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召喚勇者と七つの魔剣  作者: 蔭柚
第6章 偽物と遺産と贈物
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第88話 帝都からの再出立

前話のあらすじ:

ユージンはフレイヤに嘘を吐いたお詫びに彼女の頭を撫でている!

 ユージンがパーティから抜け出し、フレイヤの機嫌をとっているところに、ノックの音があった。


「ユージン?入るわよ……って、何してるの、貴方達」


 入室してきたのは、先程までアドリブスピーチを任されていたフラールである。

 フラールは、2人掛けのソファに隣り合って座り、嬉しそうに頬を染めるフレイヤと、彼女の頭を撫でるユージンを見て、頬を引き攣らせた。


「ユージン、貴方まさか……」

「おそらくお前は大いなる誤解をしているが、面倒なので俺はそれを解く気はない」

「ゆ、ユージンお兄ちゃん、もう良いですから!」


 フレイヤは、フラールが部屋に入ってきたことに驚いて少し固まっていたが、状況を思い出して、自分の頭の上にあるユージンの手を掴んで、彼の膝の上に置いた。

 堂々としているユージンと、恥ずかしそうにするフレイヤの様子に、危惧した事は起こっていないと判断したフラールだが、なんとなく胸の内にモヤっとしたものが広がる。


 しかしそれはとりあえず置いておき、フラールも対面のソファに座り。


「聞いたわよ?兄様に喧嘩を吹っ掛けたんですって?相変わらず命知らずね」

「自分の意見はハッキリ言うことにしてるんでな」

「言う相手を考えないと、命取りになるわよ?」

「相手は選んでるつもりさ、一応な」

「それで兄様に噛みつくって……判断基準が間違ってるとしか」

「でもお前のその様子だと、別にお咎め無しだろ?俺の読み通りだ」

「結果論よ」

「結果が全てだ」


 相変わらずポンポンと言い合いをする2人に、フレイヤがくすくすと笑う。そして、ふと何かに気づいて2人に訊ねる。


「そういえば、今日は何でゾーイちゃんはいないんですか?ライリーさんは、他の兵士の方々に混じっていましたけど……」

「ゾーイはちょっと、家の事情で、今日は来られなったのよ」


 ムスペラ公国との戦いは無事乗り越えたとはいえ、カルサイ伯爵家のごたごたが完全に収束したわけではない。

 表向きは、伯爵家への処分はなく、むしろ公国軍を良く押し返したと評価されたわけだが、裏では、内部文書の調査や当主の交代に向けた準備が着々と行われている。

 ゾーイも、謀反そのものには関わっていなかったとはいえ、伯爵家の人間として無関係ではいられない。今後の調整などのために、伯爵家の家族や国の人間と話し合いをしているはずである。


