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召喚勇者と七つの魔剣  作者: 蔭柚
第4章 亡国の末裔
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第54話 突然の(強制的)別れ

前話のあらすじ:

川を渡った一行の前に、突然現れた騎士が跪いた!

「ユング様とフレイヤ様で、お間違いないでしょうか?」


 そう問われたユングとフラールは、男の様子に若干引きつつも、素直に首肯する。


「おれはユングで、隣の妹はフレイヤだけど……」


 そのユングの言葉を聞くや、男はパッと顔を上げ、感極まったように泣きそうな表情になった後、再び頭を下げた。

 そして、感情を押し殺したような震える声で続ける。


「ご帰還を……お待ち申しておりました。……この時を……、この時を、500年……!!」


 その男に感化され、残る2人の騎兵も肩を震わせている。



 ユージン達は全くついていけていないが、状況の推測ができないわけではなかった。


「(シグルーンの言っていたことは全て本当で、彼等は王を待ち続けていた騎士、ということか)」


 ユージンの推測を裏付けるように、跪いていた男は立ち上がると、


「さあ、我らが王都へとお連れ致します」


 ユングとフレイヤを馬車へといざなおうとする。


「ちょっと待て。説明くらいしてもらおうか」


 さすがにそれは見過ごせず、ユージンが男に制止を掛けた。

 男は、ユージン達に今気づいたかのようにハッとして一行を見回した後、一つ頭を下げた。


「失礼。先祖代々の悲願の成就が間近に迫り、少々気が急いていたようだ。私は、ドゥマルデ=リンガという。ヴァナル王国に仕える騎士だ。貴殿らが何者かは知らないが、お二人をこの地まで連れてきてくれて感謝する」


 現在進行形で、ヴァナル王国に仕える、と表明するところに、この騎士の心情が現れている。


「貴殿らは知らないかもしれないが、このお二人は、我が国において非常に重要な方々なのだ」

「いや、まあその可能性は知ってるけど」


 情報源は明かせないが、と心中でつけ加えるユージン。

 もし、何故知っている、と問われたら何と答えるか、と考えたが、騎士ドゥマルデはそこは気にならなかったらしい。


「ならば話は早い。貴殿らは、お二人をアルセドまで送ってきてくれたのだな。我々は、お二人をお迎えに上がったのだ。貴殿らへの礼は改めてさせてもらうとして、ひとまずお二人を、お二人があるべき場所にお連れさせてもらう。さあ、馬車へお入りください」

「え?いや、あの……」


 ドゥマルデに加えて、馬車の中から侍従と侍女らしき人物が降りてきて、戸惑うユングとフレイヤをやや強引に馬車に詰め込もうとする。


「ちょっと待てよ。まだ話は――」


 ユージンが焦って彼らを止めようとするも、


「貴殿らは、主が故郷に戻るのを邪魔しようというのか?」


 ドゥマルデの眼光に、一瞬怯んだ。

 そこには、騎士の誇りや願いといった感情が積み重なり、熟成され、もはや妄執めいたものが深く渦巻いており、未だ状況についていけていないユージン達を退けるには十分な力を発揮した。


「とはいえ、貴殿らへの恩に報いる必要があるため、連絡役を1人付けよう。報酬についてはなるべく便宜を図る所存だ」


 そうこうする内に、ユングとフレイヤは恭しくもきっぱりとした対応で、山羊とともにきっちりと馬車に収められてしまった。


「では、失礼する」


 ドゥマルデはそう宣言して自分の馬に跨り、馬車とともに宿場町を去っていく。

 気圧されたままのユージンは、何も言い返すこともできず――。


「あ……」


 去り行くフレイヤの、不安そうな顔が目に焼き付いて離れなかった。


     ◆ ◆ ◆


 暫くは、誰一人として声を発するものはいなかった。それぞれが、今の嵐のような出来事を、己の中で消化しようとしているのだ。


 やがて、沈黙に堪えられなくなったゾーイが口を開く。


「え~っと、つまり、なに?結局あの2人は、ヴァナル王家の末裔だったってこと?」


 その質問に、1人残された30歳前後の騎兵が答えた。


「そのとおりです」


 ユージン達の視線が、自然と彼に集中する。


「私は、エルグ=セルクリークと申します。我らの突然の行動をお許し下さい。皆、500年前からの悲願達成を目前に、浮足立っているのです」

「……そういうあんたは冷静だな?」


 ユージンの質問に、騎士エルグは苦笑した。


「私も、内心では興奮しております。ただ、面に出づらい性質でして」

「……まあいい。いくつか質問をしたい」

「なんなりと」


 エルグの礼儀正しい対応に、ユージンは妙に胡散臭いものを感じつつも話を続ける。


「なんであんたらは、あの2人をヴァナル王家の人間だと断定できた?」

「簡単な事です。昨日、一昨日と、このノクトヴァ川流域に神獣ニルガルド様が現れました。かのお方は、ヴァナル王国の守り神と目されており、ヴァナル王家の方のみと契約するとされている神獣です。そのお方が、渡河を邪魔する獣魔を駆除したとあって、我々はすぐに王家の誰かがここにいらしたのだと判断できました」


