巡る物語
『午前1時発、星原行寝台特急は、0番乗り場より発車いたします。発車まで今しばらくお待ちください』
目を覚ますとどこにいるのか分からなかった。鳴り響くアナウンスに、自分が今寝台列車に居ることを知る。はめていた腕時計に目をやれば、出発5分前。慌てて席を立ち、列車から降りようとして息を呑んだ。
ホームはある。だが、その後ろの景色はまさに闇だった。闇の中にぽっかりホームが浮かんでいる。驚いて目を擦りもう一度確認するが、同じ風景が映っていた。あまりのことに固まっているとゆっくりドアが閉まる。
「お客様、走行中はお部屋へお戻りください」
後ろから声を掛けられてハッとし、振り返ると、そこには車掌姿の犬がいた。秋田犬がこちらをじっと見つめている。衝撃2連発で思考が追い付かないが気力を振り絞り尋ねることにした。
「あ、あの」
「何でしょう?」
「私、どうやら列車間違えたみたいで。途中で降りて帰ることはできますか?」
「少々お待ちください」
そう言うと車掌は胸元からスマホを取り出した。スクロールしていき指が止まる。
「2号車10番、モリタ アカネ様。きちんと予約が入っておりますが」
そう言って秋田犬が見せてくれた画面には、予約状況の一覧が映し出されていた。自分の名前があることに驚いて、そして予約をした記憶が無いことに焦る。
「とりあえずお部屋にお戻りください。社に連絡してきます」
そう言われてアカネは元の部屋へと戻った。座り心地の良い椅子に沈み込むように座ると、外の景色を眺める。暗いトンネルの中にいるような暗闇とそれを見るともなしに見る自分の姿が窓に映る。
肩まである髪は一つ結びで飾り気一つない。薄化粧に黒のスーツ。アカネは就活真っただ中の24歳だ。専門学校卒業後に入った会社はいわゆるサービス残業当たり前、帰るのは午前様、日曜出勤なんてザラなブラック会社だった。
精神的に参ったアカネは2年ちょっとで仕事を辞めた。その後は生きるしかばねの如く無気力で、実家にずっと引きこもっていたのだ。
ある日、たまたま見た動画で、自分の在り方について考えたアカネは、少しずつ外へ出るようになる。それが少しずつ自信になり、最近ようやく就職しようと動き出した。
それが今日までのアカネだ。そして、何故寝台列車に揺られているかというと、まったく意味不明だった。
「何がどうなっているんだか」
しばらくして秋田犬の車掌が個室へと来訪した。入り口に立つその姿に、やはり違和感を覚えつつも、アカネはどうだったのか声をかけた。
「モリタ様、社に問い合わせを行ったところ、本日のこの列車への予約は間違いないそうです」
「そんな。私、列車なんて予約してないし、何故ここにいるのかもわからないんです」
「そう言われましても。実はこの列車は片道しか運航されていないんですよ。今から帰る方法と言われましても、そもそもそう言った類のものはございません」
「片道しか運航していない??」
「はい。この星原行きは年に1度、片道のみ運行されています」
「じゃあ、帰れないってこと??」
「はい。貴方がいた所にはもう戻ることはできません」
「そもそも星原ってどんなところなの?」
「私どもも初めて行きますので何とも。ただ、その名の通り星が草原で瞬いているそうですよ」
戸惑いながらも返してくる秋田犬に、アカネも動揺を隠せない。
「行先も分からないのに車掌をしているの?おかしいでしょ??」
「そう言われましても。この寝台列車は年に1度しか運航しておりません。しかも皆帰ってこない。確かな情報などないのです」
「情報がないのに星が瞬いているってどうして言えるの?」
車掌が困ったような顔をしながら右ポケットから小さなメモ帳を取り出した。そしてアカネに読むよう話す。
「これは?」
