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召喚勇者と七つの魔剣  作者: 蔭柚
第4章 亡国の末裔
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第56話 アルセド市街を突破せよ!①

前話のあらすじ:

ユージン達は、ユングとフレイヤを追ってアルセドまでやって来た!

「ユージン、ボク、心折れちゃいそう……」


 ゾーイが、ヘタリ込みながら情けない声を上げた。


「頑張れ、と言いたいところだけど、俺もちょっとキツいな、これは」


 ディストラが、肩で息をしながら首を横に降った。


「キリがないな……」


 ライリーも、薄い表情の中に疲労を滲ませる。


「……」


 フラールに至っては、しゃがみ込んでしまい言葉を発する余裕もない。


「ま、そう簡単にいかないだろうとは思ってたけど、これはねぇな。どうしたもんか」


 軽い口調でそう言うユージンだが、頬を流れる大量の冷や汗がその心中を物語っていた。


「(考えが、甘かった……!)」


 眼前を埋め尽くす獣魔の群れを、ユージンは奥歯を噛み締めて睨みつける。


 じりじりと彼らを照り付ける太陽が、間もなく天の頂に到達しようとしていた。


     ◆ ◆ ◆


 その5時間ほど前。

 獣魔との戦闘が予想されるので、門の外に馬を放し、獣魔除けの簡易な結界をそれぞれに施した後、ユージン達はアルセドの南門の前に立った。


 そして勢い込んで門をくぐった一行の出鼻を挫いたのは、獣魔の群れ――ではなかった。

 再興派の人間達でもない。


「っ!?完全に、魔力がない……!?」


 大通りを進みつつ周囲を警戒しようとしたユージンが、それに気付いた。

 慌てて再度周囲の魔力を探るも、全く気配を感じない。

 ユージンと同じようにディストラも魔力を探るが。


「本当だ。どういうこと……?」


 訝し気な表情ではあるが、動揺はユージンほど大きくない。

 ディストラは、身体強化に魔力を使っているだけで、ユージン程自らの戦術に魔法を使っていないからだ。それでも身体強化が使えなくなるのは大きいが、元の世界マナスカイでも「マナの枯渇帯」は存在していたため、そのための訓練はしており、致命的な戦闘能力低下は起きない。


 一方のユージンも、魔法を使えない場合を想定した訓練を全くしていなかったわけではないが、彼はそもそもの地力が足りていないため、まずは魔法でも何でも使って戦闘力を上げる訓練に注力してきた。

