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召喚勇者と七つの魔剣  作者: 蔭柚
第4章 亡国の末裔
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第52話 ノクトヴァ川も渡れない!

前話のあらすじ:

一行は、旧ヴァナル王国の王都アルセドを目指し、ノクトヴァ川に沿って北上中!


ユージン「ゾーイとユングは、なんだかんだで仲が良いよな」

ゾーイ&ユング「「良くない」」

フラール「息はぴったりね」

ゾーイ&ユング「「嬉しくない!」」

フレイヤ「凄いです、ゾーイちゃん。双子の私よりもシンクロしてます」

ゾーイ&ユング「「不本意だ!!」」

ユージン「おお、頭に、ある1節が浮かんできた……」

ディストラ「なに?」

ユージン「瞬間、心、重ねて」

ディストラ「またネタ発言かい……」

ユージン「お前、その口調カヲル君っぽいからな」

ディストラ「知らないよ……」

「ここを渡れば、いよいよアルセドか……」


 エルムト川を渡ってから、10日後の昼過ぎ。ユージン達は、小さな港兼宿場町の近くに到達していた。


 西に望むのは、エルムト川の支流、ノクトヴァ川。エルムト川程の川幅はないものの、流れはそこそこ速く、泳いで渡るのは厳しいものがありそうである。

 まあそもそも馬もいるので、水深が深い川を泳いで渡るのは不可能だが。

 したがって、ここでも渡船業者を利用する必要がある。


 一行は、これまでの宿場町の対応からみても、今度はすんなり渡れるものと踏んでいた。

 ライリーが服を交換してから後の宿場町では、全く問題なく泊まることができたからだ。


 その際にユージンが、


「眼鏡の威力はすげぇな。フラール、今後も眼鏡っ子で行くのはどうだ?」


 などと言ってフラールに白けた視線を送られていたが、2人の傍でゾーイとフレイヤが少し眼鏡に興味を持ったのは別の話である。



 意気揚々と一行は宿場町に近付くが、視界に入ってくる風景に、ゾーイが不安を滲ませた声を上げる。


「ユージン、気のせいかにゃ?川を渡っている船が1隻も見えないんだけど……。ボクの目がおかしくなったかにゃ?」

「奇遇だな、ゾーイ。俺の目でも、船は桟橋にしか見あたらねえな」


 これまでの港では、常に両岸を行き来する船が数多く見られていた。それが、ここでは1隻も動いておらず、すべて桟橋についたままなのだ。完全に運休状態のようだった。


「嫌な予感がするわね」


 フラールの予感は、見事的中することになる。


     ◆ ◆ ◆


「ああ、暫くは船は出せないな。グレイプスが居なくならないことにはな」


 渡船業者の1人に話を聞いた所、こんな返答が帰ってきた。


「グレイプス?」


 ユージンが首を傾げると、髭面の男は片眉を上げた。


「何だ、知らねぇのか?魚の獣魔だよ。こう、口の先が尖っててな。めちゃくちゃ鋭くて頑丈なんだよ。川を渡っていると突っ込んできて、船は穴だらけになるし乗員も下手すりゃ貫かれて死んじまう。大群で川を回遊しているらしく、時々この辺りにも現れるんだよ。あれが出ると、数日から長くて1月は船が出せねぇ。全く迷惑なやつらさ」