「歴代の車掌がこの列車に遺したメモです。私も乗るまで知りませんでした」
そう言われてメモ帳をめくると、さまざまな字がまるで忘れないようにとの思いが込められるようにびっしり書かれていた。
【〇月✕日】
本日星原到着す。辺りは色とりどりの星々が瞬き、まるで異世界に迷い込んだようだ。
【〇月✕日】
星が瞬いて消える。その一瞬は桜の花びらのようだ。
【〇月✕日】
それは本当に不思議な出来事が起こった。それはきっと、自分にも起こるのだろう。
【〇月✕日】
今までありがとう。さようなら
メモ帳の3分の1はすでに歴代の車掌の言葉で埋まっていた。それを読んでアカネは思う。
「まるで遺書みたい」
「それはそうでしょうね。この旅が終われば、そうなります」
「え?」
「モリタ アカネ様。死出の旅へようこそ。貴方は7月24日18時45分発の電車に乗り込み帰ろうとしていました。19時13分、脱線した電車が貴方の乗っていた電車に衝突。眠っていたあなたは車外に放り出され即死。予約はその時にされたものです」
「私、死んでいるの?」
あまりのことに秋田犬を凝視する。
「この列車にご乗車されているお客様は皆亡くなった方々です」
「…あなたもなの?」
「…ええ」
「列車はいつ星原に着くの?」
「明日の1時です」
メモ帳を返すと、車掌は失礼しますと折り目正しく礼をしてその場を後にした。アカネはぼんやりと部屋の中を見回す。窓側に置かれた座り心地の良い一人用のソファの前には可愛らしい花が飾られたテーブル。そして奥には寝心地のよさそうなベッドが設置されている。ふとテーブルに先ほど車掌から渡されたものより大きいノートが目に入った。手に取ってめくると、先ほど見た内容と違わない文が記入されていた。多分この部屋を使った人間だろう。ある者はこれまでの人生について、またある者は残してきた家族について、恋人について、ペットについてなどなど様々書かれていた。
あるページに差し掛かりアカネの手が止まる。
【〇月✕日】
何故か寝台列車に乗っていた。訳が解らず降りようとすると飲み込まれそうな闇があるだけ。びっくりして固まっていたら列車が出発してしまった。たまらず車掌を呼ぶと、なぜか俺は死んでしまったらしい。すでに死んでいて、死出の旅なのだという。自分に死んだという感覚が無いからか、何の冗談だと食ってかかったが、振り返ると確かに死んだようだ。いわゆる一酸化炭素中毒というやつ。閉め切った部屋でストーブを使ったのがいけなかったらしい。呆気ないと言われたらそうだなと思う。
窓から見える景色は黒一色。何もすることが無いので寝た。意外とふかふかで夢も見ずに起きたら星原に着いていた。どうやら気づいた人間から下車するようになっているらしい。窓の外を見ると星が瞬いていて、なんか初めて感動した。俺の人生もこれで終わりかと思ったら、まあそれでもいい気がした。
死因は違うが自分と同じような境遇の人もいたのだと、アカネは何故だかほっとした。その後もノートを読みふけっていると、アナウンスが流れる。
『皆様ご乗車ありがとうございます。この列車はもう間もなく虹の橋を通過いたします。その後銀の沼地、炎の洞窟を進み、最終星原到着となります。要所通過時は若干揺れを生じますのでご注意ください。それでは快適な列車の旅をお楽しみください』
聞いたこともない単語が次々と飛び出して、アカネは戸惑った。そうこうしているうちに揺れが体を襲う。すると今まで闇だった窓の景色が一変した。
「うわぁ…」
そこには七色に光る虹が幾重にもなって橋を作り、天にも届きそうな虹が幻想的な風景を作っていた。ただただ魅入っていると、楽しそうな笑い声が聞こえた。振り返るが誰もいない。
