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召喚勇者と七つの魔剣  作者: 蔭柚
第5章 悪魔強襲
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第82話 悪魔ベルソン

前話のあらすじ:

ネアン帝国の下級騎士アレックスは、勇者を信じて義憤に駆られていた!


またしても予約をミスしておりました。

 ――そして、魔王軍の侵攻が始まった。


 アレックス達若手の騎士は、最前線で活用するには力不足ということで、帝都内での防衛、すなわち前線から飛び出て帝都内に侵入してきた悪魔の対処にあたった。


 基本的に戦場は、当初の予定通り帝都の外郭の少し外側である。

 そこで、上級騎士、生え抜きの歩兵や一部の身体能力が高い魔法士部隊等が魔王軍と戦火を交えている。


 そして魔法士部隊の大部分、前述の身体能力が高い者以外は、帝都の外壁の上に陣取り、仕込まれた防衛用魔法の制御を行っている。

 前線から飛び出して帝都を狙う悪魔は、この魔法士部隊の集中砲火を浴びて殆どが絶命するのだが――、一部の魔法抵抗力が強い悪魔は、大ダメージを負いつつも帝都に落下、侵入を果たす場合があった。


 それらに対処するのが、アレックス達の仕事である。



 手負いの悪魔ならば何とかなるだろう――。


 そんな油断をした同僚は、アレックスの目の前で、瀕死の悪魔の捨て身の突進をまともに受けて即死した。


「……え?」


 壁と悪魔に挟まれてぐちゃぐちゃになった同僚に、アレックス達が呆然としていると。


「動け!次にああなるのはお前達だぞ!」


 彼ら若手のサポート役として帝都内を飛び回っている上級騎士のライリー=ナダルヤが、アレックス達を叱咤し、むくりと起き上がろうとする悪魔の首を落とした。


「たとえ敵がどんなに傷ついていても、油断するな!奴らは人間ではない!悪魔だ!膂力も魔法も生命力も、我々の常識とは違う!」

「は、はい!」


 アレックスは反射的に二つ返事をした。


「分かったら動け!絶対に復活できないよう、この悪魔を処理しろ」

「りょ、了解です!」


 些か非人道的な命令だが――、復活されてはこっちが殺されてバラバラにされてしまうのだ。

 アレックス達は、挽き肉のようになってしまった同僚を見て、こみ上げるものを抑えつつ、動かなくなった悪魔の肉体を同僚の遺体から離す。

 そして、人型の死体を毀損するのに若干躊躇しつつも、炎の魔法で悪魔を焼却するのだった。


     ◆ ◆ ◆


 そんな戦いが、4日ほど続いた。

 夕方になり、休息をとるためにアレックス達は、帝都西部地区の広場や道路に簡易的に作られた寝床に、重い足取りで向かう。


 何人もの同僚が、軽くトラウマになる死に方をして、アレックス達は心に大きくダメージを受けていた。

 加えて、連日の戦いで、身体も疲労困憊である。


 ただ一応、夜は休めているので、肉体が限界を超える所までは行っていなかった。


「……つーか、何で夜は悪魔が襲ってこないんだ?あいつら、人間と違って夜でも普通に目が見えるんだろ?」


 アレックスの疑問に、ベティが答える。


「ラルヴァンダート次期公爵様と、あの方の特設部隊のお陰らしいわ」

「どういう事?」

「昼間の魔法部隊による、侵入を試みる悪魔への攻撃は、魔法防壁と目視で確認してるらしいんだけど、夜は目視確認はせずに、防壁にかかったものは全て次期公爵様が問答無用で狙撃しているって聞いた」

「ああ、そういえば夜間は絶対に帝都内外の行き来をするなって言われたな」

「一応、帝都四方の四大門は通行できるみたいだけどね。それ以外は、『伝令鳥』とかの魔法も一切通さないらしいわ」

「……それって、次期公爵様、過労で死ぬんじゃね?」

「まあ、昼間はお休みになられているらしいし、夜も、かかった悪魔への本格的な攻撃は部下に任せているみたいよ。次期公爵様は、防壁の管理と悪魔の足止めを主にやってるみたいね」