 そのため、魔力が周囲に無いということは死活問題であった。


「なになに?ど~したの?」


 マナスカイから召喚された2人と違い、現地人であるゾーイ達には周囲の魔力の有無は感知できない。

 ユージンの焦りが、すぐには理解できなかった。


「門をくぐって市街地に入ってから、周囲の魔力が一切なくなった。門の外でも薄いとは思っていたが……」

「え?ってことは、ユージンは魔法が使えないってこと?」

「……そうなるな」

「……ヤバいんじゃにゃい?」


 ゾーイに指摘され、口をへの字にして黙り込むユージン。

 一旦退くべきか、とりあえず進むか――だが、その判断をする余裕はなかった。


「来るぞっ!」


 最後尾にいたライリーが、後方を睨んで叫んだ。

 ユージン達が入ってきた門の脇から、体高2メートルはありそうな巨大な狼が十数匹、姿を見せている。


「バカな、死の追跡者(デス・ストーカー)が群れているだと……」


 目を見開いて驚くライリーに、ユージンが質問する。


「狼なら群れるものじゃないのか?」

「いや、あれは見た目や能力は狼系だが、その気質は猫系のそれに近い単独主義だ。強すぎる力が群れには向かないと言われていたが……」

「現に群れてるしな……。どれくらい強いんだ?」

「以前戦ったブラック・ストーカーが100体で挑んでも、アレ1匹に蹂躙されるだろう」


 初めてユングとフレイヤと出会った山で戦った狼の獣魔が、ブラック・ストーカーだ。

 あの程度の獣魔であれば、ユージンでも楽に倒せたが、100匹と正面から戦うとなると、それなりに大変だろう。

 それを蹂躙するということは、単純に1個体の戦闘能力がユージンを上回るということになる。


「うそん」

「それくらい、頑丈さと膂力が桁違いだ。2、3匹なら私でも何とかなるだろうが、あの数は厳しいぞ」

「……魔法耐性は?」

「高くなかったはずだ」


 ならば、作戦は決まりだ。とユージンはゾーイを見る。


 正面から戦って分が悪いなら、正面から戦う必要はない。

 ユージンとて、手段を択ばなければ――というか、魔法を使えばブラック・ストーカー100体に無傷で勝利できるだろう。


 だが、魔法を封じられた今のユージンにはそれができない。だから現状唯一、魔法攻撃のできるゾーイに。


「頼んだぜ、ゾーイ。俺達は討ち漏らしを相手取る!」

「りょ~かい!ちょっと集中するから、左右の索敵任せるね!」

「ああ。っつっても、今は目で見るしかないんだが。ライリーは狼側を、俺は右後方、ディストラは左後方を頼む。フラールはいつでも防壁張れるようにしておけよ」


 ユージンの指示に、一行は戦闘態勢をとる。

 そして。


「とりあえず、小手調べかにゃ~っと。 行け『光弾』『疾し雷』!」


 ゾーイが魔法を発動する直前、デス・ストーカーもこちらに襲い掛かって来た。

 ゾーイは慌てず魔法の軌道を修正し、いくつもの光弾と、稲妻が狼達に向かっていく。それらは狙い違わず直撃したが、


「う~ん、『光弾』はほぼ効果なしか」


『光弾』が直撃した狼は、グルルと痛そうに唸りはしたが、足が緩むことはなかった

 。一方、『疾し雷』はある程度のダメージを与えられたようで、直撃を受けたデス・ストーカーは痺れて動きを止めていた。


「んじゃ、覆え『氷床』構えろ『氷槍』」


 狼が走る道を、瞬時に氷が覆い尽くした。そして『氷床』の最も手前側に、氷の槍が何本も重なって設置される。

『氷床』に足を取られて転んだ狼は、その勢いのままに滑り、迎え撃つ氷の槍に串刺しにされる、という寸法である。


 数体のデス・ストーカーがゾーイの思惑通りに『氷槍』に突き刺さるが、それを見た後進は、氷の床を上手いこと蹴って跳び上がり、『氷槍』を跳び越える。


「で、と。 風よ氷よ 連なり切り裂け『氷刃嵐』!」


 無数の小さな氷の刃が渦を巻いて空中で避けることのできないデス・ストーカーに襲い掛かる。一つ一つは小さい氷の刃だが、圧縮されたそれは鉄と同等の強度を誇り、嵐となって狼の身体を削り取る。

 デス・ストーカーが地面に辿り着くころには、血だるまになっていた。


「おお!やるじゃねーか!」


 ゾーイの戦果をちらりと横目で見ていたユージンが褒めた。


「ふふん、ちょっとその気になればこんなもんよ!……でも、確かに硬いね。『氷槍』も『氷刃嵐』も仕留めるつもりで撃ったのに」


 ゾーイの魔法の直撃を受けたデス・ストーカーは、1匹も死んでいなかった。氷の槍に貫かれたものも、氷を折って脱出しようとしている。そして氷の向こうには、警戒して足を止めたものの、まだ5匹程、無傷のデス・ストーカーがこちらを睨んでいる。


「っ新手だ!」


 そこで、東側を警戒していたディストラが声を上げた。細い路地から、3匹のデス・ストーカーが突進してきたのだ。


 魔法は間に合わないとみて、ディストラが迎撃に向かう。

 身体は大きいが、基本は狼と同じはず――!


