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チャット3『断罪はパーティーらしい』



悪女:お世話になるのですもの。今更ですが、自己紹介させていただきますね


悪女:わたくし、シャーロット・フォン・クレンドンと申します。由緒あるクレンドン公爵家の長女。魔法の才は平々凡々なれど、小狡く回る頭は天下一品。銀の髪に陶器のような白い肌は一見儚げだが、鋭い瞳は女豹そのもの……という設定ですわ


知恵:なんて他人行儀な自己紹介。ていうか設定?


悪女:そこに気付かれるとは、さすが知恵神様! そう、伯爵令嬢シャーロットとは昨夜までの仮の姿


知恵:仮の姿


悪女:なんと中身はしがない会社の事務員だったのです! うわぁああん! 悪役令嬢転生なんて物語の中だけでお腹いっぱいですわ! 助けてください知恵神様ぁああ!



 ステイステイ。落ち着こう。俺の頭がついていってない。

 とりあえず脳内を整理させてください。


 彼女――シャーロットちゃんは元事務員さんで悪役令嬢に転生してしまった、と。

 小狡く回る頭がなんとか言っていた気もするけど、記憶を取り戻したせいでその片鱗すら見えないぞ。可哀想に。


 しかし悪役令嬢って何だ。


 悪人令嬢とか極悪令嬢では駄目なのか。なぜ役なんだ。演じているのか。生まれながらに役職が定められている世界、みたいな。いやでも役職「悪役令嬢」とは。一体。

 困った。世界観がわからん。



知恵:その、悪役っていうのは辞められないの? 役だけに


悪女:もっともなご意見ありがとうございます。ええ、わたしくだって辞められるものなら辞めたいですわ。でももう、引き返せないラインまで来ているのです!


知恵:なるほど。時間がないんだな


悪女:はい。一週間後には断罪イベントが始まってしまいます。そうなってしまえばシャーロットの破滅は確定。一刻の猶予もございません!


知恵:だ、断罪イベント?



 あまりに物騒な単語だったので、思わず聞き返してしまう。

 イベントってあれだよな。スポーツイベントとか、展示会や博覧会とか。そういうお祭り的な催し物の事だよな。パーティー的なあれだよな。



知恵:いやいやまさか。断罪がパーティーなわけ


悪女:いえ、断罪はパーティーですわ


知恵:断罪はパーティーなの!?


悪女:もちろんですわ。断罪と言ったらパーティー、パーティーと言ったら断罪――は少し言い過ぎかもしれませんが、一大イベントには違いありません


知恵:一大イベントにまでしちゃってる!?


悪女:それはもう、唯一の取り柄が断罪イベントみたいなものですから。それ以外はさっぱり評判は良くありませんわ


知恵:その国大丈夫なんです!?


悪女:残念ながらハピエン確定ですわ


知恵:もうダメだろその国! ……って、え? ハピエン確定?


悪女:ええ。断罪イベントが起きる事でフラグが立ちますの。よっぽどな事をしない限り、ハッピーエンド確定ですわ



 どうして国の未来を知っているのか。まさか悪役令嬢兼預言者だったのか。などと馬鹿な事を考えていた俺に、シャーロットちゃんがフラグという言葉をぶっこんできてくれた。

 俺はふう、と息を吐き出してチャットログを見つめる。


 オーケーオーケー。なるほどね。

 相互理解という観点で、俺たちの間には大きな溝が存在していたのだ。

 俺のなんちゃって灰色の脳細胞が導き出した一つの答え。

 それは――。



知恵:あの、もしかしてシャーロットちゃんってゲームの話してる?


悪女:ハッ! わたくしったら、世界観の説明を疎かにしておりましたわ。そうなのです。わたくしが転生した世界は、乙女ゲームと呼ばれる女性向け恋愛ゲームの世界なのです!


知恵:お、乙女ゲームの中に転生? 


悪女:ええ! その通りですわ!


知恵:いや、いやいやいや。ちょ、ちょ、ちょっと待ってね!



 乙女ゲームって、ヒロインになってイケメンと恋愛するあれだよな。

 なるほど分からん。どういうことだ。


 俺はただシャーロットちゃんが今遊んでいるゲームの中で断罪イベントが発生するのだと思っていた。ファンタジー世界でもゲームは存在するんだぁ、くらいの考えだった。


 でもこれ、どう考えもシャーロットちゃん自身がゲームの中に転生しているって言い方ですよね。なんだそれ。ゲームの中の人物に転生するってどういうこと。あり得ないでしょ。ほとほとおかしな事案ではなかろうか。


 ――いや待てよ。


 転生者チャットなんてアプリが作られるくらいだ。俺が知らないだけで、もの凄い数の転生者が存在しているのかもしれない。

 それなら辻褄を合わせることはできる。


 例えば、シャーロットちゃんの世界を生きた誰かが現代に転生し、転生前の記憶を参考に物語を作った、とかだ。今回の場合はゲームだな。乙女ゲーム。

 そしてそのゲームをプレイした元事務員さんが、今度はゲームの題材であった世界に悪役令嬢シャーロットとして転生してしまった。

 こう考えると点と線は繋がる。


 まぁ最終的には『タマゴが先かニワトリが先か』みたいな因果性のジレンマに陥るが、今は深く考えないでおこう。あまり時間はないみたいだし。



知恵:えっと、ごめん。ちょっと頭を整理してた


悪女:いえ、正直わたくしも何が何やらで。こうやって相談に乗っていただけるだけで心強うございます


知恵:シャーロットちゃん


悪女:あの、もしよろしければシャーリーとお呼びくださいませ。ちょっとだけ文字数が減って、呼びやすくなりますわ!


知恵:うん、確かに一文字減るね! ではシャーリーちゃん


悪女:えへへ。はい、ですわ!


 

 良い子すぎないだろうか。

 俺は顔を両手で覆ってごろごろとベッドの上を転がった。


 素直。純朴。愛らしい。文字オンリーだから顔が綺麗だとか声が可愛いだとか、そういうバフ一切なしで心臓にダイレクトアタックかましてくるシャーリーちゃんの純粋無垢さが恐ろしい。

 悪役なんて嘘だろ。天使の間違いだろうが。



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