頭に疑問符を抱えながらも、また窓の外に目をやると、次の瞬間アカネは見覚えのある光景を見ていた。
「アカネちゃんって面白いよね」
「そうくんに言われたくない」
隣同士、年が近かった幼馴染のそうくんが、アカネを前に屈託なく笑っていた。それにつられてアカネも笑う。5,6歳の頃だろうかと傍観しているアカネは思った。
「僕ね引っ越すんだ」
「え、行っちゃヤダ」
そうくんの親はいわゆる転勤族だった。すでに2,3回住むところが変わっていたらしい。今回も例にもれず、引っ越しが決まったとそうくんが話す。それを小さいアカネが泣きながら駄々をこねる。母が後ろから抱きかかえてアカネをあやす。
「アカネ、わがまま言って困らせちゃだめよ。そうくんごめんなさいね」
「ううん。僕も本当は行きたくない」
数日後、そうくん達家族は東へと引っ越していった。アカネはしばらく落ち込んでいた。
「アカネ、そう塞ぎこんじゃ、サクが来ちゃうぞ」
「サク?」
ある日父が縁側で座っていたアカネにそう声をかけた。隣に座ると父は幼いアカネを自分の膝の上に載せる。
「そう、サクはね、悲しい心が大好きなんだ。だからそういう心を持っているとサクが来て大きな口を開けてパクっと食べてしまうんだよ」
「え?アカネ食べられちゃうの??」
大きく目を開けて涙をたたえる娘に父は笑った。
「アカネが楽しい気持ちになったらサクは来ないよ。そうくんもきっと笑っているアカネの方が好きだと俺は思う。そうくんに電話しようか。そろそろ向こうも落ち着いた頃合いだしね」
その後すぐに電話して、そうくんの声をきいて、アカネはまた復活した。なんて単純。
高校卒業までは良く頻繁に電話やメールでやり取りしていたけど、その後お互いが忙しく、気づけばやり取りが途絶えていた。
「そうくん元気かな」
元気でいるといいな。私は死んじゃったけど、彼が寿命を全うしてくれたら嬉しい。アカネが感慨にふけっていると虹の橋が終わった。終わった後は、月が浮かんでいて、ぼんやりと列車を照らしている。銀の沼地はその月の光が反射して銀色に光っていた。広大な沼の真ん中を列車が走る。
「あの、大丈夫ですか?」
「え?」
高校の運動場。木陰で休んでいると声を掛けられた。自分より長身で目鼻立ち整ったその人は、高校のマドンナと言われていた一個上のハルキ先輩だ。
「これ、良かったら飲んで」
差し出されたスポーツドリンクをありがたく頂戴する。目の前では炎天下の中走り込みをする生徒の姿があった。
「まったく、このご時世に炎天下の中走らせるなんて体罰よね」
根性論を振りまく体育教師に辟易しているのか、ハルキ先輩は肩をすくませた。ポニーテールの髪がサラサラと揺れる。1,2年合同の体育で、私の他にもバテている生徒にハルキ先輩は優しく声をかけていた。
「先輩って優しいですよね」
「私?優しくなんかないよ。だって自分が一番可愛いもの」
「え、意外です」
「周りがそう思ってるならそれでいいわよ。自分がしたくてしてるだけだもの。自己満足の何者でもないのよ。でもそれで感謝されるなら私も嬉しいし、周りも嬉しい。一石二鳥ね」
そう言って笑う先輩は、アカネの憧れでもあった。誰と比べるでもなく、自分を持っているハルキ先輩が。
「私、ハルキ先輩みたいにもっと自信持ちたいです」
「あら、自信ないの?」
「特に何かが得意なわけでもないですし。やっぱり人と比べちゃいます」
「そう言う子多いのよね。比べることも時に必要だし。でもさ、生きてるだけで凄いと思わない?」
「へ?」
「考えても見てよ。自由に体が動かせて、こうやって話も出来て、ご飯も口から美味しく食べれて親のお金で勉強出来て、それって凄くない?」
考えたこともなかった。それが当たり前だから。
