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召喚勇者と七つの魔剣  作者: 蔭柚
第5章 悪魔強襲
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第75話 ユージン、南へ

前話のあらすじ:

ユージンはルキオールからカルサイ家の事情を聞いた!

「南に、ですか。さすがに、何の理由もなくそれを許可することはできませんが……。理由をお聞きしても?」


 ルキオールは、ユージンの「南に行く」という言葉に冷静なまま、質問をした。


「もちろん、ゾーイを助けるためです。もしカルサイ伯爵がムスペラ公国に破れれば、ゾーイがどうなるかはルキオールさんも分かっているはずです。俺は、それを黙って見ていることは出来ない。帝国が支援できないなら、俺が勝手に行く。それなら問題ないでしょう」

「ふむ……」


 ユージンの主張を、ルキオールは真面目な顔で吟味する。

 そして数秒の思考の後。


「私個人としては、ユージン様がゾーイの手助けをすることに異論はありません。ただし、ユージン様が魔王軍に対して王宮の守りを担う役目になっているということは、王宮の騎士達には知られています。ユージン様は、彼らから()()()と思われかねません」

「どういうことです?ムスペラ公国との戦いも、戦力は5分で厳しいものになる予想なんですよね?」

「ええ。ただ、それを知っているのは、貴族や軍幹部など極一部の者だけです。ほとんどの者は、ムスペラ公国に怪しい動きがある事は知っていても、実際に侵攻計画がある事、カルサイ伯爵がそれを手引きしていたことは知りません。ユージン様の帰還は、建前上は、魔王軍への戦力増強と見做されています」


 ルキオールの説明に、ユージンは眉根を寄せた。


 確かに、カルサイ伯爵の件――高位貴族の裏切りは、多くの人間に知られるべきではないし、噂が広まりすぎればムスペラ公国を誘い出す作戦に支障が出る。

 である以上、ユージンがここに帰還した理由は、魔王軍への対策以外に妥当なものはない。


「加えて、例えムスペラ公国との戦いが厳しくとも、人間相手の戦いです。悪魔という、本質的に人間と異なる存在を相手にするよりも余程与し易い、というのが多くの騎士の心中です」


 ユージンも、気持ちは分からないではなかった。確かに、悪魔は強大な力を持ち、たった1体を相手取るのにもユージンパーティは苦戦した。

 だが、魔王を倒すために旅をしている自分が、悪魔から逃げたと思われるのは心外である。帝都から離れたいのではなく、ゾーイを手伝いたいだけだ。決して悪魔に恐れをなしているわけではない。


 しかし――、恐らくユージンが何と言おうと、それは「言い訳」に聞こえるのだろう。


 ユージンは、はあ、と1つ溜め息を吐いて。


「俺の評判が落ちて、今後何か問題がありますか?」

「実務的には、特には。ユージン様が今後も帝都で活動するなら、騎士との信頼関係は必要ですが、そういう訳ではないので」

「なら、別に構いません。俺の()()で、南に行かせてください」


 イサークやルキオールの指示で南のフォローに行った、という体にすれば、ユージンの評判は守られるだろう。

 だがそれでは、勇者を贔屓したということで、イサークやルキオールの騎士からの評判が下がりかねないし、なにより帝国がカルサイ伯爵を庇ったということにもなる。


 いくら何の非もないゾーイを助けるためとはいえ、イサークやルキオールにそこまで頼るわけにはいかないし、彼らもそれは承諾しないだろう。


 だから、ユージンは我儘を言って、ルキオールは仕方なしにそれを認めるのだ。


「……分かりました。ただし、ユング殿下とフレイヤ殿下はさすがに同行させられませんよ。分かっていると思いますが、南の戦場は激しいものになります。両殿下に何かあれば国際問題ですからね」

「まあ、それはそうですね。ディストラは?」

「ユージン様同様に、ディストラ様を止める権利は、我々にはありません」


 それを言うと、止める権利はないだろうが、協力する義務もない、という話になりかねないが――、さすがにそういうつもりで言った訳ではないだろう。何だかんだで、ルキオールはユージンには概ね協力的だ。