「なるほど……。ちなみに、現れたのはいつ?」

「昨日だよ」

「……そうか、ありがとう」


 船が出せなくて悪いな、と言って男は去って行った。


 残された一同は、一様にげんなりとした表情である。


「これは……何だろう。運が悪かった、ってことなのかな」


 ディストラが言うと、フラールが眉を吊り上げて。


「悪すぎでしょう!まったく、どうなってるのよ!ユージンと出逢ってから、変なことに巻き込まれてばっかり!」

「おい俺のせいにするな。どう考えても被害者は俺の方だろ。っつーか、自分からついてきておいて文句言うんじゃねえよ」


「まあまあ。それより、どうする?昨日出現したってことは、少なくとも数日は船は出せないってことだよね」


 睨み合うユージンとフラールを諌め、ディストラが話を進めた。


「そうだな……。そのグレイプスってのは、どんな獣魔か詳しく分かるか?」


 ユージンが、ライリーに顔を向ける。


「私も見たことはないし、詳しくは知らないが……。先ほどの男の発言通り、細長い魚の獣魔だ。体長は、大きいものだと人間の身長を超すらしい。群れを成して回遊し、川の中や川面のありとあらゆる生物を食い漁って、餌がなくなるとまた移動する。非常に硬くて長い口吻は、木造船など容易く貫き、下級魔法レベルの魔法障壁すら物ともしないらしい。魔法耐性はそこそこ、物理防御も硬い鱗があるのでそこそこ、だったように記憶している」


 ライリーの説明に、ユージンは、日本で例えるならデカくて堅いダツみたいなものか、と少し考えた後に提案する。


「と言うことは、ゾーイが船の回り全体を上級魔法とかでガチガチに固めれば何とかなるんじゃ?」


 この提案に、首を捻るゾーイ。


「う~ん、どうかな。数次第ってカンジ?魔法障壁って、維持だけでも多少魔力が食われていくけど、強い衝撃を受けて、それが蓄積すれば、当然壊れちゃうんだよね。それを防ぐためには、魔力を継ぎ足す必要があるけど、下級魔法の障壁を簡単に貫く攻撃を、それも大群の攻撃を、川を渡る間ずっと防げるかって言われたら微妙。上級魔法をひたすら使い続けてるのと同じくらい魔力使うと思う」


「なら、俺とフレイヤとフラールも総出で張れば?」

「それなら、なんとかなるような気がしないでもないかな~」


 ユージンが、良し、この方針でもう少し煮詰めれば、と思ったところで、


「だが、それを渡船業者が受けてくれるか?ここではフラール様の権力も使えないし、危険な橋を敢えて渡ろうとしてくれる業者がいるとは思えないが」


 ライリーの指摘に表情を曇らせた。


「それもそうだな……」


 いくらユージン達が大丈夫と言って頼み込んだとしても、ここではなんの信頼も権力もないユージン達の危険な頼み事を聞いてくれるような奇特な人間はそうそう居ないだろう。エルムト川を渡ったときのようなグレーな感じの業者も、命の危険とあっては逃げ出すこと請け合いだ。


 つまり、グレイプスに対するどんな有効な手段を考えたとしても、業者を納得させられなければ意味がないということだ。そして、信用のない、何なら正体を明かせば嫌われる一行に、彼らを説得するのは不可能に近い。