「そうなのか」

「そのおかげで、ようやく、勝ち目が見えてきたね」

「……そうだな」


 ベティの言う通り、200体ほどいた悪魔は、この4日間で、残り50体ほどまでに減少していた。このままのペースで討伐できれば、明日には殆どの悪魔を討伐できるだろう。


 ただ、ネアン帝国が支払った代償も大きい。


 帝都の外、主戦場で戦う手練れの騎士や兵士は、当初1万人強が居たが、その半数以上、6千人強が戦死していた。加えて、2千人程は重傷を負い、すぐに復帰は出来ない。

 計算上は、主戦場の帝国兵は残り2千人だが、帝都外から続々と応援が駆け付け、現在は5千程で悪魔に対抗している。


 一方、アレックス達のように帝都内での悪魔の掃討や民間人の保護を行う帝国兵は、戦争当初からあまり変わらず1万人程度である。

 ただし、ここでも数百人の兵士が犠牲になっていた。


 7千人余りの戦死者。一つの戦場での死者数としては、ネアン帝国の有史以来、最大の数であった。


 だが、それも終わろうとしている。

 帝国の勝利をもって。


 そう、誰もが考えていた。


「それ」が現れるまでは。


     ◆ ◆ ◆


「我が名はベルソン。『絶対防御』のベルソンである」


 身の丈が人間の3倍ほどありそうな巨大な悪魔が、そう名乗りながら戦場に現れた。

 悪魔が名乗ることは珍しいが、ほとんどの帝国兵はそんな事は気にしていなかった。


 なぜなら、自らの身長を超える巨大な三日月斧バルディッシュを担ぐその形貌が、ネアン帝国の熟練の猛者ですら気圧されるほどの圧倒的な存在感を放っていたからだ。


 悪魔は、あまり武器を使わない。

 その理由として、そもそも悪魔の住む「地界」にはそのような文化や技術がなく、魔法と素手で戦うのが一般的だからとされる。

 加えて、自分達よりも遥かに戦闘能力に劣る人間相手に、武器など使う必要がないと考えているとも。


 それでも、少数の悪魔は武器を使用して戦う。

 その理由はさまざまであるが、帝国兵達の前に現れた悪魔ベルソンの目的は、攻撃範囲の拡大であろう、と兵達は予測した。


 ベルソンは、動きが鈍かった。2秒に1歩。それくらいのスピードで、ゆっくりと近付いてくる。

 巨大な体躯に加えて、その悪魔は非常に逞しい身体つきをしていた。そして、鎧のような皮膚で覆われている。


 典型的な一撃必殺型のパワーファイター。帝国兵はそう判断した。

 少ない手数を、武器によって攻撃範囲を広げることで補おうというのだろう。



 だが、それならば攻撃される前に殺せば良い。止めを刺せないようであれば、ヒットアンドアウェイで少しずつダメージを与えていく。


 そう判断した帝国兵が、先手必勝とばかりに攻撃を仕掛けた。


「食らえっ!」


 敵が反応できない速度で近付き、急所である眼球に必殺の一撃を突き刺す。

 それで終わりだと、そう思った。


 だが次の瞬間には、


「え?」


 その帝国兵の肉体は、頭と足先を残して消し飛んでいた。



「なん、だと!?」


 その様子を見ていた帝国兵の間に、動揺が広がる。


 悪魔ベルソンの攻撃そのものに驚いたわけではない。

 ベルソンは、普通に三日月斧バルディッシュを振り抜いただけだ。その攻撃速度は、予想よりも速かったとはいえ、驚愕に値するほどではない。

 そしてその攻撃力――ミスリル鋼の鎧を着用した兵士の胴体を消し飛ばすほどの威力も、あの巨体からすれば納得の域である。


 帝国兵が衝撃を受けたのは、ベルソンが眼球への攻撃に一切動じなかったからである。


 悪魔がいくら頑丈な肉体を備えているとはいえ、基本的な急所は人間と大きく変わらない。

 頭部は最大の弱点であり、そこを破壊されればほぼ全ての悪魔は死亡する。


 故に、眼球を貫かれれば、それは頭部の破壊、すなわち死に直結する。仮に傷が浅く、致命傷でなかったとしても、無反応であることはあり得ない。


 だというのに、あの悪魔ベルソンは、全くの無反応であった。

 攻撃を仕掛けた帝国兵も、それに動揺して隙を見せてしまったのだ。


「……ただ鈍いだけ、って訳じゃなさそうだな。眼球にも瞼にも全く傷がない」

「完全物理耐性か……。俺達の天敵だな」


 周囲の帝国兵は、すぐに衝撃から立ち直って、悪魔ベルソンをそう評した。

 敵の能力は脅威ではあるが、さすがに熟練の猛者達はパニックを起こすことはなかった。


 なぜなら、ここまで完全に近い物理耐性は初めて見るものの、物理攻撃が効きにくい悪魔や獣魔は、他にも存在するからだ。

 したがって、当然のように、対策がある。


 とはいっても、人任せだが。


「魔法士サマに連絡だ」

「応よ」


 幸いにして、敵のスピードは亀のように遅い。

 あの防御力に対して恐らく手も足も出ない前線の帝国兵だが、スピードが無ければ陣形を崩されるほどの被害を受けるとは考えづらいし、準備に時間がかかる魔法士の強力な魔法にとっても良い的だ。


