第2話 余裕
「いやー、さっきのギルドの雰囲気には耐えられないねー」
「今までああいう受付嬢達の態度だけなら耐えられてきたんだけどな…。やっぱりあの雰囲気は無理だな。」
二人はギルドを後にし、クエストの目的地まで徒歩で向かっている最中だ。
二人が向かう目的地とは、ビギナー御用達でもある【始めの森】。
ここに、最近になって危険度Aランクの魔物、キメラが徘徊するようになった。
理由はわからないが、ビギナーやビギナーからようやっと抜け出した冒険者達では歯が立たず、ギースが言っていたようにキメラは危険度Aの中でも上位の魔物である。
そんな魔物に立ち向かう冒険者はこの辺りにはおらず、ギルドも注意喚起程度しかできないため、かなりの悩みの種となっていた。
そこへ現れたリーシェとユーリは、ギルドからしたらまさに救世主とも言えるほどにありがたい存在であっただろう。
まあ、二人からしたら危険度A程度の魔物ならばどんな相手であろうと余裕だろうが。
「そろそろ目的地の森につく、危険度はAだが一応、警戒だけはしておけよ。」
「ユーリは真面目だね〜。別に大したことないのに。」
二人はそんなふうに、今から魔物と対峙するには些か不用心ではあるが森へと入っていった。
「へぇ、ここも昔と全然変わらないね。」
「まぁ、魔物も環境を変えるほど強い奴もいないし、この森はビギナー御用達って言われてるくらいだからな。10年から20年くらいで大きく変わることはないだろうよ。」
森に入った二人はそんな会話をしている。
すると、
「おい、リーシェ。あそこ見てみろ。」
「ん?あっ、キメラだ!ユーリすごいね。」
感知魔法を常に展開していたユーリはキメラを感知したことをリーシェに伝える。
「それじゃ、今日はどっちがヤッちゃう?私?それともユーリ?」
「そうだな、ここはリーシェに譲るよ。」
「了解!」
そうリーシェが言った瞬間、もうユーリの前にリーシェはいなかった。
「……やっぱあいつ、めちゃくちゃ足早えな。」
ユーリは一人感心する。
一瞬でキメラの前まで到達したリーシェは、容赦なくキメラの首へと手刀を放つ。
が、しかし
「ありゃっ、避けられちゃった」
そこは腐っても危険度Aの魔物。目の前にいきなり人が現れたことに驚きはしつつも、しっかりと相手から距離を取りつつ威嚇する。
「んー、スピードはまだ私が早いけど、これ素手じゃなかなか捕まえるの難しいかも。」
そう言うとリーシェはポーチからあるものを取り出す。
「これ刺してパパッと終わらせよっと!」
リーシェが取り出したのは何の変哲もない、ただの銀のナイフである。
それを逆手に持ち構えると、
「フッ!」
勢い良くキメラへと走り出すリーシェ。
これに対しキメラは、
「ガウウッ!」
軽く咆哮し、距離を取ろうとする、が、
「まだ甘いね♪」
リーシェは銀のナイフを横薙ぎに振るう。
すると、
「ガアアアッッ!?」
なんと、刃は全く触れていないのにキメラの胴体に傷をつけた。
「あれ?意外と浅いなー。次はもうちょっと力込めるよ〜」
そんな離れ業を繰り出したリーシェは、あっけからんとしている。その様子にキメラは憤る。
「ガアアアアアアア!!!!」
キメラはリーシェに接近し、尻尾の蛇を使いリーシェを噛み殺そうとする。
しかしリーシェはこれを、
「よっほっ、ほいっと」
軽い身のこなしで危なげなく回避する。
そして、
「はい、トドメー」
キメラの首にナイフ一閃。
するとキメラの体と頭は分かたれてしまった。
「んー、やっぱこんなもんか。つまんないのー。」
そう言いながらユーリの元へとテクテク歩いていくリーシェ。
その後ろには先ほど首を切られ息絶えたはずのキメラが。
「ガアアアアア!!」
「えっ、さっき首切ったじゃん!?なんで!?」
そう言いながらもとっさにキメラの攻撃を回避しようとするリーシェ。
が、あまりにも気を抜きすぎていたために回避は間に合わない。このままいけばリーシェはまず間違いなくキメラの餌食となるだろう。
が、それを許さぬ男が一人。
「だから気を抜くなと始めに言ったと思うんだが。」
ユーリはこうなることを予測していたかのように、魔法の展開を始め、構築を終わらせていた。
「ダーク・ブレイク」
そう唱えた瞬間、キメラは急に動きを止め苦しみ始める。
「ギャアアアア!!!」
キメラの胴体部についている山羊の頭の方が、およそ山羊とは思えない鳴き声で泣き喚く。
そして、
パァン!!!
