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チャット1『天井を占拠されました』



 とんでもなく暇である。

 俺――大野木渡(おおのぎわたる)は大欠伸をこぼしてベッドに横になった。


 残念ながら、手を伸ばしても真っ白な天井があるだけだ。美少女が降ってきたりはしない。

 そもそもここは室内。

 壁をすり抜けてきた時点で幽霊確定じゃないか。


 ホラーはご遠慮申し上げる。


 仕方がないのでごろりと転がり、棚に飾ってあるロボットフィギュアを手に取った。


 これはテンセイジャーが乗るテンセイロボだ。

 赤青緑黒にピンクと妙にカラフルなのは各々が乗っているバイクや車、ママチャリなどが合体してロボへと姿を変えるためである。ちなみにママチャリはちょんまげ担当だ。これ豆知識な。


 対怪獣組織『テンセイジャー』。

 メンバーの五人全員が別世界から転生してきて戦隊を組んでいる、という設定らしい。


 どんなだ。

 色々と無理があるだろう。


 しかも前世はただの会社員やら学生やら主婦やら無職やらのくせに、どっから仕入れてんだその知識ってくらい博識たちの集まりでもある。

 頭のなかに百科事典でもあるのかよ。


 でもまぁ、俺としてはそんな事どうだって良い。

 興味があるのはテンセイロボただ一つ。やっぱりロボットは男の憧れだろう。ロボットこそ至高。ロボットと怪獣の戦いほど心躍るものはない。


 ただ、いつも見られるわけじゃないからなぁ。

 テンセイジャーが毎日テレビに映っていたら、それはそれで大事件だし。



「もお、また寝てるの?」



 突然部屋の扉が開き、ひょっこりと顔をのぞかせたのは俺の妹、花音(かのん)だ。齢十三才ながら大学生の俺よりもしっかりしていると思う。

 ただしノックはしよう。ノックは。

 お兄ちゃんだって取り込み中な時くらいあるんだぞ。



「おじゃましまーす」


「はいはい。お茶もありませんが」


「ジュース持ってきたもん。はい、お兄ちゃんの分」


「おっと。さすが。気が利くねぇ」



 起き上って缶ジュースを受け取ると、花音は花が綻ぶような笑みを浮かべた。

 可愛い。俺の妹世界一可愛い。


 最近は背伸びしている子供が多い中、良い意味で年相応。中学生らしい可憐さがある。

 肩より少し長い黒髪。

 くるりと大きな瞳が印象的で、この瞳に見つめられたら何でもお願いを聞いてしまいたくなる。


 仕方ないだろう。

 シスコンだなんだと言われようが、可愛いものは可愛いのだ。



「またロボぉ?」



 俺が持っているフィギュアを見て花音が顔をしかめる。


 理由は分からないが、彼女は俺がテンセイジャー――テンセイロボ好きな事がどうしても許せないらしい。

 話題を出すだけならまだいいが、こうしてグッズを持っていると毎回つっかかってくるのだ。


 なぜだ。

 可愛い妹の頼みでも、こればっかりは譲れないぞ。



「なんだよ。お前こそ、魔法少女魔法少女ってうるさいくせに」


「あったりまえじゃない! 人気的にも魔法少女一択でしょ。お兄ちゃんが魔法少女派になってくれたら、こんなこと言いませーん」


「はぁ? それはないな。絶対ない。そもそも魔法少女って結局は少女だろ。あんな小さな女の子が戦っているとかさ。どうにも応援できないっていっつーか、普通に女の子として暮らしてほしいっつーか」


「危険を冒してまで守りたい人がいるって事だよ! もお、分かってないなぁ、お兄ちゃんは!」



 ぷくっと頬を膨らませて部屋を出て行く花音。

 ちなみに、飲み終わったジュースの缶を俺に押し付けていく事は忘れていない。


 さすが我が妹。策士である。

 この缶はあとでお兄ちゃんがしっかり洗って捨てておくからな。分別だって忘れないぞ。任せておきなさい。



「んー、それにしても暇だ」



 花音が出て行ってしまったので、暇人に逆戻りである。


 俺はもう一度ベッドに寝転がった。途端に「あれ?」と声が漏れる。

 見上げた先にあるのはいつも通り真っ白な天井――のはずだったんだが、今回は様子が違った。


 視界いっぱいに広がるのは、背景が透けるくらいうっすらとした緑色の画面。例えるならアイコン一つないパソコンのデスクトップだ。


 どう考えてもSF案件だぞ、これ。

 サイエンスフィクションじゃなくて少し不思議の方。



「え。えー……なんなのこれ」



 触れようと手を伸ばしてみるが、案の定俺の指はすり抜けてしまった。指と画面の境界線は、ゆらゆらと波紋のように波打っている。

 うーむ。

 とりあえず、こちらのアクションに反応があるって事はちゃんと実在しているみたいだ。幻覚ではないらしい。


 今のところ害はないっぽいので、様子見してもいいんだが。放置するにはあまりに存在感がありすぎる。

 あと普通に不気味だ。



「せめてなんかアイコンでもあれば調べられるんだがなぁ。アプリとか、何か無いの? ――って、ちょっと」



 俺の言葉に反応したのか、画面真ん中に横長の棒が現れた。

 知っているぞ。これはアプリをダウンロードする時とかに良く見るやつだ。

 困った。どうしよう。10、20、30、とパーセンテージがどんどん増えていっている。



「うそうそうそ。ちょっと待って待って待って! なんか勝手にインストールしてません!? 違う違う、そういう意味で言ったんじゃないってば! あー! やーめーてー!!」



 俺の叫びもむなしく、画面には『COMPLETE』の文字と共にアイコンが出現した。

 ジーザス。なんてこったい神よ。報連相くらいしっかりしてくれ。許可もとらず勝手に話を進めないでくれ。常識だろう。

 責任者で出てこい。


 目を閉じて深呼吸。

 心を落ち着かせてから、薄目を開けて確認する。

 うん。やっぱりバッチリ画面は見えるし、アイコンはありますね。認めよう。そして諦めよう。


 黄色い円の中に吹き出しのマークが二つ描かれている。ってことはあれか。チャット系のアプリか。


 名前の欄には――『転生者チャット』という文字。



「うっわぁ」



 なんだこの怪しさ百点満点のネーミングは。

 センス最悪じゃん。迷惑メールでももっとマシなタイトル付けるぞ。

 絶対開けたくないんですけど。


 おおっと、まさかテンセイジャーたちが使用している極秘のアプリか――なんて冗談すら出てこないレベルだ。


 どうしたものか。


 正直、まったくもって関わり合いたくないが、なにせ俺は今とんでもなく暇だ。暇すぎて思考がマヒしているといっても過言ではない。

 どうせ短い人生だ。

 ちょっとくらいのスリル、体験しても罰は当たらないだろう。


 俺はよし、と呟いて頬をペチンと叩いた。

 とりあえず情報収集からだな。



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