明るい雰囲気にしていただけると心が軽くなりますわ!
勇者:おー、良い子だなぁ悪女ちゃんは
知恵:本当にだよ。これからは極力脱線しないよう気を付けていこう!
勇者:お互いにな
知恵:……うん
そうだよ。俺も脱線要員の一人だよ。
思いっきりカウンターパンチを食らった胸を押さえつつ、脳内を整理する。
今はとにかく物語の把握が先決だ。
シャーリーちゃんに教えてもらうのが一番手っ取り早い気もするけど、なにせ彼女にとってトラウマ級のシナリオだ。二周三周とプレイしていないだろうし、あやふやな部分は多いはず。
俺も一度ネットで調べてみようかな。プレイ感想が落ちていたら役に立つ。
ただ、過度な期待は禁物だ。シナリオを楽しむゲームは極力ネタバレしないよう配慮されていることが多い。攻略サイトに選択肢が乗っていれば儲けもの、ってところかな。
確か『あなたの腕に抱かれて』だっけ。
俺はスマホを取り出すと、検索バーに放り込んでみる。
――あれ?
おかしいな。公式サイトくらいはヒットすると思ったんだけど。
検索結果を上から下へ舐めるように見つめてみても、似たような単語がいくつかヒットするだけだった。「あなたの腕に抱かれたい」「あなたの腕に抱かれて眠る」「あなたの腕に抱かれてグーパン」などなど。ほぼ曲のタイトルみたいだ。てか、三つ目なにこれ。すげぇ気になるな。
――おい。脱線しないと誓ったばかりだろ、俺!
ぱちんと頬を叩いて気合を入れ直す。
ううむ。昔のタイトルすぎて話題に出す人すらいない、とか。公式サイトが引っかからないのは、ビックリするほど売れなくてメーカーが消えた――いや、やめておこう。考えても結果は変わらないし、なんか悲しくなってきた。
悔しいが、やはりシャーリーちゃんの記憶頼りってことになるみたいだ。
知恵:ごめん。こっちでも色々調べてみたんだけど、やっぱりシャーリーちゃんの記憶が頼りみたいだ。悪いけど、物語の流れを教えてもらっていいかな?
悪女:え? ゲームの内容を調べることが出来るのですか?
知恵:うん。まぁ、ある程度のタイトルなら。……いけるはずだったんだけどなぁ。うぅ、君の知恵だって大見得切ったのに申し訳ない
悪女:知恵神様……ふふ、本当にお優しい方なのですね
勇者:あ。そうだ。質問いいか?
知恵:うん。どうぞ
勇者:悪女ちゃんの転生した世界についてなんだけど、その、おとめげぇむ? とかいうのって何だ? ゲームなのか?
知恵:恋愛系アドベンチャーゲームの一種だよ。選択肢を選んでいって数あるエンディングのどれかに到達するゲーム……っていう説明であってるよね?
悪女:さすが知恵神様です! そちらの説明で問題ありませんわ。付け加えるならば通称『あな腕』には五人の攻略対象がいます。王子、騎士、宮廷魔導師、暗殺者、そして隠しルートの第三王子。中盤までの好感度判定でどのキャラのルートにいくか決まり、その後の選択肢や好感度の高さによってグッドエンド、ノーマルエンド、バッドエンドに枝分かれしていきます
勇者:へぇ、ルート別ねぇ。つーことはさ。今、誰かのルートに進んでいるのか?
悪女:……今、ちょうど王子ルートの終盤に差し掛かっている状態ですわ
知恵:それは間違いないんだね?
悪女:ええ。ヒロインと王子の行動をみるに、間違いありませんわ
なるほど。既にルートは絞られていてエンディングまであともう少し。なら、必要な情報はあまり多くないな。その分こちらが取れる選択肢も少ないわけだけど、それは後々考えていけばいい。
今はとにかく、シャーリーちゃんの記憶がはっきりしている事実を喜ぼう。
シャーリーちゃんの性格からして、確証のない話には多分や恐らくといった枕詞を付けるはず。しかし今回彼女はきっぱり間違いないと言い切った。物語の流れを完璧に把握している証拠だ。
知恵:シャーリーちゃん
悪女:かしこまりました。この物語はヒロインことミシェルが聖なる乙女として見いだされ、王宮で暮らしていくうちに様々な男性と恋に落ちる、というストーリーが展開されますわ。ミシェルは庶民の出ですが、聖なる乙女選抜の儀に迷い込み、偶然か必然か、彼女が選ばれてしまったところからお話は始まります