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召喚勇者と七つの魔剣  作者: 蔭柚
第5章 悪魔強襲
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第70話 ゾーイ=カルサイのあいでんてぃてぃ①

前話のあらすじ:

ユージンを呼び出したゾーイは、別れを告げていなくなった!


ここから数話、ゾーイのターンです。

 

 ゾーイは、強力な魔法障壁と反魔法陣アンチマジックフィールドが敷かれた小部屋にいた。魔法士を取り調べるための、専用の部屋である。

 彼女の対面には、40歳前後のがっしりとした身体つきの騎士が着席している。先程、転移したばかりのゾーイに容疑を突き付けてきた騎士である。その左右に、30台半ばの騎士と、20台半ばの騎士が立ってこちらを見下ろしている。

 ちなみに、20台半ばの騎士は、ユージンに、ゾーイがカルサイ伯爵家の長女であると説明した青年だ。


「さて、カルサイ伯爵令嬢。なぜ連行されたかは理解しているな?」


 対面に着席する騎士が、ゾーイを睨みつけながらそう言った。

 ゾーイを伯爵令嬢と認識しつつも、堂々と威圧的な空気を出してくるということは、高位貴族か、よほど正義感が強いかのどちらか、あるいはその双方である。

 下手に逆らわず、従順に返事をした方が良いのだが――、ゾーイは、そんな気分にはなれなかった。一応、丁寧語を使いはするが。


「いえ、微塵も心当たりはありません。ワタシの実家が、何かしでかしたのだと推測は出来ますケド」


 本心ではあるが、必要以上に不愛想なゾーイの返答に、対面の騎士の眉がやや吊り上がる。


「白を切るつもりか。実家の動向を知らないはずがないだろう」

「知りませんよ。ワタシは5年前に魔法局に入ってから、一度も実家には帰ってませんし、連絡も取ってないですから」

「どうだかな」


 疑う構えを解かない騎士に、ゾーイは辟易する。

 だが、事実ゾーイはこの5年間、実家とは全くかかわっていないし、もはや縁を切られたものと思っている。


 しかしながら、貴族の令嬢が家を出て就職し、実家との繋がりを切るということは、常識的にはあり得ない。普通の令嬢は、父親が用意した婚約者と結婚するか、場合によっては恋愛結婚もあるだろうが、どちらにせよ、結婚して家で奥様業をするのだ。

 極稀に、家出同然に平民と結婚し、専業主婦となって家事全般をする令嬢もいるが、10歳にして国の機関に就職するなどということは、あまりにもイレギュラーが過ぎる。


 まだ15歳の少女が、実家と疎遠になっているなど、騎士が信じられないのも無理はない。


「というか、父は何をしたんですか?国家反逆罪となると、よっぽどですよね?」

「白々しい。君が伯爵を唆したのだろう」

「……はあ?」


 どうも、雲行きが怪しくなってきた。

 父であるカルサイ伯爵が何かやらかして、それに自分が協力していた疑いがある、というのならまだ分かる。

 だが、ゾーイが主犯のような物言いは納得いかないし、不自然である。


 ゾーイには、国家反逆を行う動機もなければ、手段も浮かばないのだから。


「意味が分かりませんね。何でワタシがそんな事をする必要があるんですか?」

「君は、カルサイ伯爵家を自分のものにしようとして失敗し、追い出された。だが、社交界のトップに立つ夢を諦め切れず、魔法局に入ってほとぼりが冷めるのを待ち、同時に社交界に戻る機会を虎視眈々と窺っていた。そして、悪魔が攻めてきて帝国が揺らいだのを機に、社交界を跳び越え、帝国そのものを手に入れようとした。違うか?」

「……」


 ゾーイは、絶句した。

 もちろん、余りの突拍子の無さに着いて付いていけなかったからだ。


 カルサイ伯爵家を追い出された件については、当時その様な噂があったのは事実なので、まだ良い。だがそれ以降の、社交界のトップだの帝国を手に入れるだの、一体どこから湧いて出た話なのか、皆目見当もつかなかった。


 しかしそのゾーイの反応を、騎士達は図星と捉えたらしい。

 対面に座る騎士は、フン、と鼻で笑った後、見下すような視線をゾーイに向ける。


「計画を見透かされて、反論もできないか」


 その言葉に、ゾーイはイラっとして睨み返す。


「いやいや、呆れてるんデスよ。社交界のトップ?そんなの頼まれたってお断りですケド。それに、帝国が揺らいでるからって、どうやって帝国を手に入れるっていうの?悪魔側についたとしても帝国が敗れるとは限らないし、もし本当に社交界に戻りたいなら、この数か月で仲良くなったフラール殿下に頼んだ方がよっぽど確実でしょ」

「ふん、簡単には口を割らないか」

「うわ~、話が通じない~」


 ゾーイがうんざりして首を振った。

 話が平行線を辿ろうとしたところで、後ろに控えていた若い騎士が口を開く。


「カルサイ伯爵は、これまで帝国南部での騎士隊の活動にも精力的に協力をしてくれていた。あの方が、帝国に謀反を起こそうとするなど、俄には信じがたい。そう、一人娘の願いでもなければ」


 どうやら、ゾーイの父、カルサイ伯爵は、騎士隊に熱心なファンを持っているらしい、ということが判明した。


 だが、それが何だというのだろう。父が騎士隊の活動に協力的だったからといって――。


 ゾーイの顔から、表情が消えた。


「父が、ワタシの願いを聞いたと?面白いことを言いますね。産まれてから10年間、何一つワタシの言葉に耳を傾けなかったあの父がですか?もしそんなことがあるのなら――、ボクが家を飛び出して一級魔法士になることもなかっただろうね」


