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召喚勇者と七つの魔剣  作者: 蔭柚
第5章 悪魔強襲
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第69話 「ユージン、またね」

前話のあらすじ:

ユージン達は、ネアン帝国の現状の説明を受けた!

 

「ジョアン=ウラバン子爵子息は、死んだよ」


 イサークの言葉に、ユージンの理解が一瞬遅れた。

 だが、すぐに人間など簡単に死ぬものだと内心で頷いて、思考を次に進める。


「……処刑したんですか?」

「いや。あの男が死んだのは、拘束してから10日と経っていない時だ。有益な情報は得られていなかったが、まだまだ有効に使えるはずだった。こちらからわざわざ処刑したりはしない」

「じゃあ、自殺ですか?」

「それも違うな。軟禁されていた部屋の中に転がっていた遺体は、綺麗に首が切断されていた。正気の人間には不可能な自殺方法だ。加えて、狂気に染まったとしても、あの男程度の魔法技術では、そもそも首を落とすことは不可能だろう」


 拘束していた側のイサークが処刑したのではなく、罪人自ら死んだのでもない。

 そうすると、答えは一つだった。


「……つまり、他殺。口封じですか」

「そういうことだ」

「警備状況について訊いても?」

「訊いてくれるな。ただ、言い訳をするなら、タイミングが悪かった。というか、隙を突かれた。これも機密事項だが、奴が暗殺された時、ルキオールは別件で大怪我を負って死にかけていた。前にも言ったとおり、あいつは王宮の防衛の要だ。死なない限り、意識がなくても核となる防衛システムは落ちないが、大きなダメージを追えば、自ずと防御も甘くなる」

「え!?ルキオールさんが死にかけてた?」


 ユージンは、その情報に衝撃を受けた。

 ルキオールは、ユージンからみてもこの国の超重要人物だ。次期公爵であり、皇太子の補佐であり、実は現皇帝の実子という立場もさることながら、次席魔法士であり、帝都の防衛の要という実務面でもその影響は広大である。

 その彼が倒れたという情報は、帝国に反するものからすれば、事を起こす格好のタイミングである。


「そんな重要な情報を軽々しく言っちゃって良いんですか?」

「まあ、過ぎた話だしな。それに、あいつが不在になれば、その影響の大きさから、どうしたって隠し通すのは無理だ」

「もう大丈夫なんですか?」

「1か月以上経っているからな。昨日も普通だっただろ?あいつの身体も、帝都の防衛についても、元通り――、いや、防衛については反省する良い機会になったので、より合理的なシステムに改善された」

「それなら良いけど……」


 ユージンは1つ溜め息を吐き、頭をクリアにした。

 そして、話を元に戻す。


「えーっと、つまりルキオールさんが居ない隙に、誰かがジョアン=ウラバンを殺害したと。ルキオールさんの負傷とは全く関係ないんですか?」

「表面の情報だけでは、関係はない。ただ、本当に関係がないかどうかは微妙だ」

「どういうことです?」

「いくらルキオールが倒れていたとはいえ、脱走の可能性もあるジョアン=ウラバンの部屋の警備は厳重だった。にもかかわらず、誰にも気づかれずに暗殺は成された。人間業とは思えない。そして、あのルキオールが、ただの人間に後れをとると思うか?」


「……どちらも、悪魔が絡んでいるんですね?」

「そういうことだ。まあ、前者については状況証拠であって、物的証拠は無いがな」

「どちらも悪魔関係なのに、表面上の関係がないというのは?」

「ルキオールが負傷した件は、確かに悪魔絡みではあるが、魔王一派とは関係ないというのが、ルキオールの判断だ。一方、ジョアン=ウラバン暗殺については、以前の王宮襲撃事件や今回の魔王軍と関係ないとは考えにくい。それなりの地位にいる人間が、悪魔に内通し、一連の事件の糸を引いていると我々は踏んでいる」


 イサークの言葉に、ユージンは違和感を覚えた。

 ユージンの見立てでは、イサーク達は、現実がどうかはさておき、悪魔は全て魔王軍の手下であり、滅ぼすべき悪である、とユージンに思っていて欲しいと考えているはずだった。


