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召喚勇者と七つの魔剣  作者: 蔭柚
第4章 亡国の末裔
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第49話 エルムト川が渡れない!

第4章開始です!

 スフィテレンドの大陸北東部を横断する大河がある。


「でかいな……」


 エルムト川と呼ばれるその河川は、過去何度も氾濫を繰り返し、流域の住民に多大な被害を出すと同時に、肥沃な大地を育んできた。


「広いです……」


 エルムト川は大陸北東端の山脈を発し、概ね西に流れながら平野に位置する国々を通過して、最後に南西に向きを変えて大陸南部の「中海」に達しているが、途中で幾つもの支流と合流し、徐々に川幅を広げていく。


「深さもありそうだね~☆」


 支流の中でも一際大きな河川が、現在ユージン達が立っている位置から数十km下流で北方から合流している。


「これでもまだ中流域よ。河口部の幅はこの数倍になるわ」


 その支流、ノクトヴァ川を200kmほど北に遡ると、西側の右岸に旧ヴァナル王国の王都アルセドを望むことができる。


 つまり、アルセドに向かうには、一旦ここでエルムト川の本流を北に横断し、その後ノクトヴァ川をどこかで西に横断する必要がある。

 他に、現在地から西進して、ノクトヴァ川合流後の地点でエルムト川を渡れば、すなわちノクトヴァ川の右岸に出るため、ノクトヴァ川を渡る必要はなくなる。


 だが、ノクトヴァ川は南進してエルムト川と合流する前に大きく西に蛇行しているため、後者のルートだとかなり回り道になってしまう。

 したがって一行は、2度川を渡る必要があるものの、前者のルートで進むことにしていた。



 この世界で川を渡る方法は、主に2つ。

 1つは、河川に架けられた橋を渡ること。

 だが、これだけの大河に架橋するのは大変な土木工事が必要になる。ネアン帝国でさえ、自国を流れる大河ケルムト川への架橋は数ヵ所に留まっているのだ。


 まして、この辺りはヴァナル王国崩壊後は小国の集まりになっているため、大規模な工事をする技術力も資金も足りていない。


 そのため、渡河の手段はもう1つが主流となる。

 すなわち、渡船とせんである。


     ◆ ◆ ◆


「あれが、渡し船か」


 ユージンの視線の先、エルムト川の両岸に、ちょっとした港を兼ねた宿場町が出来上がっており、それぞれから川に向けて幾つもの桟橋が延びている。そして、ひっきりなしに船が行き来しているのだ。


 1km程も幅がある大河を横切って、多数の船が行き交う様子に、一行は例外なく感心した表情になる。


「良くぶつからないものだね」

「そうね。あんなに近くを航行しているのに」


 ディストラとフラールが、馬上から感想を言うのを見て、ユージンは1人、


「(銀髪の美少年と金髪の美少女が、馬に乗り岸から大河を眺める……絵になるな)」


 などと考えていた。


「それはともかく、どーやって乗せてもらうんだ?」


 いち早く渡し船の風景に飽きたユングが、誰ともなしに訊ねた。


 ユージンの視線が自然とライリーに向かう。

 だが珍しくライリーはばつの悪そうな表情を作り。


「私も渡し船は初めて見る」


 要するに、方法が分からない、ということである。


 これは困ったぞ。最悪この辺りの人に聞けば分かるだろうが、変な目で見られるだろうし、場合によっては足元を見られるかもしれない。とユージンが考えていた所で、フレイヤが声を上げた。


「師匠から聞いたことがあります。この辺りの渡船業者は、組合を作っているそうですが、個人で利用する場合は、空いている船と直接交渉で良いそうです。商会や国の機関などが定期的あるいは大口の輸送を依頼する場合は、組合を通すようです」

「そうなのか。フレイヤ、良く知ってたな。偉いぞ」


 ユージンがフレイヤの頭をよしよしと撫でると、フレイヤは嬉しそうに頬を染めた。


「てゆーか、なんでユングは知らないワケ?」

「知らねー。フレイヤだけ聞いたんだろ。双子だからっていつも一緒に居た訳じゃないからな」

「忘れてたんじゃにゃいの~?」

「そんなことはねー。……たぶん」

「あ、ホラ。自信なくした~」

「いや、師匠の無駄な蘊蓄話なんて全部覚えてられねーよ。あのヒト、こっちが聞き疲れるまで何刻でも延々と喋り続けるんだぞ」

「言い訳は見苦しいゾ」

「うるせー」


 ギャーギャーと騒ぐゾーイとユングを尻目に、一行は馬から降り、現在空いていて、7人と馬と山羊合わせて7頭が乗れそうな船がついている桟橋に寄る。

 ユングとフレイヤが乗っている山羊の幻獣、リスニルとニョストは送還することもできるのだが、再び呼ぶのも面倒であるうえ、2人の移動手段だけないのも不自然であるので、そのまま渡船することにした。


