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召喚勇者と七つの魔剣  作者: 蔭柚
第5章 悪魔強襲
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第73話 ゾーイ=カルサイのあいでんてぃてぃ④

前話のあらすじ:

ゾーイは、5年ぶりに実家に乗り込んだ!


ゾーイ話の続きです。

 ゾーイとカルサイ伯爵とが、自宅の玄関ホールで対峙している。

 その場は既にカルサイ伯爵によって人払いがされており、彼らの他には誰一人いなかった。


 幼い頃は絶対の存在であった実の父親。しかも別れ際には弟の殺害未遂を疑われて暴言を吐かれた。

 それらの過去は、ゾーイの心に傷を残しているし、もしかしたら、万に一つの可能性として、父親に恐怖を覚える可能性もある、とゾーイは危惧していた。


 だが、それは完全に杞憂だった。


 目の前にいる男は、ゾーイにとって何の脅威にもなりえない。

 ゾーイを直接的にどうこうできるだけの力や魔法もなければ、後見であるルキオールに対するだけの権力もない。

 そして、彼のゾーイをみる瞳の中に見える感情は、嫌悪よりなにより、恐怖が最も大きかった。


 おそらく、別れ際のゾーイの暴走が効いているのだろう。

 何にせよ、自分を恐れている父親に、どうして恐怖を抱けようか。


 精一杯の虚勢で高圧的な言葉を吐いたカルサイ伯爵に、ゾーイは面倒で不要な会話は行わないことにした。元々するつもりはなかったが。


「ワタシも、できれば二度とここには来たくなかったんですケドね。父上のせいで、こんなことをする羽目になったんですよ」


 先程の門番よりも普段寄りの口調に戻し、ゾーイは父親を軽く睨む。

 一方のカルサイ伯爵は、ゾーイの言葉に一瞬だけ動揺を覗かせた。が、流石に高位貴族らしく、すぐに取り繕って、


「……どういう意味だ?」


 白々しくも問うてくる。


 ゾーイは、今ここで父親の罪の証拠を突き付ける事は出来ない。だがイサークがカルサイ伯爵の罪状を断言している以上、確固たる証拠があるのだろう。

 まあ、例え証拠がなくとも、イサークが決定した以上、カルサイ伯爵に先は無いのだが――、流石にあの皇太子が冤罪でそんな悪辣なことをするとは思えない。


 惚ける構えの父親に、若干イラっとしたゾーイだが、まあ会話が成立しているだけ良いか、と思い、さっさと話を進める。


「そういうのは要りませんから。父上がムスペラ公国と通じて謀反を起こそうとしているのは、既にイサーク殿下にバレてます。カルサイ伯爵家は終わりですネ☆」


 お、調子が戻って来たな、と自己評価するゾーイに対して、カルサイ伯爵の反応は劇的だった。


「なっ!?……あ、う……!い、それ、は……!!」


 顔を真っ青にして冷や汗を流し始めたと思ったら、急に両目を瞑って深呼吸をする。そして、カッと目を開いて歯を食いしばった後に、再び力を抜いて目が泳ぎ出す。

 新手のおもちゃか?とゾーイが思っていた所で、カルサイ伯爵はガックリと床に膝をついた。


 ゾーイは、ルキオールやイサークの下に居るのだ。その彼女にバレているのであれば、イサークが知らないはずがない。つまりゾーイの言葉は真実となる。


「……一応聞くけど。なんでこんなことを?」


 最早敬語すら使わなくなったゾーイだが、カルサイ伯爵はそんなことを気にする余裕もない。

 自分が行ったことの重大性は、よく理解している。だからこそ、自分がこの先どうなるのかを予測し、回避策を考え――、無駄だと悟った。

 ゾーイがここに来たということは、もう全てあちら側の準備は終わっているということだ。準備万端のイサークやルキオールに勝ち目があると思うほど、カルサイ伯爵の判断力は鈍ってはいなかった。