「結局、ゾーイちゃんのお父様が南の国を手引きして、戦争になっちゃったんですよね?」


 それらの事柄は、一応国の上層部以外には秘匿されているが、フレイヤもゾーイが連行された所を見ているし、カルサイ伯爵家への疑いも聞いているのだ。

 それらの前情報と、南で実際に戦ってきたユージンという結果を見れば、おおよその推測は可能であった。


「ま、そういうことだな。一応、公式にはそれは無かった事にされたけど、裏での処分は免れられない」

「伯爵家取り潰しにはならないみたいだけど、現伯爵本人は強制隠居、伯爵家の権限もかなり没収される予定よ。問題は、次期伯爵をどうするかね」

「もしかして、ゾーイちゃんが?」

「いえ、ネアン帝国では女性が家督を継ぐことはないわ。ゾーイの弟が継ぐことになるけれど、彼はまだ5歳だから、代理を立てる必要があるわね」

「そこで色々調整が必要なんだな」


 改めて、貴族って面倒臭いな、と思うユージン。

 とそこに。


「呼んだ~?ボク登場!」


 渦中のゾーイが、突然扉を開けて乱入してきた。


「え、ゾーイちゃん?」

「なんでここに?」


 驚く少女2人に対して、ユージンは胡乱な視線で。


「めんどくさいから逃げてきたんだろ、どうせ」

「失礼な!最低限のことはしてきたよ!」

「どうだか」


 疑わし気なユージンに、ゾーイが頬を膨らませる。


「だってそもそも、ボクはもうあの家から半分以上出てるからね。何なら貴族籍から抜いてくれって言ったんだけど、なんでか役人から許可が出なくてね~。それでちょっと揉めたんだけど、結局、貴族籍は残すけど、伯爵家の権利と責任からは一旦切り離すってことで決着したよ」

「お~、良かったな。ん?良かったのか?」

「家族とはちゃんとお話ししたの?」


 首を傾げたユージンはスルーして、フラールが訊ねた。

 ゾーイは渋い表情になり、


「あまり話せてはないですけど~。ま、もう良いかなって。だって、ボクの弟、自分に姉がいることも知らなかったんだよ?」

「それは……」

「ちょっと酷いです……」


「じゃあ、今回の件でようやく知ることになったのか」

「ううん。この期に及んで、母上とか使用人は誤魔化そうとしてたから、こうなったら意地でも他人になってやるって思ってね。ボクも名乗らなかったし、役人も見て見ぬ振りだったし……。あの子が大人になって、家の仕事をするようになって、ようやく知るんじゃない?」

「うわー」

「なんというか、まあ」


 カルサイ伯爵家の惨状に、ユージンとフラールはドン引きだった。




 その後しばらく、4人で談笑をしていたのだが、ノックの音の後に、扉が開かれ、


「フレイヤ、ここにいたのか。イサーク殿下が呼んでるぞ。おれ達に、会わせたい人がいるって」


 ユングが、扉の影からにゅっと首を突き出してきた。

 呼ばれたフレイヤと、チラリとユージンに視線を向けられたフラールが、席を立つ。


 パタン、と扉が閉められ、残ったのはユージンとゾーイのみ。


「そういえば、ゾーイ。結局、お前の父親は何で帝国を裏切ったんだ?」

「あ~、何というか。分不相応な使命感と、盛大な先走りかな」

「何だそりゃ?」


 ユージンの疑問に、ゾーイはカルサイ伯爵の行動理由をざっくりと説明した。

 簡単に言えば、カルサイ伯爵はネアン帝国が魔王軍に勝てないと思い込み、人間の未来のためには、ムスペラ公国と協力してネアン帝国を乗っ取って魔王に献上した上で、悪魔との共生の道を探るしかないと考えたのだ。


「なるほど、確かに先走り過ぎだな。だが……ついに尻尾を出したか、ウラバン子爵め」


 ゾーイの説明では、カルサイ伯爵を行動に移させた決定的な情報を齎したのは、ウラバン子爵だという。

 息子を無理やりフラールの婚約者にした――いや、父親の指示かどうかはか分からなかったが、息子ジョアン=ウラバンはフラールを脅した挙げ句、口封じに殺された。加えて、このカルサイ伯爵の供述である。


 ついに年貢の納め時だな、とユージンは思ったのだが。


「ん?ユージンはウラバン子爵を知ってるの?」

「いや、本人は知らないが、息子は知ってる。嫌な奴だった」

「ああ、フラール様の婚約者でごたごたしてたしね。でも、ボクがこの情報をルキオール様に報告した後、ウラバン子爵家にも調査が入ったみたいだけど、結局証拠不十分で処分無しだったみたいだよ」