 あの幻獣、そんな大したご身分だったのか、とユージンは舌打ちしたくなる気分であった。


「そこで、王家の特徴である翠の頭髪と黄色の瞳を持ち、ユング様とフレイヤ様の年齢と同じ年頃の少年少女を見つけた。と、このような理由です」

「……ん?ちょっと待て。あんたらは、ユングとフレイヤの名前を知っていたな。年齢まで。ヴァナル王家は姿を隠していたんじゃないのか?」


「そのとおりです。ただし、500年前の王国崩壊後にも、王家の方々には代々親衛隊が護衛としてついておりました。彼らから、王家の方々のご誕生、ご逝去の情報を定期的に受け取っていましたので、10年前にお2人が誕生されたことを我々は皆知っております」

「なんだそりゃ……」


 エルグの説明に、ユージンは拍子抜けした気分になった。

 ヴァナル王家は故郷にも戻らず、ひたすら隠れ続けており、「再興派」はその情報も知らずに必死で王家を探していたのかと思っていたのだ。


 だが同時に、どこか納得した部分もあった。

 王族が生き残っているという確かな情報がなければ、流石に500年間も「再興派」が力を持ち続けることはできなかっただろう。


「だが、それならなぜ王族は故郷に戻らなかったんだ?」


 完全に隠遁するのではなく、多少なりとも連絡を取っているのなら、もはや故郷に戻っても良いようなものを。というユージンの疑問に、エルグは初めて顔を顰めて答えに窮する。


「それは……、王家の方々のお考えは、私のような下の者には計り知れません」


 ヴァナル王家の行動に疑問は残るものの、ひとまず現状の整理はできた。


 ユージンは、仲間に視線を遣り、他に質問がないか訊ねた。すると、フラールが挙手して発言する。


「これから、あの2人はどうなるのでしょう?」

「上の者達が決めることになりますが、おそらくは、いずれ我々の上に立ってもらうことになるでしょう。我々は、そのために努力してきたのですから」

「ヴァナル王国の国王として?」

「そうなります」

「まだ彼らは子供ですが?」

「もちろん、しばらくは大勢の補佐が入り、教育もなされるでしょう。即位していただくには、5年か10年くらいはかかるでしょうね」


 王として担がれるだけで、傀儡政権になるのでは、とフラールは危惧したが、それはないか、と考えを改める。

 そうしたいのならば、さっさと国を樹立して権力を握ればよかったのだ。ユング達のバックアップをするのは、すでに勢力をまとめる立場にある人間のはずだから。


 もちろん、正統な王家を表に出すことで、権力を振るう説得力は増すだろうが……そのためだけに500年待つのは考えづらい。


 と、そこで難しそうな顔をしているユージンが口を挟む。


「ん?待てよ。教育と言ったな。あんたらは、あの2人の両親がどうなったのか、知っているのか?」


 ユージンの質問に、エルグは沈痛な面持ちになり。


「確証は得ていませんが、我々は、亡くなられたと考えています。5年ほど前に、親衛隊からの連絡がパタリと途絶えました。我々は、いくつもの情報から、彼らがいたと思われる場所を虱潰しに捜索していき、遂に王家の方々が使っていたと思われる馬車の残骸を発見しました。そして、破廉恥と承知しつつも、その場で簡単に葬られていたご遺体をあばき、親衛隊とお二人のご両親と思しき遺骨を確認いたしました。しかし、子供の骨は見つからず、王家の秘宝である翡翠のペンダントも見当たらなかったことから、お二人はどこかに生き延びているものと考え、必死に捜索していたところで、一昨日のニルガルド様の出現です。我々の――特に上層部の喜びようと言ったらなかったですね」


 それで、先程のドゥマルデの感動ぶりか、とユージンは納得した。


「あの2人が使ってる幻獣を呼ぶ魔法って、ヴァナル王国では普通に使われてたの?」


 ゾーイが、気になる魔法について質問した。


「いえ、幻獣招集の魔法は、王家の方々にしか使えません。そもそもの契約魔法が王家の秘術として秘匿されていますので」

「な~んだ。ボクも使いたかったな~。いや、術式が秘匿されてるだけなら、あの2人に教えてもらえば……」


 悪い顔をするゾーイに、エルグが目を細めて釘を刺す。


「術式を知ったとしても、幻獣と会えなければ契約は無理ですよ。王家の方々は生まれつき幻獣に好かれるようですが、それ以外の人間に幻獣が姿を見せたという話は聞いたことがありません」