 悪魔ベルソンの周囲に陣取る帝国兵は、敵の攻撃を受けないように慎重に動きつつ、一応弱点がないかちょくちょく攻撃をしつつ時間稼ぎをする。


 ベルソンは、帝国兵が近付くと力任せに三日月斧を振るが、それが兵士に当たることはなかった。


「そんな見え見えの大振りに当たるほど間抜けじゃねーぜ?」


 頭部や首筋、関節の裏などを攻撃しつつ、反撃を軽く躱しながら帝国兵は悪魔ベルソンを挑発してみる。


「そのようだな」


 だが、ベルソンは至極冷静にそう言った。

 そこには悔しさも苛立ちも含まれておらず、帝国兵は嫌な気持ちになった。


 まだ、何か隠し玉があるのか?


 帝国兵のそんな思考は、魔法士からの連絡によって掻き消される。


『こちら魔法士第3中隊。巨大悪魔への攻撃準備完了だ。前線の兵は下がってくれ』


 隊長格が所有する通信魔道具に指示が来て、指示を受けた帝国兵は周囲に連絡する。


「準備が出来たらしい!退くぞ!」

「了解!」


 悪魔ベルソンの周囲でちまちま攻撃していた帝国兵達が、一斉に悪魔から距離を取った。


 ベルソンの周りに巨大な空間がぽっかりと出来上がり。


 次の瞬間には、轟音と共に、炎、雷、氷、風、岩等の魔法攻撃が容赦無く悪魔ベルソンに浴びせられた。

 数十人の魔法士による、中級~上級魔法の滅多打ちだ。

 魔法士の中には、帝国に50人程しかいない一級魔法士も混じっている。その総合的な威力は、一般的な悪魔であれば悠に10体くらいは死滅させられるだろう。


 いくら魔法耐性が強い悪魔であっても、これに耐えられるものなどはいない。

 魔法障壁を展開しても、これだけの連続攻撃であればすぐに破られてしまう。


 帝国兵も、魔法士も、勝利を確信していた。

 魔法の衝撃による煙が晴れた先には、悪魔の死体があるか、あるいは原形を留めない何かになっている可能性もある。


 そんな彼らの予想は、


「……嘘だろ?」


 ドスン、という、悪魔ベルソンの重い足音と共に破られた。


     ◆ ◆ ◆


 魔法士部隊一個中隊の集中砲火を浴びてなお、悪魔ベルソンは歩みを止めなかった。

 いや、それだけではない。


 悪魔ベルソンには、ただ一つの傷も見受けられなかった。


「おい、俺は夢でも見てるのか?あれだけの魔法攻撃を受けて、全く損傷がないように見えるんだが」

「俺も同じ夢を見ているみたいだな。さすがに連日の戦闘で疲れが溜まっていたか。戦場で寝てしまうとは」

「お前ら、現実逃避してんじゃねーよ。信じたくはないが、あれは現実だ。あの悪魔は、完全物理耐性だけでなく、完全魔法耐性も持っているらしい」


 帝国兵の間に、嫌な沈黙が流れる。

 その間にも、悪魔ベルソンは、一歩一歩着実に帝都へと近づいている。


「……それって、どうするんだ?」

「分からん。少なくとも、俺達の手には余るな。上の判断を待つしかないだろう」


 その場にいる帝国兵は、進み来る巨体に対して、じりじりと後退することしかできなかった。


     ◆ ◆ ◆


 同じ頃、王宮内にある魔法局にて。

 次席魔法士に与えられる部屋で仮眠をとっていたルキオール=ラルヴァンダートは、部下の悲鳴によって叩き起こされていた。


「ル、ルキオール様、大変です!」

「……何ですか騒々しい。昼間の現場は各部隊長に一任しています。余程のことがなければ起こすなと――」

「その余程のことです!!」


 王都全域の防壁を監視するという苦行を、この数日毎晩繰り返していたルキオールは、さすがに疲労のピークが来ていた。

 そのため、不満気に部下をあしらおうとしたのだが、部下の切迫した形相に、ふぅ、と溜息を吐いて頭を切り替えた。


「何が起きました?」

「魔法が一切効かない悪魔が現れました!第3中隊の総攻撃を食らってピンピンしています!」


 部下の報告に、ルキオールは表情を引き締める。


「……第3中隊長と話せますか?」

「魔法士部隊に被害は無いので大丈夫かと」


 ルキオールは頷いて、自らが作成に関与した通信魔道具で、帝都外壁で戦っている第3部隊長に連絡を取り、状況の詳しい報告を受けた。


 通信を終えたルキオールは、苦い表情となり。


「私は軍部に向かいます。仮眠中の一級魔法士を起こしておくように」


 部下にそう指示をして、部屋を後にするのだった。


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