 だが、今のイサークの言葉は、悪魔には魔王に従うものばかりではないということをユージンに伝えている。

 変に勘ぐりすぎたか?とユージンは自分の中のイサーク達のイメージを修正する。


「そういう事情ですか。ところで、警備が厳重な場所で暗殺が起きたってことは、他の場所も危ないんじゃ?ルキオールさんが復活したから大丈夫なんですか?」

「それについては、もちろん真っ先に原因の解明が行われた。結論として、普段使われない貴族用の軟禁部屋であったため、魔法への対策が疎かになっていたことが原因とされた。したがって、普段使われているような場所では同じことは起きないはずだ」


 これだけの情報では、ユージンには大丈夫という理屈は良く分からなかったが、イサークやルキオールが大丈夫というのなからそれを信じるしかなかった。彼らにとっても死活問題である以上、そこを謀る理由はない。


 ユージンは納得して、イサークと別れようとして――、ふと、あることを思い立って訊いてみた。


「話は変わりますが、まさかライリーまで貴族なんてことはないですよね?」


 ユージンの質問に、イサークはキョトンとするが、すぐに盛大に笑いだした。


「ははは!まあ、あの娘が貴族と言われれば、疑いたくもなるか。安心してくれ、ライリーは正真正銘の平民だ。まあ、代々続く騎士の家系で、騎士爵を叙勲した者もいる名家の出だがな」


 騎士爵とは、一代限りの名誉爵位である。

 それはともかく、ライリーが貴族でなかったことにホッとしたユージンは、話に付き合ってくれた礼を言って、イサークと別れた。


 去り際に、イサークが「先の話は、なるべく口外しないでくれ。もしフラールに訊かれたら、直接私に訊くように伝えてほしい」と言っており、ジョアン=ウラバンの死亡とルキオールの負傷はあまり広めたくない話のようだ。

