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召喚勇者と七つの魔剣  作者: 蔭柚
第4章 亡国の末裔
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第57話 アルセド市街を突破せよ!②

前話のあらすじ:

アルセド市街地を攻略中のユージンは、フラールを庇って何者かの斬撃を受けた!

「ユージン!」


 真っ先に反応したのは、場馴れしたライリーだった。剣を抜き、ユージンの正面にいる『それ』に向けて振りかぶる。

 しかし、渾身の力で振り抜いたライリーの剣は空を切り、そこにはなにも居なくなっていた。


「何っ……!?」


 ライリーが瞠目してキョロキョロと周囲を探る。しかし、彼の目が何かを見つけることはできなかった。

 幻だったのか、と思いそうになるが、ライリーの背後では、


「ユージン、ユージン!しっかりして!」

「だい、じょうぶだ。致命傷じゃない。けど、魔法使えないから回復頼む……」

「あ、ええ!すぐに!」


 身体に一線の傷を負ったユージンと、慌ただしく彼を回復するフラールの姿があった。


「……ディストラ、見たか?」


 ライリーが、周囲を警戒しつつ、同じく慎重に周囲を見渡すディストラに問う。


「うん、一瞬だったけど。細長い身体と逆三角形の頭、そして特徴的な鎌状の前腕……。あれは、カマキリの獣魔だね?」

「ボクも見たよ。グランド・マンティスの1種かな。ただ、消えるなんて話は聞いたことないんだケド……」


 ユージンを襲ったのは、体高2メートル程のカマキリの獣魔だった。


 ゾーイの言うグランド・マンティスは、気性が荒いことで有名で、飛行能力を完全に失った代わりに地上での移動能力が向上しており、それなりに強力な獣魔とされている。だが、いきなり現れて忽然と消えるような能力は無いはずだった。


 ゾーイに視線を向けられたライリーが、首を振る。


「私も聞いたことがない。加えて、グランド・マンティスは通常、褐色から緑褐色の体色だ。あんな青いものは見たことがない。……おそらく、上位種と考えて間違いないだろう」


 ただでさえそこそこ強力な獣魔が、隠密能力を手に入れているとなると、その危険度は一気に跳ね上がる。


「気配はしないけど……索敵なら!」


 ゾーイが、周囲に索敵魔法を行使する。

 そして、反応が返るや否や、


「そこっ! 『し雷』!」


 酒蔵の入り口付近に向けて魔法を放った。


「ギギッ!」


 反撃が来ると思っていなかったのか、カマキリの獣魔は雷撃を避けきれずにダメージを負い、叫び声を上げると同時に姿を現した。

 その隙を見逃さず、ディストラが斬りかかる。


 だが。


 ガキィン!


「なにっ!?」


 ディストラの剣は、カマキリの前腕に阻まれていた。

 そして、ディストラが追撃する間もなくカマキリは身を翻し、酒蔵の入り口から遁走してしまった。




 嵐のような出来事に一同は呆然としてしまっていたが、


「……えっと、雷撃耐性も高いみたいだね?」


 ゾーイの言葉に我を取り戻す。


「索敵頻度を落としたのが仇となったな」


 ライリーがそう評した。


 索敵魔法は、敵の場所を知れる一方で、敵にある程度場所を知られる危険を孕んでいる。そのため、一行はデス・ストーカーから逃げるに当たって、索敵頻度を落としていたのだ。


「まさか、視認できない敵がいるとはね。……ユージン、大丈夫?」


 ディストラに訊かれ、立ち上がってフラールに回復してもらった身体をチェックしていたユージンが答える。


「ああ。胸当てのおかげで胸は無事だ。肩と脇腹をやられたけど、それもフラールのおかげで問題ない。しかし……油断したな」

「そうだね。全く気が付かなかったよ」

「やはり索敵の頻度は落とせないか……」


 ユージンがそう呟いたところで、ゾーイが挙手をした。


「はい」

「なんだ?」

「残念なお知らせデス。さっきの索敵で、周りの獣魔に気付かれたみたい。いっぱい近寄ってきてま~す」

「ちっ、休む間も与えてくれねーな。こうなったら、見つかるの覚悟で周囲を索敵しながら、一気に突破するしかないか」

「単純明快な作戦ね」


 苦笑するフラールに、ユージンも肩を竦めて。


「こういうのは、無策っていうんだよ」


     ◆ ◆ ◆


 それから一行は、小休止を挟みつつ、王宮に向かって突き進んだ。


 デス・ストーカーの襲撃は相変わらずだが、たまにカマキリの獣魔(ブルー・マンティスとゾーイが命名)が襲ってくる。そしてブルー・マンティスが現れると、デス・ストーカーはすぐに姿を消すのだった。


「デス・ストーカーはブルー・マンティスを恐れてるのかな?」

「そのようだな」


 ブルー・マンティスは、デス・ストーカーよりも個体での戦闘能力は高く、相手の攻撃時等にしか視認できないため、難敵ではある。

 だが、基本的に単体でしか襲ってこないため、デス・ストーカーの群れよりは対処が楽だった。


 この分なら王宮まで行けるな、と思った一行の頭上から。


 ゴオォッ!


