1.強くなりたい、のに?
「どおぉぉ頑張っても無理だろこれーーー!」
そう叫びながら走り回っているのは、私の相棒?主?みたいな関係のレイとシエルいう青年だった。
レイとは、ある日をきっかけに“強くなりたい”という彼の強い願いを叶えるために、行動を共にすることになった。
正義感が強いのか、律儀なのかはわからないが、とにかく、人のために動くような人間だ。
彼は、髪は青みがかった銀髪に透き通った紫色の瞳をしている。
その色は、この帝国の皇族にしか受け継がれないものだ。つまり、レイは皇子なのだ。それも、何年か前に死んだことになっている。
だが、本人はまだそれを隠しているらしい。私も一応知らない設定だ。
話を戻そう。
彼は、誰もが二度見をしてしまうほど顔が整っている。街を歩けば、振り向かない女はいない。
だが、隠してるというのだから、もちろん髪も瞳も今は茶色い。
シエルは、私に出会うまでレイの身の回りのお世話をしていて、年下だというのに料理、洗濯、掃除などなどあらゆる家事が完璧にこなせるという逸材だ。
もともとはスラム街で死にかけていたところをレイに助けられたらしい。それから、レイの世話をするようになったようだ。
要するに、身の回りのこともこなせず、さらに弱いという駄目人間がレイという人間だ。だから訓練をするためにモンスターのいる森に来たのは良いが、、
――はぁ。
全く、ため息もこれで何回目だろう。
強くなりたいというレイに便乗し、シエルも絶賛一緒に特訓をしているが、あまりにも弱すぎる。
私は、指導をしているということで、木の上からずっと眺めていた。
「二人ともーー!逃げてばっかりじゃ倒せないよー!」
「いやいやいや、リオさん!?こいつ頭おかしいって!何で攻撃する度にどんどん巨大化してく訳!?」
「そうですよ!どうやって倒せって言うんですか!」
まあ、そうなのだ。
彼らを追いかけているイノシシは、普通のイノシシではなく、イノシシに似たパイアという上級モンスターなのだ。
はじめは子供くらいでとても小さく愛らしい姿をしているが、ダメージを与えるたびに体が大きくなっていくのだ。
それがモンスターというもの。
自分の命に害のない威力の魔法であれば、その魔法を糧に成長することができるらしい。特に級の高いモンスターほどに。
あんなに、可愛かったのに。。
今やギラギラと目を血走らせて一階建ての家くらいの大きさで突進してきている。
私は頭を抱えてしまう。
「何考え事してんだよ、リオ!ちょっとは助けろ!」
「…そこまで言うなら、」
私は、小さな氷結魔法を三発ほど木の上から放った。見事に当たり、砂埃が立つが、、
「やりましたか!?」
残念なことに、巨大化してしまった。
「…あら、おっきくなっちゃった。…ペロ。」
「ぅおぉぉぉい!大きくしてどうすんだよ!!ペロじゃねぇぞ、ペロじゃ!」
「そんなこと言われても…あ!そういえば、パイアは木登れないって聞いたことあるよ!」
二人は、やっとのことで近くの大きな木に登った。
が、今のパイアは見上げる高さだ。速度を落とさず、そのまま奴は木に突進してくる。
「うわぁぁぁぁ!!」
木は二人を乗せたまま真っ二つに圧し折れる。
そして、パイアはその木を踏みつぶし、走り去っていった。
しばらく沈黙が流れる。
――あ。さようなら、二人とも。
私は、目元を拭いながら手を振る。短い間だったけど、楽しかったよ。
そうして、私達の物語は幕を閉じた。