と、破裂音が鳴り響きキメラは胴体から弾けとんだ。
「うわっ!ちょ、ユーリ!助けてくれたのはありがたいけど、これどうすんのよ!血でベチャベチャじゃん!」
「気を抜いたお前が悪いんだろ。」
「もー!サイテー!」
キメラのすぐ側にいたリーシェはもろにキメラの血を被った。それも頭から。
ちなみにユーリの使った「ダーク・ブレイク」は本来ここまでの威力はない。
並の魔法使いならば精々、この威力の1000分の1程度でしかなく、魔物を殺すというよりは拷問など、おおよそ長く苦しめるために使われる魔法である。
「しっかしユーリの魔法はホント規格外にもほどがあるよ…。なんで下級魔法でキメラが弾けるのよ…。」
「それを言いだしたらお前もだリーシェ。生身でなんのスキルや魔法も使わずに消えるような真似できるのは世界でお前くらいだよ。」
そんなことをお互い言い合いながら、クエスト報告のため町へと戻る。
「はー、やっぱ私はユーリがいないとだめだなぁ。いつもありがとね。」
「俺の方こそ、リーシェが前衛で体張ってくれるから魔法を使えるんだ。こっちこそ助かってるよ、ありがとう。」
これも二人の中ではいつもの会話の一つであった。
「えっ!?もう討伐した!?早すぎませんか!?まだ半日も経ってないですよ!!」
受付嬢が驚く。
それはそうだろう。なんせ危険度Aの魔物、しかも上位のキメラと言ったらA級の冒険者五人のパーティでやっとこさ倒せる相手なのだ。
それをたった二人で、しかもこんなにも早く討伐してくるのはあまりにもおかしい。
「そんなこと言われたって倒せるもんは倒せるんだからしょうがないだろ。」
「そーそー、てか、これくらい私達なら当たり前だし?」
「リーシェ、お前はすぐ調子に乗るな。」
「はい、申し訳ありませんでした!!」
「返事だけはいつもいっちょまえなんだよな。」
受付嬢は何かを悟り、諦めた様子で
「は、はぁ。わかりました。お二人とも間違いなく光と闇の勇者様だということは確認しておりますので、これくらい当たり前だと思って割り切ります…。」
そう言いながら、受付嬢は判子を押した羊用紙を手にカウンターの裏手へと入っていった。
しばらくして、受付嬢が戻ってきた。
「はい、これが今回の報酬の金貨10枚です。」
「確かに受け取った。あとクエストをクリアした証明になるものを貰えないか?」
「かしこまりました。ではこちらの羊用紙を持っていってください。」
「ありがとう、じゃあ失礼するよ。」
「はい、また何か機会がありましたらよろしくお願いします。」
「ばいばーい!」
そう言いながら、二人はギルドを後にした。
「今から王都に戻らなきゃいけないのか…。歩くのは面倒だな。」
「ユーリ!もう来るときに観光はしたし帰りはさっさと帰ろうよ!」
「わかった、なら俺の近くに来い。王都まで飛ぶぞ。」
そういい、ユーリは魔法を唱える。
「テレポーテーション」
すると、ユーリとリーシェの視界が一瞬できらびやかな町並みへと変わった。
「うへぇ。やっぱりこの感覚は慣れないなぁ。」
「そーか?意外とすぐ慣れるもんだけどな。」
「ユーリは使用者だからそんなに気持ち悪くならないんだよ!」
そう、ユーリが使ったのは今はなき古代魔法の一つ「テレポーテーション」。
自分が行ったことのある場所にならどこへでも一瞬で行くことができる。ただし、距離が遠ければ遠いほど使う魔力は大きくなり、詠唱を必要とするので戦闘向きではないのがちょっとしたデメリットでもある。
ユーリ達がなぜ王都へ来たかというと、今回の件について国王陛下に報告するためだ。
ユーリ達は今回、緊急依頼として先のクエストを請け負っていた。
そのため国王陛下に直々に謁見し、報告しなければならない。
まあもっとも、一番の理由は国王陛下がユーリ達に少しくらい顔を見せろとうるさいからであるが。
「さてと、面倒だがさっさと謁見して今日は寝るか。」
「そーだね、早く終わらせちゃおう。」
二人は、並んで王都の道を歩き、城へと向かった。
全然話まとめずに書き出したからぶっつけで書いちゃってます!
めちゃくちゃな部分もあると思いますがそこは許してくだせえ〜。
今日はこの三話で投稿終わります!次投稿するのはまた週末に時間あればやろうかな?くらいです!