 どちらも、帝国の不祥事に近いので、当然といえば当然だが。


「(それはそうとして……。どう考えてもウラバン子爵家は怪しいよな)」


 長男が無理やりフラールの婚約者になったことや、その長男が悪魔に口封じされたと考えられることをみるに、帝国に対して害意やそれに近い感情を抱いているように思える。


 であれば、悪魔と通じているのは彼の家ではないのか。

 ユージンはそう考えたが、昨日のルキオールの説明では、悪魔に通じている人間は絞り込めていないとのことだった。


「(証拠がない、ってことか……?)」


 イサークに訊けばよかったな、と思うユージンだが、忙しい皇太子を追いかけてまで訊く話でもないため、次にルキオールに合った時にでも訊こう、と記憶に留めた。


 ◆ ◆ ◆


 翌日、賓客扱いの4人が朝食を摂っていた時のことである。


「今日から、また訓練するのかな?」


 ディストラが誰ともなくそう訊ねた。

 それに対して、ユングが口を開く。


「あ、おれとフレイヤは、今日は政治とかの勉強を教えてもらうことになってるんだ」


 その言葉に、ユージンが眉をひそめる。


「それは、誰から教えてもらうんだ?」

「分かりません。その道の専門家という話ですが……」

「専門家、ねぇ」

「あ、でも、フラールお姉ちゃんもご一緒してくださるそうです」

「それは、フラールの提案か?」

「たぶん、そうです。昨日の晩に、フラールお姉ちゃんが来て、一緒に勉強しない?と誘ってきたので」

「……そうか」


 ユージンの微妙な表情に、ディストラが首を傾げる。


「何?ユージンも教わりたいの?」

「そんな訳があるか。政治なんて、微塵も関わりたくないっつーの」


 とはいえ、懸念が無い訳ではない。

 そのため、ユージンはヴァン兄妹と共に講義室に向かう。ちなみに、ディストラも、一人仲間外れは嫌ということで付いてきた。



 客間らしい部屋に着くと、既にフラールと、講師らしい男性が待っていた。

 フラールは、ユージンが入室してきたことに小首を傾げる。


「ユージン?貴方も講義を受けるの?」

「違えよ。フラール、ちょっと良いか?」


 手をこまねくユージンの真面目な顔に、フラールは訝しげな顔をしつつも、2人して部屋を出る。

 周囲に人が居ないのを確認するユージンに、フラールはますます首をひねる。


「ユージン、どうしたの?」

「ああ……。あのな、1つ頼みがある。必要ないかもしれないが一応な」


 殊勝な態度で頼みごとをしてくるユージンなど、これまで見た記憶が乏しいフラールは、若干の警戒をするが、邪険にする訳にもいかずに話を聴く体勢になる。


「……何よ?」

「今日みたいに、ユングとフレイヤがネアン帝国の人間と会う時には、なるべくフラールにも一緒に居てほしいんだよ」


 ユージンの依頼に、フラールはスッと目を細めて、「皇女の顔」になった。


「……それは、構わないけれど。どういう意図かしら?」

「皇女であるお前なら分かってると思うが、今のあの2人は、かなり危うい立場だ。イサーク殿下やルキオールさんが2人を害することはないだろうが、利用することはあるだろう。そしてそれが、場合によっては2人にとって不利になる可能性がある。だから――、傍にいて抑止力になってほしい」


 ユージンの言葉に、フラールは表情を変えないまま訊ねる。


「兄様やルキオール様の意思に反しろってこと?それを私に言う?」

「フラールだから言ってるんだよ。たぶん、元々、そういうつもりなんだろ?お前。そうじゃなかったら、わざわざ2人と一緒に勉強なんてしないだろ?」


「……ルキオール様の指示かもしれないわよ?」

「それならそれで構わねえよ。ルキオールさんが、俺の危惧している件に配慮してくれてるってことだからな。ただ、それでもお前が気にしてくれるに越したことはない」


「ユージンが傍にいれば良いじゃない」

「俺が可能な場面はそうするが、政治面で俺がしゃしゃり出る訳にも行かないだろ。関係ないんだから。その点、お前なら立場も権力もある。これまでにユングとフレイヤの信頼も得ているから、相談役として堂々と同伴しても文句は言われないだろ」


