9.約束という名の鎖
「ねぇ、君は約束したよね。あの娘の責任を取ると。仇を取ると。」
「…ああ。したさ。でも、何故それが今出てくる。」
「どうやって?」
「どうやってもだ。…人の話聞いてるのか?」
「なら、これからは何をどうするの?いつになったら果たす事が出来るの?」
「それは…」
「レイ、君はまだ、スタートラインにも立っていない。それは、君も知っているはずだよ。」
まだ、決心できないのだろうか。
私は、レイの正面に立ち、深く息を吸う。
シエルは、静かに私たちを見守っている。
「…君はさっき、この世に死んで良い人間などいないと言ったね。それは、人を殺した人間にも、子供を捨てた親にも、同じことが言えるの?」
「もちろん、言えるさ。」
「なぜ?」
「…」
風が少し、冷たくなってきた。もうすぐ春になるとはいえ、まだ夜は肌寒い季節だ。
空も、少しずつオレンジ色になってきている。
レイは、人の目がなくなると、いつも髪にかけている変色魔法を解く。
だからか、今ここにある光全てを、彼の銀髪の髪は反射する。
まるで、どんな色の影響も跳ね除ける様に。
「…人には、必ず生まれた意味がある。命に理由が、価値がある。たとえ、人を殺した悪にもも、子を捨てたようなクズにも。」
レイは一度、話を切る。
彼もきっと、立ち向かわないといけない壁がある事を知っている。
「もちろん、それらの人間は、死するべき罪がある。けれど、その人にも母親がいて、彼らの行いのおかげで救われた人もいるかもしれない。…さっきの男だって、たくさんの依頼をこなしてきた。人を、救ってきたはずだ。」
「…綺麗事だね。」
「ああ、綺麗事だ。」
「もし、君のその答えが、誰かを傷つけてしまっても?」
「当たり前だ。誰にとっても正しいこと。それが、綺麗事だ。何か悪いか?」
「…いや。」
ーー君は、どこまでも君だね。
私は、小さな声で呟く。
本人もわかっているじゃないか。
なら、私が言えることはただ一つ。
そして、手のひらをレイに向けて差し出す。
「アズトレイカ·ルス·へオース。君はこの名を拾うことができる?」
沈黙が流れる。
レイは、とても驚いているようだ。怒っているような、困惑したような表情をしている。
なぜ、私が知っているのか、とでも言いたげだ。
「君に出会うときから、知っていたよ。知っていたから、君に会いに行ったんだ。」
少しずつ、夜に向けて辺りが静けさを纏い始めている。
「さあ、どうする?私は、君の背中を押すことを約束した。だからもちろん、それは果たす。けれど、君はどう約束を果たす?」
私は、レイの正しさがわりと好きだ。彼自身の正義も、正しさも、全て青空のように広く、澄みきっている。
それは、誰もが持てるものではない。
だから、どうか、足を踏み出してほしい。