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チャット5『詳しい勇者』



 こいつ分かってやってるだろう。

 何が勇者だ。人をからかって遊ぶなんて碌な奴じゃねぇ。どうせ変換ミスだ。勇者じゃなくて遊者だよ。絶対。



勇者:悪い悪い。今のは冗談だ。ちゃんとログ読んだ。カオスってんな、このルーム


知恵:あんたのせいで余計カオスになったんだよ!


勇者:えぇ。それが親切心から入ってきてやった俺に対する言いぐさかぁ? ルーム名『助けてくださいまし!』なんて、普通怪しくてロムすらしねぇぞ


知恵:ルーム名?


悪女:ルーム名とはなんでございましょう?


勇者:マジかよ



 俺の知っているチャットと同じなら、ルームとは参加メンバーのみで会話するための部屋。ルーム名とは部屋の名前――もとい目的だ。

 一般的にその部屋で何がしたいか、こういう部屋を作りましたので誰か入ってきてください、みたいな名前を付ける。例えば『誰でも歓迎 テンセイジャーを語る部屋』とかだ。


 でも、そんなのあったかな。


 チャット画面の端から端までぐるりと確認してみる。しかし自称勇者が言うルーム名らしきものは見当たらない。というか、どこへ入るかなんて選択肢すら出ずに、シャーリーちゃんのルームに強制参加だった気がするんだけど。



勇者:仕方ねぇなぁ。おーっし、正座して聞け。素人共!


知恵:天井にあるから正座したら首攣るし


勇者:そこからかよ。その画面、端っこ掴んだら持てっから。やってみ?


知恵:え? 持てんの?



 半信半疑。こいつの言うことなんて信じられるのか。

 疑いの眼差しで画面の端を摘まんでみる。すると、まるで薄いプラスチック板を掴んでいるかのようにそれが持ち上がった。マジかよ。


 俺は慌ててベッドの淵へ座り、プラプラと揺らしてみる。なんだこれ。掴んでいる感覚はまったくないのに俺の手に合わせて画面が揺れている。

 凄い。憧れのSF世界がこの手にあるぞ。

 テンション上がるぅ!


 指を離すと画面は空中に浮かんだまま止まった。なるほど。離した位置に固定されるわけね。後はもう少し小さくなってくれればスマホみたいに持ち運べて利便性が増すんだけど。さすがに無理だよな。


 少しだけ画面と睨めっこし、スマホと同じように二本の指を使って縮めてみる。


「うわっ! マジか」

 


勇者:お。出来たか? ちなみにサイズ変更も――


知恵:指で縮めたらできた!


勇者:はえぇよ。さすが知恵って名前つけてるだけあるな。ちなみに設定画面を開いたら出現時・消去時のアクションが決められるぜ。俺は単語登録で『豚骨味噌ラーメン』にしてる。これ設定しといたら、どこでも使えて便利だぞ


知恵:豚骨で味噌なの?


勇者:うるっせぇ。美味いんだぞぉ! あと、うっかりミスって言っちまう事もねぇからな。こういうのでいいんだよ


知恵:なるほど、意外と合理的なんだ


勇者:意外は余計だ



 自称勇者、口調は軽いけどちゃんと頭使うタイプなのか。驚きである。この『転生者チャット』についても詳しいみたいだし。いわば先輩だ。

 いや、絶対に「先輩」なんて呼ばないけどな。馬鹿にされた恨みは消えぬ。


 それじゃあさくっと済ませてしまおう。


 確か転生者チャットの設定画面には、出現時・消去時のアクションを決める項目はなかったはず。うん。ハンドルネームを決める時に確認したから間違いない。

 となると、残る選択肢は――。


「転生者チャット縮小化。設定画面オープン」


 俺がそう口にすると、画面いっぱいに広がっていた転生チャットは小さくなって左下に移動。同時に設定が立ち上がった。


 やっぱりか。

 トップ画面に表示されているアイコンは『転生者チャット』のみ。設定はアイコンとして表示されないシステムみたいだ。まったく。舐めているだろ。機械音痴だったら一生かかっても見つからないぞ、こら。


 とりあえず一通り何を設定できるか確認した後、出現時・消去時のアクションを設定することにした。自称勇者のように単語で登録するのもありだが、仕草などでも大丈夫らしい。例えば「耳たぶの裏を触る」とかだ。


