第86話 新たなる能力
前話のあらすじ:
ユージンは、悪魔ベルソンを討伐した!
ユージンが悪魔ベルソンを斃した日の夜。
以前と同様に、王宮で夕食を摂ることになったユージン達だが、そこに同席するのは、ディストラ、ユング、フレイヤと、何故かフラールとゾーイまで居る。
「……何でお前ら居んの?」
「ボクは~、普通にルキオール様にお願いしたら、許可してくれたけど?」
普段であれば、ゾーイは他の魔法士と同様に魔法局の食堂で食事をし、併設されている寮で寝泊まりする。
父親の謀反の件が明るみに出れば、ゾーイにも厳しい処分が下るわけだが、それは公式には「なかったこと」にされた。そうなると、魔法局としては、有能な人材は当然そのまま起用する。
加えて、状況的に仕方なかったとはいえ、本人には何の非も無いというのに過酷な任務に派遣したということで、上司であるルキオールも、ゾーイに対して良心の呵責が働かないわけでもなかった。
そんな訳で、ルキオールはゾーイの我儘を了承したのだった。
「あっそう。まあ良いけど。で、フラールは?」
ユージンの素気無い反応にゾーイがぶーぶー言っているが、それをスルーしてフラールに訊ねるユージン。
「私は……別に何だって良いでしょ」
何故か拗ねたように、フイっと顔を背けるフラール。
首を傾げるユージンに、ユングがポロっと口を割る。
「フラール姉ちゃんは、いつも俺達と一緒に食べてるけど?」
「あ、お兄ちゃん……」
フレイヤが、兄の言葉に小さく溜息を吐いた。それにキョトンとするユング。
「え?何か言ったらマズイことなのか?」
「そういう訳じゃないけど……」
フレイヤは、フラールが自分達のために、一緒に食事をしてくれていることを理解していた。
そこに、寂しくないように、という理由以上に、政治的に2人を守ろうという意思があることにも。
ただ、性格上、フラールはそういう事を表に出したがらないし、特にユージンに対してはそれが顕著である。
そんなフラールの内心に全く気付けない兄に、落胆しているフレイヤだった。
そして、フレイヤの危惧したとおりの事が起きる。
「ふーん、いつも一緒に、ねえ」
ユージンが、ニヤニヤとした笑みでフラールを見る。
「……何よ」
「べっつに」
「ならその顔を止めなさい」
「どんな顔をしようが俺の自由だろ」
「私の視界から外れてくれるならね」
「そっちが見なけりゃ良いだけだろ?」
「……貸しを忘れた訳じゃないわよね?」
「え?こんなことで返す気か?……いや、そもそもがこんなことの借りだったな。仕方ない」
周囲には良く分からない会話をしつつ、何らかの決着が付いたらしい。
普段ほどの口論に発展しなかったことで、フレイヤはホッと息を吐いた。
それからは穏やかに食事が進み、食後のお茶を飲んでいる時だった。
「そういえばユージン、答えを聞きそびれてたけど、あの悪魔を倒した時の件」
ディストラが、思い出してそう訊ねた。
「ああ、あれは――」
ユージンは、その時のことを思い返す。
◆ ◆ ◆
あの時――、悪魔ベルソンを前に、自らの全てが通用しなかった時。
ユージンは、強く望んだ。
目の前の敵を倒せるだけの力を。
罪なき人々をまもるための、絶対的な剣を。
強く強く、それを望んだ。
その瞬間――、ユージンは、白い空間に立っていた。
「っ……。ここは!」
上下がなければ、右左もない、光や影すらもない空間。
ユージンは、身に覚えがあった。
そう、学術国家ミッドフィアの「勇者の庵」と呼ばれる、千年前の勇者の終の棲家でのことだ。
こちらの世界で「聖剣」と呼ばれている剣を求めて、その家の地下に入ったユージンは、今と同じ空間に飛ばされた。
恐らく、意識のみ。
そこでユージンは、千年前の勇者と思われる人物と会話をして、その人物から聖剣――いや、七の魔剣『セブン・フォース』を譲り受けたのだ。
今この場は、その時と全く同じ――いや、違いがあった。
ユージンの目の前――遠くなのかもしれないが、距離感が掴めない――に、人間のような形の何かがあった。
靄のようなモザイクのような、あるいは線描のような。
そんな良く分からない何かが、ユージンを見て驚いた――ような気がした。
『おお?何だ?何で俺の意識が再現されてるんだ?』
疑問を呈するその声は、以前、この空間から聞こえてきた声に違いなかった。
ただし、今日は空間全体からではなく、正面に居る人型の何かから声が聞こえているようだ。
『ん~?まさかあの双子の影響か?まあ良い。とりあえず、当代の勇者、え~と、名前何だっけ?』
「……ユージンだ。つーか、あんたなんか口調変わってないか?」
『そうか?まあ、俺も俺が何者なのか良く分かんねえからな』
「千年前の勇者じゃないのか?」
『その認識で概ね合ってるとは思う。だが、俺は死んだ。死んだ人間の意識は、普通残らない。あの家には、ちょっと仕掛けをしてるが』
「この剣は普通じゃないだろ?」
『そりゃそうだが、意識を繋ぎとめる機能なんて無いはずだからな。まあ、今はそんなのどうでも良いだろう』
千年前の勇者の言葉に、ユージンは現状を思い出した。
そうだ、今はあの悪魔を何とかしなければならない。
そのための――。
『力が、欲しいか?』
「っ!……ああ」
ユージンは、その言葉に、深く頷いた。