「……」


 フラールが、黙ってユージンを見つめる。

 それを、同じく見返すユージン。


 10秒ほどの沈黙の後、フラールが視線を逸らして、はぁ、と溜息を吐いた。


「貸し1つよ?」

「……お前な」

「何かしら?」


 お前だって元からそのつもりだっただろ、と思ったユージンだが、フラールは口にしてはいない。

 澄ました顔のフラールに、分が悪いと判断したユージンも、溜息を吐く。


「ちっ、分かったよ」


 ユージンの苦々しい表情を見て、フラールがパッと笑顔になる。


「ふふふ、良いわね、その表情」


 フラールの子供っぽいその表情に、逆にユージンも毒気を抜かれる。


「……お前のその笑顔も中々良いけどな」

「っ!?」


 そしてフラールは、頬を赤くして視線を逸らすのだった。


 ◆ ◆ ◆


 その日の夕方、騎士に交じって訓練を終えたユージンの元に、1匹の鳥が舞い降りた。

 ただの鳥ではない。というか、鳥ではない。

 青白く発光するデフォルメされたそれは、『伝令鳥』という魔法によって生み出されたもので、離れた場所にいる人物に伝言するためのメッセンジャーである。


 それが、訓練を終えて1人になったユージンの目の前に降りてきて、肩に留まった。

 これまで自分にそれが飛んできたことはなかったため、ユージンは最初何事かと焦ったが、既に何度も見ているものだと理解して、伝言を待った。

 それは、数秒溜めた後に、パクっと口を開いて、声を紡ぎ出す。


『あ、え~っと、ユージン?……今晩、訓練してた広場に来てくれるカナ?……それじゃ』


 言葉少なにそれだけ言うと、青い小鳥は宙に掻き消えてしまった。


 自分が何者であるかも名乗らなかった声の主だが、流石にユージンは、自分に『伝令鳥』を送ってきそうな人間の中から、声の主を判別できないほど耳が悪くはない。


「……ゾーイ……?」


 ◆ ◆ ◆


 ゾーイからの伝言を受けたユージンは、夕食後にこっそりと部屋を抜け出し、王宮の中庭の東に向かった。

 そこには、ユージンがネアン帝国に召喚された後、ひたすらゾーイと魔法戦闘の訓練をした小さな広場がある。ゾーイの指示した「訓練してた広場」とは、そこだろう。


 果たして、そこに何があるのか。


「(まあ、単純に考えればゾーイが居るんだろうけど……)」


 だが、彼女は拘束中の筈である。そんな簡単に釈放されるとは思えない。


「(いや、イサーク殿下は、ゾーイの無罪を証明するための拘束と言っていたから、既に釈放された可能性はあるが……)」


 もし、ゾーイが脱走していた場合、どうするか。

 ゾーイが、無実の罪で捕まり、脱走の末にユージンを頼っているのだとしたら。


 ゾーイを見捨てる気はないが、ゾーイの脱走を手助けしてユージンまで捕まってしまっては、イサーク達の説得もできないかもしれない。


「(あー、面倒だ。だから政治とかそっちには関わり合いになりたくないんだよなー。ゾーイ、頼むから正規の手順を踏んでいてくれよ)」


 そんなことを考えながら広場に足を踏み入れたユージン。


 そこには、月明かりに照らされる、ドレスを纏った清楚な少女が佇んでいた。


 ◆ ◆ ◆


 明らかに高価と分かる深い藍色のドレスは、彼女が平民でないことを如実に表している。

 もし彼女の青色の髪が、貴族の令嬢らしからぬセミショートでなかったのなら、化粧の効果も相まって、ユージンは彼女が誰なのか判別できなかったかもしれない。


「ユージン、来てくれたんだね」

「まあ、呼ばれたからな、ゾーイ」


 ゾーイまで後2歩で手が届く、というところで、ユージンは立ち止まる。


「それで?」


 ユージンの問いに、ゾーイは一瞬目を泳がせる。だがすぐにいつもの悪戯な表情になって。


「も~、ユージン、せっかく月夜にこんな美少女と逢瀬してるんだよ?もうちょっと雰囲気を大事にしなきゃ」

「お前な……」


 ユージンは、やれやれと溜息を吐く。

 普段だったら「あ?どこに美少女がいるんだよ?」等のキツイ言葉が飛び出していた所だろうが、ゾーイの常と違う姿と態度に、言葉を極力抑えた形である。

 それを察したゾーイが、俯いて小さく溜息を吐いた。


「ユージンってさ、そういうところ、意外と空気読むよね」

「日本人だからな」

「え?」

「いやなんでもない」


 空気を読むことに関しては定評のある日本人である。だが、それはスフィテレンドの面々には伝えていないことだし、ユージンがマナスカイの出身ではないことを知っているディストラでも、日本人がどの様な人種かは知るはずもない。

 ユージンの謎の宣言をスルーして、ゾーイは会話を続ける。


「でも、だからかな……。最後に、ユージンにだけは会っておきたかったんだ」

「……何だと?」


 ゾーイの声音と言葉に不穏なものを受け取ったユージンが、顔を顰める。

 だが、ゾーイはそれに構わず。


「今までありがと、ユージン。この3か月は、ボクが生きてきた中で一番楽しかったよ。……フラール様やディストラ、ユングとフレイヤ。気の良い仲間と、笑ったり怒ったり騒いだり。ユージンが、指導役にボクを選んでくれなかったら絶対得られなかった体験をさせてくれた」


「おい、待てよ」


「それと……まあ、これは詳しく伝えないでおくけど、色々と自分でも知らなかった自分を知れたし。だから、ありがとう、ユージン」


 猫のような茶色い瞳を涙で潤ませて、ゾーイは微笑んだ。


 今にも消えそうなその表情に、ユージンは思わず手を伸ばしたが――。


「またね」


 ゾーイがそう言って指を鳴らすと、ユージンの視界が一瞬で暗闇に覆われた。


「っ!?おい、ゾーイ!?」


 ユージンは周囲の状況を把握しようとするが、焦りと混乱で何が起きたか冷静に判断ができない。


「くそっ!」


 逸る心を抑え、ユージンは数度深呼吸をして、周囲の魔力を掴む。

 すると、ユージンの周囲だけ空間が歪められているのが分かった。恐らく、これで光を全て遮っているため、暗闇にいるように感じられたのだろう。

 ユージンは、周囲の魔力を練り、歪められた部分に勢いよく放つ。それだけで、このユージンを包み込む暗闇の膜は消え去った。


 だが、もちろん。

 その頃には、ユージンの目の前にいた少女も消え去っていたのだった。



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