 俺は少し考えてからパチン、と指を鳴らした。

 指パッチンで画面が出てくる。絶対格好いい。


「ちょっとクサイ気もするけど……いや、いやいや、これは男のロマンだし!」


 少しのむず痒さと、それを覆い隠すほどの高揚感で胸が跳ねる。

 画面上には『登録完了いたしました』の文字。


 これで問題なく出来たと思うけど。念のため試しておいた方がいいよな。俺は息を吸ってパチン、と指を鳴らした。画面が消える。もう一度パチン、と指を鳴らす。画面が出現した。



知恵:おおぉぉ、イイ! めっちゃイイ!!


勇者:いや、テンション上がりすぎじゃね?


知恵:シャーリーちゃんも設定してなかったらしておいた方がいいよ。速度が勝負だしね。いつでも連絡は取れるようにしておいた方が安全だし!


悪女:うぅ、さすが知恵神様ですわ。わたくし、全然ついていけておりません


知恵:大丈夫大丈夫。分からなかったら、今の状況を教えてくれればアドバイスできると思うから。とりあえずやってみよう!


悪女:は、はい! 不肖シャーロット、頑張りますわ!


勇者:で、知恵はどんなのにしたんだ? 人のにケチ付けたんだ。すげぇ合理的で素晴らしいやつなんだろうなぁ?


知恵:根にもつなぁ! 普通に指パッチンだよ。指パッチン!


勇者:ゆび……――ブフッ! ふ、ふふっ、……あっはっはっは! お前、中身ガキだろ! 絶対そうだ! だからテンションが上がったのか! あっはっは!


知恵:なっ、なんだと! 笑い過ぎだろ!


悪女:そうですわ! 知恵神様に向かって失礼ですわよ!


勇者:ふふっ、知恵神様、知恵神様ねぇ。……まぁいいや。それで、悪女ちゃんはどう? できた?


悪女:そ、それが、その……知恵神様ぁ



 その反応で俺たちは察した。

 多分、一ミリも進んでいないんだろうなぁ、と。

 よし。ここで力になれなきゃ知恵神――いや、実際は知恵袋なんだけど。まぁいいか。知恵の名が廃るってものだ。



知恵:オッケー、なんとなく状況は察したよ。それじゃあまず俺の言う通りにやってみて。シャーリーちゃんの状況を確認しながらゆっくり進めて行こう。大丈夫、焦らなくても良いからね


悪女:知恵神様……上司に欲しい……!


知恵:え? 上司?


勇者:悪女ちゃん、最初に入ってきたのが知恵で良かったなぁ


悪女:それはもう! 身に染みて痛感しておりますわ!!


知恵:え、あ、ありがとう。なんか照れるな。でも、その次が自称勇者で良かったよ。詳しい人が来てくれたおかげで、スムーズに今後の対策がとれそうだ


勇者:おっ、なんだぁ。褒めてくれんのか? ――ってこら。ちょっと待て。なんだ自称勇者って。違うぞ。俺は正真正銘の勇者様だぞ!


知恵:じゃ、はじめるよ。シャーリーちゃん


悪女:はい。お願いいたします!


勇者:ねぇちょっと知恵くーん? 聞いてますぅ?



 その後、設定画面を出すのに五分。出現時・消去時のアクションを決めるのに十分ほどかかったが、無事すべてが完了した。


 ちなみに、アクションを決めるのに十分もかかった理由は、最初登録した単語が「知恵神様」だったからである。俺を呼ぶたびに画面が消えてしまい、会話どころではなくなったのだ。


 どうして俺の名前を登録しちゃうの。


 二人がかりで説得して修正してもらったけど、「知恵神さ――」「知恵が――」と頻繁にログアウトしていくシャーリーちゃんはもはやギャグだった。

 笑いをこらえるこっちの身にもなってほしい。

 自称勇者なんて、途中から笑い転げて息してなかったぞ。


 でも、「口に出したら心強い言葉にしようかと思いまして!」と自信満々に言われては、何も言い返せなかった。尻尾をぷりぷり振る犬の幻影が見える。俺もうシャーリーちゃんに何言われても許しちゃうな。



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