 その瞳の奥に仄暗い怨恨を写すゾーイに、騎士達が一瞬怯んだ。


 そのタイミングで、部屋の扉が開き、


「もう良いだろう?彼女がカルサイ伯爵と繋がっていないことは十分に分かったはずだ」

「殿下……」


 イサークが入室してきた。


「大体、彼女はこの2か月、勇者殿と旅をしていたんだ。そこには、私の指示に忠実なライリーもいた。隠れてカルサイ伯爵と連絡を取るなど不可能だ」


 帝国を代表する皇太子からのゾーイの擁護発言に、目に見えて騎士達の勢いが削がれる。

 だが、それでも信念を持つ年上の騎士は食い下がった。


「ですが……」

「まあ、お前達の気持ちも分かる。カルサイ伯は、帝国に背く行動を起こせるような人間ではなかった。――家族への対応はさておき」

「では!」

「だが、それと令嬢とを結びつけるのは無理がある。何か別の事情があると考えた方が理論的だ」


 イサークの冷静な言葉に、ついに騎士達は反論を止めた。

 それを見て小さく頷いたイサークが、ゾーイへと視線を向ける。



 あの時――、先程、王宮の中庭に転移して騎士達に囲まれた時。ルキオールとイサークの姿を見つけたゾーイは、諦めの境地にいた。

 罪を認めるとか認めないとかは関係ない。自分や周りの騎士達が何と言おうと、全ては彼ら2人の意思どおりに進むのだと理解したからだ。


 それ故、ゾーイは一切の抵抗をしなかった。

 そしてそれは、どうやら正解だったらしい。


 イサークは、ゾーイを有罪にするためにこの茶番を仕組んだわけではないようだ。であれば、大人しく連行されたのはプラスに働くだろう。



 そんなゾーイの心中を量ったのか、イサークが、フッと小さく笑った。


「大変だったな、ゾーイ嬢」

「ええ、まあ、慣れてますケドね」

「そうなのか?」

「ルキオール様は厳しいので……」


 罰として独房に入れられたことなど数え切れない。それならまだマシな方で、課題をクリアできなかったゾーイに地獄の訓練が課されることもあった。

 それに比べれば、頭が凝り固まっているとはいえ、正道を行く騎士の尋問など、なんということはない。


「そうか。それなら、もっと様子を見てから助けに入るべきだったな」

「そんな変なサド成分は要りません。それより、建設的な説明が欲しいデス」


 自国の皇太子を前にしても物怖じしないゾーイの態度に、イサークは目を細める。

 だが、次の瞬間には真顔に戻り。


「そうだな。端的に言おう。君の父親、カルサイ伯爵はムスペラ公国と通じて、我が国を侵攻する計画を立てている」

「なっ!?」


 ゾーイの顔が、驚愕に染まった。

 そして、その内容を理解すると共に、徐々に恐怖が襲ってくる。


「まさか……そんな。つまり……外患誘致」

「そういう事だ」


 想像以上に――、これ以上ないほどに最悪の事態だった。


 ゾーイは、自らの父親を嫌っている。憎んでいると言っても良い。

 だがそれでも――、この国を担う貴族として、国を窮地に陥らせるようなことをする男だとは思っていなかった。

 しかし、それはどうやらただの幻想だったらしい。


 外患誘致。国家反逆の中でも、最も重い部類の罪だ。


 それが明るみに出れば、首謀者はもちろん処刑。それだけではなく、家族、関係家まで、一族郎党が連座で処刑される。

 お家取り潰しといった生ぬるい処罰ではない。正真正銘、全員が死刑だ。例外は認められない。


 父親がその首謀者であれば、もちろん娘である自分は――。


 その想像をして、ゾーイは思わず自分の身体を掻き抱いた。


「国家反逆罪は、当然だが非常に重い。情状酌量も、基本的には無い。そして、如何に私といえども、減刑などの特例措置を行う事は出来ない。カルサイ伯爵家は全員、君や君の弟も含め、死罪だ」


 自分の行く末を明確に言葉に出され、ゾーイはびくりと肩を揺らした。

 そして、ノロノロとした動作で、自分を見下ろすイサークを見上げる。


 先程、大人しく連行されたのはプラスだったと考えたが、それも錯覚だったらしい。死罪という最悪の未来が確定しているのに、プラスもマイナスもない。

 これでも頭の回転が速いゾーイは、自分の未来に絶望し、逆に思考を停止した。



 それを見て、イサークはやや残念そうな顔をする。

 絶望して諦めるのではなく、カルサイ伯爵家が全員死刑になると、そんなことを伝えるために、皇太子である自分がここまで来るはずがない、と推測してほしかったところだ。

 この少女は、自分の右腕であるルキオールがそれなりに大切にしている手駒であり、イサーク自身も期待している所がある。魔法士としては当然だが、貴族令嬢としても成長してくれれば、有用性が上がるというものだ。


 とはいえ、やはりまだ15歳の少女。

 期待値を上げすぎて心を折ってしまってはいけない。この辺りで、希望を与えてあげよう。



「だが、今回の件は、まだ公表されていないし、極一部の者しか知らされていない。そして、カルサイ伯爵家や、才能ある魔法士である君を失うのは、我々としても避けたいところだ」


 イサークの声色に、厳しいものの激励するような色が含まれているのを感じ取り、ゾーイの頭が少し動き出す。


「そこで、1つ提案がある。――まあ、君に否という選択肢はないだろうが」


 イサークは、大国の権力者である皇太子らしく、酷薄に笑った。


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