 絶望に囚われたカルサイ伯爵は、ゾーイの質問に反射的に答える。


「お前も知ってのとおり、我が領地はムスペラ公国に接している。彼の国の圧力と、我が家は常に戦ってきた。それも帝国の支援あってのことだ。しかし――先日の王宮が悪魔に襲撃された事件以来、帝国は帝都の防衛を優先し、こちらの支援を縮小した」

「それは、まあ仕方ないんじゃ」


「ああ、仕方ない。だが、問題はそこではない。あの王宮が襲撃されたということだ。帝国は、そう遠くない内に悪魔に落とされる。そんな噂が、南方では実しやかに囁かれ出した。そして私は、その可能性が高いと分かる情報を得た」

「……情報?」


 ゾーイが首を傾げたが、カルサイ伯爵は気にせずに続ける。


「帝国が敗れれば、人間はお終いだ。だが、悪魔に協力的に国を差し出せば、共生を図れるかもしれない。そのためには、今の帝国では駄目だ。悪魔に協力的な国にする必要がある」

「……それで、現皇帝を打倒するために、ムスペラ公国と組もうって?」

「そうだ」

「……」


 かなり思考の飛躍があるものの、全体としては何とか筋が通る話である。

 だが、カルサイ伯爵が帝国に反逆する理由となった、帝国が悪魔に敗れるという情報。その内容と、出所が重要である。

 その辺りを聞き出すことが、ゾーイに課せられた任務の一つであった。


「さっきの情報ってのは、どんな内容だったの?」

「正に今、起きていることだ。帝都の周辺に魔王軍が現れ、帝都を滅ぼす。本来であれば、この前に行動する必要があったが……」


 なるほど、確かに現状は帝国にとって大変厳しい状況である。これを事前に知っていれば、帝国は終わりだ、と考えても仕方はない。

 そして同時に、その情報を前もって得られた人間はつまり――。


「それは、どこからの情報?」

「……それは」


 これまでゾーイの質問に淀みなく答えていたカルサイ伯爵が、始めて躊躇った。

 それにゾーイは厳しい視線を投げる。


「今更庇ってどうするの?父上はもう、どうしようもない状況なんだよ?何を漏らしても、これ以上悪くなることはないよ」

「それも、そうだな……。情報をくれたのは……ウラバン子爵だ」


 誰だそれは、と思ったゾーイだが、それなりに最近に聞いた覚えがある。

 あれはそう、ゾーイがユージン達と旅立つ少し前、フラールの婚約が白紙に――、というか、フラールの婚約者だ。婚約を破棄されたジョアン=ウラバン。

 いや、違うか。彼は子爵の息子であるので、フラールの元婚約者の父親、ということになる。


「(んんん?フラール様との婚約を破棄された人の父親が、悪魔と繋がっている可能性がある……?フラール様の婚約の白紙撤回は、そのせいだったのかな?)」


 フラールの婚約破棄の経緯を知らないゾーイは、そんなズレた想像をする。

 それはともかく、ひとまず大方の情報を得られたゾーイは、もう一つの任務を開始すべく、父親に向き直る。


「ねぇ、父上。今更だけど、何でワタシがこんなに自由に動けてると思う?」

「……?それは、お前がルキオール殿かイサーク殿下かの後見を受けているからだろう?」

「あのヒト達が、その程度で罪を無かった事にすると思う?正式に絶縁されたわけでもないワタシを……父上が行ったことは、そんなに軽い罪?」


 ゾーイに言われて、カルサイ伯爵は、自国の皇太子とその右腕のことを思い返す。

 彼らは、有能で、国民想いで――そして冷徹だ。

 一族郎党皆死刑が免れられない程の罪を、自分の教え子だからと贔屓にするような人間ではない。


 ということは。


「……司法取引か」

「そういうこと☆」

「……私達を売る代わりに、自分の命は助かると、そういう事か」


 カルサイ伯爵のゾーイを見る目が、恨みがましいものとなる。

 ゾーイはそこで初めて、少しだけ感情を表に出して苦笑した。


「その程度で助けてくれるような、甘い人達じゃないよ」

「では……?」


 不思議そうなカルサイ伯爵に、ゾーイは真剣な顔になって、告げた。