 交渉能力にずば抜けた人間がいれば話は別かもしれないが、残念ながら彼らの中にそのような人材は居ない。


「説得は、無理かしら?」

「よっぽど説得力のある作戦でもない限りな。あるいは、グレイプスを全滅させられれば……」


 ユージンの思考がそちらにずれる。

 川の中に雷撃でも放てば倒せるか?いや、そんなことをすれば他の生物まで全滅だろう。自分達のエゴでそれはやってはいけない。獣魔だけを、殲滅する方法は……。


 考え込んでしまったユージンを傍目に、ゾーイがユングに話を振る。


「ユング、前の蛇さん呼んで、今度は魚をど~ぞ、って言ったら?」

「ヨルムは泳ぎが苦手だ。……いや待てよ」


 ゾーイの案を否定しつつも、ユングはその意見に触発されて何かを思い出す。

 同時に、フレイヤも同じことを思いついたらしい。


「お兄ちゃん、ニルガルドなら!」

「ああ!いけるかもしれない!」


 双子が、黄色の瞳を輝かせて顔を見合わせた。


     ◆ ◆ ◆


「その幻獣なら、魚の獣魔の群れを何とかできるのか?」


 ユージンの質問に、ユングが頷く。


「絶対とは言えないかけど、可能性は高いはずだぜ!」

「ニルガルドは、川を護る鳥の幻獣です。躰は大きくないですが、魚の獣魔への対応は得意分野のはずです」


 フレイヤの説明に、ユージンは内心首を捻った。

 鳥が、魚に強いというのは理解できる。地球でも、鳥が魚を捕食するのは良くあることだ。


 ただ、最大2メートルはあろうかという巨大魚の大群に対して、幻獣とはいえ、躰の大きくないたった1匹の鳥に何ができるのか、という話である。

 しかし以前遭遇した白蛇のヨルムも魔法が使えると言っていたし、ユージンが予想もしない何らかの手段があるのかもしれない。


 下手に指摘して2人の勢いを削ぐこともないかと思い、ユージンは頷いた。


「分かった。じゃあ、任せて良いか?」

「任せろ!」


 どんと胸を叩いたユングだったが、隣のフレイヤは何かに気づいたらしく、ハッとして表情を改めた。


「お兄ちゃん、魔力足りるかな」

「え?……あ、そうだな。いや、でも、おれ達の魔力もかなり増えたから大丈夫だろ」

「ちょっと待て」


 何やら不穏な発言が聞こえたので、ユージンが待ったをかける。


「呼ぶのに魔力が足りないなんてことがあるのか?」

「あ、はい。わたし達の使う招集魔法は、呼び出す幻獣の持つ魔力量が多いほど、消費する魔力が多くなるんです。だから、当初ヨルムとの契約も2人で交わしたんです」

「まあ、今ならヨルムはおれ1人でも魔力的には大丈夫だけどな」


「でも、ニルガルドは、わたし達が契約している幻獣の中で最も魔力量が多いんです。だから、これまでこちらから呼び出したことはなくて……」

「たまに、向こうからふらっと遊びに来ることはあったんだけどな」

「お兄ちゃんが言う通り、今のわたし達なら大丈夫だと思うんですけど」


 やや不安そうなフレイヤにユージンが訊ねる。


「魔力が足りなかったら、どうなるんだ?」

「何も起こりません。ただ、わたし達の魔力が完全に枯渇してしまうので、数日間まともに動けなくなるかもしれません」

「別に良いだろ。どうせ他に方法もないんだから、やってみて失敗したら、しばらく休んどけば良いだけだし」


 ユングの乱暴な意見に、フラールがやや引き攣りつつ訊ねる。


「それは……、大丈夫なの?」

「別にどーってことねーよ。魔力枯渇なんて師匠との修行では何度も体験してるし」

「でも、何もできなくなってしまうので皆さんの迷惑に……」

「それは別に大丈夫だと思うけれど」


 心配するフレイヤに、フラールがフォローしつつ、ライリーやユージンに目を遣る。

 ユージンは頷きつつ。


「俺達への迷惑なんて気にしなくて良い。ただ、本当に大丈夫なのか?」


 ユージンは魔法士としての意見を聞こうと、ゾーイを見る。ユージン自身は周囲の魔力を使うため、どんなに魔法を使っても「自分の魔力」が枯渇することはなく、実感ができないのだ。


「ん~、まあ、イメージとしては、走りすぎて疲労困憊で倒れてるようなもので、別に死にはしないから大丈夫じゃにゃい?」


 それならそこまで心配しなくても良いか、と判断するユージン。


「分かった。なら、頼めるか、2人とも」


 ユージンの言葉に、ユングは胸を張って、先程と同じように。


「任せろ!」


 フレイヤも、強い意志を感じる瞳で、


「分かりました!」


 しっかりと頷いた。


     ◆ ◆ ◆


 宿場町から少し川下に離れた場所で、ヴァン兄妹が幻獣を呼び出す準備を始める。

 以前、彼等と出会った場所で、白蛇の幻獣を呼び出した時と同じように。

 片方の手を繋ぎ、もう片方を前方に流れるノクトヴァ川に差し出して。


 そして2人が息を合わせて詠唱を始めようと口を開いたところで。


『その必要はないよ』


 どこからともなく、声がした。

次の投稿は明後日の予定です。

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