「あ、はいりょーかいです」


 エルグの冷たい笑みに、ゾーイが背筋を伸ばして返答した。冷笑した彼の雰囲気が、ゾーイの最も恐れるルキオールに少し似ていたからかもしれない。


 そのゾーイの様子に、エルグも気を少し緩めたようで、向こうから質問をしてきた。


「私からも、よろしいでしょうか?あなた方は、どこでお二人と知り合いに?」

「あー、それは」


 ユージンはちらりとライリーと視線を交わす。ライリーは少し考えた上で、自ら口を開いた。


「我々は、こちらのお嬢様の旅行の最中なのだが、学術国家ミッドフィアに立ち寄った際に彼らと知り合った。彼らは、獣魔に襲われていた所を高名な魔法士ロキに助けてもらい、その後、彼の指導の下、ミッドフィアで暮らしていたと聞いている。そして、自分達のルーツを知りたいということで我々の旅への同行を希望し、お嬢様も彼らを気に入ったため、ここまで一緒に旅をしてきた」


 双子がロキに師事していた辺りの事情は、どうせユング達が喋ることだろうからそのままに、一方自分達の旅の理由については当初の予定通り誤魔化して、ライリーは説明した。

 後者についてもユングが口を滑らせる可能性はあるが、そこは信じるしかない。


 もし自分達がネアン帝国の王族や騎士であると知られれば衝突が起きるかもしれないが――、そもそも避けられる理由が誤解なので、避けるように指示を下している再興派本体にしっかり説明すれば、案外うまくいくかもしれない。今後のヴァナル王国との交流にも役立つ可能性がある。


 とはいえ、フラールの護衛体制がしっかりしていない現状で、勝手な期待だけで危ない橋を渡る必要性はない。

 なるべく自分達の身分は隠し、速やかにこの地を離れた方が良い。それがライリーの判断だった。


「なるほど、ミッドフィアですか。確かに、我々の捜索はそこまで及んでいなかったように思います」


 エルグが納得して頷いた。



「これで、2人とはお別れってことなのかな。それならきちんとしたかったけど」

「そうね。別れの挨拶くらいは」


 ディストラとフラールが、エルグに目を向ける。

 彼は、一瞬だけ無表情になったように見えたが、すぐに済まなそうな顔になり。


「おそらく、今は難しいです。王家の方が戻ったこともあり、王都周辺の警戒は最大限に引き上げられています。申し訳ありませんが、情勢が落ち着くまでは、外部の人間を王都に入れる事は出来ないでしょう」

「そっか……」


 ディストラが残念そうに呟き、フラールやゾーイもやや沈んだ顔をしている。


 だが、ユージンは何か引っかかるのか、眉間に皺を寄せて質問する。


「なあ、ユングとフレイヤが、王になることを拒否したらどうするつもりだ」


 その質問に、エルグは虚を突かれたようだった。数瞬、目を瞬かせた後に、やや低い声で。


「そのようなことはないと考えております。なぜ、そのような質問を?」

「答えになってないな。なぜかって?例えば、俺だったら王になってくれなんて言われたらお断りだ。2人がそう考えてもおかしくないだろう?」


 ユージンの言葉に、エルグはやや苛立ったように答える。


「お二人は、あなたとは違う。正統なるヴァナル王家の血統であり、王となるべき方だ。それがお二人のためでもある。それを分かっていただけないほど、王家の方が物分かりが悪いはずがない」


 フラールには、エルグの言葉が良く理解できた。ネアン帝国の皇女として生まれた彼女は、その血が持つ責任を重々承知しているからだ。


 一方で、王族としての立場などとは程遠い他の面々は、そう言うものか、と考える。


 だが、ユージンだけは納得しなかった。


「なるほど、逃がすつもりはないわけだ」

「逃がすも何も、普通に考えて、アルセド、ひいてはヴァナル王国こそが、お二人が居るべき地でしょう。あなたは何を言っているのですか?」

「平行線だな。まあいい、これ以上は無駄だ。とりあえず疲れたから宿に行こうぜ」


 ユージンは吐き捨てるようにそう言って、宿場町に向かって馬を歩かせた。

 その様子に、エルグだけでなく、仲間達も不思議そうな顔をする。


「ごめんなさい、何か機嫌が悪かったみたい」


 フラールが、ユージンの態度をエルグに謝罪した。


「いえ……。ミッドフィアからここまで一緒に居たのですから、情が移っても仕方ありません。やや強引に事を進めましたし、きちんと話をする機会を設けられなかったのは申し訳なく思います」

「とにかく、ボク達もユージンを追おうよ。今日の宿を決めないと」


 離れていくユージンの背中を、ゾーイが追いかけ、それに他に皆も続く。


「……」


 エルグは、その様子を無表情で眺めていたが、はぐれてしまう前に、自身も馬を走らせて彼らを追うのだった。

ディストラ「馬車に山羊が乗るってなんか変じゃない……?」

フラール「確かに、馬が馬を運んでいるようなものよね」

ユージン「人が人を運ぶ人力車と同じだろ」

ディストラ「……なんか納得いかないんだけど」

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