「ムスペラ公国に帝国を侵攻させたうえで、その軍勢を完膚なきまでに叩きのめせ。それが、イサーク殿下の命令だよ」


     ◆ ◆ ◆


 ネアン帝国の帝都の中央に位置する、王宮。その北部に位置する、主塔と呼ばれるこの国の政治の中心地。

 その建物の最上階にほど近い、ごく少数の人間にしかその区域に入る権利は与えられていないフロアの一室で。


「それにしても、相変わらずお前は腹黒いことを考えるな」


 イサークが、ククッ、と笑いを噛み殺した。

 それを冷めた目で見下ろしたルキオールは、フン、と鼻を鳴らす。


「いい加減鬱陶しかったからな、あの国は。大した武力も政治力もないくせに、チクチクとちょっかいをかけてきて。お前もいつも言ってるだろ」

「まあな。だがそれならいっそ、向こうからの侵攻を盾に、国ごと制圧しちまえば良かったんじゃねーか?攻めてきた軍勢だけを叩くんじゃなくて」


「それも考えたがな。流石に無理だろう。カルサイ伯爵の用意できる戦力だけでは。成功率ゼロの作戦を提案する指揮官は、ただの無能だ」

「それならこっちからも戦力を――、ってそれはさすがに駄目か」


「ああ。そこに回す戦力があるなら、帝都の守りに回す。そもそもそれではカルサイ伯爵への罰にならないし、他に示しがつかない。カルサイ伯爵家が死力を尽くして、財力も兵力も疲弊してボロボロになってようやく、あの家を残すことができる」


「温情、っていう訳でもねーか。こちらとしても、貴族が反乱を起こそうとしたという事実は、無かったことにした方が良いからな」

「そうだな。……ところで、フラール様はどうするつもりだ?」


「どう、とは?」

「空席の婚約者だよ」

「ああ……。元の婚約者がアレだし、別にこちらから押し付けるつもりはないんだが……ちょっと微妙だよな」

「ユージン様か」


「ああ。俺が見る限り、今のところまだ何もないみたいだけどな、明らかに好意持ってるからな」

「最初にフラール様をユージン様に宛がった時、勇者様がフラール様を望むならそれで良い、と言ってなかったか?」

「いや、別に良いんだよ。ただ、あの時は勇者殿がこの国に残る前提だったからな。だがあの俺達に対する態度を見るに、ユージン殿はここに残る気はないだろう。もしあの2人が一線を越えた後で、ユージン殿だけあちらの世界に帰る、となったらフラールが哀れだと思ってな」


「フラール様が付いて行く可能性は?」

「無いとは言い切れない。というか、一線を越えた後ならその方が良い。純潔を失った皇族の姫は政治に使いづらいし、フラールの心情もある。残られても持て余すだけだ」

「酷い言い草だな」

「お前に言われたくはない。まあとにかく、フラールの心がユージン殿に向いているのであれば、こちらから婚約者の話は言い出し辛い」


「……問題は、フラール様がご自分の心に気づいて無さそうな所だな」

「あれは、お転婆ではあるが、完全なる箱入り娘だからな」

「加えて、ご自分の心を守るために、敢えて恋愛感情を鈍らせていた節もある」


 はあ、と2人して溜息を吐いた。

 フラールの話が一区切りついた後、ルキオールはイサークに意味ありげな視線を寄越した。


「……何だよ」

「お前もいい加減逃げ回るのはやめたらどうだ?」

「ちっ、そう来ると思ったよ。今の幸せルンルンなお前に言われると、無性に腹が立つな」

「俺は関係ないだろ。完全にお前の問題だ」


「苦手なんだよなぁ、あの姫」

「お前が苦手意識を持ってるだけで、別に悪い娘じゃないけどな。ちょっと融通が利かないだけで」

「ちょっと、ねぇ」

「……かなり、か?まあとにかく、向こうは歩み寄るつもりなんだから、お前も覚悟を決めろよ。いつまでも皇太子が未婚では示しがつかない」

「ハイハイ……」


 あからさまにやる気を削がれた表情をして、イサークは窓から城下を眺めるのだった。



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