 ディストラは、口を大きく開けて前足を突き出してくる狼を、左前方に沈みながら避け、同時に右腕を振るって狼の右脇腹を切り裂いた。

 だが、それも思ったほどの深手にはならず、狼はそのまま中央にいるフラールを狙い。


「させぬ!」


 横から呼び込んできたライリーが、正面から狼の鼻面に剣をぶっ刺して止めた。

 さすがに頭をやられては、頑丈なデス・ストーカーも生き延びられないらしく、巨体が崩れ落ちる。


「げっ、なんであの突進を受け止められるんだ?」


 その後のフォローをしようとしていたユージンが、顔を引き攣らせる。


「身体強化には一瞬だけ効力を高める方法もある。それより、次だ!」


 ディストラが後続のデス・ストーカー2匹と立ち会っているが、分が悪い。今はディストラも身体強化を使えないのだ。

 それを見て、ゾーイがフォローする。


「放て『疾し雷』!」


 1匹のデス・ストーカーに的中し、動きを阻害する。

 その隙にライリーがディストラと合流して2匹とも始末するが――。


「ゾーイ、正面の奴らが動き出した!……っ!西からも!」


 東を倒したと思ったら、これだ。このままでは消耗戦になるとみて、ユージンは決断する。


「ゾーイ、フラール、防壁を!一旦退くぞ!」


 退く、と言っても、街の外に出る南側はデス・ストーカーに陣取られているため、向かう先は逆方向。より街の奥側になる北に向かって、ユージン達は走り出した。


 何故北からは襲ってこなかったのか、と考える余裕は、今のユージン達にはなかった。


     ◆ ◆ ◆


 時折襲ってくるデス・ストーカーを往なしつつ、一行は身を隠せそうな場所を探して北に走る。

 そして、醸造酒を製造しているとみられる一角に入り込み、酒蔵の一つに身を隠した。


「うへ~、すっごい匂い。酔っちゃいそ~」


 ゾーイが、その辺に放置してある椅子の一脚に腰を落としながら顔を顰めた。


「これだけアルコール臭が強ければ、奴らの鼻も誤魔化せるだろう」


 ライリーが平然とした顔で告げた。

 そう、わざわざ一行が酒蔵に逃げ込んだのは、通常の場所では鼻の利くデス・ストーカーから逃げきれないからだった。


「それにしても、しつこかったね。キリがないよ」


 ディストラが、額の汗を拭う。


「まあな。だが、俺達の目的は獣魔の殲滅じゃない。奴らの相手は程々にして、先に進むのを優先した方が良い」


 ユージンがそう言うと、フラールがようやく違和感に気付いた。


「……私達、逃げながらでも、結構すんなりと北に向かってこれたわよね。普通、この街が獣魔の巣窟なら、中心部に行くほど獣魔が多くなりそうなものだけど」


 フラールの言葉に、一同は眉根を寄せた。

 しばらくの思考の後、ディストラが口を開く。


「そもそも、何でここにはあんなにデス・ストーカーがいるんだろう。食べるものなんて無さそうだけど」


 その疑問にも、答えられる人間はおらず。


「あ、ボクも1つ疑問~。なんかこの街の建物って、妙に硬いんだよね。ボクの魔法で傷一つ付いてないんだよ~」


 ゾーイが謎を追加し、


「建物については、実際に近付いて見ても、500年前に打ち捨てられたとは思えぬほど綺麗なのも疑問だ」


 ライリーが同意し、


「そして今気付いたんだが、何で500年前の酒蔵からアルコール臭がするんだ?」


 ユージンが止めを刺した。

 一行に、深い沈黙が下りる。


     ◆ ◆ ◆


「まるで、時が止まったみたいね」


 フラールが、ポツリと呟いた。


「時が止まった、か。確かにそうでもなけりゃ説明がつかねーな」


 ユージンが、溜め息混じりにそう言った。そして首を振り、


「けど、それはともかく、この先どうするかだな」


 仲間の顔を見回す。


「そこそこ街の中心に近づいたけど、まだ王宮までは3分の2くらいはあるだろう。さっきの戦闘で分かったけど、やっぱ俺とディストラの戦闘力は落ちるな」

「一旦引き返す?」


 ディストラの意見に、フラールが疑問を呈する。


「でも、引き返したところでなにか策を打てるわけでもないわよね」

「せっかくここまで来たんだから、このままとつげ~き!ってのもありかな~☆さっきまでの襲撃ペースなら、まあ何とか捌けるし~」


 意外にも、女子2人がイケイケな発言をした。

 一方で、ライリーは相変わらず冷静に。


「だが、これまで以上の襲撃がないとは限らない。迂闊に進むと、それこそ撤退すら難しくなる」

「そうだな。何とか退路は確保しておきたいが……。最悪、俺がしているようにゾーイかフラールに『壁』の道を空に作ってもらって、そのまま逃げるという手もあるか?」

「う~ん、まあ5人乗るくらいは何てことないし、距離は長いけどいけるんじゃないかな?邪魔が入らなければ」

「そうか、なら――っ!フラール!」


 ユージンが、ちらりとフラールに向けた顔を強張らせて、叫ぶと同時にフラールの腕を引く。


「えっ?」


 呆然としたフラールは、引かれるがままにユージンの背後に投げ出される。何とか受け身を取り、何事かと振り返った先で。


 左肩から右腰に掛けて袈裟に胸を切り裂かれたユージンの背中が、がくりと崩れた。


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