 炎が降り注いだ。


「きゃあぁ!?」


 死角からの奇襲に、一行は直前まで気付くことができず、地面を転がるようにして炎を避けた。

 咄嗟に動けなかったフラールは、ライリーが引き寄せてかばっている。


「くそっ!?ゾーイ!?」

「分からないっ!索敵にはかかってないよっ!」


 叫びな合いながら、2人が攻撃元の、民家の屋根付近を注視すると、そこには石造りの家と同じような色をした、


「ヤモリか」


 平べったいヤモリの獣魔が数匹動いていた。


 全長1メートルほどでそれほど大きくはないが――ヤモリとしては巨大とはいえ、他の獣魔のサイズと比較すれば小さい――群れでこちらを凝視して、口を開き。


「また来るぞ!」

「『魔法の重壁』!」


 今度は、ゾーイの障壁で防ぎ切った。

 間髪入れずにゾーイは反撃しようとしたが、


「え、逃げた……」


 ヤモリの獣魔は、素早い動きであっさりと建物の屋根を越えて消えていった。

 ゾーイはすぐに索敵魔法をかける。


「うそ、見えない……」

「索敵魔法にかからないのか!?」

「うん……」

「マジかよ……。目で見えない敵に、索敵にかからない敵。どーなってんだここは」


 ウンザリとした表情で愚痴るユージンに、皆の火傷を回復したフラールが言う。


「嘆いても仕方ないわ。ブルー・マンティスはゾーイ、あのヤモリは私達が注意して見つけるしかないわね」

「そうだな。幸い、ブルー・マンティスもヤモリもしつこくはないから、早期発見、早期撃退で被害を抑えるぞ」


 もはや、それしかない、という状況である。


 一刻も早く王宮へ。

 その思いを胸に、一行は体力と精神を擦り減らしつつ――、ついに、王宮を囲う城壁にまで辿り着いた。


     ◆ ◆ ◆


 5メートル程の高さの城壁が、隙間なく王宮を囲っている。これだけの高さがあれば、デス・ストーカーやブルー・マンティスは入って来れまい。

 ヤモリは分からないが……、少なくとも、この中に入れば、かなり安全度は上がるだろう。


 その思いから、だいぶ消耗した魔珠まじゅからゾーイは魔力を絞り出し、『壁』を工夫した階段を作り上げ、城壁に架けた。

 しかし、階段を上ろうとする一行の後ろから、そうはさせまいとデス・ストーカーが追ってくる。


「速く行け!」


 ライリーが殿を引き受け、階段を破壊しようとする狼を弾いて往なす。

 ゾーイ、ディストラ、フラールと続き、


「ライリー、速く!」


 ユージンの叫び声に応じて、ライリーが階段を駆け上がる。

 だが、あと一歩というところで。


「ガウゥ!!」


 パリィン!


 デス・ストーカーの体当たりを受けた『壁』の階段が砕け、ライリーの足が空を踏む。


 落ちる。

 ライリーがそう思った瞬間。


「捕まれぇ!」


 ユージンが手を伸ばした。

 咄嗟に、その手を掴むライリー。


「うぐっ」


 だが、ライリーの重みでユージンまでもが落ちそうになり。


「手を離――」

「離すかよ!ディストラ!」

「ああ!」


 一足先に城壁の上に登っていたディストラがユージンとライリーの腕を掴み、勢い良くライリーを引き上げた。


「うおりゃあっ!」


 勢いが良すぎた。


「ちょ!」

「こっちくるにゃ~」


 ライリーを引き上げたユージンとディストラは、フラールとゾーイを巻き込んで壁の反対側に落ちていく。


「やべっ!フラール、受け身とれよ!」

「~~!!」


 空中でユージンを睨みつけるフラールだったが、近づく地面に覚悟を決める。

 そして、最近やっている訓練通りに、怪我することなく着地することに成功した。ただし、溜息と共に座り込んでしまったが。


 まあひとまず安全圏に来た事だし、気が抜けるのも仕方ないか、と苦笑し、前に向き直ったユージン達は――。



「ユージン、ボク、心折れちゃいそう……」


 ゾーイが、ヘタリ込みながら情けない声を上げた。


「頑張れ、と言いたいところだけど、俺もちょっとキツいな、これは」


 ディストラが、肩で息をしながら首を横に降った。


「キリがないな……」


 ライリーも、薄い表情の中に疲労を滲ませる。


「……」


 フラールに至っては、言葉を発する余裕もない。


「ま、そう簡単にいかないだろうとは思ってたけど、これはねぇな。どうしたもんか」


 ユージン達の眼前では、例によって体高2メートルはあろうかという大蜘蛛の大群が、キチキチと牙を鳴らしていたのだった。


 大量の冷や汗を流して、蜘蛛の群れを睨み付けるユージン。


 そして、太陽が天頂に達した。


     ◆ ◆ ◆


 その瞬間、カチリ、と何かが嵌まる音が聞こえ。


 ゴーン ゴーン ゴーン ゴーン ……


 王宮の1つの尖塔の頂にある鐘楼から、大音量の鐘の音がアルセド中に響き渡り。


 その塔よりさらに高い遥か上空から、アルセドを見下ろす碧き小鳥が、


『ついに、この時が……。街が、500年の眠りから目覚める』


 永きに亘り、この街を見守ってきたニルガルドが、感慨深げに呟いた。


ゾーイ「カマキリとかクモとか、正直勘弁してほしいんですケド」

ユング「敵は選べないからなあ」

フラール「でも、普通は小さい生物があれだけ大きいと、違和感と圧迫感が凄いわね」

フレイヤ「実際に昆虫があの大きさになったら、外骨格では自重を支えきれないらしいですけど」

ユージン「そこは剣と魔法の世界だからな。ぶっちゃけ何でもアリだ」

ディストラ「また身も蓋もないことを……」

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