「当たり前って思ってることって実は当たり前じゃないんだよ。この話したっけ。うちさ、おばあちゃんがいたの。介護が必要でさ、家族で交代しながら看てた。大変だったぁ。全部介助だったから、24時間昼夜問わず。ご飯を食べるのも柔らかいものじゃないと喉に詰まらせそうになるし、咽た時なんか肺炎とかの心配もした。寝返りも出来ないから時間を見て向きを変えたり、下の世話もね。おばあちゃん、ボケてなかったから凄い申し訳なさそうにしてさ。その時思ったんだ。自分って恵まれてるって」
アカネはポカンと聞いていた。アカネ自身介護をした経験もない。でも聞きながらもし自分が体が動かなくなったらと想像してみた。想像して怖くなった。そして、自分の意思で動く体に感謝した。
「ね?生きてるだけで凄いでしょ。それに周りがいるから自分が生きていける。生かされてるって思うのよ。そしたら感謝しか出てこない。自分に出来ることがあるならやったらいいんじゃない。失敗してもそこから学ぶことがあれば上等よ。そしたら自信付くわよ。自分が好きになる。というか、こんだけ出来る自分凄いって思うよ。で、一日の終わりに頑張った自分をほめてあげるの」
「ほめる?」
「今日もよく頑張ったね。偉い偉い。って褒めてあげるの。だってね、相手から褒められるのを待つより毎日自分をほめてあげたほうがいいでしょ?」
さらりと言ってのけるハルキ先輩にアカネはやっぱりこの人凄いと再確認したのだった。
銀の沼を抜けると、闇に包まれた。それは一瞬で、次に赤い炎が間欠泉から噴き出してた。洞窟の中は間欠泉だらけで、その間を縫うように列車は走る。
「だから、別れよ」
唐突に突き付けられた現実にアカネは呆然となった。専門学校の帰り道。同じクラスに通っていたアオキと付き合って半年。目の前には親しそうに寄り添うアオキとクラスメートの姿。沈黙を了解ととらえたのか、二人は去っていった。
何を間違えたのか、いや、自分は悪くないだろう。アオキと出会ったのは歓迎会の時だ。偶然隣に座ったのをきっかけに、親しくなった。それからアオキから告白されて、アカネも良いかなとOKした。
異変に気付いたのは付き合って4か月過ぎた頃。今までまめに連絡を入れてきていたアオキからのメールがほとんど来なくなっていた。会ってもバイトが忙しいからなどの理由でデートがキャンセルされる。不審に思っていたところに別れの一言。
「あんの二股野郎…」
その夜悲しみよりも怒りが湧いたアカネは、思い出の品を全てゴミに出した。そう。アオキとの思い出なんてゴミだ。明日の朝には綺麗さっぱりする。そして新しい恋を見つけるんだ。
「アオキのやつ四股してたらしいぜ」
「すげーな。どうやったらそんなにモテるんだ。あいつそこまでイケメンじゃねーのに」
「口が上手いでしょ。ったく、何しに学校来てるんだか」
数日後に聞いたクラスメートの話によりアオキが四股していたことが発覚。居づらくなったアオキは途中で学校を辞めた。
「アカネ、大丈夫?」
「ン?何が?」
「アオキのことよ」
「ああ、あれね。見る目なかったとしか言いようがないわ。まあ、一つの経験として次に活かせれば良いかな?くらいに思ってるよ。男は一人じゃないし」
「アカネのそういう前向きなところ良いよね」
間欠泉を過ぎて、アカネはこれまでの人生を何となく思う。専門学校くらいまではいつも前向きに生きていた気がする。周りにそういう人たちがいて、なんとなしに支えてくれていたのだろう。
洞窟を潜り抜けた先にはどこまでも続く草原だった。椅子に座っていて肩の凝ったアカネはベッドにもぐりこむ。腕時計の時刻は午前7時。星原に着くまで少し休むことにした。
「君は本当に役に立たないな。こことここ、早急に訂正して。ああ、もう他の人に頼むから。これのコピー100部ね」