「ありがとうございます。まあ、どうするかはあいつの意思とか他の事情と相談ですけど」

「ふむ……。いつ出発しますか?」

「早い方が――、いや、そうでもないんですかね」

「そうですね。ユージン様がどのようにゾーイを助けようとするのかにもよりますが。戦闘時の助けというなら、ゾーイがムスペラ公国に行って、公国が挙兵してカルサイ伯爵領に侵攻するまでは、やることがないでしょう。作戦に一枚噛もうというのなら、カルサイ伯爵領に早めに着いて、伯爵と交渉するのもありでしょう」


「う~ん、軍事作戦については、俺はド素人ですからね……。でもまあ、どういう作戦なのかは把握しておいた方が良いか。カルサイ伯爵には取り次いでもらえますか?」

「一筆、したためましょう。路銀と簡単な案内地図もお渡ししますよ」

「何から何までありがとうございます」

「私としても、カルサイ伯爵の勝率が上がるに越したことはありませんからね。では、明日の昼までに諸々準備してフラール様に預けますので」

「よろしくお願いします」


 席を立って頭を下げるユージンに、ルキオールも立ち上がる。

 そして話を切り上げようとして――、何かを思い出したように呟く。


「ああ、そういえば」

「え?」

「ここまで踏み込む以上、お話しておきましょうか。ゾーイの過去について」


 そう言って再び椅子に座ったルキオールにつられて、ユージンも座りなおした。


「伯爵家に生まれたゾーイが、何故私の下に来ることになったのか。伯爵と会うのでしたら、知っておいた方が良いでしょう」


 そうしてルキオールは、彼が調査した情報と、ゾーイ自身から聴取した内容をまとめて、ユージンに聴かせるのだった。


     ◆ ◆ ◆


 話が終わり、義憤を露わにするユージンの表情に、ルキオールが苦笑する。


「今回の件はさておき、カルサイ伯爵は貴族としてそう珍しいタイプの人間ではないですよ。貴族としてはゾーイの方が異端ですね。どちらが悪い、とは言いませんが、カルサイ伯爵家にゾーイが生まれたのは、伯爵にとってもゾーイにとっても不幸でしたね」

