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召喚勇者と七つの魔剣  作者: 蔭柚
第4章 亡国の末裔
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第63.5話 500年前のアルセドにて

ニルガルドと500年前の勇者の話です。

ほぼ会話です。

 謁見の間を後にするユージンの背中を見送りながら、ニルガルドは、500年前の会話を思い出していた。


     ◆ ◆ ◆


「いよいよか……。これから、人類史上で最も多くの人間を殺そうとしている僕に、何か一言ない?ニルガルド」


 少しひ弱そうな印象を受ける痩身の優男の言葉に、彼の肩に留まるニルガルドは小首を傾げる。


『君は、こんな時でも相変わらずだね』

「そう?まあ、こんな時だからこそ平常心でいないとね。最後の最後で魔法をミスったりしたら大変だ」

『今更、君が万全に準備をした魔法を誤るなどとは考えにくいね』

「そうでもないさ。これでも、緊張してるんだ。ここまで追い詰められるなんて、想定外だったからね」

『それは……』


 悔いたような色を滲ませる勇者に、ニルガルドも口籠った。


「500年前の勇者みたいに、うまくやれたら良かったんだけど」

『君は十分良くやったよ。政治的な過ちや、タイミングの悪いことが何度もあったし、仕方がない部分が多かった。それに500年前とは悪魔の規模が違うんだ。ナルセルド王国を始め、大陸北部の国々は、既にほぼ壊滅状態になっている』


「そして最後のヴァナル王国を僕が壊滅させるわけだ」

『……』


 勇者の強烈な自虐に、ニルガルドは今度こそ沈黙した。


「ねぇ、ニルガルド。僕はね、この国が大好きなんだ。ヴァナル王国がね。生きることに絶望していた僕を拾い上げてくれ、優しくしてくれた。生き甲斐を与えてくれた。そして君という大切な存在に出会えた。だから、この国を護りたい。……護りたかったんだ」

『……』


「その最後の手段が、国を滅ぼすことだなんて、皮肉だよね」

『自分を責めないでくれ。君は、ヴァナル王国への恩を十分に返したと思うよ。君にしか、できないことでね』


「そうだと良いけれど。……地下道で逃がした王子は、無事逃げ延びたかな」

『大丈夫だろう。彼の護衛につけたのは、近衛のトップだ。私の友人もついている』


「そっか。じゃあ、もう、思い残すことは――、ああ、そういえば1つだけあったな。君への愛の告白の返事を貰っていなかった」


 ヘラリ、とした表情でそう言ってのけた勇者に、ニルガルドは小さく首を振る。


『だから何度も言ってるけど――待て、思い残すことだって?……どういう意味だい?』

「どうって、そのままだよ。『夢への回帰』を発動させれば、この王都の生き物は例外なく死ぬ。もちろん、僕もね」

『なんだって!?聞いてないよ!』


 衝撃の事実に、ニルガルドが声を荒らげた。


「え、言ってなかったっけ?まあ、でも普通に考えればそうでしょ。無差別殲滅魔法の一種だし。それに、さすがの僕も、何万人も殺しておいて、のうのうと生きられるほど図太い神経はしてないよ」

『そんな……』


 ニルガルドの中で、何かがガラガラと崩れ落ちた気がした。

 彼女にとって、この青年は、とても大切な存在だった。ただ、それでも、「特別」ではないと思っていた。

 だから、人間と鳥の幻獣という種族が違うことを盾に、のらりくらりと彼の告白をかわしてきた。


 だが、これから訪れる青年の死を受け入れようとしたとき、それを認められない自分に気づいた。

 この期に及んでようやく、ニルガルドは自分の本心に気づいたのだった。


『それなら、私も君と残る』

「それはダメだよ。君には、役目がある」

『役目?』


「そう。これから使う、僕の最後の魔法。『夢への回帰』はもちろんだけど、それに僕オリジナルの封印魔法を付け加えている。500年前の勇者が開発した魔力転用理論を応用し、『夢への回帰』で得られる莫大な魔力を起動力として、この街に、超大規模な時間停止をかけるんだ。再び王族が戻ってくるその日まで、大切なこの街が風化しないように」


『そんなことが、できるのかい?』

「理論上はね。……この魔法を使うのは、正午と決めている。その正午に、王子が持っていった王家の秘宝『ブリシンガル』が帰ったとき、魔法は解ける」

『壮大な計画だね』

「そう。王家が帰還するその時まで、この街は眠り続ける。だから、君にはその時までこの街を守ってほしいんだ」


『……残酷なことを言うね。君の居なくなった世界で、君の居た街を守れだなんて』

「そう?だって君は、僕のことをただの友人程度にしか思っていないんだろう?」

『そんなことはない。私にとっても、君は――最愛のパートナーだったよ』


 ニルガルドの言葉に、青年の目が見開かれた。その後、本当に幸せそうに微笑む。


「……驚いた。そこまで言ってくれるとは思ってなかった。嬉しいよ」

『私と君とでは、生き物としての在り方がまるで異なる。君の想いに応えることはできないと、そう思っていた』

「過去形なんだ?」


『今は、心の在り方が同じなら、拒むことはなかったと後悔しているよ。もう少し早くそのことに気づくべきだった』

「全くだ。でも、先にはできないから後悔というんだよ。……そろそろ時間だ」


 空を見上げる青年に、ニルガルドは小さな体をビクンと揺らした。


『っ……!私は、……』

「今までありがとう、ニルガルド。僕の命はここで尽きるけれど――、僕の想いは、君の中で生き続けると思ってて良いかな?」


『……必ず。君の意思は、私が守り通す。この街が眠りから目覚めるその時まで』

「ふふっ、最後まで君は固いなぁ。まあそんなところも好きなんだけど。……さあ、もう行って。出来るだけこの街から離れるんだ」

『わかった……』


 ニルガルドは、躊躇うようにそっと、彼の唇に自らの嘴を添わせる。


「これが、最初で最後のキスってことかな?」

『……ばか』


 フワリと飛び上がるニルガルド。


「ねぇ、ニルガルド。もし僕が生まれ変わって――、いや、こっちの世界じゃ、生まれ変わりっていう観念はないんだっけ」


 マナスカイでは、全てのものはマナから生まれ、マナに帰す、と考えられているので、死後再び世界に生まれ戻るという考えが存在する。

 一方のスフィテレンドでは、死後は別の世界に行くものと考えられている。


『そうだね。だから――』


 ニルガルドの円らな瞳が、彼の瞳と交錯する。


 そして。


『待ってて』

「待ってる」


 それが、ニルガルドが500年前の勇者と交わした最期の言葉だった。


引き続き第5章も投稿していきます。


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