「なんだと?カルサイ伯爵の証言は?」

「『悪魔の軍団が攻めてくるかもしれないとは言ったが、ただの噂話程度』ってことらしいよ。それじゃ、処分もできないって」

「でも、お前の父親が確信するくらいの情報だったんじゃないのか?」

「証拠は隠滅されたみたいだね。父上は上手く利用されたってこと。まあ、疑わしくてもまだ何の罪もない子爵と、色々やらかした父上とでは、証言能力も変わるし」

「マジかよ」


 ユージンは、ウラバン子爵のやり口に、空恐ろしいものを覚えた。

 フラールを手に入れるために、成功率の低い作戦を息子に押し付け、失敗したら口封じに殺す。

 自らは何の証拠もなく逃げおおせる場所から、帝国を大混乱に陥らせるような伯爵の謀反を煽動する。


 マトモな人間のやり口ではない。――まあ、全て証拠はないのだが。


「でも、帝国も完全にウラバン子爵をマークしただろうから、この先はあまり動けないんじゃない?」

「だと良いが」


 ユージンに言いようのない気味の悪さを残しつつ、夜は更けていった。


     ◆ ◆ ◆


 ユージン達が、ルキオールの要請に応じてネアン帝国に帰還してから、そろそろ1か月が経とうとしていた。

 とはいえ、ユージン自身は訓練したり移動したり戦争したりパーティに出たりで動き回っていたため、ゆっくりしたという感触はない。


 だが、それくらいで良い。一所に腰を落ち着けてしまうと、動き出すのが億劫になる。まだ目的は達していないというのに。


 だからユージンは、再び旅に出ることを決めた。


「で、いきなり明日って、急すぎないかしら?」


 昼過ぎ、ユージン達の訓練場に現れたフラールが、不満気にそう述べた。


「え?一昨日くらいにルキオールさんには言ったけど?お前聞いてないの?」

「……聞いてないわよ」


 フラールは、ユージン達が帝都に戻ったこともあり、ここ最近の食事はヴァン兄妹と共に来賓用の建物で食べるのではなく、皇族用の部屋で摂っていた。そのため、ユングやフレイヤとは政治の勉強のために毎日会っているものの、ユージンと会うのは数日ぶりであった。


「えっと、ごめんなさい、フラールお姉ちゃん。てっきり知っているものだと……」


 もちろん、旅に同行するメンバーの内、食事を共にしているディストラ、ゾーイ、ユング、フレイヤはその事を知っていた。ちなみにゾーイはあれ以降、夕食だけは皆と一緒に食べている。

 そして、引き続き旅の責任者を務めるライリーにも、当然連絡がいっている。


 自分だけ、知らなかった。

 その状況に、ショックを受けるフラール。


「あー、ていうか、あれか。もしかして、今回もイサーク殿下的には、公式に行かせるつもりは無いってことか?」

「っ!そういうこと!?……ちょっと私行ってくるわ」


 肩を怒らせて去っていくフラールを見送りながら、ユージンはポツリと呟く。


「藪蛇にならなきゃ良いけど」


     ◆ ◆ ◆


 自分の執務室で仕事をしていたイサークは、バーン、とノックも無しに扉が開かれたことを訝しむが、視線を上げた先にいたのが眉を吊り上げる実妹であることが分かると、静かに視線を書面に戻した。


「ちょっと兄様!?ユージン達は明日出るって!?」

「ああ、そうだな。それが?」

「何で私に黙ってたの!?」

「……え?言ってなかったか?」


 イサークは、キョトンとした顔で、隣で書類を確認する腹心に顔を向けた。

 そのルキオールも、眉を顰めると。


「私は、言った記憶はありませんね」

「俺も無いな」

「……」

「ま、そういう事だ」


 イサークは、ハハハと笑って、視線を再び机上の書類に戻す。


「何が、そういう事、よ!私も行くからね!」

「ん?ああ、好きにしろ」

「兄様に何て言われても――、え?行って良いの?」


 当然反対されるものと思っていたフラールは、イサークの言葉に拍子抜けした。


「ああ。前と違って、今回はお前にも勇者殿のパーティの一員として回復役を務めたという実績がある。勇者殿の株も急上昇した今、お前が彼の側にいて文句を言うのは一部の貴族くらいだ。その程度なら問題ない」