「そう、ですね」


 正直ユージンは、そんな貴族なんてクソくらえ!と思ったわけだが、大貴族を目の前にして、それを口にするのは控えた。

 その感情は、実はルキオールにはバレバレだったのだが、気付かない振りをするのが大人の対応である。


 ルキオールは、長くなりましたね、と話の締めに入り、ユージンもそれに従った。

 そして2人して部屋を出て、別れ際に。


「ユージン様。くれぐれも無茶はしないでください。貴方の身も大事なのですから」


 真面目な顔でそう告げてきたルキオールに、ユージンは神妙な表情で答えるのだった。


「ええ、死なない程度にやりますよ」


     ◆ ◆ ◆


 翌日、朝食を食べて双子と別れたユージンは、ディストラに一連の経緯を説明した。

 ゾーイの過去については、本当に軽く触っただけだが。


 話を聞いたディストラは、難しい顔で唸った後に。


「なるほどね……。でも、俺達が行ったところで、戦況が変わるかな?」

「戦況は変わらないだろうな。でも、隙を見てゾーイを連れ出すことくらいはできるかもしれない」

「そっか。ゾーイを助けるという目的だけなら、俺達でもできることはあるかもね」

「ああ。ただ、作戦を邪魔するわけにもいかないからな。動くタイミングは慎重に見極める必要がある」

「そうだね。なら、その作戦を十分に把握しておく必要があるね」


 結局、ディストラも乗り気になったため、2人は早めにカエサル伯爵領に行く事にした。


     ◆ ◆ ◆


 昼過ぎ、昨日と同じように、フラール、ユング、フレイヤの3人が、ユージンとディストラのもとにやって来た。

 今日はフラールが来ることを予想していたユージンは、どうした?とは訊かない。というか、聞く前にユングから声を掛けられた。


「ユージン兄ちゃん、何か南の方に行くんだって?」


 ユージンは、チラリとフラールに、喋ったのか?という視線を投げた。

 フラールは、真顔で小さく首を横に振った。表向きしか喋ってないということだろう。


 まあ、ユングとフレイヤの性格からして、ゾーイがピンチでユージンがそれを助けに行くと言えば、自分達も、となることは目に見えている。

 迂闊なことは言わない方が良いな、と思いつつユージンはユングに答える。


「ああ、ちょっと偵察にな」

「え?ゾーイちゃんのお手伝いっていうことでは?」


 だがユージンの返答に、フレイヤが首を傾げた。

 ユージンの頬が引き攣る前に、フラールがすかさずフォローする。


「ゾーイの任務に、南国の偵察も含まれているのよ」

「そういうことですか」


 フレイヤが納得したところで、ユージンも怪しまれぬように畳み掛ける。


「ああ、だから俺とディストラは暫く留守にするけど、2人は勉強サボるなよ?まあ、フレイヤの心配はしてないけど」

「おれだってやる気だぜ、今は!」

「今は、って……。まあ、やる気がある時は確かに真面目なんだけどね」


 やれやれ、とフラールが首を振る。


「どれくらいかかるんですか?」


 フレイヤが少し寂しそうな顔をして聞いてきた。

 ユージンは、早馬で先行しているゾーイがムスペラ公国を上手いこと乗せて侵略させ、カルサイ伯爵領で戦端が開かれるのは恐らく7日後くらいであることと、カルサイ伯爵領まで通常片道3日かかる、との事前情報を思い浮かべた。


「10日くらいかな」

「そう、ですか……。気をつけてくださいね」


 フレイヤが、キュッと両手でユージンの右手を握った。

 ユージンは苦笑しつつ、左手でフレイヤの頭を撫でる。


「まあ、無茶はしないよ」


 たぶん。と心の中だけで付け足す。

 が、それはフレイヤにすら読まれていたようで。


「ユージンお兄ちゃんの『無茶しない』は信用できませんからね。ディストラさん、無茶させないでくださいね」

「ははは、努力するよ」


 フレイヤからの扱いに、ユージンは苦笑するしかなかった。



「それで、もう出るの?」


 フラールの問いに、ユージンが頷く。


「ああ。昼一で出れば、夕方には最初の宿場町に着くって話だからな。準備が出来てるなら、行くつもりだ」


 そう言って、ユージンはフレイヤが持つ手提げ鞄に視線を遣る。

 恐らくそこには、昨晩ルキオールが準備すると言ったカルサイ伯爵への親書と、旅費が入っているはずである。


「そう。なら、一応見送ってあげるわ。王宮を出るのにも手続きが必要だから、先に門に行っておくわ」


 フラールは意味ありげな視線をユージンに送った後にそう言って、颯爽と歩き出した。

 準備は出来ているらしい、と判断したユージンがすぐにそれを追いつつ、振り向きざまにディストラに頼む。


「ディストラ、俺の部屋の荷物を頼む」

「え?ああ、了解」


 ディストラも、フラールがヴァン兄妹に聞かせたくない話をしたいのだと察して、ユージン達を追おうとする双子に協力を頼む。


「2人とも、ちょっと荷物運ぶの手伝ってくれる」

「あ、はい。分かりました」

「しょうがないな……っと、りょうかいしました」


 ユングが、フレイヤの視線を受けて口調を改めた。


 そんな遣り取りの間に十分距離をとったフラールが、横に並んだユージンに鞄を差し出す。


「ルキオール様からの預かり物よ。本当に、私は郵便屋さんになった覚えはないのだけど?」

「さすがフラール姫!わたくしのような下賎な者のために、御自ら足を運んで下さるとは!至極恐悦の至りでございます!」


 フラールからの軽い睨みに対し、ユージンは大仰に礼をしつつ鞄を受け取った。


「ここまでバカにされると、怒りも湧かないわね」

「あれ?何か間違ったか?」

「何から何まで間違ってるわね」

「おかしいな。フラールが普段、平民から言われてる言葉を組み合わせたつもりだけど」


「敢えて教えてあげるわ。一つ、平民の使う敬語は不自然なものが多い。二つ、私はそれらの言葉そのものを嬉しく思っているわけではない。三つ、敬意の籠っていない敬語ほど苛つく言葉はない」