それに、千年前の勇者が微笑んだ――気がした。
『行けよ。今のお前なら、使えるはずだ。この剣の第2の能力――「断物」をな』
何をそんな簡単に――、とそう問い返そうとしたユージンは、しかし何となく分かってしまった。
自分は、『断物』を使える――。
白い世界が、揺らいでいく。
『気を付けろよ?その能力は、ある意味諸刃の剣だ。使い所を間違えるな』
その言葉と共に、ユージンは悪魔ベルソンの前に舞い戻ったのだ。
◆ ◆ ◆
ユージンは、皆に、千年前の勇者との会話をざっと説明した。
皆、『セブン・フォース』を入手した時のことは知っているので、ユージンの言葉を素直に受け入れる。
「つまり、あの悪魔の絶対防御を破ったのは、その新しい能力のおかげってこと?」
ディストラの質問に、ユージンは頷く。
「ああ。この『断物』は、かなり強力な能力だ。簡単に言えば、全てのものを斬ることができる」
「……まあ、あのメチャクチャ硬い悪魔をスッパリ斬っちゃったところからして、そんな事だろうと思ったケド~。魔法的なものも斬っちゃえるの?」
「いや、『断物』の能力としては物理的なものだけだ。ただ、『断物』を使う時には、同時に『断魔』も発動できる。この2つの能力で、物理と魔法、全てのものを斬れるって訳だ」
「ちょっとズル過ぎじゃない?」
ディストラの突っ込みに、ユージンが肩を竦める。
「そう言われてもな。これがなければ、帝都がヤバかったわけだし。ただ、この『断物』は、『断魔』と違って無制限に使えるわけじゃないっぽいんだよな」
「というと?」
「もうちょっと色々調べないと分からんが、とりあえず一つは、相当気合入れて集中しないと、発動しない」
「何ソレ~?」
「言葉通りだよ。今はまだ、普通に集中する程度じゃ使えそうにない。まあ、訓練次第なんだろうけど。あと、連続使用にも難があるらしい」
「まあ、さすがに何時でも何でも斬り放題だと、さすがに不条理すぎるわよね」
「ああ。……だが、本来これはそういう不条理なものなんだよ」
何せ、たった6本の魔剣で、千年前、世界は崩壊しかけたのだから。
ユージンとディストラは、その力の一端を、身に染みて感じていた。
四の魔剣『デリュージ・ファンフ』によるその理不尽なまでの力で、殺されかけたのだから。
ユージンの言外の意味を汲み取り、ディストラは深刻な顔で深く頷いた。
一方、それを知らない4人は首を捻る。
「どういう意味?」
「ああ、だって千年前の勇者はこれで魔王を倒しちまったんだろ。それだけ凄い剣なわけだ。あと5つも能力があるらしいし」
「そういえばそうだったわね」
「まだ5個もこんな能力があんのか!先が楽しみだな、兄ちゃん!」
「楽しみでもあり、恐ろしくもあり、だな……」
果たして、自分にこの剣を扱いきれるのか。
ユージンは、そこはかとない不安を覚えるのだった。
◆ ◆ ◆
同じ頃、帝都のとある屋敷にて。
2つの人影が、向かい合って茶を口にしていた。
「まさか、ベルソンがやられるとは。完全に予定が狂いましたね」
そう口にした人物は、長身の男だった。
丁寧な口調な中に、どこか軽薄で残虐な色を含むその男は、言葉とは裏腹にさほど残念そうでもなかった。
一方、それに相対する人物は、感情の籠らない声で。
「悪魔ベルソンは、魔王軍の幹部だと聞きましたが?」
「ええ、そうですよ。あの『絶対防御』を見たでしょう。魔王様でも、彼を滅ぼすのは容易ではない。当然、帝国の攻撃は、全く意味をなさなかった。あの魔法士――この私に一撃を食らわせた天才ルキオールですら、手も足も出なかったじゃないですか」
そう言って薄く笑うのは『偉才なる韋駄天』と名乗り、以前王宮に侵入した悪魔張本人であった。
「ですが、あっさりやられましたね」
「さすがに私も事前情報の無いものは計算できません。あの勇者の聖剣は反則ですねえ。千年前の勇者の置き土産が、まさかこれほどのものとは」
作戦の練り直しです、と息を吐いて、悪魔は茶を啜った。
その様子を見て、対面に座る人物は、これみよがしに溜息を吐いた。
「言い訳ですか。まったく使えませんね、悪魔というものは」
「まあ、今回失敗したことは認めましょう。ですが、高位の貴族でありながら祖国を裏切るあなたに言われたくはありませんねえ」
「その私を利用しているのが、あなたがた悪魔でしょう」
「ええ、まったくそのとおりです。いやあ、人間とは実に面白い。自分の欲望のために、こうも簡単に国を売るとは!」
「国という概念もあやふやなあなたがたに言われても、何も感じませんよ」
「ハハハハ!……さて、では私は次の作戦に移りますよ」
「……何をする気です?」
「どうもあの勇者を放置しているとあまり良いことにはならなさそうなのでね。置き土産には、置き土産をぶつけてみようかと」
「意味が分かりません」
「ハハハハ。次は朗報をお持ちしますよ。……では」
そう言って、悪魔『偉才なる韋駄天』は椅子から立ち上がり、瞬きをする間に姿を消した。
残された人間は、お茶のカップを手に取り――中に揺れる液体を、床に捨てた。
「……退屈ですね」
その独り言は、誰の耳に入ることもなく、闇に溶けて消えた。
第5章終了です。
ゾーイ編+悪魔襲撃があったので長かった……。
章末に、久々にもう一つの世界マナスカイの話を投稿します。