 一部の貴族とは、本気でフラールの婚約者の座を狙う者と、逆に勇者を自分の家の婿に取り込みたい者だ。

 だがその程度なら、イサークが黙らせるまでもなく、無視しても良いレベルである。そもそも後者はお話にならない。


 大衆や騎士、多くの貴族が納得すると考えられる現状、フラールがユージンに同行するのを止める理由はなかった。


「そうなの。でも良かった!ありがとう兄様!」


 フラールはキラキラとした笑顔でそう言うや、いそいそと部屋を出て旅の準備をしに向かうのだった。


「やれやれ、アレで自分の気持ちに気づいてないのが笑えるな」

「中々に健気で可愛らしいじゃないですか。というか殿下、今は周りに人がいます」

「おっと。お前達、今のは聞かなかったことにしろよ?」


 イサークは、ニヤニヤ笑いを隠しもせずに、執務室にいる補佐官や侍従に指示するのだった。


 ◆ ◆ ◆


 翌日、ユージン達は例によってひっそりと王都を後にした。

 敵の奇襲をなるべく避けるという名目だが、ユージンが騒がれるのを嫌った結果である。


 そして今回は、なんと小さな荷馬車が用意された。

 人数が増えたことと、前回とは違い帝都から道の整った西側に向かう事になるので、あったら便利という事で貰ったのだ。不要になったら、適当に処分して良いと言われている。


 御者台にはユージンが座り、幌のある荷台にフラールと双子が乗り込む。ライリー、ディストラ、ゾーイは騎馬のままであり、ライリーは前方の警戒と先導を、ディストラとゾーイは後方の警戒を担当する。

 ユージンとフラールの馬が馬車を引き、一行が出発したところで、


『やれやれ、ようやく再出発だね』


 碧い小鳥が、御者台に座るユージンの隣に舞い降りた。


「ニルガルド!そう言えばすっかり忘れてたけど、どこに居たんだ?」


 完全にその存在を忘れていたユージンが訊ねた。


『基本的に、ユングとフレイヤの側に居たよ。と言っても、2人を見守れる位置の樹に隠れていた、という事だけどね』

「2人は知ってたのか?」

「はい。最初の頃に何回か会って、説明されましたから」

「説明?」

『あまり2人の側に居すぎると、私が高位の幻獣であることが知られて、面倒になりかねないからね。数回は2人と接触して、2人の使役動物であると認識させておいて、後は少し離れて見守っていたのさ』


「完全に隠れはしなかったんだな」

『それは無理だね。さすがにあの王宮は警備が厳しい。私も魔力を完全に抑える事は出来ないから、存在自体は知られてしまう。良く分からない魔力を持つ鳥が突然現れたら、当然警戒されるだろう?だから、2人と接触して、使役動物であると思わせておいたのさ』

「なるほど」

『本当に隠したいものがあるときは、全てを隠すのではなく、相手が納得するストーリーを作れるだけの情報を与えてやれば良い』

「……500年も生きているあんたが言うと、説得力があるな」


 ユージンが唸りながらそう感想を言った。


「「「え、500年!?」」」


 荷台から、3人の驚いた声が上がった。


「え、フラールはともかく、ユングとフレイヤも知らなかったのか。言っちゃまずかった?」

『いや、特に秘密にしていたわけじゃない。言う機会がなかっただけで』


「しかし、500年っていうと、あの悪魔シグルーンと同じだけ生きてるんだよな」

『例の、人間に協力的な悪魔だね。もしかしたらどこかで会っているかもしれないけれど、流石に覚えていないね。当時、悪魔とは腐るほど戦ったから』

「まあ、ニルガルドは500年前の戦争時は主にアルセドに居たんだろ?シグルーンは、積極的に戦ってはいなかったみたいだからな。だからこそ、例の魔法で死ななかった訳だし」

『そうだね』


 500年前の勇者のことを思い出し、少ししんみりした気分になるニルガルド。

 しかし前を向くユージンはその事に気付かず、再び馬車の制御に集中していた。


 1台の馬車と、3人の騎馬が、西を目指す。


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