「なんと!それは確かに、何から何まで間違っていたな。済まないフラール」

「四つ、白々しい謝罪をされると殴りたくなる」


 フラールの目が据わったのを見て、ユージンが肩を竦めた。


「そう怒るなよ。かなり重要な物だろ、これ。俺に面識があって、信頼できて、身軽に動ける人間なんてお前しかいないんだから」

「皇女は普通、身軽に動けないのよ?」

「いや、お前、身軽に動いてんだろ普段から」


 事実を突かれて、フラールがムスッと黙る。

 それを見てユージンは苦笑する。


「まあ、ありがとな、持ってきてくれて。それで、中身は、と」


 ユージンは、鞄の中を検める。


 まず、掌大の革袋。

 チャリン、と音がすることから、お金が入っているのだろう。


 次に、折り畳まれた大きめの羊皮紙。

 広げると、帝都から南部カルサイ伯爵領までの簡単な地図が記されていた。推奨ルートや宿場町の位置も記載してある。非常にありがたい。


 最後に、大きめの革の封筒に包まれた、羊皮紙の封筒。

 ユージンは知らないものの、皇太子の印によって封印されている。これが、カルサイ伯爵宛の手紙だろう。


 それらを確かめるユージンに、いくらか機嫌を直したフラールがアドバイスする。


「カルサイ伯爵にはユージンの事は全く知らされていないわ。誰かを使って連絡してしまえば、兄様からカルサイ伯爵に接触した事が変な噂になるかもしれないから。だから、彼に会うには、まず領主邸を訪れる必要があるわね。皇太子である兄様の手紙を持つ人間は、通常、かなり高位の貴族か文官よ。だから、ユージンもそれらしく――、つまり、偉そうな態度で門番に話しかけた方が怪しまれないわ」


「なるほどな」

「まあ、貴方なら普段から偉そうだから大丈夫でしょうけど」

「え、俺、偉そう?」

「……ちょっと違うわね。不遜、生意気、図々しい。そんな所かしら」

「おい」

「何か?」


 フラールの挑戦的な瞳に、ユージンは言い返そうとして――、やめた。


 彼女の言葉は概ね事実であったから。

 そしてそれは、ユージンの思惑通りだから。



 勇者はある程度、傲岸不遜な態度であるべき。これがユージンの持論である。


 自信無さ気な勇者には誰も付いてきてくれないし、勇者は気の良い何でも屋ではない。


 真に偉くなったと錯覚してはいけない。だが、侮られて使い走りにされ、為すべきことを為せないようでは元も子もない。

 自分の信念に基づいて行動するために、使える権力は十全に使う。


 勇者になると決めたときから、ユージンはそうして生きてきた。


「(そう、クゼール王国のあの丘で、ジャンヌに誓った時から)」



 ユージンが真剣な顔で思案に耽るのを見て、フラールが小首を傾げた。

 だがそれは横に置いておき、本題を話し出す。


「ユージン、今更、私は止めはしないわ。でも、兄様が言うには、ムスペラ公国との戦いも、こちら以上に熾烈になるかもしれないのよね。だから――」


 話を区切ったフラールと、話を聞く姿勢になり彼女を見下ろすユージン。


 そのユージンの真面目な顔に、フラールはやや狼狽えて視線を逸らし。

 しかし再び顔を上げて。


「私や兄様の名前でも何でも使って、ゾーイと3人で、生きて帰って来なさい」


 若干上気した、少女の真剣な表情に、ユージンはフッと微笑み、


「当然」


 そう言い放った。



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