順調に就職したものの、会社はブラック。働く人もブラックだった。アカネの精神は途端に擦り切れていく。
「ほんっとあの上司ムカつくよね」
「ねえ、聞いた?あいつ部下に仕事任せて街で遊んでたらしいよ」
休憩中に囁かれる同僚の悪口に、いつしかアカネ自身も毒を吐くようになる。そうしていくと、常に誰かが悪い。会社が悪いから私が不幸なんだと思うようになっていった。不幸の擦り付け合いは、自分自身も不幸にしていく。
周囲から浴びせられる自己否定の嵐についに心が絶えれなくなってアカネは会社を辞めた。両親はそんなアカネを否定せず受け入れてくれた。
引き込もってネットサーフィンの日々。毎日昼近くに起きて、朝昼兼用のスープを口にし、深夜遅くまでただ何をするでもなくスマホをいじる。
ある時たまたま、不思議と興味を引かれる動画に出会った。
「もっと自分を大切にしていきましょう。自分を大切に出来るのは自分しかいません」
自己啓発とか、スピリチュアルとか、それまでまったくもって興味はなかったアカネにとって、疲弊した心にわずかに浸透したその動画。毎週アップされるそれらを見ていくうちに、アカネは徐々に昔の自分を取り戻していった。
やっと重い腰があがって、就活を始めた。何件か応募して面接をと連絡があった2社を受け、帰りしな、アカネは駅のコンビニでケーキを買った。
「私の一歩踏み出したご褒美とこっちは父さんと母さんかな」
少し微笑んで購入したそれらを袋にぶら下げて駅の改札を抜けた。少し早くホームに上がったアカネは、止まっている電車にそのまま乗り込む。面接を頑張ったためか、疲れの残る体を椅子に預けて目を閉じた。
大きな音と悲鳴。傾く体。強い衝撃。
アカネの時間はここで止まった。
目を開けると、家にいた。仏壇がおかれている畳の部屋に両親と親族、そして親しかった人たちがいる。49日の法要が終わったらしい。みんなで食事をしているようだ。
「アカネちゃん」
「最近は笑顔も増えて、ようやく立ち直った様子だったのにな」
両親はぼんやりと仏壇に置かれている写真を見ていた。長女で一人娘だった。親より前に死んでしまう不幸より不幸なものはない。アカネはちくりと胸が痛んだ。
「あの子が一生懸命生きたことは間違いないよ」
「そうね。アカネは私たちの宝物。こうやってみんなで集まれたのもアカネのおかげだし」
両親の言葉にアカネは涙をためる。二人の言葉に呼応するように親族がそうだそうだと口々に語る。そこにはアカネのことを思ってくれる人たちがたくさんいた。
「ありがとう」
思わず溢れ出した言葉に、両親が反応した。
「どうしたの?」
「今そこにアカネがいた気がしたんだ」
「貴方も?私も感じたわ。見えなくてもアカネはいつもここにいる。心に。だって私たちの娘だもの」
『ご乗車ありがとうごさいました。終点、星原、星原。お降りの際はお忘れ物なきようお願いいたします。皆様の旅立ちに幸多からんことを』
そこは無数の星が瞬いては消える草原。ホームに降り立ったアカネはスッと心が軽くなった気がした。そこから他の乗客たちの後に着いて歩いて行く。歩いて行くうちにアカネは自分が輝きだしたことに気づいた。周りに居た人たちも光っていく。眩しさに目を閉じると、全てのものが溶け出すように光にのまれていった。
「サイトウさん、おめでとうございます。元気な女の子ですよ」
看護師が母となったその人の隣に生まれたばかりの赤子をそっと置いた。泣き声は頼りなく、そっと手を伸ばすと小さな手が指を握った。瞬間に涙があふれる。
「ハルキ!生まれたって??」
慌てたように分娩室に入ってきた父になる彼にハルキは笑顔を向けた。
「うん。見て、こんなにちっちゃくてこんなに可愛い」
命は巡る。生まれては死んでいく。これはそんな私たちの巡る物語。