 一行が近付くと、船の近くに立っていた船頭と思われる男性が商売人らしい笑顔を浮かべた。

 が、さらに近付いていくとその表情が強張っていき、最終的に話ができる距離になった時には完全に仏頂面だった。


 それを訝りつつも、常の如くライリーが交渉に入る。


「向こう岸まで渡りたいのだが――」

「悪いが、今ウチの船は使用できないんでね。他をあたってくれ」


 船頭は、ライリーの依頼を食い気味に断ってきた。


 彼の隣には、どう見ても準備万端の木造船が浮かんでいるのだが……。

 その船に視線を遣りつつ、ライリーが食い下がる。


「いや、しかし――」

「無理と言ったら無理なんだよ!さあ、行った行った!」


 その不躾な態度に、ライリーが物言いたげな顔になったものの、ここで揉め事を起こすべきではないと冷静に考え、


「分かった」


 素直に引き下がるのだった。


     ◆ ◆ ◆


「一体何なのかしら、あの態度。頭にくるわね!」


 先程の桟橋を離れ、他の船を探しながらフラールが憤る。皆も概ね気持ちは同じであるため、あえて否定はしない。


「だが、最初は笑顔だったのにな。俺達の何かが気に入らなかったみたいだけど」


 ユージンは、少し考える。遠目で見た時は客だと思って笑顔を見せたが、近付いて良く見ると客じゃなかった。そういう表情の変化だった。

 しかし、ユージン達は紛うことなき客である。なぜ彼はこちらを客と見做さなかったのか……。


「ま、別に他の船で行けば良いんじゃないの?」


 ディストラが建設的な意見を出し、皆も同意する。

 ユージンも考えるのを止め、他の船に意識を向けたのだが――。


     ◆ ◆ ◆


「もうすぐ予約の客が来るんでね」


「今整備中なんだよ」


「ウチは馬は遠慮してもらってるんだ」


「あ、急に腹が痛くなってきた!」


 皆が皆、最初の男と同じようなパターンで断って来た。

 最後の一人など、真面目に誤魔化す気すらない様子だった。


 そしてこれだけ連続で断られれば、周囲の渡船業者にも噂が周り、最終的には話すら聞いてもらえないようになってしまった。


     ◆ ◆ ◆


「……一体、どういう事?」


 先程とは異なり不安そうな表情で、フラールが一同の心中を代表して呟いた。


 皇女として生きてきたフラールにとって、敵対的な人間がいないわけではなかったが、民衆全てが敵のような今の状況に陥ったことはなかった。それゆえ、現状への戸惑いが非常に大きい。

 そして他の皆も、フラール程ではないにせよ、戸惑っているのは同じだった。


 何故、自分達は乗船拒否されるのか――平たく言えば、嫌われているのか。

 話し方が気に入らないとか、そういうことではない。話す前に嫌われているのだから。

 すなわち、見た目が悪いということになる。だが、周囲の他の旅人と比較してみても、自分達に特段おかしい点があるようには思えない。


 ユージンは、厚手の綿の服に皮の防具。ディストラも、防具の金属が多いだけで大した違いはない。

 ライリーも似たようなものだが、防具がさらに重厚になり、中に来ている服はネアン帝国の正騎士の制服である。

 ゾーイとフラールは、色こそ違うものの、一般的な魔法士がよく使っているローブ姿。

 ユングとフレイヤは、ややゆったりしたシャツとズボン、またはワンピースの上に、フード付きの魔法士用のジャケット。これも、アクティブな魔法士の格好としては珍しくない。


 至って普通である。不審がられる点などどこにもない。

 そう、ユージン達の認識では、何もおかしくないのだ。


 だが、周囲の人間からはそうみえていないらしい。その認識の齟齬が問題であった。


「(いや、この際それはどうでも良いか)」


 ユージンは考え直す。


 問題は、自分達が嫌われていることではない。

 対岸に渡れないことだ。


 嫌われている原因が分かったところで、向こう岸に渡れなければ意味がないし、原因が分からなくとも、渡れればそれで良いのだ。


「ユージン、どうするかにゃ?」


 ゾーイの問いに、ユージンは口をへの時に曲げた。


 実は、ユージンには案が無いわけではなかった。

 最後の手段であり、できれば使いたくはないが――。



 橋がないなら、創れば良いじゃない。


 簡単な話である。

 ユージンには、魔法の『盾』による飛行術がある。自分1人であれば、1km程度の河川など難なく飛び越えられるのだ。それこそ集中力さえもてば、何十kmでもいける。


 ただし、これは前述のとおりユージンが1人であれば、という条件がある。人間を追加するならまだしも、数百kgはある成馬も共にとなると、『盾』の強度を大幅に上げる必要があるだろう。

 それでも、1人ずつ、1頭ずつであれば、1kmの河川を渡ることは可能であるとユージンは踏んでいる。


 だが、当然そのためにはかなりの時間がかかり、ユージンの集中力がもつのかという問題がある。加えて、そんな方法で渡河をすれば、相当目立ってしまう。


 極力目立ちたくないユージンとしては、出来ればこの方法はとりたくないのだが……。

 ユージンがそんなことを考えている間に、ゾーイの興味は別に移った。


「ユング、前の蛇さんみたいに大きい幻獣で皆を乗せて川を渡れないの?」

「そんな都合の良い幻獣はいねーよ。川で動けるやつはいるけど、向こう岸まで乗せてもらうのは無理だ」

「もしいたとしても、凄い目立つよね」


 ディストラが、ユージンの懸念と同じ意見を述べた。


「まあ、目立つだけなら人がいないところまで移動してから渡れば良いけれど……」


 フラールがそう言いつつ、周囲を見渡す。と、そこで何かに気付いたらしい。


「あれ……」


 フラールの呟きに促され、一行は川上の方に視線を向ける。

 そちらから、周囲の人間に避けられている一行に近づいてくる男がいた。


次の投稿は明後日の予定です。

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